胃と腸 17巻3号 (1982年3月)

  • 文献概要を表示

 最近,われわれは従来の早期胃癌の診断指標では質的診断はおろか,局在診断さえ困難な症例を数多く経験するようになってきた.すなわち明らかな粘膜ひだの集中を欠き,深い陥凹や明瞭な隆起を認めない早期胃癌─胃炎類似型早期胃癌─の急増である1).今回,われわれは初回のX線・内視鏡検査にて見落とし,第3回生検にて確診を得た微小胃癌の1例を呈示し,診断学上の問題点と今後の課題について若干の考察を加え報告する.

  • 文献概要を表示

 胃癌をより早期に見付けようとする努力の結果,より小さい胃癌も発見されるようになってきている.1978年秋の消化器病,内視鏡,胃集検学会合同大会のシンポ“微小胃癌をめぐって”においても5mm以下および10mm以下の胃癌の形態的特徴が検討されている.しかし,その深達度判定については,いまだ十分な結論は得られておらず,大部分がm,smの早期胃癌である.ただまれにpm浸潤の報告がみられる程度で,小進行胃癌の形態は明らかにされていない.最近,われわれは術前に小早期胃癌と診断したが,組織学的にはssまで浸潤していた小進行胃癌を経験した.更にその近傍に3個の小潰瘍がみられ,鑑別を要したので併せて報告する.

  • 文献概要を表示

 多発胃癌のうち,病変が離れた部位に存在する症例は必ずしも多いものではない.今回われわれは胃集検により胃角の開大を指摘され,体上部と前庭部に離れて存在した多発早期胃癌を経験したので報告する.

  • 文献概要を表示

 われわれは,胃X線・内視鏡検査で,その形を正確に把えることができたⅡc+Ⅱa型早期胃癌の1例を報告する.この症例のⅡc+Ⅱa型早期癌は,Ⅱc部分の面積がⅡa部分より広いから単にⅡc+Ⅱa型とするのではなく,佐野が指摘したような種々の特徴を持つ型と考えられるので,この点についても検討した.

  • 文献概要を表示

 われわれは幽門前庭部後壁のⅡa+Ⅱc型早期癌,幽門前庭部前壁のⅡa+Ⅱc,胃角部前壁のⅡc型早期癌の三重早期癌の1例を経験したので報告する.

 なお,これらの病変のうち幽門前庭部後壁のⅡa+Ⅱc型早期癌はその一部が十二指腸球部に脱出し,形の診断を難しくした.また,この病変は胃生検でGroup Ⅲと診断された標本もあり,9カ月前の内視鏡フィルムでは病変は小さく,表面も平滑で癌と考えにくい点もあったのでこの病変の診断過程についても述べる.

  • 文献概要を表示

 胃の膠様腺癌は胃癌取扱い規約による組織分類のうちの腺癌性胃癌のなかでは最も頻度が少なく,しかも粘膜下層以下に浸潤して初めて明らかとなることが多いので,その早期癌例は極めて少ない.私どもはX線・内視鏡所見で粘膜下腫瘍を思わせた早期胃膠様腺癌の1例を経験したので報告する.

  • 文献概要を表示

 同一臓器における多発癌腫発生はそれほどまれなものではないが,発生母地を異にする悪性腫瘍の併発は極めて珍しい.われわれは平滑筋肉腫と2個の腺癌が同一胃1)~3)に発生した症例を経験したのでここに報告する.

  • 文献概要を表示

 従来,胃カルチノイドは極めてまれな疾患とされてきたが,最近の消化管診断学の目覚ましい進歩に伴い,その報告例も増加の傾向にある.しかしながら,その術前診断は非常に困難であり,癌と間違われたりあるいは粘膜下腫瘍として一括されているのが現状である.以前,八尾ら1)(1970)がX線および内視鏡所見より胃カルチノイドを疑い,生検にて確診した症例を報告しているが,今回われわれもX線および内視鏡的に胃カルチノイドを考え,生検で診断を確定した1例を経験したので,そのX線・内視鏡像を中心に報告する.

  • 文献概要を表示

 胃原発悪性リンパ腫,なかでも表層拡大型胃悪性リンパ腫と,いわゆるreactive lymphoreticular hyperplasia(以下RLHと略す)との胃X線および内視鏡による鑑別診断は種々試みられているが,いまだ困難である.われわれは4カ月の経過観察中に多発する潰瘍やびらんが治癒傾向を示したが,2回にわたる生検により確診しえた表層拡大型胃悪性リンパ腫の1例を経験したので報告する.

  • 文献概要を表示

 われわれは回盲部単純性潰瘍の典型例と思われる1例を経験したので報告する.

症例

 患 者:39歳,男.

 主 訴:右下腹部痛.

