呼吸と循環 31巻8号 (1983年8月)

巻頭言

Countable paper 石川 恭三
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 私は近頃,自分の専門分野で一流とされている雑誌に目を通しているとき,実にさまざまな感情に揺り動かされることがある。羨望感あり,焦操感あり,ときには絶望感さえ抱かされることがある。

 長年抱いていたアイディアと同じ研究が,いとも整然と,しかも堂々とした陳容を構えて発表されたのを目の当りにすると,実にやり切れない程の敗北感に苛まれる。このような論文に接したときには,反射的にその論文が受理された(received)年月日に目が走る。一つの研究がまとまった形になるまでには,少なくとも2年以上はかかるはずである。その年月を逆算して,はたしてその時期に自分が同じアイディアを持っていたかどうかを振り返ってみるのである。私ごときでも,ときにはその研究者とほぼ同時期に,ある時は幾分か早く同じアイディアを抱いていたであろうことが推測されることがある。このことは,そのアイディアの発芽のトリガーとなった何かが,多分私とその研究者とで同じであったのであろう。しかし,私の場合には,トリガーを引いても不発弾で終り,相手の弾は見事に的に命中したという,天地程の差になっている。これは,運・不運の問題ではなくて,間違いなく実力の差なのである。

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 肺には局所の換気が低下し低酸素状態になった場合に,その局所の肺血管が収縮することにより,そこの肺血流をより換気されている部位へシフトさせるhypoxic pulmonary vasoconstriction(以下HPVCと略す)と言う代償機構を有する。このHPVCのおこる機序に関しては,自律神経系,低酸素症で生じた血液中の血管作動性物質,低酸素症の肺血管への直接作用などが関与すると言われているが,確定的なことはわかっていない。HPVCはいままで多くの研究により,人間を含めた種種の動物で,しかも正常時のみならず病的な状態下でもおこり,臨床でよく使用される各種薬剤により影響を受げることがわかっている1,2)

 本稿では,低血圧麻酔,心不全,肺高血圧.慢性閉塞性肺疾患など,最近の臨床でよく使用される血管拡張薬,降圧薬,気管支拡張薬などのHPVCに与える影響について解説する。

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 右室梗塞(RVI)は1930年代から病理解剖学的検索によって急性心筋梗塞症(AMI)に少なからず合併することが報告されていた1〜17)。しかし著明な右心不全を伴う症例が少ないことと生前診断の困難さのために臨床的な問題を提起するに至らなかった。1970年にSwan—Ganzカテーテルが開発され,AMI早期の血行動態の観察が病床でも可能になったことと18),Al-Sadir, CohnらによるRVIの臨床報告が契機となり,RVIの特徴的な病態が注目を浴びるようになった19〜21)。以来RVIに関する臨床的,基礎的研究が盛んとなり,最近ではRVIは虚血性心臓病学の一分野を形成している。しかしながらそれらの病態,診断,治療についてはなお究明されなければならない諸問題が残されている。本稿ではRVIに関するこれまでの内外の知見を概説し,自験例のRVI34例の検討結果を述べる。

呼と循ゼミナール

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 「末消気道」とは,呼吸器専門医にとって非常に身近な言葉の一つであり,日常の臨床の場で頻繁に用いられる。しかし,その意味するところは時にあるいは人によっては非常にあいまいである。

 いわゆる末梢気道病変が多くのび漫性肺疾患の早期病変であるとの仮説が立てられ,動物実験,理論的研究はもとより,臨床例についても世界的に広汎な研究が行われつつある。最近の我々の臨床研究でも,ごく早期の肺病変が局在的に起きていると考えざるをえない症例が目立つような気がする。この理由の一つとして,SAB,TBLB,BALのような診断技術が進歩したことは勿論であるが.肺機能検査を駆使できるようになり最も早い時期の異常が検出され,ついでこれと形態学(SAB,TBLBBAL),生化学(BAL)を同一症例で比較検討しうるようになった,すなわちこれら優れた検査法を有機的に組合せて総合判断できるようになった点が挙げられよう。この意味で,肺機能検査はごく早期の病変をとらえる最初の手がかりとなる。

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 右心負荷例の多くは肺静脈性肺高血圧症で肺うっ血を伴う。たとえば左室の収縮または拡張障害,僧帽弁機能の破綻の場合,血流を保つに必要なpreloadを左室に与えるために左房圧の上昇がおこる。高い左房圧は上流の肺動脈圧の増加といわゆる肺うっ血をきたす。肺うっ血(pulmonary congestion)は元来病理解剖学的術語と思われるが,一般臨床医の考えるそれは,労作時の息切れ,湿性ラ音,胸部X線上の肺うっ血所見などであろう。近年では広く普及したベッドサイドの右心カテ法が重症例の肺循環の圧および血流量に関する情報をもたらし治療の有用な助けとなる。

