呼吸と循環 62巻11号 (2014年11月)

特集 CABGを科学する

序文 高梨 秀一郎
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 CABGは1967年にFavaloroらによって提唱され,70年代になり近代外科手術のなかでも最も治療効果の高い手術として爆発的に広まった.一方,カテーテル治療であるPCIもステントや昨今のDESなど,デバイスの急速な進歩により,PCIのアキレス腱と言われてきた再狭窄がかなり克服され,これまで適応外と考えられていた3枝病変や左主幹部病変(left main trunk;LMT)に対しても積極的に施行されるようになってきた.

 冠動脈病変に対するこれら2つの異なった治療法は,1990年代になって比較のための数多くのRCTによってその生命予後改善に対する両者の違いが明らかになった.いずれの試験の結果からもCABGの圧倒的優位性が示され,CABGがこの分野におけるゴールデンスタンダードとなる,いや,そのはずであった.CABGはその生命予後やイベント発生においてPCIに優る治療であることをいくら声高に叫んだところで実臨床の世界では,いかなる病変に対してもまずPCIを,という考えになる.これを是正するためにCABGの長期予後を左右するグラフトの開存性に関して一歩踏み込んで様々な方向からの検証を行い,科学的に分析することを主眼として,本特集を企画した.

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はじめに

 両側内胸動脈(bilateral internal thoracic artery;BITA)バイパスは,生命予後にまで影響力を持つほどの有効性が示されて久しい.それにもかかわらず,BITAの使用率は本邦では冠動脈バイパス手術(coronary artery bypass grafting;CABG)全体の30%,ヨーロッパでは10%,アメリカに至ってはわずか4%にすぎず,充分に普及しているとは言い難い1〜3).なぜか? 本稿では,内胸動脈(internal thoracic artery;ITA)がグラフト血管としての地位を確立し,両側内胸動脈バイパスの良好な成績が明らかになっていくまでの歴史的背景を述べた後,両側内胸動脈バイパスが術式として採用されにくい理由を検証し,最後にBITAの実力を最大限に発揮させるためにどうすればよいか考えてみたい.

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はじめに

 冠状動脈バイパス術(CABG)は,外科的血行再建法として確立しているが,経皮的カテーテル治療(PCI)との競合が厳しく,長期開存に優れた動脈グラフトを複数本用いることを考慮する必要がある.内胸動脈(ITA)の有用性は既に明らかであるが,第2,第3のグラフトとしての橈骨動脈(RA)の評価はまだ定まっていない.ITA,右胃大網動脈(GEA)は有茎(in-situ)グラフトとして用いることができるが,RAは大伏在静脈(SV)と同様に,free graftとして中枢吻合が必要となる.脳梗塞予防を考えて,上行大動脈へ遮断鉗子を置かない,いわゆるnon touch法を推奨する外科医もいる.RAを用いてnon touch法を行うためには,ITAなどのグラフトへのcomposite graftを作成しなければならない.また,RAはGEAと同様に血流競合によるstring signが発生しやすく,また術後造影時にspasmsを認めることもあり,信頼性に欠けると考えて,使用しない外科医もいる.このような様々な問題を有するグラフトであるが,動脈グラフトとしての特性を十分考慮して用いれば,長期開存に優れたグラフトになりうる.

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はじめに

 冠状動脈バイパス術では,黎明期から大伏在静脈と内胸動脈がバイパス材料として使用されてきた.1990年代には2つのグラフト材料が様々な形で検証され,グラフト選択が生命予後に大きな影響を及ぼすことが明らかとなった.つまり,静脈グラフトは遠隔期に粥状硬化を引き起こす“vein graft disease”から不可避であり,一方,内胸動脈グラフトは動脈硬化性変化が少なく,遠隔期開存率が良好であった.その後,血行再建をできる限り動脈グラフトで行う“arterial revascularization”が,CABGの遠隔期治療成績を改善すると期待され,内胸動脈以外にも橈骨動脈,右胃大網動脈がグラフト材料として使用される.

