胃と腸 20巻2号 (1985年2月)

今月の主題 胃診断学20年の歩みと展望―良性疾患を中心として

序説

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 胃の潰瘍性あるいは隆起性病変の中には,早期胃癌や進行胃癌が含まれている.癌としての診断を,臨床的あるいは病理形態学的に下す場合には,これらの病変の良性と悪性を鑑別しなければならず,そのための技術や理論が次第に系統づけられてきたのが,現在の早期胃癌診断学である.一方では,良性の病変,なかんずく胃潰瘍および良性胃隆起性病変の成り立ちや経過についても,検討が進められてきた.本号では,悪性腫瘍との鑑別のみならず,これらの病変の診断の問題点が論じられるはずである.

 胃潰瘍は,単に胃壁に潰瘍が生じるという現象ではなく,胃に隣接する十二指腸を除く消化管の他の部位に生じる潰瘍とは異なって,特有な発生要因を有し,それに由来する特有な形態あるいは組織像を示す病変である.また,潰瘍性大腸炎やCrohn病などの疾患と同じく,人間という個体の調節の変化が発生の要因の1つと考えられる,全身的疾患である.胃潰瘍の直接の要因としては,胃液の自家消化作用であり,この考え方を明らかにしたBüchnerは,胃に食物がないときに胃液の分泌が起こる状態(Leersekretion)を重視している.最近,栄養価に富む,量の少ない飼料で育てられている豚に,高率に胃潰瘍が発生し,また2回にわたる世界大戦の後のある期間に,戦災を受けた国々の人々の中に,胃潰瘍が他の時点に比べて高率に発生したことは,彼の考え方を裏付ける事実と言えよう.

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要旨 胃潰瘍の診断はより質的診断(機能的診断)へと目が向けられ,胃生検の幅広い普及により鑑別診断-主として早期胃癌,胃悪性リンパ腫一にも一層重点が置かれてきている.一方,典型的な胃の線状潰瘍が少なくなっており,外科的治療を要する胃潰瘍も減少傾向を示している.すなわち,診断の進歩による早期治療や生活環境の向上にも起因していると思われる.薬物療法としてのH2受容体拮抗剤の登場は,潰瘍治癒の向上をもたらしている反面,依然として再発には今後の検討課題が残されている.胃粘膜防御機構の解明がなされつつある現在,防御因子と攻撃因子の両面を考慮した治療モデルの確立が望まれる.急性胃潰瘍と慢性胃潰瘍の関連性についても,今後,成因あるいは病態生理面での検討がなされるものと思われる.

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要旨 戦後,わが国ではニッシェおよび胃の変形の研究によって,胃潰瘍のX線診断学は進歩した.20年以上前のことである.そして,過去20年の歩みは,次のようである.(1)瘢痕区域の検索により,胃潰瘍の治癒経過,治癒判定,再発などについてのX線診断学が登場した.(2)線状潰瘍や多発性潰瘍による胃の変形についての知見が一層詳しくなった.(3)急性胃潰瘍のX線診断学が始まった.(4)胃潰瘍の良・悪性の鑑別診断が明確になった.(5)胃体部,幽門部,幽門前部,大彎側,胃高位(胃上部)など,部位別にみた胃潰瘍のX線診断が検討された.(6)その他.その間,日本人の消化性潰瘍による死亡率は漸減している.そして近年,ulcus callosumの症例はほとんどなくなった.また,線状潰瘍の症例は減少し,特に著しく長い線状潰瘍の症例は激減している.なお,X線写真を一段と鮮明にするような,X線装置その他の開発は全くなかった.

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要旨 最近20年間のわが国の胃ポリープに関する知見の進歩を顧みると,それまで広く胃ポリープとして一括されていた病変の中で,過形成性ポリープといわゆる異型上皮から成るポリープとが明瞭に区別して論じられるようになり,更に,後者の広く異型上皮巣と称される病変の中で,われわれがⅡa-subtypeと仮称してきた病変が,臨床病理学的な1つのdisease entityとして,小腸小皮型の腺腫とみなされ,比較的良性の病変として浮き彫りにされてきた.また,家族性大腸腺腫症の随伴病変として見出された胃底腺ポリポーシスが,それとは無関係にも存在することが明らかになった.このように胃ポリープの中で,臨床病理学的に異質の種々の病変が分離・解明されるに従い,それぞれ特有の内視鏡像が明らかになり,胃ポリープの鑑別診断が発達してきた.ポリープの癌化の問題に関しては,過形成性ポリープやⅡa-subtypeの癌化はまれと考えられるが,いわゆる異型上皮巣と言われるもの全体についてみると,2cm以上の病変では病巣に限局する癌を併存する例が少なくないことが明らかにされ,また,中村Ⅳ型のポリープも癌それ自身であるか,あるいは癌化が多いとされている.

