胃と腸 17巻2号 (1982年2月)

今月の主題 sm胃癌の問題点(2)―陥凹型症例

主題症例

  • 文献概要を表示

 最近早期胃癌に対する手術の合理化が話題として取り上げられており,術前あるいは術中における深達度の判定は,リンパ節廓清範囲,程度に影響を及ぼし,手術法決定の指標となりうる問題である.

 現在までに深達度診断に関する種々の報告がみられ,ある程度の術前診断は可能であり,ある程度予後を予想しうるものである.しかし非常に判定の難しい症例も数多くあり,われわれも術前にmと診断し,術後組織診にて2ヵ所にsm浸潤をみた症例を経験したので報告する.

  • 文献概要を表示

 早期胃癌の深達度診断には多数の業績があるが,小胃癌のそれに関する報告は少ない.われわれの経験した前壁の比較的小さいⅡc症例を呈示し,小胃癌の深達度診断について若干の考察を加える.

  • 文献概要を表示

 陥凹型胃癌の深達度診断の指標としては,癌病巣の大きさ,境界鮮明度陥凹の内部および周辺の隆起,粘膜皺襞の性状などが挙げられている1)~3).しかし,これらの指標を適用しても,深達度診断が的中しないことが少なくない.

 本稿では,X線・内視鏡検査所見からは粘膜下層に癌浸潤が及んでいることが推定できなかった,Ⅱc型sm癌の1例を報告する.

  • 文献概要を表示

 われわれは胃X線検査および内視鏡検査にて粘膜下層に腫瘤形成を認め,それが病理組織学的に癌組織とそれによる反応性リンパ組織増生とから成る腫瘤であることが確認されたⅡc型早期癌の1例を報告し,その深達度診断について検討する.

  • 文献概要を表示

 われわれは著明な表層拡大を示した深達度smⅡc型胃癌を経験したので報告する.

症例

 患 者:78歳,女.

 主 訴:めまい.

 既往歴,家族歴:特記すべきものなし.

 現病歴:1976年より貧血を指摘され,某大学病院にて消化管をはじめとする精密検査を受けたが異常は指摘されなかった.その後自覚症状なく放置していた.1979年3月悪心,嘔吐.食欲不振が出現し,投薬にて1~2週間で軽快した.同年4月ごろめまいが出現し,近医で鉄欠乏性貧血の診断を受け精査を目的に当内科に紹介され,1979年5月15日入院した.

  • 文献概要を表示

 術前にⅡc+Ⅲ型早期癌類似進行癌と診断したsm胃癌の1例を報告する.

症例

 患 者:53歳,男,会社員.

 現病歴:3~4年前より上腹部痛あり.近医で胃潰瘍の診断にて投薬を受けていたが,痛みは軽快しなかった.1978年12月当科紹介され,入院した.

  • 文献概要を表示

 術前に深達度をsmと診断し,組織的にもsmであったⅡc型早期胃癌の1例を報告する.

症例

 患 者:62歳,男,会社経営.

 主 訴:空腹時心窩部痛.

 家族歴:特記すべきものなし.

 既往歴:50歳時痔核手術.

 現病歴:1967年以来,某診療所の逐年検診を受けていたが,異常を指摘されなかった.1978年4月末ごろ,空腹時心窩部痛が出現したため,同診療所の胃X線検査および内視鏡検査を受け,幽門前庭部後壁大彎側寄りのⅡc+Ⅲ型早期癌と診断された.生検組織診断は,管状腺癌であった.同年7月27日,癌研内科に入院した.

  • 文献概要を表示

 術前にⅡc類似進行胃癌と診断され,術後3年目に再発死亡したⅡc型早期胃癌(深達度sm)の1例を報告する.

症例

 患 者:46歳,男,自営業.

 主 訴:空腹時心窩部痛.

 家族歴:特記すべきことはない.

 既往歴:30歳のときに虫垂切除術を受けた.

 現病歴:1971年4月ごろより,空腹時の心窩部痛が間歇的に出現するようになった.同年9月近医を受診し,胃X線検査を受けた結果,十二指腸潰瘍と診断され投薬を受けた.症状は一時期消失したが,翌年の6月ごろより上記症状が再発したため,再び同医を受診して胃X線検査を受けたところ胃の変形を指摘され,精密検査を勧められた.同月某大学病院にて精密検査を受け,手術したほうがよいと言われた.同年7月5日に癌研外科を受診し,8月17日に入院した.空腹時の心窩部痛は断続的に入院時まで続いた.