 一方,狭心症治療にカテーテルインターベンションが導入され,現在では広く普及している.冠動脈バイパス術との比較試験も多数行われ,そのなかで冠動脈バイパス術は周術期脳梗塞の発症頻度が高いことが問題とされた.術中脳梗塞の多くは,上行大動脈壁の粥腫が大動脈操作時に遊離して発症することが明らかとなり,大動脈操作を可及的に避けることで周術期脳梗塞を回避する試みがなされている.

 このような背景を踏まえると,コンポジットグラフトは,冠動脈バイパス術が直面する2つの課題を一度に解決する,理想的な戦略に思える.つまり,コンポジットグラフトは2本の動脈で広い領域をカバーでき,さらに中枢吻合時に上行大動脈に触れる必要はない.こうした期待から一時期コンポジットグラフトは広く普及し,その有用性が様々な形で検証されてきた.ところがこうした報告のなかには,コンポジットグラフトではstring signが多く,開存率も劣っているとの報告も含まれていた.また臨床成績においても,コンポジットグラフトの明らかな優位性は証明されなかった.つまり,コンポジットグラフトには利点もあるが,pitfallもあると認識されるようになったのである.

 本稿では,まず多数におよぶコンポジットグラフトに関する報告の概要をまとめ,これまでに明らかにされたコンポジットグラフトの特質を明らかにしたい.また,冠動脈バイパス術におけるコンポジットグラフトの今後の役割を検討したい.

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はじめに:グラフトデザインがもたらす

競合血流の諸問題

 今日の高齢化社会において,心臓血管疾患の手術患者においても長期遠隔期に良好な生命予後が期待される一方,動脈硬化は高度で多岐にわたる症例が増加しつつあり,治療戦略に難渋する病態に遭遇することは稀ではない.心筋虚血の解除と生命予後の改善を目的とする冠動脈バイパス術(coronary artery bypass grafting;CABG)においては,バイパスグラフトから虚血心筋への長期に安定した血流供給が期待され,そのためグラフトの選択とデザインに関してこれまで様々な工夫が凝らされ,また多くの臨床的・統計的エビデンスが構築されてきた.内胸動脈(internal thoracic artery;ITA)は術後遠隔期に90〜95%の開存率が得られるとされ1,2),左前下行枝(left anterior descending;LAD)への吻合が生命予後を延長させることは確立されたエビデンスが存在する3).一方で大伏在静脈(saphenous vein graft;SVG)は血栓の影響を受けやすく,動脈硬化が進行しやすいと言われ,術後10年開存率はわずか50%に過ぎないとする報告すらある1,2).多枝病変においてはLADに加え,回旋枝(circumflex;Cx)領域や右冠動脈(right coronary artery;RCA)領域に関しての血行再建を行わなければならないが,その際対角枝(diagonal branch;Dx)領域への血行再建を追加で考慮する場合にグラフトデザインについて悩む事項が増えてくる4).まず一般的な多枝病変へのCABGのストラテジーに関して言えば,石灰化の強い上行大動脈への遮断や縫合を避けるため(aorta non touch),心拍動下(off-pump CABG)に,橈骨動脈(radial artery;RA)などの遊離動脈グラフト中枢側をITAに吻合し,一本のITAから分枝させる(composite graft)方法を用いる施設も多いが5,6),一方で人工心肺使用下(on-pump CABG)にSVGを用いて大動脈から虚血枝へのバイパス(A-C bypass)をindividualに端側吻合または途中で側側吻合を含むsequentialで行う施設も同様に多く,遊離グラフトとしてのSVGはCx領域やRCA領域に対して長期に安定した虚血改善効果があるとする報告もある7)

