臨床婦人科産科 74巻9号 (2020年9月)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

母体合併症

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●新生児GBS早発型感染症の発症率は,GBS保菌妊婦に対する分娩時の抗菌薬投与(IAP)により減少してきたが,最近の数年は下げ止まっている.

●2019年に米国産婦人科学会(ACOG)は新たなガイドラインを公表し,ユニバーサルスクリーニングの時期を妊娠36週0日〜37週6日に変更した.

●新生児GBS感染症をさらに減少させるためには,最新のガイドラインに従いスクリーニングの質を向上させることが重要である.ただし,スクリーニングの結果が陰性であっても,児にGBS感染症が発症する可能性のあることを忘れてはいけない.

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●母体がペニシリン静注以外で治療された場合は,出生した児の感染の有無を評価する必要がある.

●神経梅毒は症状からはわからないため髄液検査が必須である.

●RPR陽性の母から生まれた児は,発達を含めて全員がフォロー対象となる.

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●腟内細菌および真菌が新生児に重篤な感染を惹起するとはいえないため,クラミジアおよび淋菌感染以外は母体治療の対象となることは稀である.

●何らかの症状が出現したときには速やかに治療する必要があることを念頭において,経過観察する必要がある.

●何となく様子がおかしいと感じたときには,小児科に相談する.

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●新生児ヘルペス感染症は死亡率が高く,救命できても後遺症を残す予後不良の疾患である.

●性器ヘルペス合併妊婦から分娩時に感染するとされるが,母体は無症状の場合が多い.

●新生児ヘルペス感染症を疑ったら,確定診断を待たずに治療を開始する.

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●CMV抗体の陰性妊婦だけでなく,CMV抗体陽性妊婦であっても,先天性CMV感染児の発症のリスクがある.

●母体のCMV IgGアビディティ検査による先天性CMV感染児の予知効率はCMV IgM抗体検査と変わらず,どちらも限界がある.

●先天性CMV感染の確定診断は,生後3週間以内の新生児尿でのCMV核酸検出法によって行う.

●新生児聴覚スクリーニングで要再検(リファー)になる新生児のなかに,先天性CMV感染児が含まれている.

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●糖尿病母体児の本態は,糖供給遮断からの低血糖だけではなく,胎児高インスリン血症に基づくembryopathyである.

●多くは出生前診断がついているので,出生後はただちに少量・頻回授乳を開始する.

●遷延する哺乳障害や嘔吐は,糖尿病母体児が呈するすべての症状を悪化させるため,新生児医療施設への搬送を考慮する.

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●甲状腺疾患合併妊婦では,母体から児へ移行した自己抗体と抗甲状腺薬のバランスによって児の甲状腺機能は亢進もしくは低下する.

●Basedow病合併妊婦の場合,母体がTRAb陽性,コントロール不良,抗甲状腺薬治療中であれば,対応可能な周産期施設へ紹介すべきである.

●橋本病合併妊婦の場合,母体がTRAb陽性であれば,対応可能な周産期施設へ紹介すべきである.

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●late-preterm児は満期産と同様と考えられてきたが,近年,合併症に注意する必要があることがわかってきた.

●late-preterm児は,低血糖,低体温,哺乳不良,新生児黄疸,呼吸障害などに注意が必要である.

●帝王切開児では肺水の吸収遅延が起こりやすく,新生児一過性多呼吸,気胸に注意する.

新生児スクリーニング

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●「先天性甲状腺機能低下症マス・スクリーニングガイドライン(2014年改訂版)」に基づいて診療する.

●新生児スクリーニングにおけるTSH値は,母体のヨウ素摂取・曝露状況,甲状腺疾患・甲状腺機能,薬剤の影響を受ける.

●先天性甲状腺機能低下症と診断し甲状腺ホルモン補充療法を始めても,幼児期にはいったん休薬して病型を確定し,永続性か,一過性かを評価し,治療継続の必要性を判断する.

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●産科医療施設で作成された乾燥濾紙血は,検査施設で検体記載情報と採血状態などの確認を受けたあとに検査される.現在はタンデムマス法により,20種類以上の疾患の測定項目を一度に測定することができる.

●タンデムマス法では9,000人に1人の割合で患者が見つかるとされている.再採血対象児10人のうち1人は要精密検査に,また要精密検査対象児の5人のうち1人は実際の患者であると推測されている.

●再採血の場合は,再検査結果が出るまで,発熱や極端な哺乳不良がない限り,児に対しては通常の対応でよいが,要精密検査の場合は,なるべく早く指定医療機関を受診することが望ましい.

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●検査のながれ,検査機器,検査法,検査法のコツ,難聴児に対する介入(補聴器,埋め込み型骨導補聴器,人工内耳)についてまとめた.

●サイトメガロウイルス感染による遅発性難聴例が存在する.

●新生児聴覚スクリーニングで使用される検査にはOAE検査とABR検査の2種類があり,OAEでは正常,ABRで異常を示す病態が見つかっている.

●リファー後の精査ではASSRという他覚的聴覚検査も普及しており,以前よりも低音の難聴に対する評価も少しずつ可能となってきた.

退院時の母親への指導 加部 一彦
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●育児不安やストレスを軽減するために,退院時の指導は重要である.

●児の体重の増減を気にする母親が多く,体重の増減と哺乳量について説明する必要がある.

●黄疸の消長と便色について,特に便色の変化は胆道閉鎖症などの疾患の早期発見につながることがあるため,色の変化について説明しておく.

●児の日々の様子をみることが,発達の様子や,具合が悪いことの発見などにつながることを説明し,合わせてかかりつけ小児科医を決めておく必要性についても説明しておくとよい.

