呼吸と循環 26巻2号 (1978年2月)

巻頭言

ARDSの治療について 沼田 克雄
  • 文献概要を表示

 Shock lungをはじめとする所謂adult respiratorydistress syndrome (ARDS)が注目されてきたのはそれほど目新しいことではない。にも拘らず,その治療は現在なお困難を極めることが多い。確かに治療手段としてのレスピレーターは有用であり,特にPEEPはPao2を上昇させる上にきわめて効果的である。しかし,次第に肺コンプライアンスが低下し,レスピレーターで無理に加圧している中に肺のある局所は換気が非常にわるいと同時に他の場所は過伸展のレ線像を示し,Pao2は徐々に下り,果ては上半身に著明な浮腫が出現してくるとなると,もはや治療は困窮を極める。この増悪には,感染や肝機能障害を合併するとますます拍車がかかる。かかる症例には,単にレスピレーターやPEEPのみではどうにもならないものがあることを痛感させられる。筆者は,症例を重ねている中に,患者救命の鍵は,感染防禦は勿論であるが,畢竟する所,栄養状態の改善をはじめとする,患者の全身的な生命力の賦活にかかっているとの印象を濃くするに至った。

綜説

  • 文献概要を表示

 慢性閉塞性肺疾患,特に気管支喘息では,気道の過敏性に基づく気道狭窄の可逆性変化が診断上のcriteriaの一つとなっている1)ため,気道過敏性を検出する事はきわめて重要である。

 気道過敏性については"Bronchial hypersensitivity""Bronchial hyperreactivity","Bronchial hyperirritability"と諸家により異なった表現がなされている2,3)が,いずれも何らかの内因性,外因性刺激に対し,気道狭窄が起こりやすい状態を示すと考えられる。気道狭窄をきたす因子として,気管支平滑筋のspasm,気管支粘膜の浮腫,腫脹,気管支腺の粘液分泌亢進などがあげられるが,気道過敏性の主体は気管支平滑筋のspasmによると考えられる。しかしながら,気道過敏性を機能的に検出する方法は未だ確立していない。

  • 文献概要を表示

 心臓のelectromechanical dissociation (EMD)は,心臓の電気的興奮は保たれているが,心機能は極度に低下または消失した状態と理解することによって,緊急を要する心疾患の迅速かつ適切な診断と治療に役立てることができる。

  • 文献概要を表示

 心筋梗塞後の仮性心室瘤は非常にまれな合併症であり,著者らの調査しえた範囲では,これまでに38例の報告をみるにすぎない(表1)1〜25)。ことに本邦では当心研からの報告のみにすぎない24,25)。そのうち術前に確定診断しえたものは8例のみであり,手術や剖検前に診断することは困難であると考えられている。しかし仮性心室瘤は真性心室瘤と違ってかなり高頻度に二次破裂を起すことから9〜11,20),早期診断し手術を行なう必要がある。著者らは術前に仮性心室瘤と診断し,手術しえた1例と剖検により確認した2例,計3例の仮性心室瘤を経験したのでこれまでの報告と併せて比較検討してみたい。

呼と循ゼミナール

  • 文献概要を表示

 臨床的に肺内水分量の測定をもっとも必要とする場合は,肺水腫,ARDS等,患者がきわめて重篤な状態におちいっている時期が多い。したがって,検査による患者への侵襲はたとえそれが小さくても,可及的にこれをさける必要がある。

 この点,患者への侵襲がほとんどなく,その上,連続的測定が可能なImpedance Plethysmographyは,臨床家にとって,きわめて魅力のある検査法であるといえよう。

急性膵炎と呼吸不全 斎藤 英昭
  • 文献概要を表示

 急性膵炎症例にしばしば胸水や無気肺が合併することは従来からよく知られているが,最近ではその発症早期の低酸素血症や重症膵炎の際の呼吸不全が注目されており1,2),本稿では,これらについての概略を述べてみたい。

 自験急性膵炎症例でその経過中にroom-air吸入時のPaO2が70mmHg未満に低下した症例は重症膵炎10例中8例で,また中等症例でも14例中7例と高率であるが,諸家の報告をみても急性膵炎例の60〜80%に同程度のPaO2低下がみられており,さらにPaO260mmHg以下の症例は45%にも達するといわれる。また胸部X線写真の異常は20〜40%に出現し,その主たる所見は無気肺,胸水の他,肺水腫などが挙げられる。そして,当然のことながらこれら異常症例の80%以上に重篤なPaO2低下がみられるが,一方X線上異常のない症例でも約半数が同様な低酸素血症を呈するという。

  • 文献概要を表示

 ショックの病態生理の解明は幅広く続けられていて,「重要臓器の急融な灌流不全」と考えることができる。この臓器灌流の低下で腎,消化管,肺,膵,肝などに臓器障害が生じる。肝ではショック時には解毒機能を発揮すべく心拍出量の体内血流分布率を高く保って血流をなんとか維持しようとする努力がみられる。この肝にはKupffer細胞があり網内系機能がここで営まれているがショックではこの系の機能低下もショック進行の一端をになっているのではないかと考えられている。

 かなり以前からショックに陥ると早期にこの機能が抑制されるし,あらかじめ網内系をブロックしておいてショックに陥らせるとその進行が速いし,網内系機能を亢進させておいてショックにすると抵抗力が増すこともいわれていた。