 それではきれいに吻合され,きちんとつながってさえいれば,結局どのグラフトをどのように使っても変わらないのかというと,決してそのようなことはなく,例えばVural KMらの報告によると,in-situ ITAグラフト,individual SVGグラフト,sequential SVGグラフトに関する5年開存率は各々87.1%,67.7%,82%であり,individual吻合に用いたSVGはsequential吻合に用いたSVGより閉塞しやすいことが明らかにされた7).このように同じグラフトを用いてもデザインが異なればその役割が異なり,長期開存率に影響を及ぼすが,その原因の一つとしてグラフト内,あるいは複数のグラフト間の血流の競合(competitive flow)の問題が存在する8).Nakajima HらはCABG術後造影を詳細に検証し,図1に示すようにグラフト間の血流の競合のパターンについて整理しており,同じsequential吻合であっても狭窄のより程度の軽い病変を遠位側におくとバイパスを血流が逆走することや,狭窄の程度が大きく異なる2本の枝へのY-compositeではグラフトを介し逆走することがあることを示し,これら競合血流がグラフト閉塞の誘因となることを示した8).このようにしてみるとグラフトのデザインだけではなく,もとの病変の狭窄の程度や虚血重症度も血流の競合の誘因になっていると考えられる.ITA-LAD吻合は狭心症状の改善よりむしろ長期生命予後を改善させる役割が強く3),グラフト流量の大小のみでは測れない側面があるが,口径が小さいITAは軽度狭窄のLADに吻合すると血流競合を生じ開存率が落ちるとされる5).その一方でITAにRAを分枝させるY-composite graftでは術後の心筋灌流量が特に運動負荷時に細いITAから十分に供給しきれないとも報告されており9),左室前壁中隔領域の虚血枝の程度とITAグラフトが供給できる血流量とのバランスが重要である.

 それでは,このように同じグラフトを選択してもバイパス吻合方法・グラフトデザインの違いによって,またバイパスのtargetとなる冠動脈の狭窄と虚血と程度によって血流の競合が発生してしまい,長期開存率に影響を与えるという現実があるとすれば,いかにしてこのような事態を回避すればよいのかという疑問が発生する.また,血流が与える影響は競合だけとは限らず,上述のようにSVGが遠隔期には動脈硬化が進行し血栓形成するようなプロセスは血流が遠隔開存率に与える影響の一例であるが,こういった問題もCABGに臨む際,グラフトデザインを工夫すれば回避できるではないかという疑問も発生する.現在このような問題に関する万能な解決策はまだ存在しない.しかし,本稿ではこの「グラフトデザインと血流」という深遠なテーマに挑戦するべく,これまでCABG術後グラフト血流の評価に関してこれまでに構築されてきた臨床的なエビデンスについてと近年報告されている最先端の研究成果について紹介し,加えて血流解析に関する専門研究機関としてのわれわれのアプローチと知見についても紹介する.

SVGを見直す 福井 寿啓
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はじめに

 虚血性心疾患に対する侵襲的治療法にはカテーテル治療(percutaneous coronary intervention;PCI)と冠動脈バイパス(coronary artery bypass grafting;CABG)術がある.CABGの歴史は古く,1960年代半ばから行われるようになった1).それ以前は大胸筋,大網,内胸動脈を心筋に固定したり植え込んだりする間接的な血行再建術であったが,不完全な治療であった.CABG開始当初は,大伏在静脈グラフト(saphenous vein graft;SVG)を使用した大動脈-冠動脈バイパス術が主に行われ,その成績は以前からの治療法に比較し良好なものであった.しかし,その後SVGの動脈硬化性変性による閉塞が数年で起こることが明らかとなった2)ため,各種動脈グラフトが使用されるようになった.代表的な動脈グラフトとして内胸動脈(internal thoracic artery;ITA),橈骨動脈,右胃大網動脈などが挙げられる.動脈グラフトの遠隔成績はSVGに比較して良好とされ,現在は症例あるいは病変に応じ動脈グラフトをより重要な部位に使用3)し,SVGは補完的に使用されている.

 しかしながら,SVGは血管径が大きく,ハンドリングも良好であるため多枝血行再建には非常に便利なグラフトである(図1).しかも,採取が容易であり,特に緊急手術時には多用される傾向にある.SVGは現在も広く使用されるグラフトであり,今後も使用され続けるグラフトであるため,その特徴を知り,欠点を克服するため様々な工夫がなされるようになってきた.

