呼吸と循環 30巻5号 (1982年5月)

特集 呼吸機能の正常値と予測式

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 肺胞は外呼吸すなわちガス交換が行なわれる場であり,形態と機能とがきわめて密接な関連性を有している。したがって,morphometryにより肺胞の構成因子を組織定量的に表現しこれと生理学的機能とを関連づけることは従来から呼吸器病学における大きな課題の一つであった。

 肺胞のmorphometryの領域で最も大きな業績を残したのはWeibel1,2)であり,彼の著書"Morphometry of the Lung"(1963)がこの方面の研究発展に貢献したところはきわめて大である。その後わが国でも,諏訪3)や滝沢ら4,5)によって肺胞系のmorphometryに関する報告がなされ,日本人に関する知見も数多く加えられた。

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 ヒト気道に関する形態計測は1963年Weibelによって確立されたが,以後,不均等換気における気道分岐のasymmetryの影響の重要性が注目される一方,コンピューターをはじめとする周辺機器の開発にともなって形態計測の手法も著しい進歩をとげている。

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I.Vital CapacityとForced Vital Capacity

 Vital Capacity(VC)とは,最大呼気位(=残気量位)と最大吸気位(=全肺気量位)における肺気量の差である。したがって,このVCを測定するには,(1)最大吸気をさせたところから残気量位に達するまでの最大呼気量を測定する,(2)最大呼気をさせた後に全肺気量位に達するまでの最大吸気量を測定する,(3)安静呼気位(=呼吸基準位)から全肺気量位までの最大吸気量と安静呼気位から残気最位までの予備呼気量を別々に測定して合計する,などの方法があるが,確実に残気量位と全肺気量位に達するようにすればいずれの方法でもよい。ただし,呼出(特に全肺気量位からの)に際しては時間をかけてゆっくり行う必要がある。肺に気腫性変化がある場合には,速く呼出するとair trappingが起きるため,残気量位まで呼出できなくなるからである。

 Forced Vital Capacity(FVC)は,全肺気量位から最大限の努力の下に速く呼出して求める肺活量である。

肺気量 松岡 健
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I.肺気量の分画

 肺気量諸量については,1950年米国呼吸生理学者グループにより図1のように分類され,本邦では笹本が中心となり用語の統一が行なわれた。

機残量,残気量,残気率 石川 皓
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 FRC測定には一般に開放回路によるH2洗い出し法と,閉鎖回路によるHe (その他の不活性ガス)希釈法が用いられるが,両者の測定値に有意差はない。換気メカニックスの測定も兼ねて,体プレチスモグラフ法が近年広く用いられるが,この方法は胸郭内の全ガス量を測定するもので,それが気道と連絡しているか否かは問わない。

 FRCを規定する因子は肺と胸郭のコンプライアンスであり,正常者でも体位により変動する。例えば仰臥位におけるFRC値は坐位による値よりも25%程度低下する(主にERVの変動による)。その他肺気量分画値に影響を与える因子として年齢,性,身長,体重等があげられるが,喫煙歴による影響も無視しえないであろう。喫煙によるRV,RV/TLCの増加傾向が報告されている。

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 FEVt,FEF200-1,200ml,FEF25-75%は,1975年のACCP-ATS joint committeeで次のように定義されている。

 FEVt:Forced expiratory volume (timed). The volume of air exaled in specific time during the performance of the forced vital capacity;eg.FEV1 for the volume of air exaled during the first second of the FVC.

