呼吸と循環 26巻12号 (1978年12月)

巻頭言

心疾患根治手術 川島 康生
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 心臓外科における根治手術とは一体何であろうか。癌の手術の場合は癌が再発しなければ一応根治といえよう。しかし心疾患の外科は機能外科であり,従ってその障碍が残存したり,新たな障碍が発生したのでは根治手術の名に値しないのではなかろうか。

 人工心肺装置の開発により開心術の安全性が著しく向上し,今日ほとんどの先天性心奇形が所謂根治手術の対象とされるに至った。この根治手術という言葉は姑息手術に対する言葉として広く用いられているが,果してそのすべてが根治手術といえるだろうか。三尖弁閉鎖症に対する右心房動脈吻合術の如きは,それ以上根治的な方法がない,あるいは少なくも動静脈血が完全に分離されるといった見地から,機能的根治手術といった苦しい表現が用いられている。しかしこれが解剖学的にも生理学的にも根治手術から程遠い事は明らかであろう。

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III.特発性心筋症の問題点

 特発性心筋症の第1の問題点はもちろんその病因であるが,これについては後で少しく触れる。

 次いで現在研究者の論議の対象となっているのは,肥大型心筋症におけるASH,その閉塞性におけるSAM,閉塞の機構,ASHにおける心筋線維の配列の乱れ(disarray),心筋細胞内の筋原線維のdisarrayである。

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 狭心症は1768年Heberdenが記載した症状名である。その後その状態について病態生理的に想定されているのが心筋への酸素の供給と心筋における酸素の需要とのunbalanceである。狭心症の中で,安静狭心症については未だ明確でないが,労作性狭心症については,そのunbalanceは心筋の酸素需要増加があって,酸素供給がそれに追いつかない場合であると認められている。心筋酸素需要には心筋内張力,心筋収縮性,心拍数などが大きく関与するが,臨床上は運動によるものが最も実際的で理解し易い。

 従来,運動負荷により労作性狭心症を誘発することにより,冠状動脈予備力(冠予備力)低下をdetectする手段として,最もよく用いられて来たのが負荷心電図法である。それは心筋虚血を検出する上に,心電図が簡便かつ鋭敏とされたからであろう。

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 Spirometerを中心として各種の肺機能検査法が目ざましく発展している現時点にあって,Impedance pneumographyと称する新しい検査法を発展させる意義がどこにあるのかと考えられる方もおられるかもしれない。考えてみれば明らかであるがSpirometerで一回換気量,分時換気量などの簡便な諸量を計測しようとする場合でも被検査にマウスピースをはめ,ノーズクリップで鼻をはさむことが要求され,間質性肺炎,高度の肺気腫症,さらに気管支喘息の重積状態などの諸疾患で呼吸不全の状態にあり,呼吸管理を必要とする症例を対象とする場合には被検者の立場からは勿論,医師の側からいっても現状での肺機能検査の実施にきわめて逡巡させられる。呼吸数の多寡,浅い呼吸か否か,努力性呼吸か医師と看護婦の経時的観察からこの程度の情報は入手しえても,刻一刻の呼吸のパターン,呼吸波形,分時換気量,左右肺内に発生している不均等換気の経時的推移すら,現代の詳細な呼吸生理学の進歩という背景とは裏腹に十分に解析されえていない。すなわち最も肺生理学的情報の収集が必要とされる病態に対しては現状の肺機能検査の運用が制限されざるをえないというのが実状である。

ガスの流れ 平本 雄彦 , 西田 修実
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 酸素が吸入されて気道を通り肺胞より赤血球に達するまでの流れについては図1にみられる如く,気相と液相の2つの異なる媒体を通過する。気道におけるガスの運搬は圧勾配によって動くconvective gas transportと濃度勾配によって動くdiffusive transportがあり,気道内ではこれらの2つのtransport mechanismが相互に影響し合って,ガスの運搬が行なわれている。このうちlarge airwayではconvectionがガス運搬の主体となり,末梢に向うに従いconvectionの成分が減少し,diffusionの成分が主要となってくる。ついで肺胞膜での拡散血流によるconvection,赤血球内への拡散を経て赤血球内での化学反応となる。

 このように,気道より赤血球までのガスの運搬はそれぞれの場所で,それぞれの運搬形態をとり,また気道の形態学的な特長から,ガスの運搬の解析を非常に難しくしているのが現状であろう。

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 心筋梗塞後の心室瘤は梗塞後におこる合併症のうちで最も頻度が高い。本症は梗塞後の急性期におこる心臓破裂1)や心室中隔穿孔2)と異なり,慢性期ことに退院後の経過観察中に発見されることが多い。近年外科治療の進歩により心室瘤の切除は安全に行なわれるようになった。従って慢性期の梗塞例については十分な検査と確実な診断が必要となる。

 本稿では心筋梗塞後の心室瘤はどのような臨床所見,検査所見ならびに病理所見を示すかについて,自験例を中心にこれまでの報告と比較検討し解説してみたい。

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 動肺コンプライアンス(Cdyn)は,1927年Neergaard und Wirzら1)の測定にはじまり,その後, Otisら2)の理論的解析によって,その周波数依存性が肺内の機械的時定数の不均等分布により生ずることが明らかにされている。1960年代に入り,Millsら3), Ingramら4)によって,臨床例についてCdynの周波数依存性の検討がなされたが,small airwaysと関連づけた研究はなされていない。一方,私どもは複素コンプライアンスと周波数との関係から,遅延時間の分布関数を求める方法を見出し,臨床例について肺内の機械的時定数の分布の研究を行ってきた5,6)