 本稿では,SVGの一般的な成績と現在取り組まれている改良点について述べたいと思う.

心拍動下冠動脈吻合を科学する 横山 斉
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はじめに

 人工心肺を用いない心拍動下冠動脈バイパス術(off-pump coronary artery bypass;OPCAB)は1990年代に本格的に臨床に導入され,その後本邦では急速に普及し,現在では全冠動脈バイパス術(coronary artery bypass grafting;CABG)の60%を超える本邦の標準手術となった.OPCABの最大の利点は,人工心肺関連合併症(脳,腎,肺,血液機能障害)を回避できることである.OPCABの普及は,多臓器併存症を有する高齢者が治療の対象である超高齢化社会を迎えた本邦の状況を反映している.OPCABの最大の欠点は,心拍動下での冠動脈吻合の技術的難易度の高さである.この10年,Octopusなどの組織固定器具(図1a〜c)による冠動脈吻合部固定法の改良がOPCAB普及の大きな後押しとなった.しかし,冠動脈吻合の精度やグラフト開存率に対する批判は根強く,欧米での普及を妨げている.近年,英国で行われたランダム化無作為試験でも,人工心肺下CABGと比較してOPCABグラフト開存率の低下と不良な遠隔成績が指摘されている1).経験の少ない外科医や研修医が良好な成績を出すためには,OPCAB特有の冠動脈吻合部固定(stabilization)の重要性が改めて再認識され,あらゆる環境下で理想的な吻合部固定を追求する研究が必要である.

 OPCABの主たる治療効果は,長期にグラフトが開存することでもたらされる.冠動脈中枢部のプラークによる狭窄・閉塞病変の末梢側にグラフト吻合を作成し,このグラフトが長期的に開存することで,冠動脈中枢側に新たなプラーク形成・破裂を生じても心筋血流を確保し患者の心事故・心臓死を予防する.未来の冠動脈イベントを予防し,生命予後を延長することがCABGの主たる治療効果であり,多くのエビデンスがこの点に関しての経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention;PCI)に対する優位性を示している.よって,10年後20年後にも開存しているグラフト吻合作製法について“科学する”ことは,OPCAB治療効果の根幹をなすと同時に,この手術を受けている世界中の毎年数万の人々に恩恵をもたらす.

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はじめに

 1.手術経験数と臨床成績の関連

 冠動脈バイパス手術(CABG;coronary artery bypass grafting)とは,冠動脈狭窄に起因する心筋虚血に対し,大動脈あるいはその分枝と冠動脈狭窄末梢との間に代替血管(graft vessel)によるバイパス路を作成することにより虚血領域の血流改善をはかろうとする手術である.Off-pump CABG(OPCAB)は,従来のCABG(On-Pump CABG)が人工心肺を使用し心停止液による心停止下に行われるのに対し,人工心肺を用いず,自己の心拍動で循環を維持しながら行うCABGである1).安全に心臓外科手術を遂行するためには,術者の経験が重要とされている.施設ごとの症例数が多いほど,その施設の外科医は経験を積むことができるため,その結果治療成績が良好ではないか,との仮説を検証する研究がなされている.Dimickらは1997年の米国大腸癌20,862症例に対して,施設症例数とmortalityの関係を調査し,症例数の多い施設ほどmortalityが低いことを示している2).Welkeらは2009年に2002〜2006年の米国胸部外科学会先天性心疾患32,413症例に対して研究を行い,施設症例数と困難症例の比率について正の相関性があることを言及している3).術者の執刀症例数,スキル,および成績の関連については,近年,研究が加速している.2013年,BirkmeyerらはBariatricの腹腔鏡下手術において,20名の執刀医をスキルレベルに応じて3段階に分類したうえで,最高ランクと最低ランクの比較では全合併症,手術合併症いずれにおいても約3倍の差異があることをNEJMに報告している4)