  • 文献概要を表示

 早期胃癌の術前診断において,sm癌とm癌とを確実な精度をもって鑑別することは,その予後を考えるとき,極めて重要なことである.われわれは日常,Ⅱc型早期胃癌(含Ⅱc+Ⅲ型)において,陥凹周囲の所見のみならず,陥凹内部の微細な顆粒像に着目し,sm浸潤の有無を診断している.ここに陥凹内部の顆粒像の不揃い所見から,sm癌と正診しえたⅡc型早期胃癌の1例を提示し,若干の考察を加え報告する.

  • 文献概要を表示

 今日,胃癌の診断を行う場合,質的診断はもとより量的診断,すなわち浸潤範囲と深達度とを正確に診断することが当然のこととして要求されている.特に深達度は予後を左右する最も重要な因子であり,その的確な判定が求められる.

 ここに報告する症例は,一般に深達度診断の難しい未分化型癌の1つである印環細胞癌の症例で,X線および内視鏡検査における深達度診断を中心に述べる.なお,ここでは未分化型癌という言葉は未分化癌と印環細胞癌の2つを指すものとする.

  • 文献概要を表示

 術前の深達度診断を誤ったⅡc+Ⅱa型早期胃癌(深達度sm)の1例を報告する.

症例

 患 者:61歳,男,会社員.

 主 訴:無症状.

 家族歴:同胞2人肺結核にて死亡.

 既往歴:23歳時外地にてマラリアに罹患.

 現病歴:1979年7月下旬に,検診の目的で会社契約の検査センターを受診し,胃X線検査を受けたところ胃角部の変形を指摘された.同センターにての胃内視鏡検査の結果,胃角部の潰瘍性病変と診断された.精査の目的で8月下旬に癌研内科を受診し,9月10日に入院した.

  • 文献概要を表示

 われわれは術前の深達度診断がsmで,組織診断でもsmであった陥凹型早期胃癌を経験し,その深達度診断について検討を加えたので報告する.

症状

 患 者:52歳,女.

 主 訴:左側腹部痛.

 現病歴:上記主訴が出現したため,1979年2月26日に胃集検を受け,胃角部後壁のひだ集中をチェックされ,当センターで精密検査を行った.

  • 文献概要を表示

 術前にX線および内視鏡で深達度smと診断し,結果的に病理診断とは一致したが,粘膜下浸潤の部位が術前に予想した所と違ったため,確診できたと言い難いⅡc症例を呈示する.

症例

 患 者:44歳,女,主婦.

 主 訴:上腹部不快感

 既往歴,家族歴:特記すべきものなし.

 現病歴:1979年10月ごろから,上腹部不快感あり,売薬を服用していた.1980年4月,本院ドックにて胃X線検査を受けた結果,4月21日手術目的で外科に入院した.

  • 文献概要を表示

 われわれはⅡc内に大彎線と直行して並ぶ3個の多発潰瘍および瘢痕のために,大彎側の陥凹所見が強く,更に粘膜下層のfibrosisが著明なために,術前診断でpm以下の進行胃癌とした,大彎側Ⅱc型早期癌(sm)を経験したので報告する.

  • 文献概要を表示

 X線および内視鏡で,術前に進行癌と診断されたが,切除標本では深達度smであったⅡc症例を呈示する.

症例

 患 者:70歳,男,大学教授.

 主 訴:上腹部痛.

 家族歴:特記すべきものなし.

 既往歴:1974年11月に前立腺肥大で,本院泌尿器科にて手術を受ける.また,数年来,痛風にて治療を受けている.

  • 文献概要を表示

 術前進行癌と診断されたsm胃癌の1例を経験したので,若干の考察を加え報告する.

症例

 患 者:53歳,女,銀行員.

 現病歴:1976年3月,集団検診で要精密検査と言われ,同年4月23日当院を受診した.

sm胃癌主題症例をみて

  • 文献概要を表示

 術前における正確な胃癌の深達度診断は手術術式の選択と予後推定の関係上大変重要である.殊にsm胃癌はリンパ節・肝転移の存在の可能性の点からもm癌との術前の鑑別は臨床上重要な課題であることは周知のとおりである.

 隆起型胃癌の深達度診断に関しては従来一般的には大きさ・形および表面性状について,それぞれの診断基準に従えば陥凹型胃癌のそれに比べれば容易であると考えられてきた.すなわち径2cm以下の隆起で表面が細顆粒ないし小結節状で粒が揃っており,中心性陥凹が仮にあっても小さくて浅く白苔を有しないものはまずm癌と判断してよいとされている(佐野,奥田,中村).また隆起+陥凹型胃癌の深達度診断に当たり,その隆起性変化が隆起由来か陥凹由来かをチェックすれば同じ大きさのものでも後者の場合には深達度はより深いと考えねばならないという(西沢).

