呼吸と循環 38巻5号 (1990年5月)

特集 肥満と呼吸

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はじめに

 人間は平均して一生に約30トンの食物を食べるという。そのうち25歳から65歳までの40年間に約20トンの食物を食べ,その間女性は約11kg体重が増えるという。昨今は「肥満児」なるものをよくみかけるが,著者らの学童時代には「肥満児」なぞ夢のまた夢であった。しかし考えてみると肥満もかつての人類の生存にとって必要な適応能力の1つではなかっただろうか?われわれには過剰な栄養素を処理する方法として限られた機能しかない。過剰なナトリウム,ビタミンC,その他の水溶性の栄養素は尿から排泄され,一方過剰なカルシウム,鉄などは吸収されなくなる。ところがエネルギー源としての炭水化物・アルコールや脂肪は吸収され続け,過剰分は循環系から除外され,脂肪として貯蔵される1)。昨今のような飽食時代ではこのような機能はそのまま肥満形成へとつながるが,しかしかつての欠食児童期(あるいは食糧の供給が不安定な時期)には生体の機能維持にとって必要欠くべからざる適応能力といえよう。一方,呼吸は生命維持に最も重要なガス交換を機能としている。昨今は大気中のCO2濃度の増加に伴う温暖化が環境問題としてクローズアップされているが,しかし人間の生存に必要とする大気中のO2供給源の安定度は高く,したがって体内に過剰のO2を貯蔵する必要性はまったくない。この点肥満と呼吸との接点はない。肥満と呼吸とで抱く一般的なイメージは“呼吸があらい”ということで,その根底にはmass loadingがある。肥満と呼吸の関わりは各論において詳細に述べられるので本稿では肥満に関しての最近の考え方を概説し,この観点から新たな呼吸器と肥満について考えてみたい。

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はじめに

 肥満者においては,高血圧,虚血性心疾患などの心血管障害,糖尿病,痛風などの代謝異常,過度の体重負荷による骨関節症状などが合併症の主なものとして考えられてきたが,肥満に伴う血液ガス異常,睡眠時呼吸異常など,呼吸器系の異常も近年重要な問題となっている。肥満者には覚醒時動脈血炭酸ガス分圧(PaCO2)正常範囲内で睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome,SAS)を伴わない単純肥満者(simple obesity,SO)と,主に閉塞性睡眠時無呼吸症候群を伴うobesity with sleep apnea syndrome(O-SAS)および覚醒時高PaCO2を示し睡眠時異常呼吸を示すobesity hypoventilation syndrome(OH)(ピックウィック症候群(Pickwickian syndrome))1)が存在する。本稿においては,主に肥満に伴う呼吸調節上の問題点について概説する。

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はじめに

 過剰な脂肪は主に胸・腹壁の皮下あるいは胸腔内縦隔腹腔内,後腹膜に沈着する。近年CTの善及で肥満者の脂肪沈着部位の診断も可能となり皮下型,内臓型に分類されている。しかしながら肥満者の肺機能については脂肪の沈着部位別による報告はいまだ見ないのが現状である。一般に肥満者では脂肪沈着による胸・腹部のcomplianceの低下と加重負荷による予備呼気量(ERV)の減少が肺気量変化の主体とされている。また通常の健康者では一般的に無視できる慣性も肥満者の早い呼吸では無視できないとされている。ここでは肥満者の肺気量分画,胸壁compliance,慣性ならびに体位変換による呼吸筋群の活動性,横隔膜の加重補正(operational len-gth compensation length adjustment)などについて主に文献的な紹介をする。

肥満と肺ガス交換 大塚 洋久
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はじめに

 肺ガス交換と肥満との関係でもっとも重視されているのは,おそらくPickwick症候群の肺胞低換気である。この問題は呼吸調節と関係が深いが,ここでは血液ガス異常を中心として取り上げる。closing現象に由来する低O2血症は,生理学的に興味深い問題であると同時に,PaO2の正常値と関連して臨床的に意義がある。しかし,疾患とは関係が乏しいようである。いまひとつしばしば観察される現象でありながら,比較的研究されていないのが肥満者の息切れである。これは大きな体重を移動させるために運動時のO2消費量が大であることによるものと推定される。