動脈動脈塞栓症 小林 宏
  • 文献概要を表示

 動脈塞栓の約90%が心源性とされているが最近10年間に粥状硬化症に基因する動脈動脈塞栓症が認識され,その頻度は以前考えられていた以上に高いものと推測される。

 本症は潰瘍化した粥状硬化斑から砕片が遊離したり,内膜面に付着した血小板—フィブリン血栓が剥離したりして塞栓を生ずると考えられている。この微小血栓がどの程度再吸収されるか不明だが,Warren & Valesの実験的観察によれば,塞栓をおこした粥状物質は24時間後にはコレステロール結晶を残して消失し,残存するコレステロール結晶も1週間後には一側に偏して存在し,再疎通がおこり,かなり急速に血流が回復する可能性を指摘している。

  • 文献概要を表示

 Serial angiocardiographyやcineangiocardiographyが診断および心機能の解析などに繁用されているが,前者は後者に比し,秒間の撮影枚数も少く,心動態の流れを追求する場合心周期内の正確な位相の把握が必須と思われる。緻密なcardiac performanceを連続的に評価するには後者が特に有用であるが,最近提示されているように,収縮,拡張両終期のみからの情報でもその分析にかなり耐えられそうである。このような観点から,連続撮影時の心位相に基づくX線曝射の必然性に着目し,従来,Bergk,Chantraineら1)以来多くの報告2〜5)にみられるR波同期の一位相撮影を改良し,多少の臨床応用をも試みたので報告する。

  • 文献概要を表示

 hyperventilation syndrome (HVS)は,過呼吸あるいは過換気症候群と呼ばれ,発作性の過呼吸と,それに呼吸困難,テタニー様症状,意識障害,動悸等の多彩な症状を示す症候群で,百年以上も昔から知られている。

 HVSは,ほとんどの場合に,何らかの心因性因子が基盤にあって発症するので,昔から心身症の一つと考えられてきた。

  • 文献概要を表示

 心血管系は基本的には,ポンプである心臓と導管である血管とから構成された比較的単純なシステムである。従来より血行動態は,理論的なapproachが最も進んでいる分野で,わが国でも本領域に関して流体力学的な立場からの解説がみられるようになった1,2)。心臓外科領域においてもその試みがなされているが3,4,5),理論的な検討にとどまって,いまだそれが日常的な診療に組み込まれているとは言い難いのが現状である。心臓外科において,狭窄の解除は欠損孔の閉鎖とともに最も基本的な手術手技である。しかし欠損孔の閉鎖と異なり,狭窄の解除を完全に行うことは,意外に困難である。特に先天性心奇形のうちで,かなり頻度の高い疾患であるファロー四徴症の根治術成績が,心室中隔欠損症や心房中隔欠損症のそれらとは異なり,今なお良好とは言えないのは,例えば,その病態に左右肺動脈までに及ぶ高度の右室流出路の低形成を伴うものがあるためである。著者らは心臓の機能は圧発生にあると考え,後負荷に対する心室の耐圧能を重視している6,7)。その観点からも,右室流出路狭窄の解除は,右室の後負荷の解除に外ならない。特にファロー四徴症根治術の場合には,狭窄の解除の成否が,予後を決定的に左右すると言っても過言でないと思われる。

  • 文献概要を表示

 大動脈冠動脈バイパス(A-Cバイパス)手術の後,グラフトの閉塞率は15〜30%といわれている1〜8)。閉塞の原因として,早期閉塞の場合は手技的な問題3,4),晩期閉塞ではグラフト内膜の線維性増殖があげられている1,4,9)。グラフトの開存性を左右する他の因子として,Walker2)は手術時にグラフト血流量を測定し,血流の少ないものは閉塞しやすいことを指摘し,Blumlein10)はグラフトの早期開存率と coronary artery constriction scoreおよび拡張期圧が高いことの両者に正の相関を認めている。一方では,血液凝固系の異常とグラフト閉塞の関係も報告されている。Steele11)は,platelet survival timeが短い群に,高率に閉塞が発生することからplatelet suppresant therapyの必要性を示唆しており,Zajtchuk12)は,1年以内にグラフトが閉塞した症例では血液凝固機能亢進を示す頻度が高いことを報告している。

 しかしながら,グラフト閉塞の機序や時期については,いまだ不明の点が多い。

  • 文献概要を表示

 筆者らは先に特異な血栓性動脈炎に基づく肺性心の1例を報告したが1),最近再び類似の組織病変を有し,高度肺高血圧を呈した興味ある1症例を経験したので報告する。

  • 文献概要を表示

 徐脈依存性脚ブロックは1915年のWilsonによる最初の報告1)以来かなりの数が報告されているが2〜7),その診断メカニズムに関して未確定の要素が多い。しかるに最近の微小電極法の急速な進歩により,電気生理学的な面から多くの関心が寄せられている。我々は最近66歳の女性で頻脈依存性左脚ブロックを合併した徐脈依存性左脚ブロックの1例を経験したのでこれを報告する。

基本情報

04523458.26.2.jpg
呼吸と循環
26巻2号 (1978年2月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

文献閲覧数ランキング(
7月6日~7月12日
)