  • 文献概要を表示

 隆起型sm胃癌のsm浸潤部を正しく指摘するには,どのような点に着目すればよいかが,本企画の大きな課題の1つである.この検討のために,十分な臨床検査が行われたと考えられる13症例が全国から寄せられた.

 術前診断が粘膜内癌で,病理診断がsm癌であったものは4例で,いずれも分化型癌であった.全例最大径2.0cm以下であった.smの癌量は2例で極少,2例で粘膜癌巣の約1/8領域に中等量である.sm癌はいずれでも隆起の中心部に存在していた.

  • 文献概要を表示

 陥凹型のsm胃癌の全国より厳選された16例をみた.

 早期胃癌の深達度診断については,早期胃癌診断の進歩の過程において,極く早い時期から個々の症例について論議され,また症例の集積につれて統計的な処理もされ,更に幾度かにわたって学会でも取り上げられてきた.

  • 文献概要を表示

 粘膜下組織へ癌が浸潤している早期胃癌(以下,sm癌とする)は,同じ早期胃癌として定義されている粘膜内癌とは治療および予後の点で異なるため,それらの術前における鑑別診断が要請されている.しかし,早期胃癌において,高い確率をもって“それはsm癌である”と診断しうるような所見はない.sm癌の中には,粘膜下組織における癌の量が顕微鏡的大きさのもの(Fig.1)から,癌が局所の粘膜下組織をほとんど占めていて癌塊を形成しているいわゆるBorrmann 2型または3型と言えるものまで,幅広く含まれているからである.したがって,早期胃癌の中でただ単にsm癌ということのみで条件づけられた場合には,sm癌の所見であるとして普遍化しうるような所見を見出そうとすること自体が不可能である.したがって,sm癌と条件づけされた中で,癌の基本的なそしてより客観的に把握できる所見による条件づけを行い,それぞれの条件のもとにおいてsm癌を確率的に判断することが必要であろう.

Case of the Month

Early Gastric Cancer, Type Ⅱc+Ⅲ
  • 文献概要を表示

The patient, a 48-year-old woman, came to the Tokyo Metropolitan Cancer Detection Center with a complaint of epigastric pain which had begun eight months previously. Blood count, blood chemistry and urinalysis were within normal limits. Close scrutiny of the x-rays and endoscopic findings, however, disclosed evidences of early carcinoma of the stomach, i.e., Type Ⅱc+Ⅲ.

As demonstrated in the above figures, there are six signs which are characteristic of Type Ⅱc+Ⅲ:

Coffee Break

胃粘膜のPGE2
  • 文献概要を表示

 Konturekらは,ヒトの胃粘膜は大量のプロスタグランディンE2(PGE2)様活性物質とほんのわずかのPGI2またはPGFを産生することができるという報告をした.そして,十二指腸潰瘍患者の胃粘膜は健常者のそれよりもPGE2産生量が幾分少ないのだという.

 もとより,血中や胃液中のプロスタグランディンを測定して十二指腸潰瘍との関係を議論した論文は少なくないが,測定法そのものが異なるうえに,データそのものも間接的であるきらいは避けられなかった.

粘膜の充血を演出しているのは
  • 文献概要を表示

 ほほや手をこするとそこが赤味を帯びてくる.血行がよくなる.何も考えずにそう思って当たり前になっている.粘膜はさわっただけで充血する.とても敏感なのである.大分昔の話だが,オパールグラスを用いた分光計にファイバースコープを連結し,その先端部を胃粘膜に当てて該所のオキシヘモグロビンの吸光度を半定量し,血流測定をしたことがある.そのとき,最初は何とか測定できたが,2回目以後は同一場所に当てるとスケールアウトした.それくらい粘膜とは敏感なものである.

 ところで,このような充血には何が係り合っているのであろうか.リドカインで局所麻酔をするとこの充血は阻止される,神経毒のテトロドトキシンを注射しても阻止される.アドレナリン作動性剤,コリン作動性剤,筋遮断剤のいずれもこの充血を阻止しない.5-hydroxy-tryptamine(5HT)の神経受容体を阻害すると充血は阻止される.最近ではvasoactive intestinal polypeptida(VIP)がこの充血に関与していることも示唆されている.VIP含有神経が特に腸管では小血管や平滑筋に入り込んでいることもわかってきた.