 肺うっ血の病態生理は,左房圧の上昇に伴う肺循環系の血液のうっ滞,間質の浮腫.さらに肺胞への水分漏出と比較的単純に理解することもできよう。臨床例において,その研究に先鞭をつけたのは1960年代,Dockらなどであろう。経胸廓的左房穿刺法により肺血量(PBV)すなわち肺動脈起始部より,肺静脈—左房接合部までの肺血管内を流れる血液量を算出した。その後Yuら,Milnorら,香取らが経中隔左心カテ法を応用して肺血量を測定し,その増加を肺うっ血の指標として多くの発表がみられた。ここでは我々の成績の一部を紹介することにしたい。

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 癌の早期診断,治療法の開発に伴い,癌の生存率は向上しつつあるにもかかわらず,癌はいまなお,死因の第1位にあげられている。近年,増加の傾向にある肺癌でも同様であり,進行癌になると,多量の鎮痛薬の投与が余儀なくされ,食欲不振,睡眠障害,呼吸困難が持続し,全身衰弱は進み,悲惨な死を迎えている。このような末期において,肺癌によって惹起された痛みにどのような対応策がなされるべきかについては今日なお,充分な解決はなされていない。そこで肺癌の痛みに対して薬物療法,心理療法の面からその可能性を探ってみたい。

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 肺癌による痛みは,その患者実数が多いのか,痛みそのものが強烈なのか,つい最近まで筆者らのペインクリニックへの依頼は最も多かった。現在までの悪性腫瘍の臓器別では直腸癌に1位を譲るとしても僅差で肺癌が101例で,全悪性腫瘍症例656例の実に15.4%を占めている。

 この肺癌101例中,治療後死亡した66例について,診断から死亡までをみると,3カ月までに53%が死亡している。最長は2年14日であるが,平均すると117日で,およそ他臓器癌と似ている。すなわちこの間をどのように痛みがなく安楽に過せるようにするかが医師に与えられた大きな課題である。痛みの治療法はたくさんあるが,どのような方法を選んだらよいか。肺癌の半数以上は胸背部痛を訴える。

人工弁の形状と材料 松本 博志
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 人工弁の形状としては今日臨床的に使用されているもののすべてが早い時期に着眼され検討されているが,心臓の弁と形態上類似したbileaflet弁や,機能を考えたball弁,disc弁などの機械弁と生物組織を利用した生体弁とに大別される。現在では高分子化学,金属材料学の進歩発展と精密加工技術の確立をもとに,臨床的検討をふまえて,1)耐久性のある,2)流体力学的にもほぼ満足のできる,3)抗血栓性の改善された弁が開発され臨床的に使用されている。しかし,使用する人工弁に対してはより完成度の高いものの開発が求められ,その努力がなされている。ここでは人工弁のうち機械弁を形状と材料の面より,解説するとともに現今での人工弁開発の方向に言及したい。

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 従来,各種のプレチスモグラフィと静脈閉塞法とを併用した体肢血流計測法(venous occlusion plethysmo—graphy:以下VOPと略す)および133Xeクリアランス法を同時に施行し,両測定値を比較した報告は多い1〜5)。これらの研究では,体肢または手指の単位体積当たりの血流量と,筋または皮膚の同流量とが比較され,両者の相関等が検討されている。しかし両手法の測定原理から明らかなように,両法は各々異なる概念の血流を対象としており,単なる数値の比較が必ず唱も有意義とは言えない。すなわちVOPが体肢全体の平均的血流をとらえるのに対し,クリアランス法は放射性物質注入部位のきわめて局所的な組織血流を対象としており,従って筋や皮膚などの組織血流の分布あるいはその調節機能に個人差があれば,両手法は必ずしも良い相関を示す必要は無い。さらにクリアランス法は原理的に微小血管系,特に物質交換を司る血管系の血流をとらえている点も考慮されなければならない。

 そこで本研究では,VOPとクリアランス法による血流測定値を関係づける式を導き,これに基づいて下肢における筋,皮膚等の血流分布を実際に測定した。

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 呼吸困難を主訴とし,胸部レ線写真ではびまん性陰影を呈し.呼吸機能上はしばしば拘束性障害と肺拡散能力の低下を伴い,病理組織学的には肺胞中隔の炎症性細胞浸潤と結合織の増加を主病変とする一連の疾患を間質性肺炎として総称することが多い。この中には,無機および有機物質の吸入によるもの,薬物・毒物によるもの,放射線障害によるもの,感染症など原因の明らかなものや,膠原病に伴うものやサルコイドーシスのように全身疾患に随伴して出現する間質性肺炎の他に,いまだ原因不明の疾患があり,これを特発性間質性肺炎(IdiopathicInterstitial Pneumonia,以下IIPと略す)と呼んでいる。このIIPは,きわめて呼吸機能障害が強く,予後不良であり,診断および治療が難しい疾患である。

 この疾患に関する研究は,1944年のHamman &Richらの最初の4症例の発表に端を発し,ほぼ40年間にわたり,数多くの知見が得られているが,近年,特に気管支肺胞洗浄(Bronchoalveolar Lavage,以下BALと略す)および開胸肺生検,経気管支肺生検(Transbronch—ial Lung Biopsy,以下TBLBと略す)などの普及につれて,その病因,病態などについての着実な進歩がみられている。