呼吸死腔 関沢 清久 , 大久保 隆男
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 死腔には解剖学的死腔と生理学的死腔があり,両者の差を肺胞死腔とも呼ぶ。

気道抵抗 杉山 正春 , 大久保 隆男
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Airway Resistance,Raw

 Raw(気道抵抗)は口腔から肺胞内までの気道系の粘性抵抗と定義されているから,口腔内圧(Pao)と肺胞内圧(Palv)との差と口腔気流速度(V)から求まる。

実際にRawを求めるには,Body-plethysmographyによってpanting法で求める。FRCレベルにて,口腔をシャッターで閉じ,pantingを行い,肺気量を求め,この時の口腔内圧はPalvとなる。次にシャッターを開き,全く同様にpantingさせ,口腔気流をニューモタコにて検出し,Rawを算出する。

呼吸抵抗 高木 健三 , 佐竹 辰夫
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 呼吸抵抗は気道と肺組織の抵抗に胸郭抵抗を加えたものである。一方,この呼吸抵抗値は気道抵抗との間に高い相関があることが証明されており,しかも被検者に負担を与えない安静呼吸下で測定できるため,臨床で普及しつつある。この表現にはrespiratory impedance(Zrs)とrespiratory resistance(Rrs)とがある。

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肺コンプライアンス

 肺は弾性体であり,それを引張るような力が働けば拡張し,その力がとりのぞかれると縮小し前の状態にもどる。この肺に対して働く圧(transpulmonary pressure:Ptp)は口腔内圧(PaO)と肺の表面に引張ったり,おしたり働く圧(胸腔内圧:Ppl)との差であらわされる。

  Ptp=PaO-Ppl

動肺コンプライアンス 佐々木 孝夫
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 dynamic compliance(Cdyn)は,前項のstatic com—pliance(Cst)と同様に本来肺胞系あるいは肺実質系の物性を表わす指標である。換気力学の指標の多くが種々の生理的要素に依存して変化するのと同様に,Cdynもまた種々の生理的条件の影響を受ける。すなわち,測定の条件によって生理的に異なる値をとる。なかでも機能的時定数の肺内不均等が存在するときに発生する換気数増加に伴うCdynの減少1),すなわち,Cdynの換気数依存性は,臨床評価の上で特異な意味を持っている。というのは,Cdyn換気数依存性の判定は,多くの場合Cstとの比較,すなわち,selfcorrectionで行なわれるため,肺胞系としての物性影響因子が相殺され,肺胞系の物性よりも最も純粋に気道系の変化をみることになるという逆説的な性格をもっている2)

表面張力 徳田 良一
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 表面活性の測定には,気泡法,Wilhelmyの改良型表面張力計が用いられ,測定される資料としては,肺洗浄液,肺抽出液およびwhite layerである。肺surfactantを肺から比較的純粋な形で採集する方法としては肺洗浄液が用いられる。肺洗浄液から冷凍遠心によって分離されたwhite layerは比較的純粋な形で分離,濃縮された肺surfactantと考えられている。

Delta N2—single & multiple 国枝 武義
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 N2ガスを指標として,肺内における吸入気ガスの不均等を調べるには,100%O2を1回吸入して,N2の洗い出しを調べるsingle breath N2 washout (単1呼吸法)と,何回も100%O2を反復吸入を行い,N2の稀釈過程を調べるopen circuitのmultiple breath N2washout (開放回路式多呼吸法)がある。delta N2(ΔN2)とは,これらN2 washoutにおける,2点間のN2濃度の差,すなわち%N2 differenceをさして用いられ,肺内ガス分布の不均等を端的に示す指標である。

フローボリウム曲線 佐々木 英忠
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 慢性閉塞性肺疾患の初期病変の場として,直径2mm以下のsmall airwayが注目されており,この部の気道抵抗は全気道抵抗のうち20%以下に過ぎないところからsilent zoneと呼ばれている。近年ルーチンの肺機能検査では異常を検出しえない喫煙者のなかに,small airwayの機能障害を示す例が多く存在することが示唆されてきている。このsmall airway障害の機能検査法としてのフローボリウム曲線(V-V曲線)は簡便であり,近年滝島等1)のV-V曲線記録器の開発により容易に臨床的に測定可能となり大気汚染の影響の検出等集団検診にも使用されるようになってきた。しかし正常値のバラツキが大きくV-V曲線の正常値についての指標はこれまで確立されてはいない。