 これらの肥満の影響を図1にまとめて示す。

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はじめに

 肥満は循環系にさまざまな影響を与えている。とくに左心系には圧負荷,容量負荷を介して大きな影響を及ぼしている。肥満に伴うことの多い高血圧症や冠動脈疾患が左心機能にどのように影響を及ぼすかについては多くの研究が積み重ねられているが,肥満が右心系に与える影響についてはいまだはっきりした定説がない。Pick-wick症候群に代表されるように,肥満患者の一部には右心不全を伴うものが確かに存在するが,その原因が肥満そのものにあるのか,もしそうだとしても肥満のいかなる要因が右心系に影響を与えているのかは議論の余地があるところである。ここではまず肥満と体循環系の関連を概観し,次に肥満と肺循環とに関する最近の研究の成果を取り上げる。

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 肥満は慢性的病的状態であり,肥満にかかわる種々の病的変化や合併症を持ち,罹病率・死亡率が高いことはよく知られている。しかし手術におけるリスクファクターとしては,それほど明確なデータはないようである。肥満の程度には標準体重よりも20%重い軽度肥満から,100%以上重い病的肥満まで幅がある。病的肥満については,独特の問題があり論文も多数報告されているが,我が国においては,欧米でみられるような高度肥満は極めてまれである。また軽度から中等度肥満患者におけるリスクの程度については,あまり正確な評価はなされていない。体重が多いことそれ自体が手術の禁忌となることはないが,肥満による呼吸,循環,代謝,凝固線溶機能などの異常は,術後の罹病率や死亡率に深くかかわっているようである。本稿では,肥満患者の術後肺障害にかかわる病態生理学上の問題点について術前,術中も含めて述べる。

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 虚血性心疾患において,冠動脈の狭窄性病変を正確に把握することは治療方針あるいは予後を決定するうえで重要である。しかし,冠動脈造影図(CAG)における狭窄病変の把握には,AHA分類を用い視覚的判読により行う方法が現在でも主流を占めている。この方法は判読に際しては過大,過小評価があることは多くの報告1〜3)によって明らかにされているにもかかわらず本邦においては定量的計測法はほとんど用いられていない。この原因は臨床上において視覚的評価でもCAGの読影に十分耐えると思われていたためである。しかし,我々は虚血性心疾患の病態解明の一手段として冠動脈造影図における狭窄の正確かつ定量的評価方法の確立が必要と考えている。しかし,シネアンギオ像を対象とした血管辺縁抽出アルゴリズムは種々報告があるが,X線系の基本的問題が解決されないため,まだ十分な方法はないと考えている。これらのことをふまえて本稿においては冠動脈造影図における画像処理のための枠組みを検討し,辺縁検出法(以下辺縁検出フィルタまたはフィルタ)およびそれに使われる前処理等について基礎検討を行ったので報告する。

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 2本の高感度カテ先圧力計システムで麻酔した犬の左室と左房の圧を同時に記録しこれを電算機で処理した。これにより拡張期の房室間圧差を超音波断層図で得られる僧帽弁運動と対比し解析した。僧帽弁の開放に先行して房室間正圧差(心房圧>心室圧)とそれにひき続く負圧差が見られた。徐脈時には負圧差終末から次の心房収縮による正圧差の直前までは房室圧差はほぼ0の状態であった(平坦相)。心拍数が100回/分を越えると平坦相は消失した。人工的僧帽弁狭窄の場合に負圧差は消失し,正圧差が指数関数的に拡張期を通じて減少した。僧帽弁閉鎖不全を作成すると正および負圧差の振幅が増加した。

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 酸素療法や薬物療法に反応しない喘息重積発作に対し,人工呼吸,気管支洗浄に加え吸入麻酔療法を施行した。症例は9例でハロセン(0.5〜3.0%)は全例に,エーテル(1.5〜3.0ml/kg)は5例に用いた。麻酔時間は30分から13時間30分であった。ハロセンからエーテルに変更した3例は,症状が改善する前に血圧が低下した症例である。全例,本治療法により軽快したが,2例は他の合併症により死亡した。

 喘息重積発作の病態は気管支平滑筋の攣縮および粘液栓による気道閉塞であり,吸入麻酔薬は気管支平滑筋を弛緩させ,粘液栓除去に有利に働く。このため内科的治療に反応しない喘息重積発作に対し,吸入麻酔療法は有効な治療手段であるが,導入の早いハロセンを第一選択とし,循環動態の安定したエーテルに変更していく方法が優れていると思われた。

