呼吸と循環 41巻6号 (1993年6月)

巻頭言

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 ポンプ失調と致死的心室性不整脈は重症心疾患の終末像である.鬱血性心不全患者の予後は不良であるが,その死因の半数は突然死であると報告されている.この両者の発現を予防あるいは遅延させ得る薬物の開発は患者の予後を改善させるため不可欠であるが,一方の治療が他方を悪化させるという図式が最近の新薬の経験から明らかとなっている.心不全における交感神経系の過緊張状態は心筋細胞ベータ受容体のdown regulationをもたらし,その結果細胞内のcyclic AMP(cAMP)が減少,Ca transientが低下して心筋収縮力はさらに低下する.古典的なジギタリスはcAMP増加を介して細胞内Caを上げ強心作用を呈する.しかし,細胞内Ca過負荷による遅延後脱分極の発現がジギタリス中毒時の心室性不整脈の機序として挙げられている.ジギタリスに代る強心薬として用いられるベータ受容体刺激薬あるいは最近話題のフォスフォジエステラーゼ阻害薬などはいずれも細胞内cAMP濃度を増すことにより作用することから,同様の催不整脈作用をもたらす可能性がある.事実,PROMISEの研究で臨床的にも知られている.細胞内Caを増加させることが強心薬の本質であるが,一方では細胞内Caの増加自体が種々の電気生理学的変化を介して致死的不整脈の発生を助長することになる.

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はじめに

 1950年代より,低酸素,代謝阻害薬により心筋の活動電位幅が短縮するという現象は知られていたが,そのイオン機序は十分に明らかとはなっていなかった1,2).1983年,Noma3)により,心筋細胞において細胞内ATPが減少した時に開口するイオンチャネル,すなわちATP感受性Kチャネルが存在することが明らかにされ,低酸素,代謝阻害時に活性化するイオンチャネルとして注目されるようになった.その後,ATP感受性Kチャネルは骨格筋細胞4),膵臓ランゲルハンス島β細胞5),神経細胞6),血管平滑筋細胞7)にも見出され,これらの細胞系での生理学的意義が注目されている.特に膵臓β細胞ではその生理的機能が最も明らかとなっている.すなわち,血中グルコースの上昇によって細胞内ATPが増加し,その結果このチャネルが閉じることによって膜の脱分極,Ca++チャネルを通ってのCa++流入が起こり,最終的にインスリンが分泌されると考えられている.Glibenclamide,tolbutamideなどのsulfonylurea系の糖尿病治療薬はグルコースと同様に膵臓β細胞のこのATP感受性Kチャネルを抑制し,インスリンを分泌させる8,9).また,これらの薬物は膵臓β細胞のみならず,心筋細胞を含めた他の細胞系においても,ATP感受性K+チャネルを遮断する7,10,11).一方,このATP感受性Kチャネルを開口する薬物も見出された12)

有機粉塵と肺疾患 安藤 正幸
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はじめに

 呼吸器系は皮膚や消化器と同様に外界に直接接しているうえに,その本来の機能である呼吸に際して大気中に含まれる多種多様な異物の侵入に常時さらされている.そのために呼吸器系には他の臓器とは異なった肺固有の特殊な防御機構が備わっている.しかし,異物による刺激が非常に強かったり,またなんらかの原因でこの防御機構に破綻が生じると種々の肺疾患が惹起される1).我々の生活環境に存在する有機粉塵も肺に侵入する異物の1つであり,これによる多くの肺疾患が報告されている.

 本稿では,まず有機粉塵の種類とそれによる肺障害の機序について述べ,ついで種々の肺疾患,とくに最近話題のorganic dust toxic syndrome(ODTS),過敏性肺炎,sick house syndromeを中心に概説する.

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はじめに

 一酸化窒素(nitric oxide:以下NO)は哺乳動物の細胞から分泌される生物活性物質としては,今まで知られているうちもっとも低分子のガス性の無機物質であるが,血管内皮,マクロファージ,線維芽細胞,肝細胞,Kupffer細胞,副腎などさまざまな細胞で合成,分泌され,さまざまな生理機能を有する1,2).なかでも血管弛緩作用はもっともよく調べられた作用である.NOは内因性血管作動物質として血圧,血流の調節をしており,NOの生合成の抑制によりエンドトキシン由来の低血圧に拮抗できる3).それ以外にもNOは敗血症に関連しており,本稿では敗血症性ショックとNOの関係について解説する.

