呼吸と循環 26巻11号 (1978年11月)

巻頭言

ランディス先生のこと 平川 千里
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 1957年から1年間米国ハーバード大学医学部の生理学教室で主任教授Eugene M. Landis先生の謦咳に接することができた。Landis先生は毛細血管壁を介する体液の平衡と移動に関するスターリング法則を実験動物とヒトの毛細血管について直接証明した唯一の研究者として有名な方である。先生は正確な考えをされる方であつた。その先生との接触のたびに,正確な思考というものの実例を私は見聞した。枚挙のいとまもない程多くの機会に,先生は正確な考え方というものを私に示された。

 私はLandis先生のもとを辞して,もとの京都大学内科学教室(前川孫二郎教授)に帰り,内科学の学位論文らしきものを書き上げてから,思うところあって京都府立医科大学生理学教室(吉村寿人教授)に身を置いて医科生理学の勉強をはじめた。

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 薬物によって誘発される気管支喘息,すなわち薬物喘息(drug-induced asthma)は,その病因となる薬物がきわめて多種多様であり,それぞれに発症メカニズムが異なる上に,なお不明な点も多いので,これらを一括して解説することは困難である。そこで,今回はいわゆるアスピリン喘息に的をしぼり以下に論述してみたい。

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 戦後,外科的療法の発達によりその恩恵をうけた心弁膜疾患,先天性疾患,抗生剤の発見,進展による人口の老齢化とともに心疾患の臨床において最も高い頻度を示す動脈硬化,高血圧に関連する心疾患,その他感染性疾患,内分泌性疾患,代謝疾患,結合織病などに際してみられる心障害など,すべて心拡大,あるいは心肥大をきたし,臨床的には心不全,病理組織学的には心筋線維の肥大,変性,線維化の像を呈する。すなわち,以上の疾患はすべて終局的には心筋障害をきたすものと考えられる。

 他方,原発性に心筋障害をきたす疾患としてリウマチ熱,ジフテリアによる急性心筋炎は古く臨床家により容易に診断された。しかし,原因と思われるものが全くなく,慢性に心肥大,あるいは心拡大,心筋線維化が現われる心疾患が存在することも知られており,診断名に困却して漠然と慢性心筋炎,心筋変性症myodegeneratiocordisと呼ばれた。現在原発性心筋疾患primary myocardial disease (PMD),あるいは特発性心筋症idiopathic cardiomyopathyと称されるものである。

講座

Hyperviscosity syndrome 吉永 馨 , 小野寺 清寿
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 1944年,Waldenstrom1)は, rnacroglobulinemiaの3症例について,特異な循環障害を観察し,それが血清粘度の上昇によることを示唆した。その後同様の観察が和次ぎ,1965年,Faheyら2)はこれをhyperviscositysyndromeと呼んだ。

 その後IgG型骨髄腫やIgA型骨髄腫の症例においてもmacroglobulinemiaと同様の循環障害が生じることがあり3),同じく血清蛋白の異常増加によることが明らかにされた。さらに最近では,慢性関節リウマチスやSjogren症候群においてもhyperviscosity syndromeが生じうると言われている4)

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 右室梗塞は比較的稀であり,通常左室梗塞に合併して起る。一般に病理組織学的検索により,確認されることが多く,臨床所見のみから本症を診断することは困難であると考えられてきた。しかし,近年ベッドサイドにおけるSwan-Ganzカテーテルの導入により,急性期心筋梗塞例の血行動態が把握されるようになり,さらに心エコー図,シンチグラムなどの検査法により,右室梗塞を生前に診断することが可能になってきた。

 東京女子医大日本心臓血圧研究所においても右室梗塞剖検14例を経験しているので,自験例を中心にこれまでの報告とあわせて,右室梗塞の特徴について解説してみたい。

呼と循ゼミナール

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 今回で最終稿となるので,肺内水分量の測定法に関する総括的なことを述べてみたい。