連載 FOCUS

〔シリーズ〕産婦人科と先端テクノロジー

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はじめに

 近年,生殖医療技術の発展とともに培養室内の業務が複雑化し,培養士の負担も大きくなり,人為的ミスが起こりやすい環境となっている.生殖医療に従事する者として,安全にかつ人為的ミスが起こらない生殖医療技術および培養室環境を目指すべきである.一方,わが国では少子高齢化による労働人口の減少が進行し,今後も人手不足に拍車がかかり,慢性的な培養士の不足が予測されることから,培養室業務の効率化などが求められている.そのためには,ロボット技術,およびIT技術やAI(人工知能)技術を応用した培養室の完全な自動化が1つの有力な方法であると考えている.

 培養室の自動化というとAIを搭載した自立思考型のヒト型ロボットが培養室業務を行うということを想像される方もおられると思われるが,当然のことながら現在の技術ではきわめて困難である.AIとはこのロボットの脳に当たる部分で実体はコンピュータであるため,IT技術とともに理論的には人為的ミスを起こすことはないと考えられる.

 それに対してヒトはミスをする動物であるが,高度な知能をもち学習能力が高く,正確で複雑な動きが可能な「手」をもっている.ヒトの「手」の再現は前述のように現在のロボット技術ではきわめて難しいが,これに対する1つの回答として,胚盤胞のガラス化における平衡処理を自動的に行うGavi®(メルクバイオファーマ)が世界で初めて開発された.

連載 教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール

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はじめに

 臍子宮内膜症は皮膚子宮内膜症に分類され,その発症率は異所性内膜症のなかの0.5〜1%と報告されている1).臍子宮内膜症は,過去の手術創に関連して発症した報告が数多くなされているが,手術歴がなく原発性に発症した症例もいくつか報告されている1〜6).しかし,臍子宮内膜症の悪性転化の症例は,文献検索上は過去に2症例のみしか報告されていない7, 8).今回,過去に手術歴がなく,閉経後に初めて発見された類内膜がんへの悪性転化をきたした臍子宮内膜症という非常に稀な1症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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ACOGの推奨と結論

・米国産婦人科学会(ACOG)は11〜12歳の女子と男子(接種は9歳から可能)にヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種を推奨している.

・産婦人科医と他の医療従事者は,適格患者にHPVワクチン接種を強く推奨すべきで,HPVワクチンの有益な効果と安全性を強調すべきである.

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▶要旨

 異所性に発生する平滑筋腫のなかに静脈内平滑筋腫(IVL)がある.心臓内まで進展する場合,時に致死的な経過を辿る.今回,複数の静脈からIVLが進展し右心室内に至った症例を経験したので報告する.

 症例は44歳,臍上に及ぶ子宮筋腫に対し手術を勧められ,当科を受診した.術前検査で右卵巣静脈から右心室まで到達する血管内病変を認め,心臓外科・血管外科・泌尿器科と合同で完全切除術の方針(不完全切除の場合は中枢側血管を結紮もしくは離断)とした.IVLは,右卵巣静脈から下大静脈,右心室・左右総腸骨静脈系まで達し,右子宮静脈と左卵巣静脈からの進展も認めた.単純子宮全摘術・両側付属器切除術,静脈内腫瘍摘出術を施行したが,一部の筋腫は血管壁に癒着し摘出困難であったため,中枢側の静脈を結紮し,塞栓症の発症を予防した.

 IVLの手術では,病変を術前に把握することが重要だが,予測しえないこともあり,入念な事前準備と他科との連携がより重要となる.

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▶要約

 無侵襲的出生前遺伝学的検査(noninvasive prenatal testing : NIPT)は2013年4月より国内で導入された検査であり,当院では2016年9月より開始した.NIPTは母体血漿中の胎児cell-free DNAを用いて胎児染色体異常を検出する.NIPTは,精度不良や母体要因(maternal event)などによるZスコアの異常,Zスコアのボーダーラインにより,判定保留の結果となる場合がある.今回,われわれは,maternal eventによりNIPT判定保留となった1症例を経験したため報告する.

 症例は38歳,2妊1産(正常経腟分娩).自然妊娠により妊娠成立した.妊娠12週1日,高齢妊娠を理由に出生前診断希望にて当院紹介受診.NIPTを希望され,妊娠12週5日にNIPTを受検し,検査結果は判定保留であった.判定保留の原因として,DNA増幅の程度から母体のcopy number variant(CNV)の影響が考えられた.胎児エコー上でも,有意な所見は認めていなかった.結果説明および今後の方針に関する遺伝カウンセリング後,胎児において染色体の欠失/重複の有無を確認する目的で,妊娠16週1日に羊水穿刺を施行し,羊水細胞にてG-bandおよびSNPArrayを行った.その結果,微細欠失/重複を認めず,正常核型であった.その後,さらに判定保留の原因検索として,maternal eventであることを確認する目的で母体血でのSNPマイクロアレイ検査を行い,21染色体q21.1-q21.2領域に1.97MBのmicro duplicationを認めた.臨床的意味のないCNVと考えられた.児は妊娠40週4日,3,412 g,男児,Apgar score 1分値9点,5分値10点にて正常経腟分娩となり,現時点で特記すべき臨床症状はない.

 NIPTの結果で判定保留になる確率は0.39%であり,決して高い確率ではない.しかしながら,受検者は不安になることになり,受検前や結果判定後のカウンセリングが重要となる.NIPTでは胎児染色体異常以外にも偶発的に母体疾患や母体の染色体異常が検出される可能性がある.今後疾患が発現してくる可能性のあるCNVの場合は本人・家族の健康管理に有用である一方で,評価がはっきりしないCNVもあり,妊娠初期の詳細な超音波検査を交えた胎児についての説明や遺伝カウンセリングが重要と考える.

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基本情報

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臨床婦人科産科
74巻9号 (2020年9月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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