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 ビタミンE(VE)欠乏ハムスターにブレオマイシン(BLM)を投与すると初期には肺弾性収縮圧が増加し,後期には気腫性変化が合併する(Lung 166:161-176,1988)。この機序を解明するため,BLMの産生する活性酸素(FR)とそのscavengerの動態を中心に検討した。BLM投与により肺組織中VE濃度は投与15日目をピークに経時的に有意な上昇を示し,対称的に血漿中VE濃度は低下した。肺組織中過酸化脂質(LPO),Superoxide dismutase(SOD)活性は変動しなかった。VE欠乏時はBLM投与後きわめて早期に肺組織中LPOが増加し,引き続きSOD活性は低下した。以上よりBLMの産生するFRによる肺傷害に対しVEは生体反応として重要な防御的役割を演ずることが示唆され,その欠乏時には急性期に大量に発生するFRにより肺傷害が増強し,このことはプロテアーゼ・アンチプロテアーゼの不均衡(プロテアーゼ優位)を招いて後期の気腫性変化をもたらす一因と考えた。

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 気道抵抗値の流量・抵抗関係をY=K1+K2Xに近似させて得られるK1,K2が,実験的に作成された明らかな病的状態でどのように変化するかを検討した。

 全身麻酔下,筋弛緩状態下のイヌに,ネブライザーを用いて,メサコリンの生理食塩水溶液(25mg・ml−1および50mg・ml−1)を吸入させて気管支収縮状態を作成し,呼気遮断法によって気道抵抗を測定した。

 その結果,K1は,メサコリン吸入後,1.5±1.1から8.1±6.5cmH2O・l−1・secへ増加し,対照(生理食塩水吸入)より高値となった。メサコリン濃度による差は認められなかった。K2には変化を認めなかった。また,メサコリン吸入直後は低流量域での気道抵抗の増加が特徴的で,これは末梢気道の閉塞を反映しているものと推測された。

 したがって,本法は1秒率などでは感知し難い末梢気道の病的状態をも知りうるものであると考えられた。

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 Simson法によるlate potential(S-LP)と高速フーリエ変換によるlare potential(FFT-LP)を用い,持続性心室性頻拍(SVT)と突然死の検出率を比較した。対象は脚ブロック(BBB)のない慢性期心筋梗塞(MI)102例,BBBのない拡張型心筋症(DCM)10例,健常者17例,BBBのあるMI 15例,BBBのあるDCM 3例,それに器質的疾患のないBBBのみの12例。FFT-LPはXYZ双極誘導を用い,20Hzから50Hzの間の成分が多い時陽性とした。[結果]BBBのないMIではS-LPとFFT-LPの陽性率はよく一致した。BBBのあるMIでは健常者より有意にFFT-LPの陽性率が高かった。DCMおよびBBBのあるMIにおいて,S-LP,FFT-LPともにSVTまたは,突然死の検出に有効であった。MIでは梗塞巣の位置に相関したLPの局在が示唆された。

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 10例のDuchenne型筋ジストロフィー患者の夜間の低酸素血症についてパルスオキシメーターを用いて検討した。4例については,Respisomnographにて胸腹部の動きについても同時記録し検討した。潜在性呼吸障害期の例も含め全例に夜間の低酸素血症がみられた。昼間のPaCO2が50Torr以上の5例では,夜間のSaO2は85%以下となり,3例では,酸素療法を必要とし,4例では体外式陰圧人工呼吸器の使用が必要であった。

 Respisomnographにて同時記録した例では,中枢性無呼吸,低換気が確認された。

 体外式陰圧人工呼吸器の使用および低濃度の酸素の投与は低酸素血症に対し有効であったが,酸素投与,人工呼吸器使用中でも低酸素血症が観察され,原因としては上気道の閉塞、ファイティングのほか換気血流比の不均等なども推察された。

 夜間の低酸素血症と脊柱変形,肥満については関連が見られなかった。

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 従来の抗不整脈薬に抵抗性を示す頻拍性不整脈例5例にflecainide(F)を内服投与し,その有効性と安全性を検討した。房室回帰性頻拍例ではF200 mg/日投与により,プログラム刺激(PES)による頻拍誘発が抑制され,某礎心疾患のない非持続性心室頻拍(VT)例でもF200 mg投与が有効であった。持続性VTを伴う不整脈源性右室異形成例では,F200 mg投与によりPESによる持続性VTの誘発が抑制されたが,300mg投与では,QRS時間が著明に延長しincessant型VTが生じた。持続性VTを伴う心サルコイドーシス例,ファロー四徴症術後例では,Fは無効で,前者では,心不全の悪化が生じた。副作用出現時は,Fの血中濃度は1100 ng/ml以上であった。

 以上から,Fは従来の抗不整脈薬に抵抗する頻拍性不整脈に有効性を発揮しうることが考えられたが,心機能低下例には注意が必要であり,定期的な心電図や血中濃度のチェックが副作用防止のために有用と考えられた。