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 急性心筋梗塞における左心不全に対して血管拡張剤療法が行われるが,本法は梗塞心に対する減負荷療法であると共に梗塞部の拡大を防ぐ可能性も期待される。

 Ca拮抗剤は冠血管拡張作用および末梢血管拡張作用を有するため,抗狭心剤および降圧剤として広く用いられているが,最近,血管拡張作用を期待してCa拮抗剤を減負荷療法に用いた報告が散見される1,2)

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 ACバイパス術に際して,有意な狭窄病変を有する冠動脈の全てにバイパス・グラフトが移植された場合に,完全冠血行再建(complete revascularization)という用語が用いられる1,2)

 ACバイパス術後の狭心痛の消失あるいは改善は,完全冠血行再建の有無と関係があり1),初回のACバイパス術で有意な狭窄病変を有する冠動脈にグラフトが植えられず病変が残存した場合,狭心痛が再発し再手術の原因となる3,4)。また,左室瘤切除術において,ACバイパス術を同時に行った方が左室瘤切除のみを行った場合に比べて,術後遠隔期には有意に無症状の患者が多い5)。これらの点より,完全冠血行再建の重要性が強調されている。

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 近年,虚血性心疾患に対する外科的治療法として大動脈—冠状動脈(AC)バイパス術が一般化しつつあり,欠くべからざる治療法の一つとなっている1)。ACバイパス術ではグラフト内血流が十分保たれるところに意義があり,そのため術後のグラフト開存状況の把握は患者の管理上重要な意味を持つ。従来よりグラフト開存状況の非観血的検査法として,運動負荷検査法2〜5),RI法6,7),色素希釈法8),パルスドップラー法9)などが研究されているが,それぞれに長短があり,現在のところグラフト開存状況の正確な評価は観血的検査法である選択的バイパスグラフィ(SBG)によらざるをえない。

 本報ではACバイパス術施行後の症例に対しX線CT法を施行し,SBG所見との対比によりX線CT法のACバイパスグラフト開存性把握における有用性を検討,評価する。

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 第一度房室ブロックは臨床上,虚血性心疾患,心筋炎,先天性心疾患を有する場合や,抗不整脈剤使用時,心臓外科手術後などにしばしばみられることがある。それにひきかえ2度房室ブロックは1度房室ブロックより頻度が少なく,多くは器質的心疾患を伴う例や,ジギタリス中毒の際に見られることが多い1)。こうした房室ブロックは正常人でもみられるが,一般の人に比較して,若い運動選手や活発な中年の人によくみられる2〜6)

 それ故房室ブロックの存在だけからは病的とは言えず病的かどうかの判定には,非観血的な方法として,休位変換7〜8)や運動および薬物負荷試験3,9,10),が利用されている。最近では観血的な方法として,ヒス束心電図(以下HBE)検査を行って,房室伝導障害の部位診断もなされるようになった11)

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 原発性肺高血圧症(PPH)とは原因不明な肺高血圧症の総称であり,成因に関する仮説の1つとして遺伝的素因が想定されている。これは内外あわせて20数家系の報告が,その根拠となっている。そのうち我が国では,4家系8例が知られている。

 今回,我々は20歳代前半に相ついで発生したPPHの兄弟例(兄はすでに他界)を経験した。また妹例ではprazosin (MinipresR)とisosorbide dinitrate (NitorolR)の併用療法によって臨床症状と肺循環動態の改善をみたので報告する。

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 Scmitar症候群は1960年Neilにより命名された稀な疾患で,「右肺静脈の大静脈への異常還流」「右肺形成不全」「心臓の右方転位」を三徴とする。現在までに世界で130例あまり,日本で26例が報告されているにすぎない。本症は胸部単純X線写真上,心陰影右縁近くで右下肺野に三日月刀状の異常陰影(Scimitar sign)を呈し,注意深い読影により診断が可能である。われわれは胸部単純X線写真上Scimitar signを呈し,肺血管造影および右心カテーテル法によりScimitar 症候群と診断しえた2症例を経験したので報告する。

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 不整脈患者に対する電気生理学的検査の進歩1〜4)とともに,WPW症候群を始めとする回帰性頻拍の解析においてもかなり詳細な診断が得られるようになっている。さらにWPW症候群に対する手術治療も,Sealy5),岩6)らにより始められて以来,現在では安全かつ確実に行なわれるようになっており,われわれの施設でもこれまでに(1981年11月現在)60例の副伝導路切断術を経験している。

 今回,頻拍発作をくり返し,電気生理学的検査からenhanced A-V nodal conduction7,8)を伴ったWPW症候群と診断し,副伝導路切断術を施行,頻拍発作を根治せしめたので報告する。

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 肥大型閉塞性心筋症(以下HOCM)と,冠動脈狭窄(以下CAD)が合併した場合,その診断,内科的・外科的治療には種々の複雑な問題が生じる。今回われわれは両者を合併した32歳男性に対しA-C bypass術を施行し良好な結果を得たので文献的考察を加え報告する。

基本情報

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呼吸と循環
31巻8号 (1983年8月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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