  • 文献概要を表示

 胃の血管系腫瘍はまれとされ,本邦でもその報告は少数散見されるのみである1)~6).これら腫瘍の術前の血管造影所見を報告した例は少数認められる4)7)8)が,術後切除胃において血管造影を施行した症例はまだ見当たらない.

 今回,われわれは術前内視鏡検査にて胃血管腫と診断され術後の組織診断にて海綿状血管腫と診断された1症例について,胃切除後血管内に造影剤を注入し腫瘍の血行動態を検討し若干の興味ある知見を得たので報告する.

  • 文献概要を表示

 Double pylorusとは,表面を胃粘膜または十二指腸粘膜で覆われた柔らかい索状組織が主としてpylorusの前後壁に橋をかけるように存在していて,これを口側より見た場合pylorusが二分されて,あたかも2つの胃出口があるように見えるところからこの呼称を持つ症候群のことで,pyloric band,double pyloric channelあるいはpyloroduodenal fistulaとも呼ばれている.

 1969年Smith and Tuttle1)によって初めて報告されて以来,今日までに60例の報告をみるが,その成因については,これをcongenital pyloric duplicationの1つの形態であるとする意見1)~11)と,pyloroduodenal peptic ulcerによって後天的に形成されたものだとする意見12)~31)とがある.

  • 文献概要を表示

 注腸造影は合併症が少なく完全かつ診断的価値の高い検査法として日常頻用されているが,極めてまれな合併症として直腸のbarium granulomaが挙げられる.本症は1954年Beddoeら1)により初めて報告されて以来,欧米では30余例5)の報告があるが,本邦においては小平ら3)が集積検索したbarium fleck25例中に含まれていた2例を加えて4例4)5)の報告がなされているにすぎない.本症の大きなものは直腸癌と鑑別を要する.われわれは本症の2例を経験したので,臨床的・病理学的所見を中心に報告する.

  • 文献概要を表示

 大腸のvillous tumorは,その特異な肉眼的形態,組織学的特徴,生物学的態度,更には,重篤な水分電解質異常,とりわけ低カリウム血症を伴うことなどの,臨床的,病理学的な特徴により,古くから注目を集めてきた.本腫瘍の報告は,欧米では多数例をまとめたものが数多くみられるが,本邦では報告例も少なく,電解質異常を伴う例はほとんどみられない.

 心電図上にも変化を来し,著明な低カリウム血症を伴った直腸の広範なvillous tumorの1例の概略を述べ,主に臨床的な問題点につき,文献的考察を加え報告する.

入門講座 大腸疾患診断の考え方・進め方・2

  • 文献概要を表示

 <質問>外来を訪れる消化器症状を訴える患者に対して,大腸検査の対象にする場合の選択の基準.また,充盈像や二重造影像などの写真の撮り方の選択はどうしますか.

 牛尾 いろいろな症伏を訴えて来ますが,その中でどれをとるかというと,melena,血便,肛門出血,そういった血液に関係のある症状が,器質的疾患には一番認められます.

--------------------

欧文目次

  • 文献概要を表示

Gallstones and the risk of cancer: A.B.Lowenfels (Gut 21: 1090~1092, 1980)

 胆石と胆道系の癌との関連は周知の事実であるが,胆石が食事を介して大腸癌と関連があるかもしれないことが示唆されている.胆石はコレステロールから成るので,胆石と腸癌の関連が,腸癌の原因としてのコレステロール・胆汁酸説を支持すると考えられる.

 著者らは,胆石と癌の問題を解明すべく,諸国の胆石の頻度と癌死亡率の相関を調査した.それによると,胆石の剖検による頻度と大腸癌とは,著明な正の相関をみ,胃癌との正の相関を15力国で認めている.女性では,胆石と子宮癌が関連を示した.28カ国において,年齢補正胆囊炎死亡率と年齢補正癌死亡率との間に相関が認められた.

編集後記 竹本 忠良
  • 文献概要を表示

 “亡羊の嘆”という言葉がある.多岐亡羊とも言うことは,御承知のとおりである.

 早期胃癌診断学のような,多数の研究者の関心を持続的に保っている領域においても,この“亡羊の嘆”がある.このsm胃癌にしても,たとえ文献を読みあさっても,あまりにも解決への道が遠いという嘆きもある.あるいは,研究の手段が同じで,考え方を異にしない研究集団の中からは,大きな創造的な仕事が,意外にも生まれにくいということを示しているのかもしれない.

基本情報

05362180.17.2.jpg
胃と腸
17巻2号 (1982年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
11月12日~11月18日
)