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要旨 「胃と腸」創刊のころに話題の中心となった胃ポリープの癌化の問題は,病理組織学的な診断基準の論争のみにとどまらず,X線・内視鏡による隆起性早期胃癌の診断の発展のために多大なインパクトを与えることになった.そして,「胃と腸」が20巻を迎えるまでの歴史は,その後のわが国における消化管の形態学的診断の発展の歴史そのものと言えるであろう.現時点で必要なことは,これまでに完成された検査技術,診断学のソフトウェアを次の世代に伝える作業であることを強調した.

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要旨 われわれは慢性胃炎の内視鏡診断の歴史を,特にこの20年の進歩という区切を設けて整理してみた.慢性胃炎研究史上最も有名なR. Schindlerは,1922年に初めて慢性胃炎の所見を記載したが,彼が表層性胃炎,萎縮性胃炎,肥厚性胃炎と分類した胃鏡分類は,その後の数多い批判にもかかわらず,今日なお慢性胃炎診断の基礎となって生き続けており,数多くの研究者に先賢として大きな影響を与え続けている.20年前,筆者の1人竹本は萎縮境界(胃底腺-幽門腺境界)と腸上皮化生をファイバースコープで診断可能であると報告したが,近年,色素内視鏡と近接・拡大観察でもって,これらは容易に診断できるようになった.強調したいことは,慢性胃炎の内視鏡診断は,臨床的には不可逆性萎縮性変化の指標としての萎縮境界と,可逆性表層性変化としての発赤やびらんを共に観察することによって行うべきであるという考え方である.

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要旨 過去約20年間の胃の潰瘍・ポリープ・慢性胃炎の病理学的なことに関する歩みとして,潰瘍(潰瘍の分類,潰瘍の良性悪性サイクル,潰瘍と癌の因果律),ポリープ(肉眼分類,組織発生,分化型癌との鑑別診断),そして慢性胃炎(切除標本の腸上皮化生染色,腸上皮化生の分類,腸上皮化生の程度と年齢・性との関係)を概観した.そして,展望・問題点については,胃底腺粘膜におけるUl-Ⅰの診断,異型度の客観化,および腸上皮化生の原因を挙げた.

今月の症例

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〔症例の見どころ〕患者は54歳,女性.1982年5月25日,軽度の心窩部痛と共に大量の下血あり.近医で1,000mlの輸血を受けた後,5月30日,癌研内科に入院.初回の内視鏡検査で比較的大きく深い潰瘍を認めた.生検は癌陰性.入院後第49病日に行った第3回目の胃X線検査で潰瘍は著明に縮小していた.初回X線検査では,病変の占居部位,不整形のニッシェ,著明な潰瘍壁などの特徴から,一見癌の診断に傾きそうである.しかし,胃潰瘍診断の定石に従うと,この病変は紛れもなく良性潰瘍の所見を呈している.内視鏡所見も同様である.なお,治療にH2 recepter blockerは使用しなかった.

Coffee Break

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 胃のX線診断の退潮が言われてから既に久しい.そればかりか近ごろでは,X線はもういらないのではないかといった不要論まで飛び出してくる御時世である.かつてはX線はなくてはならない存在であったばかりでなく,“これができなくては人にあらず”とまで言われかねないほどの隆盛で,日本における胃癌撲滅の主力であった.早期胃癌診断を誰もができるようにした点,人類の健康に対する貢献度は正にノーベル賞級で,日本人が世界に誇る偉大な成果であった.

