巻頭言
Countable paper
石川 恭三
1
1杏林大学医学部第2内科
pp.819
発行日 1983年8月15日
Published Date 1983/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404204272
- 有料閲覧
- 文献概要
私は近頃,自分の専門分野で一流とされている雑誌に目を通しているとき,実にさまざまな感情に揺り動かされることがある。羨望感あり,焦操感あり,ときには絶望感さえ抱かされることがある。
長年抱いていたアイディアと同じ研究が,いとも整然と,しかも堂々とした陳容を構えて発表されたのを目の当りにすると,実にやり切れない程の敗北感に苛まれる。このような論文に接したときには,反射的にその論文が受理された(received)年月日に目が走る。一つの研究がまとまった形になるまでには,少なくとも2年以上はかかるはずである。その年月を逆算して,はたしてその時期に自分が同じアイディアを持っていたかどうかを振り返ってみるのである。私ごときでも,ときにはその研究者とほぼ同時期に,ある時は幾分か早く同じアイディアを抱いていたであろうことが推測されることがある。このことは,そのアイディアの発芽のトリガーとなった何かが,多分私とその研究者とで同じであったのであろう。しかし,私の場合には,トリガーを引いても不発弾で終り,相手の弾は見事に的に命中したという,天地程の差になっている。これは,運・不運の問題ではなくて,間違いなく実力の差なのである。
Copyright © 1983, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.