 現在,肺内水分量の測定法として臨床的に用いられているもの,あるいは臨床応用可能なものは,1) X線的診断法2) Impedance Plethysmography3) double indicator-dilution methodの3つであり,これらのデーターのうらづけとして用いられているものに実験的な直接法がある。そして,現在では直接法の代表的なものはPearce, Yamashitaらの方法であるとされている。

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 近年,大気汚染,公害また老年者人口の増大などの要因により呼吸器疾患が増大しつつあり,その早期診断ならびにスクリーニング検査としての努力性肺活量や1秒率などの測定はきわめて重要である。このためスパイロメトリーの増加に対して,測定装置の簡易化および迅速性に加えて正確性が要求されるようになり,また電子工学の発達により,従来主として用いられているBenedictRoth型スパイロメーターに代って,熱線型およびpneumotacho型スパイロメーターが開発利用されるようになってきている。これらの新しい方法によるスパイロメーターの主な原理は,流速を測定し,この値を積分することにより流量を求めるものであるが,この流量の測定値の精度が問題となる。

 我々は最近開発されたFleish型pneumotacho-spirometer (日本光電製MFR−7100)を使用し,その精度および実用性について検討を行なった。

Bedside Teaching

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 酸塩基調節は,生体のpH恒常性機序の維持を目的とするといってもよい。たとえば解糖系の酵素機能がpHによって変化するように,生体の細胞機能が維持されうるpH環境にはある制限範囲があって,水素イオン濃度で16から160 nano Eq/l, pHにして7.80から6.80ほどの狭い範囲である。

 酸塩基平衡障害によって惹起される異常を,正常範囲内に戻そうとする生体の働きが代償,補正であり,pHの変動幅を小さく抑える機転が緩衝である。このうち,代償作用とそれに伴う変化は,しばしば酸塩基平衡障害の診断と治療とを困難なものとし,とくに,代償であるか合併であるかの判断が容易でないことがある。

Nehb誘導 稲垣 義明 , 斉藤 俊弘
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 心電図誘導法には,通常用いられている標準12誘導,すなわち,I, II, III, aVR, aVL, aVF, V1〜V6に加えて,種々の補助的誘導法がある。ここでとりあげる,Nehb誘導法もその一つである。この誘導法は,Goldberger誘導法およびWilsonの単極胸部誘導法がまだ一般化されていなかった1938年,Nehb1,2)により"小心三角形Kleines Herzdreieck"胸部誘導法として紹介された双極誘導法である。今日,この誘導法はあまり広く用いられておらず,文献3,4)も少いが,われわれの教室では十教年前より,斎藤十六前教授の指導により現在までroutineに使用している。とくにNehbのD誘導は標準12誘導とは異る投影線を示すのが有用である。

 以下,Nehb誘導法について概説する。

印象記

第18回臨床肺機能講習会 太田 保世
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 恒例の臨床肺機能講習会も第18回を迎え,今年は,8月28日から9月2日まで,東海大学内科の山林一教授を世話人として,静岡県函南町の山中にある生産性研修会館で開催された。

 講師および事務局の一員として,お手伝いした筆者が"印象記"を書くことにいささか当惑を覚え,忸怩たるものがあるが,この機会に,本講習会のあれこれの紹介を兼ねて印象を綴ってみよう。

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 気管文筋においてα受容体の刺激は収縮を,β2受容体の刺激は拡張を起こすとされている。また気管支筋においては,α受容体よりもβ2受容体の分布が優位を占めており,気管支喘息をはじめとする種々の慢性閉塞性呼吸器疾患の治療薬として,β受容体刺激剤が繁用されてきた。従来,使用されてきたisoproterenolは,COMT (catechol-o—methyl transferase)により急速に不活化されやすく,またβ1受容体に作用し,心悸亢進などを引きおこすため近年,β1よりβ2受容体に特異的に作用する薬剤が種々開発されている。しかし,それらの薬剤にも心刺激作用,手指の振せんなどの副作用が認められ,その使用量はできうる限り少量であることが望まれる。