 2.シミュレータを活用したトレーニングの効率化

 米国では一般外科と心臓血管外科までを6年間で統合的にトレーニングするI-6 CT Surgical Residency Programが始まっており5),時間的制約のなかで効率的に若手外科医を育成するため,新たな教育カリキュラムの確立に向けて活発な議論が続けられている5).その鍵として,シミュレータ(Dry Lab)の活用が重要であると示されている.従来のWet Labには衛生面,倫理面,およびコスト面の問題がある.よってさらに学習曲線(ラーニングカーブ)を急峻にするためには,言い換えれば,訓練期間を短縮するにはWet Labのみでは限界があるとされている.そこでシミュレータの積極的活用が始まっている5).トレーニング効果を最大化するためには,Dry Labの特性を理解したうえでこれを用いなければならない.Dry Labはシミュレータ本体のハードとしての性能と,教育コンテンツ(テキスト,動画など)や手技評価方法などのソフトとしての性能の適切な組み合わせが重要である.米国ではJoint Council on Thoracic Surgery Education(JCTSE)が2012年に設立され,胸部外科領域におけるDry Labについて,ハードとソフトの両面から述べた具体的なガイドラインを公開しており,結紮などの基礎手技から末梢側吻合などの専門的手技まで網羅的に記述している6).特にCABG,OPCABで遠隔成績に影響を及ぼす良好な開存性を得るための吻合スキルをDry Labにおいて評価するためには,OSATS(Objective Structured Assessment of Technical Skills)が用いられている.OSATSは,複合的外科手技を視野展開や糸捌きなどの技能要素に分解し,5段階スケールで評価するスコアシートである7,8)

 3.血管吻合手技における定量評価の試み

 血管吻合手技については,OSATSのようなスコアシートを用いた定量化の試みが続けられているが,トレーニングにおいて吻合の出来映えを定量的(工学的)に評価した研究は少ない.臨床においてはVeriQ®やNovadaq Technologies Inc.製のSPYTM Systemを用いた術中の血流評価が実用化されているが9),日常的トレーニングへの使用は想定されておらず,また内部形態データを定量的に取得できるものとはなっていない.そこでDry Labに特化した吻合部の形態的評価,および機能的評価を実現するため,マイクロフォーカスX線CTと数値流体解析(CFD;computational fluid dynamics)を用いた研究を筆者は進めてきた.本評価手法を用いることにより,吻合の形態と血流の関係を科学的に理解することができ,ひいては臨床成績を向上していくための留意点を明確にしていけるものと考えている.トレーニングにおいては,OSATSのような半定量的評価手法と併用することで,効果性と効率性の向上が期待できる.本稿では,吻合の質を評価する定量的評価指標の一つとして吻合部血流のエネルギー損失値に着目し,吻合部形態との関係について述べる.

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 思い返すと,1991年初期研修医1年目の私は,最初の半年を九州大学病院第2内科で,その後の半年を第3内科で研修を受けた.今と違い,卒業後すぐに入局する時代であり,私は九州大学循環器内科に入局してからの内科研修であった.学生時代,勉強は決して熱心でなかった私が,初期研修で患者さんを目の前にし,勉強不足,知識不足では済まされない現実を目の当たりにし,それまでの私とは一変,日々の研修を心底熱心に受けたことを思い出す.

 その頃から,循環器疾患には他臓器機能が大きく関与しているように感じていた.多くの知識がない当時だからこその「もしかして……」である.研修先の第2内科で腎不全患者を受け持ち,その治療にあたった.担当患者さんは腹膜透析を行っていた.ベットサイドで瓶を並べて回路を組む当時の腹膜透析のスタイルは,今からは想像もつかない様相である.その後,透析のスタイルは目覚ましく進歩し,患者さんの負担も軽減した.あれから4半世紀,今では「心腎貧血関連」という言葉があるほど,心機能との密接な関係性が明らかになりつつある.