 しかし,である.栄枯盛衰は世の常とは言え,今日の惨状はあまりにもひどいではないか.読者はなぜこうなったとお考えであろうか.その原因については,種々の角度からの見方があると思われるが,筆者の見解というか偏見というかわからないが,幾つかの理由を挙げてみる.①X線検査にはある種の職人気質?が必要などとややオーバーに騒がれたこと,②テレビ時代になって検査に張り合いがなくなってしまったこと,③いくらバリウムと発泡剤で飲ませてひっくり返しても期待したほどの像が得られないこと,などのマイナス面に加え,内視鏡の操作が楽になり危険性がなくなっていること,生検が簡単にでき組織診断ができることなどが大きな要因と考えられる.

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要旨 手術およびポリペクトミーによって摘除された大腸腺腫91例,腺腫内癌7例,進行癌12例について,ホルマリン固定パラフィン包埋後CEAモノクローナル抗体(CM-010)を用いた酵素抗体法によりCEAを免疫組織化学的に染色し,その組織内局在を検討した.更にPeriodic Acid-Thionin Schiff/Potassium Hydroxide/Periodic Acid-Shiff(PKP)染色により大腸粘液のシアル酸組成を検索しCEAの染色性と対比した.その結果CEA陽性でかつシアル酸の側鎖に隣接する水酸基を有しPKP染色で紫~青に染まる症例は軽度異型腺腫 22/74(30%),中等度異型腺腫 13/17(76%),腺腫内癌 5/7(72%),進行癌 12/12(100%)と組織学的異型度が増すにつれ両者とも増加しており,CEAと側鎖に隣接する水酸基を有するsialomucinの出現は互いに関連していると考えられた.以上よりadenoma-carcinoma sequenceにおける形態学的な変化と並行ないし先行してbiochemicalな変化がみられることが示唆され,大腸癌のhigh risk群の検索に利用できる可能性があると考えられた.

胃と腸ノート

新しいX線写真の技術(3) 山田 達哉
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 FCRによるX線写真は,像が非常に鮮明で,診断しやすいことは既に述べた.もう1つのFCRの特徴は,撮影時のX線量を大幅に低減できることである.少ないX線量でも写真が撮れるということは,従来ならば露出不足で像にならないような場合でも,FCRならば写真になるということである.Fig.1を見ていただきたい.再立位充盈像第1斜位像である.普通ならば,上部の二重造影の部分がこのようにはっきりと描写されると,下部の充盈像の所は露出不足になりがちで,この写真のように上も下も共に明瞭に描写されることはまずない.

 Fig.2は,従来の二重造影像撮影の場合に比較して1/20の線量で撮影したものである.ご覧のように,胃小区像が非常にはっきりと描出されており,そんなに少ないX線量で撮影したX線写真とは到底考えられない.

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要旨 広範囲Ⅱb+Ⅱc型早期胃癌症例(62歳,男性).tub2,sm,53×74mm.癌巣の内部に非連続性に3個の浅い陥凹部(Ⅱc)を有し,その他の広い範囲において平坦な癌巣の浸潤範囲を,筆者らが考案したブリリアントブルー法(BB法)色素内視鏡検査によって術前に正しく診断しえた.通常内視鏡およびX線検査によって病巣の質的診断および範囲決定は困難であったが,BB法によって癌巣を取り囲む高度腸上皮化生粘膜は青色調を呈し,一方癌巣は対照的に不整形の赤機色領域を呈した.

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要旨 患者は51歳,男性.多発性胃潰瘍にて経過観察中,胃体部後壁にやや腫大したfoldを認めadenomaを疑って生検施行.Group Ⅳの診断を得たため,X線,内視鏡検査にて精査.前者では胃体部後壁のfoldの間隙に一致して領域性を有する粗い粘膜像を認め,存在診断,質的診断が可能であったが,後者では数度にわたる各種精査にもかかわらず,存在診断は生検による確認(印環細胞癌)のみに終始し,積極的な異常所見が得られないまま胃切除術(穹窿部にRLHを伴っていたため全摘術)が施行された.術後の検査では切除標本上肉眼的に悪性を疑いうる病変は指摘できず,多発性の潰瘍瘢痕像,xanthomaなどを認めるのみであった.5mm stepの全割切片にて組織学的な検索を行ったところ,体中部後壁の大彎側より20×4mm大の範囲に深達度mの印環細胞癌が認められ,これらはfoldの間隙に一致した領域に相当した.この領域を含む切片上では癌巣部と非癌部との境界に段差を認めず,肉眼的にも組織学的にもにⅡbに相当すると診断された.本症例は当院にて初めて経験された未分化型腺癌の単発性Ⅱbであるが,その術前診断,殊に内視鏡診断は極めて困難であった.この診断の困難性はスキルス胃癌の早期診断の困難性にも通じるものであるが,このようなⅡbが広く印環細胞癌の初期病変であるならば,実際にはかなり高頻度に存在しているはずと思われる.極めてわずかな変化に対する生検スクリーニングの有用性,微細な粘膜面の変化に対する診断指標の重要性が示唆された.