 今回は,モルモット摘出気管筋を用い,種々のβ受容体刺激剤の弛緩反応におよぼすα受容体遮断剤(E−643)の効果と,その際における気管組織中のcyclic AMP (c-AMP),cyclic GMP (c-GMP)値の変動について検討し若干の知見を得たので報告する。

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 心臓疾患の外科的治療の予後は修復をうけた心臓の機能による。手術の対象となる心疾患を術前に心臓にかかる負荷によって2群に分けることができる。容量負荷のかかる場合と圧負荷のかかる場合とである。前者には左右シャントの多い心房中隔欠損症,心室中隔欠損症,弁閉鎖不全症があり,後者にはファロー四徴症,高肺血管抵抗性心室中隔欠損症,弁狭窄症がある。左右シャントの著しい心室中隔欠損症では右室に圧負荷もかかるので両者を判然と区別しえない場合もある。容量負荷の心疾患は中隔欠損の閉鎖などによって通常は容量負荷は正常となるが,一方圧負荷の心疾患は術後に多少とも圧負荷が残存することが多い。先天性疾患では右室に圧負荷が残存することが多いが,この場合には術後右室が,残存する圧負荷に耐えて正常の心拍出量を維持できるか否かが術後の予後を決める大きな因子となる。

 著者らは心臓機能を圧負荷で判定する方法,すなわち安定した血行動態のえられる範囲において心室の耐えうる最大の圧負荷(定常循環最高心室圧)をもって心室機能を判定する方法について研究を行ってきた1〜3)。今回は先天性心疾患の開心術後に右室の定常循環最高心室圧を測定し,これを術前後の右室収縮期圧との比較,検討を行なったので,その結果について報告する。

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 1965年Mc Carthyらによって開発された塩酸Ketamine (2-0—chlorophenyl−2—methylamino cyclohexanone hydrochloride)は,従来の麻酔剤と作用機序が異なり,大脳新皮質と皮質下領域すなわち新皮質一視床系には抑制的に働くが,大脳辺縁系にはむしろ刺激的に働き,この結果,優れた無痛効果を生ずる。また呼吸および循環への抑制が少ないという特長を持つとされ,現在一般に広く用いられている。

 しかし,本剤とても全く安全な麻酔剤とはいえず,心不全,血圧下降,呼吸抑制などの合併症を起こした症例も報告されている。

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 臨床心臓病学における聴診の重要性は今さら云々するまでもない。心疾患の診断の上で聴診器のしめる役割は心電計のそれよりもはるかに大きい。心音図学という意味であれば,心腔内心音の先駆者故山川教授を持ったわが国のレベルは世界に誇れる所もあったに違いないが,ベッドサイドでの聴診とか,臨床心音に関する一般レベルが欧米のそれに比して高かったとは思えない。そのレベルを,この十数年の間に上げてきた原動力となった一つとして挙げねばならないのは,「上田英雄・海渡五郎・坂本二哉:臨床心音図学,南山堂,1963」である。本書は,その内容はもちろんであるが特に心音図記録の美しいことおそらく世界一である点に特徴がある。筆者の知っている範囲でも,B. L. Segalは日本の心音図はどうしてこんなに美しいのだろうと驚いたし,J. Constantは三尖弁閉鎖不全の心音図はDr. Sakamotoからもらわなければ他人に説明できるような心音図は得られない,と言っていた。現在,本書は絶版になっているとのことで入手は困難である。

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 修正大血管転換症〔S.L.L〕(以後CTGA)においては,通常,心室中隔が前胸壁に対してほぼ垂直に位置し,その右側に左室,左側に右室がside by sideに位置することが多いといわれている1)。われわれは,巨大動脈管開存症,左側房室弁閉鎖不全症,肺高血圧症を合併しながら,19歳まで生存しえたCTGAで,通常の本症と異なり,解剖学的右室が中隔の左後方に位置したために,心エコー図上,その心室ループが"みかけ上のd-loop"所見を呈した剖検例を経験した。本報告の目的は,本症例の臨床診断および治療法の反省について論ずることである。

基本情報

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呼吸と循環
26巻11号 (1978年11月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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