臨床婦人科産科 74巻10号 (2020年10月)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

胎盤

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●Amsterdam placental workshop group consensus statementは周産期異常症例に対して胎盤の標本採取・肉眼所見の記述・病理診断・用語の基準が示された,病理医と産婦人科医が共通の認識で情報共有をするための指針である.

●本指針にある診断は妊娠中の子宮内の病態を反映するような用語が使われており,組織所見と合わせて理解をしてもらいたい.

●妊娠中や分娩時の異常の原因・病態を調べるためには,まずは産婦人科医が胎盤を肉眼的に観察し,病理医に臨床的な情報提供を行うことが重要である.

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●CAOSは絨毛膜下血腫の最重症型であり,羊水過少を認めた場合は厳重な管理が必要となる.

●血腫が長期間存続し,それにより長期に不正出血が続くことは,絨毛膜羊膜炎をきたし,容易に早産になりうる.

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●胎児共存奇胎では,間葉性異形成胎盤との鑑別が必要である.

●妊娠継続による生児獲得率は40%である.

●妊娠継続には,出血・妊娠高血圧症候群・早産などの母体リスクが伴う.

●続発症の発症率は高く(40%),早期に妊娠を中断しても低下しない.

胎盤遺残の管理 大口 昭英 , 小古山 学
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●子宮内容除去術後,分娩後に出血が多く持続する場合は,胎盤遺残の可能性を考える.

●胎盤遺残の診断には,経腟超音波断層法とカラードプラを組み合わせる.

●産科異常出血を伴う胎盤遺残には,子宮動脈塞栓術(+経頸管的切除術)が有効であるが,止血できなければ子宮全摘術を考慮する.

臍帯

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●前置血管など臍帯付着部異常は胎児機能不全や周産期死亡に深く関連する.周産期死亡に至る例の多くは分娩前に超音波診断がされていないが,超音波診断されている場合はほとんどの例では生児を得る.

●卵膜付着と診断される胎盤のなかでも,卵膜血管が短い場合から長く複数の卵膜血管があるものまで形態は多彩である.卵膜血管が長い例や,前置血管を含む子宮下部に卵膜血管がある例での周産期予後が悪い.

●前置血管は卵膜上の遊走血管であるため,子宮の成長によって,胎盤のmigrationと同様の現象がある.しかし,前置血管が改善したとしても子宮下部の卵膜付着であることには変わりなく,依然としてハイリスクな状態と考え,分娩様式を経腟分娩にすることに関しては慎重に判断する.

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●臍帯の捻転異常には,臍帯過捻転と過少捻転があり,Umbilical Coiling Indexにより診断を行う.臍帯捻転異常は胎児死亡や胎児異常,分娩時の胎児機能不全との関連が指摘されているが,必ずしも異常を引き起こすわけではない.慎重な管理は必要であるが,過剰な医学的介入は不要である.

●臍帯巻絡,特に臍帯頸部巻絡は全妊娠の1/3程度に存在する.臍帯頸部巻絡があるからといって必ずしも分娩時の異常が増加することはない.しかし,体幹部の巻絡や,有効臍帯長が短い場合(過短臍帯および臍帯巻絡によりフリーの臍帯が短い)は,分娩時の児下降不良や胎児心拍モニター異常に注意が必要である.

●一絨毛膜一羊膜双胎では臍帯相互巻絡が90%近くに存在する.臍帯相互巻絡のパターンや程度により,胎児死亡のリスクが異なる.

臍帯潰瘍の診断のコツ 堀越 嗣博
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●臍帯潰瘍は先天性上部消化管閉鎖症に合併する,突然に子宮内胎児死亡をきたす重篤な疾患である.

●臍帯潰瘍は発症予知や早期発見が非常に重要な疾患であり,そのためには本疾患の病因,病態生理を理解することが重要である.

●定型的な管理指針は現在規定されていないが,近年の研究でその病態がわかりつつある.羊水中胆汁酸濃度や超音波所見が本疾患では重要なポイントと思われる.