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 従来より心筋壁運動は多くの方法により観察されてきた.血管造影法や心シンチプール法は心内膜の表面の運動を示し,超音波断層法やX線CT,および従来のMRI法は心筋の断層面の壁の厚みや運動を示すことができる.しかし,これらの方法ではいずれも個々の心筋の運動を表わすことはできない.また,動物の心筋や稀に人の心筋に金属およびクリスタルを埋め込み1,2),X線や超音波断層法で観察する方法もあるが,これらの臨床応用は困難である.近年,MRIを使って心筋に線状の標識(タギング)をつけた後,心周期とともに撮像すると標識された個々の心筋の運動を観察することができるようになった.心筋タギング法は撮像に死角がなく,血液や心筋壁運動を定量的に評価できるため,新しい診断法として期待されている3〜9)

 心筋タギング法には,Presatulation pulse法3,7,9),Axel4,5)によるSPAMM(spatial modulation of magnetization)法,Striped Tags法8)がある.

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はじめに

 担癌患者の血中において癌特異的に上昇する物質はいままで報告されていないが,比較的特異的に上昇する物質が腫瘍マーカーとして報告され,臨床において応用されている.腫瘍マーカーの意義には癌の存在診断上の有用性の他に,癌の進行度の推定,治療効果の判定,再発の予知などが挙げられ,腫瘍マーカーはいずれも病期の進行とともに上昇する傾向があり,monitoringの指標として有用である.

 本稿ではまず臨床上広く用いられている腫瘍マーカーであるCEA,SLX,CA 19-9,CA 125,NSE,SCCなどに関し解説する.さらに,肺癌における腫瘍マーカーの特殊な応用として気管支肺胞洗浄液および胸水における測定の有用性に関しても言及する.

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はじめに

 前回はペースメーカーの適応を含め,ペースメーカーおよびペーシング・モードの選択について総論的に解説し,生理的ペーシングの重要性を強調した.今回はペーシング・モードの選択について病態別により詳細に解説する.

 ペーシング・モードの選択に関しては個々の症例ごとに最適のモードを選ぶように心掛ける.このためには自覚症状(めまい・失神だけでなく易疲労感の有無,心不全症状の有無)の聴取,非観血的検査法(運動負荷,ホルター心電図,心エコー法,核医学)による心機能,運動耐容能の評価および観血的検査法(電気生理学的検査;以下EPS),基礎心疾患の検索のための心臓カテーテル検査法)などを施行し決定する.ペーシング・モードの選択に際しては,同一のペーシング・モード(例えばDDDR)でも機種により特徴があり,その特徴を考慮して個々の症例の病態に応じたペーシング・モードを持つペースメーカーを選択すべきである.

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 18〜25歳の若年健常者75例(男性19例,女性56例)の右側胸部誘導心電図を記録し,右室梗塞時に出現する心電図異常の健常例における出現頻度を検討した.①健常者の基本的なQRS波形はrS型であり,V3Rで95%,V4Rで80%を占めていた.②Q波はV4Rの5%,V5Rの20%,V6Rの51%に出現した.③ST上昇に関しては,0.05〜0.1mVのST上昇がQRS波の終わりより40および80 msecの時点で,V3Rの16および28%,V4Rの3および4%に認められた.④T波の極性は右側胸部誘導の79〜88%で陰性であった.⑤今回の検討では,V5R,V6RのQ波,V3RのST上昇の出現頻度が健常例で比較的高く,これらの誘導におけるQ波やST上昇の存在は,右室梗塞の心電図診断に際し,注意が必要である.また,健常例では,右側胸部誘導でQ波およびST上昇両者がみられる例は1例もなく,本所見はより特異的な右室梗塞の心電図診断基準となり得ると考えられる.

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 家庭における血圧測定法を評価するために,高血圧患者(28名)において,家庭血圧と24時間血圧あるいは外来血圧との相関について検討した.血圧値の比較では,収縮,拡張期ともに外来血圧>家庭血圧>24時間血圧の順で低下した.家庭血圧と24時間血圧の収縮期血圧の相関からみると,家庭で起床直後の測定値を用いると最も高相関が得られ,これを約2週間続けることにより,r値はほぼプラトーに達し,r=0.82の強い相関が認められた.一方,拡張期血圧はr=0.61であった.また,未治療群(6名)を除く治療群(22名)のみにおける家庭血圧と24時間血圧の収縮期血圧の相関は両群全体よりさらに高相関が認められた.家庭血圧,24時間血圧とも外来血圧との相関は弱かった.以上の結果から,特に降圧剤治療中の高血圧患者では,起床直後の家庭血圧測定を約2週間続けることにより,24時間血圧の平均値をある程度推定しうることが示唆された.