連載 呼吸機能障害を来す病態の画像・11

胸膜胸壁疾患・神経筋疾患 叶内 哲
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はじめに

 胸膜や胸壁の疾患,神経筋疾患では,肺の拡張が制限され拘束性障害が引き起こされる.この項では,胸膜胸壁疾患の画像所見を解説し,代表的な症例の画像と同時期の呼吸機能検査や血液ガス分析の結果を並列して提示する.しかし,胸膜肥厚や筋肉の萎縮を定量的に評価することは困難で,所見の程度と呼吸機能障害の程度は必ずしも比例しない.

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はじめに

 65歳以上の高齢者が総人口に占める割合(高齢化率)は2010年に23%を突破し,本邦は超高齢化社会に突入した1).また,超高齢化社会の真の問題は高齢化率の上昇ではなく,75歳以降の後期高齢者の増加であると考えられている.団塊の世代が65歳を超える2015年以降,65〜74歳の前期高齢者の人口はほとんど変化せず,後期高齢者は増え続ける.高齢化のピークとされる2050年には高齢化率は40%,後期高齢者は総人口の25%になると予想されている1).つまり今後需要が増加する高齢者医療の対象とは,比較的生産年齢に近い前期高齢者ではなく,多くの疾患と愁訴を抱え,要介護者の割合が増える後期高齢者と想定される.

 このような多くの疾患と愁訴を抱えた高齢者の増加に伴い,高齢者を対象として気管支鏡検査を施行することが多くなっている.最近では機器や術者の技術の進歩により,気管支鏡検査は以前よりも安全に施行されていると考えられる.しかしそれでも,高齢者には負担になっているのが現状である.高齢者では加齢による臓器機能,およびその予備機能の低下,ならびに組織の脆弱性,さらには適応力の低下があるために,思わぬ偶発症を生じることがある.また,心血管系,中枢神経系,呼吸器系などに基礎疾患を有する場合が多く,検査をきっかけに原疾患を悪化させることもある.気管支鏡操作による直接的な負担に加えて,絶食,検査後の入院などのリスクも存在することを理解すべきである.本稿では高齢者の気管支鏡検査における注意点を述べる.

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はじめに

 近年,再生医療はメディアにも頻繁に取り上げられ,医療関係者だけでなく一般にも広く注目されるようになった.再生医療とは,疾患などによって損傷を受けた生体の機能を,幹細胞などを用いて再生させる医療のことである.例えば,虚血性心疾患などにより一度心筋細胞が失われると,心筋細胞は増殖能をもたないために心機能が低下し心不全に移行する.最終的に重症心不全に陥ると,予後は極めて悪く,薬物療法を中心とする内科的治療にも抵抗性となり,根本的治療としては心臓移植しかないのが現状である.しかしその心臓移植にもドナー不足,免疫拒絶などの問題があり,治療が充足しているとは言い難い.このように再生医療は,現在の治療法では限界がある重篤な疾病に対する有効な新しい治療法として期待されている.

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はじめに

 Birt-Hogg-Dubé(BHD)症候群は,皮膚の線維毛包腫,腎腫瘍,多発肺囊胞を伴う自然気胸を三徴とする常染色体優性遺伝性疾患である.三徴のうち特に気胸は,突然の呼吸困難,胸部痛の症状をもって発症するため医療機関を受診する場合が多く,呼吸器科医が初診医として日常診療にあたる機会が多い.BHD症候群では,肺囊胞の分布領域,両側気胸の既往,気胸の家族歴を有するなど,原発性自然気胸と異なる特徴がある1〜4).本稿では,BHD症候群の歴史的背景,分子生物学的知見,各種検査と診断方法,皮膚,肺,腎臓病変の臨床的特徴を解説し,最後に日常診療で遭遇する機会が多いと思われる気胸で発見されたBHD症候群の症例を提示する.

好酸球性心筋炎 藤野 剛雄 , 波多野 将
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はじめに

 急性心筋炎は,組織学的にリンパ球性,巨細胞性,好酸球性,肉芽腫性に分類される1).病因的にはほとんどは感染性もしくはアレルギー性と考えられている.好酸球性心筋炎は,心筋炎のなかでも稀な組織型で,心筋組織内に巣状もしくはびまん性に好酸球浸潤を伴う炎症所見を認めることが特徴である.