羊水

羊水過多の病因・病態 小松 篤史
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●羊水過多症例に遭遇した場合には,児発育評価および胎児スクリーニングが必要不可欠である.

●羊水過多の原因は,母体側要因では主に耐糖能異常だが,胎児側要因は多岐にわたることを理解するとともに,特発性も珍しくないことを認識する必要がある.

●羊水過多の出現時期や推移によって原因を推測できる場合があり,慎重な経過観察が求められる.

●羊水過多症例では,明らかな原因がなく特発性と評価していても出生後に異常が判明することもあり,胎児診断の限界を認識するとともにNICUを有する高次医療施設での管理が望ましい.

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●著明な羊水過多による子宮増大に伴う早産の予防,母体苦痛の軽減のため,羊水除去が行われる場合がある.

●持続吸引機を使用する場合は,100mL/分前後の速度で,一度に除去する羊水量は2,000〜3,000mLを上限とする.

●羊水除去後の合併症に注意する.

羊水過少の病因・病態 吉田 志朗
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●羊水の循環を理解することが,羊水量の異常の病因,および周産期管理上の問題点を含む病態を理解するための第一歩である.

●羊水過少と診断した場合には,破水・母体因子・胎児因子・胎盤因子のいずれによるものかを可能な限り検索する.

●羊水過少では容易に臍帯圧迫が生じるため,胎児機能不全に陥りやすい.また,妊娠中期からの羊水過少は胎児肺低形成の原因となり,児の予後は一般に不良である.

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●人工羊水注入療法を受けて出生された重症FGRのお子さんが成人され,無事出産されたことは画期的なことで,おそらく今まで報告はないと思われる.

●FGRにおける静脈管の逆流は他の下大静脈血流,臍帯静脈の異常も同時に満たすと胎児アシドーシスと関連が高く近々の胎児死亡のハイリスクであると報告されている5)が,一部の症例では一過性の所見である可能性が証明された.

●教科書,エビデンスに則った医療を展開をすることは基本であるが,最重症例の管理では,それのみでは解決しえない状況に対応しなくてはならず,新しい研究,治療にチャレンジする姿勢も必要となる.

TOPICS

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●臍帯ミルキングの目的は,循環血液量の増加による貧血および鉄欠乏の予防と血圧の早期安定化による合併症の予防にある.

●臍帯ミルキングは臍帯結紮・切除後の単回ミルキングと臍帯結紮前の複数回ミルキングに大別されるが,早産児では30秒以上の臍帯遅延結紮と同等の効果があると考えられる.

●わが国で標準的に行われている臍帯結紮・切除後の単回ミルキングは,蘇生の有無にかかわらず安定して施行できる手技である.

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●臍帯血幹細胞には,造血幹細胞や造血前駆細胞だけでなく,間葉系幹細胞(MSC)をはじめとする他の幹細胞も含まれている.

●臍帯血幹細胞は,神経系細胞への分化能,神経修復作用,血管新生作用,抗炎症作用など多岐にわたる作用を通じて治療効果を発揮する.

●日本ではHIEに対する自己臍帯血幹細胞療法の臨床試験が2015年から開始され,第1相試験で安全性が確認された.まもなく(2020年7月現在)第2相試験が開始される予定である.

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はじめに

 1960年前後に,米国のEdward Hon(1958),ウルグアイのRoberto Caldeyro-Barcia(1966),ドイツのKonrad Hammacher(1967)がそれぞれ独自に,瞬時胎児心拍数を経時的に表す方法,胎児心拍数陣痛図(cardiotocogram : CTG)を開発した.

 CTGが開発された1960年前後は,出生した児の脳性麻痺や精神発達遅滞は,分娩時の仮死が主な原因であると考えられていた.1970年代に入るとCTGを用いて,分娩時に早期の異常を発見し,介入することで新生児仮死を防ぎ,脳性麻痺や精神発達遅滞が減少すると考えられるようになった1).しかし,分娩時のCTG群と間欠的聴診群での前方視的ランダム化比較試験の結果,新生児の短期予後や脳性麻痺の頻度は変わらず,CTGによって過剰に胎児の状態悪化が診断され,帝王切開術や吸引・鉗子分娩の頻度が増加することが示された2〜4).現在では,脳性麻痺の発生率は出生1,000対2前後と報告されており,さらにそのなかで分娩時の低酸素による脳性麻痺は10〜20%程度と少ない.分娩時の低酸素によるアスフィキシアを予防するためにCTGをフルに活用しても,脳性麻痺の発生率が変化しないのは,当然の結果なのかもしれない.