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 術後造影が可能であったindividual SVG 184本とsequential SVG 52本を対象に,術後のグラフト開存率を比較検討した.individual SVG群とsequential SVG群の総開存率はそれぞれ86%,94%で有意差はなかった.吻合冠動脈別の開存率は,individual SVG群はLAD 96%,LCX 67%,RCA 90%,Dx 63%で,sequential SVG群はLAD 100%,LCX 95%,RCA 100%,Dx 91%であった.LCXにおいてsequential SVG群が有意に開存率が高かった(p<0.05).sequential SVG群の吻合部位別の開存率は,側々吻合部(SSA)92%,端側吻合部(ESA)96%で極めて高い開存率を示した.DxおよびLCX領域の吻合部位別の開存率はSSA-Dx 89%,ESA-Dx 100%,SSA-LCX 100%,ESA-LCX 93%であり,individual SVG群よりも高い開存率を示したが有意差はなかった.以上よりLCX領域のsequential graftingは有用と考えられた.

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 気道上皮のイオントランスポートに対するブラディキニン(BK)の作用と内因性ペプチダーゼによる制御機構を明らかにすることを目的として,イヌ気管培養上皮細胞を用いて短絡電流(SCC)をUssing's short-circuit法にて測定した.BKの粘膜側投与はSCCを用量依存的に増加させ,B2レセプターアンタゴニストである(D-Arg,Hyp3,Thi5.8,D-Phe7)-BKの前投与により特異的に抑制された.BKのSCC増加作用はcarboxypeptidase N阻害薬であるMERGEPTAおよびneutral endopeptidase阻害薬であるphoshoramidonにより増強されたが,angiotensin converting enzyme阻害薬であるcaptoprilとaminopeptidase P阻害薬である2-mercaptoethanolによる影響は認められなかった.以上の成績より,BKは気道上皮のイオントランスポートを充進させ,内因性carboxypeptidase Nとneutral endopeptidaseは以上の反応を制御している可能性が示唆された.

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 症例は25歳女性,食事(小麦)摂取後の運動中および運動後に薄麻疹に引き続く失神を2年間に3回繰り返した.心電図,24時間ホルター心電図,心エコー,tilt table test,脳波等には異常を認めなかった.病歴よりFEAを疑い,運動および食物(小麦)負荷誘発試験により血中ヒスタミン濃度の約3倍の上昇を認め,アレルギー素因(金属アレルギー)もあり,FEAと診断した.運動前には小麦を含む食品摂取を避けるよう生活指導を行い,16カ月にわたる観察期間中に失神の再発は認めていない.

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 症例は55歳男性.主訴は労作時呼吸困難で,中等度低酸素血症および高ヘモグロビン血症があった.X線写真上,左下肺野に38×30 mmの結節影とそれに続く索状影が2本観察され,右下肺野にも径15mm程の円形陰影がみられた.心臓カテーテル検査および肺動脈造影を施行したところ,X線写真で観察された部位に一致する左S4と右S7にそれぞれ肺動静脈瘻が確認された.なお,シャント率は31%であった.他部位には病変は認められなかったので,両側の瘻切除を行った.術後4週目には,低酸素血症および高ヘモグロビン血症は改善し,労作時呼吸困難も消失した.本症例は,両側の肺動静脈瘻に対して外科療法を行って双方とも摘除しえ,治療に成功したケースとしては本邦で最も高年齢の症例である.肺動静脈瘻の治療方針を考えるうえで貴重な1例でもあると思われた.

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 症例は52歳の女性で,肺高血圧を合併した心房中隔欠損症の診断で当科に入院した.術前の肺動脈収縮期圧は100mmHg,Pp/Psは0.81,肺血管抵抗は21単位と高値を示していたが,100%酸素負荷試験で良好な反応を示したため,手術の適応と判断された.手術後,肺動脈圧が体血圧を上まわり肺高血圧クリーゼを頻発して,不安定な循環動態が持続した.肺高血圧クリーゼは,大量のPGE1の肺動脈内持続投与によってのみコントロールが可能で,他の薬剤には全く反応しなかった.術後2週間目頃より肺動脈圧は低下傾向を示し,以後は良好に経過して術後2カ月目で内科に転科した.術後の肺動脈収縮期圧は42mmHg,Pp/Psは0.35,肺血管抵抗は12単位と良好に低下していた.肺生検の結果では,八巻の分類で肺小動脈血栓型の肺高血圧症と診断され,良い手術適応のグループに分類された.本症例の肺高血圧クリーゼの原因には,低酸素血症と肺動脈の収縮が考えられた.

基本情報

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呼吸と循環
41巻6号 (1993年6月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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