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 梗塞部におけるexercise-induced ST elevationの機序における心筋虚血,壁運動異常の関与をみるため,陳旧性心筋梗患者19例(初回前壁)について検討した。運動負荷心筋シンチグラムにての再分布の有無によってⅠ群とⅡ群とに2分して対比し,さらにI群では,シンチグラムにて残存心筋虚血が明らかに示唆されたため,PTCAを施行し,その前後での比較を行った。左室駆出分画は両群にて低値であるも,Ⅰ群ではⅡ群に比して軽度であった。I群ではPTCAの施行により,運動耐用能の有意な増大と,タリウム201運動負荷心筋シンチグラムによるdefect scoreの有意な改善を認めた。しかし左室駆出分画は有意な変化を示さなかった。そして全例においてexercise-induced ST elevationの消失をみた。

 以上の結果より,exercise-induced ST elevationの機序として,左室壁運動異常ではなく,心筋虚血が強く関与している症例の存在が確認された。

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 症例:55歳,男性。2年前健診にて心房細動を指摘された。昭和61年7月31日入浴後前胸部痛出現し心電図,血液生化学検査,および心臓超音波検査で急性前壁中隔梗塞と診断された。発症2時間後に左前下行枝末梢側の完全閉塞に対してPTCRを施行した。第40病日後の冠状動脈造影は正常冠状動脈所見を呈していたが,左室造影で心尖部にakinesisを認めた。この症例では冠状動脈に動脈硬化性病変を認めず,後日施行した肺動脈造影で左房内血栓が疑われたことから心房細動に伴う左房内壁在血栓に由来する塞栓により急性心筋梗塞が惹起されたものと考えられた。若干の文献的考察を加え報告する。

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 大動脈炎症候群は多彩な臨床症状を呈し,冠動脈病変に対する外科的治療には問題は多い。本症の冠動脈病変に胃大網動脈による冠動脈バイパス術を施行した症例を経験したので報告する。

 症例は66歳女性。61歳時より大動脈炎症候群の診断にてプレドニン服用中であり,前胸部痛を主訴に入院した。血管造影では左総頸動脈に50%の狭窄,胸部下行大動脈に径38mmの大動脈瘤を認めた。冠動脈造影では右冠動脈が左Valsalva洞より起始しておりSeg.1にて完全閉塞,末梢は左冠動脈からの側副血行から造影されていた。狭心症,大動脈瘤径を考慮し,まず冠動脈血行再建術の適応と考え右胃大網動脈を用いて右冠動脈にバイパス術を施行した。

 大動脈炎症候群での冠動脈病変に対するA-Cバイパス術の報告は介まではすべて自家静脈によるもので,胃大網動脈によるバイパス術は本例が初めてである。

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 症例は56歳男性。肝硬変症に合併した肺高血圧症で,長期酸素および血管拡張剤併用療法にて著明に改善した。肺高血圧症の改善は胸部X線写真,心電図,心エコー図でも確認された。右心カテーテル検査で肺動脈圧は92/35 mmHg(mPA 56)より,75/24 mmHg(mPA 43)と低下した。治療後約2カ月にて日常生活にはほぼ無症状となり,18ヵ月を経た現在でも安定した状態が続いている。心音図および心機図で確認されたHegglin症候群は,肝硬変症のため心筋のエネルギー代謝性異常に起因する過心運動状態と考えられた。肝硬変症に合併した肺高血圧症においても,原発性肺高血圧症と同様に長期酸素および血管拡張剤併用療法が有効であることが認められた。

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 両心室流入および駆出血流流速,右房への静脈還流流速が著明な呼吸性変動を呈した心タンポナーデの1例を超音波パルス・ドプラー法を用いて解析,検討した。

 症例は62歳,男性。肺癌にて化学療法施行中,呼吸困難洞性頻脈,奇脈,頸静脈怒張出現。Mモードおよび断層心エコー法にて心全周性のecho free space,拡張早期の右室前壁虚脱,収縮期の両心房虚脱を認めた。パルス・ドブラー法にて右心系流入血流流速は呼気時に減少,吸気時に増加,左心系流入血流および駆出血流流速は呼気時に増加,吸気時に減少した。肝静脈および上大静脈血流は呼気開始時,収縮期,拡張期ともに著明な逆流を示した。心膜腔穿刺施行後,臨床症状は著明に改善し,血流パターンの呼吸性変動も減少した。

 両心室流入・駆出血流および静脈還流流速の呼吸性変動増強の所見は,心タンボナーデ検出に有意義であると考えられた。

基本情報

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呼吸と循環
38巻5号 (1990年5月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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