巻頭言
心不全と不整脈の治療をめぐって
小川 聡
1
1慶應義塾大学医学部呼吸循環器内科
pp.511
発行日 1993年6月15日
Published Date 1993/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404900675
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ポンプ失調と致死的心室性不整脈は重症心疾患の終末像である.鬱血性心不全患者の予後は不良であるが,その死因の半数は突然死であると報告されている.この両者の発現を予防あるいは遅延させ得る薬物の開発は患者の予後を改善させるため不可欠であるが,一方の治療が他方を悪化させるという図式が最近の新薬の経験から明らかとなっている.心不全における交感神経系の過緊張状態は心筋細胞ベータ受容体のdown regulationをもたらし,その結果細胞内のcyclic AMP(cAMP)が減少,Ca transientが低下して心筋収縮力はさらに低下する.古典的なジギタリスはcAMP増加を介して細胞内Caを上げ強心作用を呈する.しかし,細胞内Ca過負荷による遅延後脱分極の発現がジギタリス中毒時の心室性不整脈の機序として挙げられている.ジギタリスに代る強心薬として用いられるベータ受容体刺激薬あるいは最近話題のフォスフォジエステラーゼ阻害薬などはいずれも細胞内cAMP濃度を増すことにより作用することから,同様の催不整脈作用をもたらす可能性がある.事実,PROMISEの研究で臨床的にも知られている.細胞内Caを増加させることが強心薬の本質であるが,一方では細胞内Caの増加自体が種々の電気生理学的変化を介して致死的不整脈の発生を助長することになる.
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