 これらの結果にもかかわらず,CTGが広く浸透しているのは,胎児well-being評価としてのCTGモニタリングの偽陰性率が非常に低い5)という特徴が,異常分娩を作らないようにするという現場の医師の感覚にマッチしているためと思われる.

 分娩管理において,CTGパターンの正確な判読と適切な対応は重要である.CTGパターンとその対応・管理については,米国産婦人科学会をはじめ,英国産婦人科学会,カナダ産婦人科学会では,3段階分類が採用されている.一方で,2007年にParerとIkedaは5段階分類を提唱6)し,日本ではこの5段階分類が採用された.国外では,5段階分類は有用性に対するエビデンスが少なく,複雑という理由から採用されなかったが,2008年以降では,5段階分類が3段階分類と比べ,胎児アシドーシスのリスク評価に有用であり,検者間での一致率が高いという報告が出てきている7〜9)

 CTGは正確な判読が求められるが,以前から,検者間の一致率や同一検者でも時間をおいた判定の再現性が乏しいことが問題点として指摘されている.この問題を解決するために,コンピューター自動解析装置による判読が試みられている.

 国外のコンピューター自動解析装置としては,北米のPeriCALMTM,英国のINFANT®,オランダのIntelliSpace Perinatal®,ポルトガルのOmniview-SisPorto®が挙げられ,それぞれ,産婦人科医師との一致率や有用性などについて検討した報告がみられる10〜13)

 日本では,Japan GE healthcareがTrium社と提携し,Implementation of the Alert Systemを5段階分類で解析し,レベル分類に応じて,グラフィックの色調を変化させ,視覚的にレベルを通知するTriumシステム(Trium)を開発した.今回,TriumによるCTG解析の精度を,産婦人科医師の判読と比較し,一致度を確認するための検討を行った.

連載 Obstetric News

骨粗鬆症(Ⅰ)―有病率 武久 徹
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 骨粗鬆症は,人に悪影響を与える最多の骨障害で,骨折のリスクを増加させ,特に高齢閉経後女性に対し,著しく健康への脅威を与える.閉経後女性において,骨粗鬆症は最多の罹患原因である.骨粗鬆症性骨折は閉経後女性,特に65歳を超えた女性では,かなりの罹患と死亡に関連する.

 骨粗鬆症は男性よりも女性において有病率が高く,5倍である.米国において,骨折率は女性は男性の2倍であるが,そもそもの高齢女性数が高齢男性数を上回ることから,女性が股関節骨折の80%を占める.

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▶要約

 若年がん患者に対する妊孕性温存の選択の機会が増加しているなか,当院では2012年から卵子凍結・胚凍結による妊孕性温存療法を行っており,2018年4月には妊孕性温存外来を開設した.

 当院で2012年6月から2019年12月に妊孕性温存を目的に治療を行った症例は28症例42周期,平均年齢は36.4歳であり,卵子凍結では8症例・13周期で卵巣刺激を行い11周期で卵子凍結,胚凍結では21症例・29周期で卵巣刺激し27周期で胚凍結を行った.原疾患治療後に妊娠許可がおりて胚移植を施行したのが10例であり,5症例で妊娠成立した.

 2018年4月から開設した妊孕性温存外来は,2019年12月まで19症例の受診があり,そのうち9症例で実際に治療を施行し,10症例ではカウンセリングの施行のみであった.

 今後さらに他科との連携を高めて症例数を増やし,妊孕性温存によるがんサバイバーのQOL向上に貢献していく必要があると考えられる.

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臨床婦人科産科
74巻10号 (2020年10月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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