 家族歴:特記すべきことなし.

 既往歴:1968年(27歳)ごろより口内アフタを繰り返す.

 現病歴:1978年(37歳)ごろより右下腹部痛があったが放置していたところ,1980年6月初旬右下腹部痛が増強し,黒色便に気付いたため近医を受診し,大腸X線検査にて回盲部の異常を指摘された.1980年6月21日精査のため当科に入院した.

  • 文献概要を表示

 上行結腸に発生した癌が,主として腸管の長軸方向に進展し,一部はBauhin弁を越えて回腸に浸潤した症例を報告する.患者は結腸癌手術後2年目に子宮癌を併発し,しかも兄が大腸癌(多発)と胃癌(多発)に罹患,妹が胃癌で死亡するなど癌多発の家系としても注目される.

  • 文献概要を表示

 糞線虫(Strongyloides stercoralis)は,主としてヒトを宿主とする寄生性小線虫であり,熱帯,亜熱帯など高温多湿地域に多く分布することが知られている.アジアでは特にインド,東南アジアに蔓延し,本邦においては沖縄県,鹿児島県,特に南西諸島に患者が多発しているが1)2)7),そのほかの地域ではまれとされ,ほとんど注目されていない.今回,筆者らは兵庫県尼崎市在住の患者の空腸生検組織に,本虫の虫卵および虫体を見出した.患者はこの数年の間に心筋梗塞,閉塞性胆道疾患にかかっており,糞線虫症の立場から改めて過去の病歴を検討したところ,未解決の臨床所見に合理的な解釈を得ることができた.ここに諸家の文献を参照しつつ本例の病像について考察を加えたい.

  • 文献概要を表示

 大腸癌が発生するまでの過程には,腺腫を発生させる因子,腺腫を大きくする因子,腺腫を癌化させる因子の3つの異なる因子が働いていることが,Hill,Morsonらによって提唱されている1).もし,この仮説が正しいならば,これらの因子は腺腫周辺の正常粘膜にも何らかの影響を及ぼしている可能性がある.この影響による変化を何らかの形で把えることができれば,このような外的因子に強く晒されている患者を腺腫発生以前,あるいは,その初期の段階で選別でき,大腸腺腫,癌のhigh risk群として扱うことが可能となるかもしれない.

 以上のような考えのもとに,われわれは大腸腫瘍性病変の背景粘膜の粘液染色を行い,若干の興味ある知見を得たので報告する.

  • 文献概要を表示

 診断技術が進歩したとはいえ,今日切除される大腸癌の多くは,進行癌であり,しかも筋層を越えた浸潤をみるものが大半を占めている.このうち,癌浸潤が筋層にとどまるものには比較的に先行病変の名残りをもっているものが多くみうけられる.そこでm癌とsm癌の検討を行いながらpm癌の成り立ちについて検索することは,腺腫の癌化という問題をも含めて,大腸癌の組織形態発生についての1つの推移経路が明らかにされると予想される.

 われわれは癌組織だけから成る微小m癌の経験はないものの,今回,特に粘膜筋板の形態や癌と共存する腺腫成分とに注意しながら,m,sm,pm癌の組織学的検討を行ったので報告したい.

Case of the Month

Early Gastric Cancer, Type Ⅱc
  • 文献概要を表示

 A 41-year-old woman visited the Tokyo Metropolitan Cancer Detection Center on February 13, 1979 with the chief complaint of epigastric pain which had appeared intermittently in the last two years. There was nothing in particular in her personal and family history. Physical examination was normal Blood count, blood chemistry and urinalysis were within normal limits.

 A double contrast radiograph taken at the initial examination on February 13, 1979, revealed a shallow, irregular depression of the mucosal membrane in the posterior wall of the middle gastric body. There was various-sized granularity within the depression. The converging folds showed tapering and interruption at the margin of the depression. These findings strongly suggested Type Ⅱc early gastric cancer.

Coffee Break

内視鏡施行時のPaO2低下
  • 文献概要を表示

 上部消化管内視鏡施行時にPaO2低下を来すことは前から知られていた.だから高齢者や心肺疾患のある人に対しては十分な注意が必要である.

 理由としては前処置や内視鏡が挿入されているということのためのhypoventilationやそのほかのものも考えられていた.

内視鏡による穿孔と死亡
  • 文献概要を表示

 Table1,2は,G.E.Weschらが発表した論文をデー・エム・べ一・ジャパンが日本語訳して掲載したものである.消化器内視鏡による穿孔例の死亡に関するものであるが,参考になると思われるので引用した.詳しくはDtsch.med.Wschr. 106:979~983,1981. を参照されれば,更に多くの資料が発表されている.