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要旨 患者は45歳の女性.食後の腹部膨満感,および心窩部痛を主訴として来院.理学的所見および臨床検査成績では特に異常を認めない.胃X線および内視鏡検査では胃体部より前庭部に及ぶ広範な扁平隆起を認め,Ⅱa集簇型早期胃癌を疑われた.胃生検にて高分化型腺癌が認められたため,1982年10月1日に胃全摘術を施行した.切除胃肉眼所見では扁平隆起は胃体部から前庭部に及び,大きさ約8×8cm,大小の顆粒状隆起から成っている.組織学的にはよく分化したadenocarcinomaであり,そのほとんどは著明な絨毛状発育を呈していた.正常粘膜部ではPaneth細胞を欠いた非分化型の腸上皮化生が主体を成していた.酵素抗体法によるCEA特異染色を行ったが染色性は認められなかった.

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要旨 患者は60歳女性,右下腹部の圧痛を伴う腫瘤にて来院.臨床検査成績,腹部単純X線写真にて著変なし,腹部超音波検査で鷲卵大の腫瘤を回盲部に認めた.壁は強エコーでその内縁は不整.内腔は低エコーで不均一であった.注腸二重造影では盲腸に表面平滑な隆起性病変を認めた.虫垂は造影されなかった.大腸内視鏡検査では盲腸の虫垂口を占拠する腫瘤を認めた.その表面は伸展するも粘膜病変はない.手術にて腫瘤は5×10cmの拡張した虫垂と判明した.外表面は平滑で光沢があり,内腔には粘液と径1~3mmの乳白色の球体が充満していた.組織学的には正常の虫垂粘膜が消失し,乳頭状に内腔に増殖する異型粘膜を所々に認めた.これは粘液産生する円柱上皮より成り染色体の濃染する核を有している.核は鋸歯状でgoblet cellが散在していた.球体はalcian blueとPAS染色に陽性の粘液より成り,層構造を持ち,また細胞破片を含んでいた.粘液球形成症を伴った虫垂粘液嚢腺腫と診断した.

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 第28回日本消化器内視鏡学会総会は,1984年11月15~17日の3日間,東京池袋のサンシャインシティーを会場に平塚秀雄博士(平塚胃腸病院長)を会長として開催された.

 東京での学会開催は度々あるものの,このサンシャインシティーでは初めての開催であったため,会場不案内の会員もおられたようだが,関係者の気配りで案内の掲示もわかりやすく,また所々に案内人もおられ,2,500名にのぼる参加者にも特に混乱はなく無事終了したが,やや会場が手狭であり,分散していたのが唯一の難点だったと言えよう.

第26回日本消化器病学会大会 狩谷 淳
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 第26回日本消化器病学会大会は,奥田邦雄会長のもとに,1984年10月18日,19日,20日の3日間にわたって,千葉市で開催された.

 まず11会場をまとめ,大会をスムースに運営された主催者の努力に敬意を表する.日頃は暖かい房総路も,あいにくと寒気団に覆われて寒く,後半の2目は雨模様となり,天候に恵まれなかったのは残念であった.遠路はるばる御参集になった諸先生には,御苦労であったろ

うと拝察する次第である.

Refresher Course・12

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患者:58歳,男性.

主訴:右季肋部の鈍痛.

〔腹部超音波(US)所見〕膵頭部領域の縦断像(Fig.1)で,膵頭上部には腫大や内部エコーの異常はなく,膵内胆管の拡張をみる.膵頭下部は腫大し,内部エコーは斑文状に不整であり,拡張した胆管がその部で途絶している.膵頭下部(鉤部)の腫瘍が最も考えられるが,十二指腸由来の腫瘍の可能性もある.