 今回はV-V曲線の指標を測定する目的で150人の20〜69歳の健常男子を対象にV-V曲線を測定し検討を加えた2)

Chest wall換気力学 金野 公郎
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I.Chest wall:mechanical arrangement

(図1)1,2) chest wallは大別して2つの要素から構成される。1つは換気generatorで呼吸筋,とくに最大吸気筋としての横隔膜(diaphragm)であり他は換気運動に伴って気量が変位する部分,すなわち肋骨系(rib cage;rc)と腹壁系(abdomen;ab)である。さらにrib cageとabdomenは並列的に機能し,chest wall全体としての気量変化量,ΔVwはrib cageの気量変化量,ΔVrcとabdomenの気量変化量,ΔVabの和となる。横隔膜は立位,安静換気時唯一の換気generatorである。

Airway occlusion pressure 菊池 喜博
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 安静換気中に気道を閉鎖し,その時発生する口腔内圧をAirway (Mouth) occlusion pressureと呼ぶが,一般的には吸気開始後0.1秒(100msec)後または0.15秒後の圧の値を用いる事が多く,これらをそれぞれP0.1(P100)およびP0.15と呼ぶ。 Airway occlusion pressureを呼吸中枢のefferent activityの指標とする考え方は,四肢骨格筋をisometric contractionさせた時の発生張力はそのEMG activityと直接関係している1)という考え方とほぼ同じであり,心筋のisovolumetric contrac—tion時のdp/dtを心の収縮力の指標として用いる考え方とも類似したものである。

 Airway occlusion pressureの測定は,1973年Grun—steinら2)が麻酔猫で呼吸中枢活動の指標として用いたのに始まるが,その後Whitelawら3)は,これをヒトに応用しその生理学的検討を行なうと共に,呼吸中枢活動の指標としての有用性を示した(図1)。

CO2およびO2換気応答 川上 義和
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CO2および02に対する換気応答値は,年齢,性,体格,人種,運動選手・高地居住経験,家族性因子,遺伝,性周期など非常に多くの因子により規定される(これらのなかでは,未だ定説となっていないものもあるが)。また,化学受容体でのCO2とO2のinteractionがあるので,測定時の条件(PAO2,PACO2など)の標準化が望ましい。したがって,換気応答値を読む場合には測定条件,被験者の背景にも注意してほしい。換気応答の予測式として信頼しうるものは,現在未だ無いようである 。

クロージングボリウム 沼田 克雄
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 最大吸気位からゆっくり呼気を行なってゆく時,肺がある容量まで減少するとその肺の下部の方から小気道の閉塞が生じ,呼出が進むにつれてその閉塞が上部方向に波及してゆくと考えられている。この最初にairway closureが生じた時の肺容量をclosing capacity (CC)と呼ぶ。CCとresidual volumeとの間の肺気量分画をclosing volume (CV)という。すなわち,

  CC=CV+residual volume.......(1)

 CCにあたるものをclosing volumeと表現した報告もあるが,一般に肺気量分画においてひとつの単位分画をvolumeと呼び,それらの複合分画をcapacityと呼ぶ慣習があるので,本稿ではCVを(1)式にそって定義づけることにする。

肺拡散能力 吉田 稔

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PaO2

 PaO2の正常値は常識的に95 torrとされているが,これが一定でないことはPo2電極の使用前から知られていた1)

 PaO2が年長者で,年が進むにつれて低下して行く事実は1962年頃から報告されるようになり,Po2電極の普及とともに詳しい検討が行われ,数多くの回帰式が提出されている。

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 肺胞気・動脈血O2分圧較差(AaDo2)は肺胞気O2分圧(PAO2)と動脈血O2分圧(Pao2)との差として計算される。PAo2は下記の式によって求められ,PaO2は実測される。

