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はじめに
人工心肺を用いない心拍動下冠動脈バイパス術(off-pump coronary artery bypass;OPCAB)は1990年代に本格的に臨床に導入され,その後本邦では急速に普及し,現在では全冠動脈バイパス術(coronary artery bypass grafting;CABG)の60%を超える本邦の標準手術となった.OPCABの最大の利点は,人工心肺関連合併症(脳,腎,肺,血液機能障害)を回避できることである.OPCABの普及は,多臓器併存症を有する高齢者が治療の対象である超高齢化社会を迎えた本邦の状況を反映している.OPCABの最大の欠点は,心拍動下での冠動脈吻合の技術的難易度の高さである.この10年,Octopusなどの組織固定器具(図1a〜c)による冠動脈吻合部固定法の改良がOPCAB普及の大きな後押しとなった.しかし,冠動脈吻合の精度やグラフト開存率に対する批判は根強く,欧米での普及を妨げている.近年,英国で行われたランダム化無作為試験でも,人工心肺下CABGと比較してOPCABグラフト開存率の低下と不良な遠隔成績が指摘されている1).経験の少ない外科医や研修医が良好な成績を出すためには,OPCAB特有の冠動脈吻合部固定(stabilization)の重要性が改めて再認識され,あらゆる環境下で理想的な吻合部固定を追求する研究が必要である.
OPCABの主たる治療効果は,長期にグラフトが開存することでもたらされる.冠動脈中枢部のプラークによる狭窄・閉塞病変の末梢側にグラフト吻合を作成し,このグラフトが長期的に開存することで,冠動脈中枢側に新たなプラーク形成・破裂を生じても心筋血流を確保し患者の心事故・心臓死を予防する.未来の冠動脈イベントを予防し,生命予後を延長することがCABGの主たる治療効果であり,多くのエビデンスがこの点に関しての経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention;PCI)に対する優位性を示している.よって,10年後20年後にも開存しているグラフト吻合作製法について“科学する”ことは,OPCAB治療効果の根幹をなすと同時に,この手術を受けている世界中の毎年数万の人々に恩恵をもたらす.
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