 本稿では好酸球性心筋炎に焦点を当て,その診断および治療の方針について概説する.近年,好酸球性心筋炎は薬物アレルギー〔過敏性心筋炎(hypersensitivity myocarditis)〕として,しばしば重症心不全治療経過中の患者でみられることが報告され,本稿でも重症心不全症例における好酸球浸潤の関与につき考察する.

Current Opinion

間質性肺炎合併肺癌の治療 小山 信之
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最近1年間の全般的な話題

 [1]間質性肺炎と肺癌

 間質性肺炎と肺癌は難治性の呼吸疾患だが両疾患の合併が多いことは以前から報告されている1).間質性肺炎には原因,画像,病理所見などにより様々な疾患,病態が含まれるが,特発性間質性肺炎,なかでもその多くを占める特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis;IPF)は肺癌術後肺の7.5%に認められたとも報告されている2).間質性肺炎,肺癌には加齢,喫煙など共通の発症因子があり,分子生物学的にもp53,FHIT,hTERTなどの遺伝子変異やエピジェネティックな変化,シグナル伝達経路の活性化,アポトーシス異常,マイクロRNA発現変化など共通の因子が両疾患の病態に関与していることが報告されており,表現型は異なるが生物学的には類似の病態かもしれない.過去の報告では間質性肺炎患者における肺癌合併率は4.4〜38%であり1,3〜7),臨床の現場においてわれわれも出会うことが多い.間質性肺炎合併肺癌の治療における最大の問題点は間質性肺炎急性増悪であり,薬物治療,胸部放射線治療,外科治療のいずれでも起こりうる合併症である.いったん発症すると死亡率も高く,回復してもその後の癌治療が困難となることが多い.しかしながら,これまでの報告の多くは小規模な後ろ向き研究であり,ランダム化第三相試験のような大規模臨床試験の結果がないのが現状である.報告は日本からも多く,実際このような病態は日本人に多いなど人種差が関与している可能性が考えられており8),日本人の肺癌診療に携わるわれわれは標準治療に至るエビデンスの確立を急ぐ必要がある.

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PADに対する標準的治療(AHA 2013年ガイドライン)

 PADの標準治療に関わる最近1年間のトピックスとしては,同領域において主要なガイドラインであるACC/AHAガイドラインが2005年以来約8年ぶりに改訂された1)ことが挙げられる.主な変更点のうち,検査に関してはABI測定の推奨年齢が70歳から65歳へと引き下げられた.これは,ドイツにおける6,880名の患者を対象としたget ABI試験2)で,65歳以上の患者のうち21%が症候性または無症候性の下肢閉塞性動脈硬化症を有していたとの結果を受け変更されたものであり,無症候性の患者を含めスクリーニング効果の上昇が期待される.また治療に関しては,BASIL試験3)の結果を受けて,重症虚血肢(CLI)患者のうち予後が2年以内と考えられるか,バイパス術に適した自家静脈がない患者に関しては血管内治療が第一選択治療として考えられ,予後が2年以上と考えられ,使用可能な自家静脈のある患者に関してはバイパス術が初期治療として適していると記載されている.その他の点では大きな変更はなく,未だ大腿膝窩動脈領域における血管内治療戦略においてprimary stentingがClass Ⅲの位置づけになっている.同領域においては,後述の通り様々なデバイスによる血管内治療の良好な成績が報告されており,古い内容であると言わざるを得ないだろう.腎動脈に関しては新たな知見が少ないとのことで改訂は行われておらず,大規模なランダム化比較試験であるCORAL試験の結果などが待たれるとされていた.CORAL試験に関しては2014年に結果が発表4)され,心血管イベントの予防において,薬物療法群に比してステント治療群の有意性を示せなかった.腎動脈狭窄に対する血管内治療を行う際には,より慎重に適応を考慮する必要があると考える.