ここでPBは大気圧(torr),FIO2は吸入気O2濃度(小数表示),PaCO2は動脈血CO2分圧(torr)およびRはガス交換率を意味する。Rは呼気ガス分析によって求められる。AaDO2の測定に際しては被検者が恒常状態下にあることを前提としている。

pH, HCO3,BE 本田 良行
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I.動脈血

1.pH

 現在まで報告された成人の正常値3,4,8)

血液酸素解離曲線とP50 諏訪 邦夫
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I.血液酸素解離曲線(ODC)の標準値

 ODCは測定誤差により,また喫煙などによるCOHbの存在やヘモグロビンレベル,年齢・日常活動などに依存する赤血球糖代謝(2,3DPG量)などで個体差をまねくため,絶対的に正確な標準値はない。これらの中でSeveringhausの与えたもの(表1)1)は,数多くの報告から正しいと考えられるものをえらびだし,不足部分は実験を加えてPO2で1.9から700mmHgまで,SO2で1から99.95%に満遍なく分散するように定めており,ODCの標準として採用されることが多い。

 ODCを憶えるだけのために筆者は表2のようなものをつくっている。上の曲線とはやや異なるが一応のあたりをつける意味では便利である。

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Q (表1)

 心拍出量の測定法は,侵襲的,非侵襲的なものを含め,多様化しているが,今なお直接Fick法,指示薬希釈法(色素,熱希釈法)が基本となる。

 呼吸生理学的に興味のある,間接的に混合静脈血ガス分圧を測定する間接Fick法では,CO2再呼吸法8),O2再呼吸法9),Kim, Rahn,Fahri法10)があり,いずれも他の心拍出量測定法と同様の結果が得られている。

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 肺血管外水分量および肺内血液量の測定法は直接肺採取による重量分析法と生体肺での間接法とに大別されるが種々の制約から水分量,血液量の両者を同時に測定したいわゆるヒト肺正常値に関する報告は少ない。ここでは肺内血液量については血管外水分量の測定に際しての報告に限定した。

混合静脈血 加藤 幹夫
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年齢とPvo2

ガス溶解度と拡散係数 太田 保世
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I.溶解度

 1.溶解度の表現法

 Bunsenの吸収係数(absorption coeffcient),αは,一定容積(1ml)の溶媒に,ガス分圧が760 torrの時に,溶けるガス量(ml)を,測定温度からゼロ℃での容積に変換したものである。

 分配係数(partition coeffcient)あるいは分布係数(distribution coeffcient)は,気相と液相,血液相と組織相のように,2つの相が平衡状態にある時に,2つの相の同じ容積中ガス量の比を,その時の温度で,圧力に無関係に表現したものである。

体位 天羽 敬祐
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肺気量の変化

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 運動負荷テストからえられる成績を評価する際の注意点として,種々の因子の影響で結果に変動を生じやすいことがあげられる。負荷テストに対する不安感,慣れ,室温などは換気反応,心拍数などに有意な影響を与える1)

 その他負荷方法の違い,steady stateか否か等々の差もあるが,これらを考慮して行えばかなりよい再現性がえられる2)

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 高齢者人口の増加に伴ない,慢性閉塞性肺疾患が増加の傾向をたどっている今日,種々の呼吸器疾患における気道過敏性の検出は気道病変の病態生理の解明ならびに診断と治療上重要な課題となっている。特に気管支喘息では気道の過敏性に基づく気道狭窄の可逆性変化が診断基準の一つである。しかしながら気道過敏性のメカニズムにはなお不明な点が多く,検査法や評価法についても各施設により多種多様で,気道過敏性の定量的比較は困難を極めている。最近,Chaiら1)による気道過敏性検査のスタンダードテクニックが提唱され,検査法の統一化が試みられているが,まだ一般的でない。本稿では諸家の成績に加え,最近著者らが開発した気道過敏性検査装置(以下アストグラフ)2〜5)による成績について言及する。

基本情報

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呼吸と循環
30巻5号 (1982年5月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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