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スクーリング

質問 潜血反応はスクーリングとしてどのくらい役立ちますか.

 小林(世) 私の所では外来のスクリーニングを病歴聴取後,最初の診察のときに,診察の流れとして肛門,直腸を診ますもちろん,直腸診で何かさわれば次の検査にいくわけです.その場合に,直腸内に便が残っていることもありますから,それを取り出します.そうすると便の性状もわかります.その便で潜血反応を行います.いまは塩野義スライドのAとBに塗って,すくにその場で判定しますその場合にBのグアヤック法が(-)ですと,検査食をやっていませんから,その人は一応異常ないとしますBか(+)の場合ては食事制限をして,2日連続採便してもらいます.それでなお,2日のうち1回てもBか(+)ならは精密検査へいくということになります外来の患者ですと,陽性率か20%くらいになり,ちょっと高いのですね.

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欧文目次

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 昨年,日本医学放射線学会第19回秋季臨床大会におけるシンポジウム「Emergency Radiology」の座長を本書の編著者石川教授と共にする機会を得た.このとき,打ち合わせのために聖マリアンナ医科大学放射線医学教室を訪れたことがあるが,その画像診断の現場をみて,これは素晴らしいと思った。それは全科の診断のために必要な画像がすべて放射線科に集められ,患者1人1人について総合的に,適切に,しかも迅速にその診断とコメントがなされていたからである.また各科からの多数の研修医が,指導医のもとにトレーニングを受けていたのも印象的であった.

 周知のように,救急疾患には各種各様の疾患があり,どのような患者が来院するかわからない.また病変も1か所であることは少なく,多くの病変が重なって存在している.このような救急疾患の診断,治療において,画像診断の占める比率は大きく,救急患者が来院したときに,このような各種の救急疾患の画像診断を行ってくれる放射線科医がいたり,またそれに相当する医書があればどれほど心強いことだろうと思うのは私1人ではあるまい.

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 おそまきながら最近わが国でも脳死に対する関心が高まっているが,論議に先立ってまず十分な理解が必要である.その意味で本書は英国の医師に向けて書かれた脳死の基礎的な解説(ABC)であり,1980年に起きた“不幸な出来事”,すなわちBBC放送のパノラマ事件を契機としてBrit Med Jに連載された記事が基本となっている.したがってわが国でもこの問題に興味のある医師はもちろん,一般の医師も常識としてこの程度の知識を持っていなければならない時期になっていると言えよう.

 そもそも脳死は“生きた体に死んだ脳”と表現されるが,一方では“脈の触れる死体”とも表現される.これは未だに論議の絶えない脳死を“生”とみるか“死”とみるかの観点の相違を示すものであるが,脳死そのものの病態はただ1つのはずである.ただ,広く一般的に用いられている“全脳髄の不可逆的な機能停止”なる定義と,本書の表題になっている脳幹死(brain stem death)を脳死とする英国流の考え方があり,両者のいずれをとるかは未だ議論の余地があるところである.もちろん本書では後者の考え方に基づき,脳死の判定は脳幹機能の不可逆的喪失を証明することであり,その妥当性についても詳しく説明されている.すなわち脳でも心臓でも全細胞の死に先立って有機的な機能を果たさなくなれば,それぞれの臓器の死と考えねばならないことが繰り返し強調されている.この前提が脳死(脳幹死)でも時にはなお脳波活動や脳循環機能が残存するような事実の説明には不可欠で,全脳死(brain death)あるいは大脳死(cerebral death)との食い違いによる混乱を避けることもできる.

編集後記 竹本 忠良
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 このごろ,よい意味でくせのある文章にお目にかかることが,次第に少なくなってきた.と,思っていたら,今月の主題論文,枚数の制限がきついが,個性のにじみ出た論文が大部分で,久方ぶりに堪能した.望月先生の序説など,最後の数行に,言いたいことが込められている.本号で,胃診断学の20年の歩みは,骨格だけにしても,大要は理解できると思う.「胃と腸」は20巻の1号から3号まで,あえてとどまっているのである.若い研究者諸君が,歴史を振り返り,過去の重みを理解しようとしないからである.この点,19巻12号のこの欄で丸山雅一君が相部に大きな釘をさしたことに,賛成し感謝している.

基本情報

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胃と腸
20巻2号 (1985年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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