 1969年,Woolcockら7)によって,肺弾性圧が正常かつ肺抵抗上昇のみられない対象において,Cdynが周波数依存性を示し,末梢気道の閉塞によって周波数依存性が生ずることが明らかにされ,その後,Ingralnら8), Pickenら9),Huttemannら10), McFaddenら11)により, Cdynの周波数依存性によるsmall airway diseaseの研究が相次いでなされ,small airway diseaseの検出法としてCdynの重要性が注目されるようになった。

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 呼吸管理の本質は,生体の代謝の場である組織へのO2の輸送と供給を確立するところにある。ACCPの肺気腫専門委員会1)は,慢性呼吸器疾患患者にとってO2は重要な薬剤(!)であると結論している。適切なO2療法は呼吸器疾患患者の心肺機能を保持し,予後を改善し,治療上不可欠のものであるが,その誤った使用は生体に種々の危険を及ぼすことがあり適切かつ安全に行なわなければならない。そこで主として慢性呼吸器疾患患者の"自発呼吸存在下"でのO2療法を正しく施行する際に必要な某礎的事項をのべる。

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 僧帽弁狭窄の予後は,狭窄による心機能障害の程度だけではなく,脳塞栓などの合併症によっても大きく左右される1)。この意味では軽症例でも積極的に外科的治療の適応とし,異常血行動態の改善を図り,合併症を予防すべきと思われる。

 本症の外科的療法として閉鎖式または直視下交連切開術,弁下形成術,人工弁置換術などの手術法が僧帽弁病変の程度に応じ施行されている。このうち人工弁置換術は近年Xenographtなども使用されているが,まだ術後管理上にも問題があり,現状ではやはり自己弁を温存する交連切開術が,より望ましい方法と考えられる。したがって術前に狭窄弁の弁口面積を予測すると共に弁病変の部位,程度を把握することは手術時のみならず,手術適応を決める上でも重要である。古賀ら2)は超音波心エコー図Mモードスキャン法による僧帽弁エコーの性状から手術適応に関する考察を行ったが,本論文では高速度超音波断層法による僧帽弁狭窄例の僧帽弁性状の術前診断の可能性につき検討を試みた。

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 単心室症は先天性心奇形の中で最も複雑なものの1つでそれに対する外科的治療法の開発も遅れている分野である。しかし本症は我が国に比較的多いように思われ大阪大学だけでも50例以上を経験している。また最近本症に対する根治手術(心室2分割術—心室中隔作成術,septation)1〜11),機能的根治手術(右房—肺動脈バイパス術)12)の報告も増加して来ておりこの分野における我が国の貢献度は高く評価されるべきと考える。

 外科的根治術の可能性が高まるにつれ単心室症の有する心室容積機能の特異性を把握することが重要となって来たが未だ単心室症における心室機能の研究は皆無である。そこで著者らは大阪大学で心血管造影検査(ACG)を受け,単心室症と診断された34例を対象としてその心室容積心機能を検討したので報告する。更にこのうち5例に一期的根治手術が行われて2例に成功を収めている3,11,14)のでこれらの手術例における心機能をrestrospectiveに検討する。

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 各種心疾患の血行動態を考察する上で,血流は心内圧や容積などとともに,きわめて重要な要素である。これまでに,臨床で用いられてきた血流についての情報は,Fick法をはじめとして,温度変化やRIを利用して行われる心拍出量の測定がその中心であった。しかしながら,これらの方法論は定常流の考えに立った平均的表現にすぎず,したがって,生体の本来の状態である拍動流から得られる情報に比べれば,きわめて粗雑であるといえよう。それゆえ,心血管系の特性を,より詳細に明らかにする上で,臨床的に大血管のinstantaneousな拍動流を得ることは重要と思われる。ここでは,このような目的のたあに開発されたカテーテル先端流速プローブを用い,小児期心疾患の大動脈および肺動脈の拍動流を計測し,用いたプローブの信頼性と,血行動態分析に若干の検討を加えたので報告する。

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 最近我々は,II度房室ブロックから完全房室ブロックへと移行した1症例を経験し,我々の新しく考案試作した近接双極多極カテーテル電極を用いて,His束心電図(HBE)の測定を試みたところ,分裂したHis束電位が認められ,その伝導様式が,His束のproximal portionでtransverse blockを起こしているのか,またはproximalおよびdistalでblockされたfunctional longitudinal dissociationを起こしている可能性が示唆される所見を得たので報告する。

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 肥大性閉塞型心筋症(HOCM)における失神と突然死の原因はいまだ不明である1)が,その原因の1つとして不整脈の可能性が考えられ,特に突然死例に心室性期外収縮,心室頻拍などの合併が多い報告2,3)がみられている。しかしHOCMに完全房室ブロックの合併の報告は文献的にも数例4〜7)をみるにすぎず本邦での報告はほとんどなされていない。

 今回我々は完全房室ブロックによる意識消失発作を繰り返すHOCM例にペースメーカ植込み術を施行し4年間にわたり経過を観察中の1例を経験したので文献的考察も加えて報告する。

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基本情報

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呼吸と循環
26巻12号 (1978年12月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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