 PADに対する血管内治療における最新のトピックスに関して,大動脈腸骨動脈領域においては,新規デバイスとしてカバードステントが注目されている.COBEST試験5)において金属ステントに比してTASC C/D病変での開存率の優位性(HR 0.136;95%CI 0.042〜0.442;p=0.005)が示されているが,CIA領域においてはBMSより開存率が低く,再治療率も高かった(HR 2.5;95%CI 1.2〜5.3;p=0.009)との報告6)もあり,今後ランダム化比較試験での評価が望まれる.大腿膝窩動脈領域は未だ最適な治療について議論が多く,薬剤溶出性ステント,薬剤溶出性バルーンなど様々な新規デバイスが登場している領域であり,詳細は後にトピックスとして述べる.膝下動脈領域の血行再建は,CLI治療の成功に非常に大きな影響を及ぼすが,現在血管内治療として標準的に行われているバルーン治療の再狭窄率の高さが問題となっている.現在までに行われた5つのRCTのメタ解析7)の結果,薬剤溶出性ステントは,短い病変においてバルーン治療と比して開存率,TLR,大切断回避の優位性を示したが,日常臨床で頻繁に遭遇する長区間の病変での有用性は不明である.長区間の病変に関しては,薬剤溶出性バルーンの有用性が報告8)されており,バルーン治療と比べて1年間の再狭窄率が27%対72%(p<0.01),TLRが18%対43%(p=0.002)とされている.症例数の問題か,大切断率に関しては結果が定まっておらず,今後の研究結果が待たれる.CLI患者において,propensity score matching法を用いて患者背景を一致させた結果,スタチンがMACCE,全死亡,大切断または死亡を有意に抑制したとの報告9)があり,低LDL値の患者においても同様の傾向があるのかなど,予後不良のCLI患者に対する治療成績改善のmedical interventionの役割の一つとして今後のスタチンを用いたCLIの研究が待たれる.

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要旨

 目的:エリスロマイシン(EM)の抗炎症などの作用に注目し,アポリポプロテインE(アポE)ノックアウトマウスの動脈硬化に対するEMの効果を検討した.方法:動脈硬化はアポEノックアウトマウスに高脂肪食を与えて作製した.6週齢のアポEノックアウトマウスに,EM(33mg/kg)の腹腔内投与を週5回,8週間行い,コントロール群と比較した.結果:コントロール群と比べ,EM投与群で,動脈硬化病変が有意に減少した.EM投与により,マクロファージ,CD4,CD8の発現とスーパーオキシド(SOD)の発現が抑制された.炎症性サイトカインのmRNAの発現が,EM投与により有意に減少した.結語:EMにより動脈硬化症が抑制された.EMによる動脈硬化に対する抑制効果は,抗炎症作用に加えSODの産生の抑制が重要なのではないかと考えられた.

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投稿規定

次号予告

あとがき 小室 一成
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 よくカンファランスをしていると,この冠動脈病変には,カテーテルによる冠動脈形成術(PCI)がよいか,外科的バイパス術(CABG)がよいかといった議論が起こる.明らかにどちらがよいと決定できる病変もあるが,迷う病変も多い.迷う理由は種々あるが,そのなかに,術者の腕がある.PCIもむろん高度な技術が必要であるが,CABGとなるとなおさらである.したがって,冠動脈治療などは,大規模臨床試験から得られたエビデンスをそのまま応用しにくい分野といえよう.しかしいつまでも各術者次第では,医学の発展は望めない.医学がartである面を持つことは否定しないが,他者に引き継ぐことができてはじめて,その技術は科学となる.われわれは,artを科学し,より客観的な技術にしていく努力をすべきである.いつまでも一部の人しかできない,神技を必要とするような技術ではなく,誰でもができる手術法を開発し,システムを構築することが重要であろう.そのような意味で,今回の特集である「CABGを科学する」は,極めてart色の強いCABGを科学的に検証し,より良い手術法を考えた,まさに技術を磨く職人の知識の伝道であり,目指すべき方向を示している.良質の心臓外科医は,日常手術をしながらも,科学を行っていたのだ.循環器内科医も科学をしなければいけない.

基本情報

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呼吸と循環
62巻11号 (2014年11月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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