システアミンによるBrunner腺阻害
  • 文献概要を表示

 ラットに塩酸システアミンを投与することによって容易に実験十二指腸潰瘍を作ることができる.このメカニズムについて矢花らは詳しく検討しているが,まだ全く明らかになったとは言い切れない.

 システアミン潰瘍の成因には胃酸分泌の亢進は確かに関与していると考えられるが,同じだけの酸分泌をガストリン刺激によって起こさせても十二指腸潰瘍はできてこない.当然十二指腸粘膜の防御機構に関して考えを及ぼさないわけにはいかない.この防御機構の1つとして粘液含有のBrunner腺分泌を重視するむきもある.たとえば,Hartialaらはシンコフェンをイヌに投与してBrunner腺分泌を抑制したら犬に十二指腸潰瘍をも作ることができたということである.Selyeはシステアミン潰瘍の元祖であるが,この人もまた,3,4-toluendiamineというシステアミン類似物質でラットに十二指腸潰瘍を作り,Perkinsらは,これがやはりBrunner腺分泌を阻害することをつきとめた.Kirkegaardらは最近(Scand.J.Gastroent.16:93~96,1981)システアミン投与によってラットの十二指腸のBrunner腺分泌が著明に抑制されていることを発表しているが,引き続いて同グループはBrunner腺分泌細胞は粘液含量が減り形も著しくフラットになることを見付けて報告(同誌16:459~464,1981)した.ガストリンでいくら刺激してもこういう変化は生じないのだそうである.しかも,システアミンのこの作用の原因はBrunner腺の分泌阻害ではなく合成阻害なのだそうである.

  • 文献概要を表示

 「ガリレイの道」(平凡社)を書き残した青木靖三は,“ルネサンス,再生,復活は,それは直接の父祖の生きていた時代の復活などではありえない.それならばそれは継続でしかない.……なにものかが復活,再生したことを告げることで,なにものかの死亡したことを宣することだったのである.”と述べた.いな,“1冊の本”として,Beckの新しい編著「Farbatlas der Laparoskopie-Pathologische Anatomie der Abdomens in vivo」という本を取り上げるとき,青木の言葉を引用しようという誘惑に勝てなかった.これでも,気障っぽい文章を書くことは,多少遠慮しているつもりなのである.

 よく知られているように,Beckの腹腔鏡アトラスは,谷川久一教授らの訳書も出たAtlas der Laparoskopie(Schattauer,1968)にさかのぼる.その本が,ながい間の沈黙をやぶって“再生”した.第2版は,内容がまったく一新しているし,定評のあるあまりにもきれいな図も約3倍に増えている.

入門講座 大腸疾患診断の考え方・進め方・3

  • 文献概要を表示

(a)腫瘍性疾患

 <質問>わが国で大腸癌は増えていると言われますが胃癌の頻度と比べてどの程度ですか.

 武藤 頻度はデータが出ていないんです.死亡率で出ていますね.

--------------------

欧文目次

  • 文献概要を表示

Chronic Intestinal Pseudo-obstruction: Schuffer, M.D., et al. (Medicine 60: 173~196, 1981)  閉塞がないのに機械的腸管閉塞と同様の臨床症状を呈する一群の疾患を偽性腸閉塞症と呼ぶ.麻痺性イレウスは急性の本症である.慢性の偽性腸閉塞症としてPSSなど膠原病,粘液水腫など内分泌疾患,パーキンソン病など神経疾患,空腸憩室症などに伴う二次的なものと,Maldonadoが提唱した慢性特発性偽性腸閉塞症(CIIP)がある.後者には管腔性臓器筋症(HVM)や臓器ニューロパチー(VN)などがある.

編集後記 高田 洋
  • 文献概要を表示

 本号は年2回企画している特定の主題を有しない症例・研究特集である.収載された大部分の症例は月例の早期胃癌研究会に呈示された数多くのものの中から,臨床・病理の各分野の医師の厳格な検討・討議を経て厳選されたものばかりである.

 空腸生検によって診断された重症糞線虫症の論文を除けば本号にみられる症例は読者にとっても決して稀有なものばかりではなく,むしろ既に自分で経験し,あるいは各地の研究会や症例検討会で見聞されたであろうたぐいの症例が多く,身近な例として親しみを感じられるのではなかろうか.それだけに読者には写真の一こま一こまや診断の過程に著者の苦心のあとがひしひしと感じられ共感を持ち,あるいは逆に批判できる資料でもあるわけである.各症例のX線・内視鏡所見を手術材料・病理所見と逐一対比検討することは自らの診断力をチェックし反省し,向上させる恰好の材料を提供してくれるものと信じる.

基本情報

05362180.17.3.jpg
胃と腸
17巻3号 (1982年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
11月5日~11月11日
)