臨床外科 75巻7号 (2020年7月)

特集 若手外科医必携!—緊急手術の適応と術式

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 非外科的治療が格段に進歩した今日,診療現場では,救急疾患における緊急手術の適応判断に際し苦慮する場面が多いものと思われる.その判断は,施設の能力や,非外科治療を考慮する場合に関わるマンパワーなど総合的にくだされるべきである.また,高齢,妊婦などの患者側要因,さらには麻酔方法なども考慮することが必要であるが,比較的頻度の高い一般的救急疾患における治療の実際は,若手外科医が担当することがほとんどであろう.そこで,本特集では,実際に診療を担当する若手外科医向けに,保存的治療の適応と外科治療の適応の違い,ポイントを解説し,さらに最近施行されている術式についても紹介していただいた.緊急手術を考えたときの参考となるハンドブックとして,診療現場に置いてもらえるような特集を目指した.本特集を役立てていただければ幸いである.

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【ポイント】

◆緊急手術は同じ術式の待機的手術よりもリスクが高い.

◆可能な限り患者の合併症に関する情報を得ることが麻酔管理の安全性向上に寄与する.

◆急速に全身状態が悪化する前に手術適応の判断ができるかどうかが重要である.

◆気道確保困難,また誤嚥が致死的になりうる.

◆術後重要臓器合併症を避けるため注意深い観察が必要である.

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【ポイント】

◆緊急手術が必要な疾患を見逃さない(若年者とは疾患の頻度が異なる).

◆確定診断がつかなくても,緊急手術が必要と判断した場合,機を逸することなく執行する.

◆併存疾患など,術前の全身状態の把握が不十分なこともあり,術後管理に苦慮する場合がある.

◆手術はゴールではなく,スタート.退院調整までが主治医の仕事.

◆他科医師,多職種との連携が必要不可欠である.

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【ポイント】

◆妊娠中の手術は十分な治療と妊娠の安全な継続という両者を考え,外科医,産婦人科医,麻酔科医,小児科医の間で十分協議することが大切となる.

◆術前の評価では,妊娠中の母体では特徴的な変化をきたしていること,妊娠中の画像検査の特徴,および患者へのカウンセリングに留意する.

◆手術時は妊娠週数,術者や施設の状況に応じ麻酔法や術式を選択し,胎児心拍数モニタリングも行う.

◆術後は十分な鎮痛と血栓予防を行い,切迫兆候がある場合は,産科と連携し子宮収縮抑制剤の使用を考慮する.

疾患別の対処法

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【ポイント】

◆胸腔ドレナージが初期治療の基本であり,高度癒着例などでも確実にドレナージできる手技を習熟しておく.

◆難治性気漏に対して胸膜癒着療法は弊害が多いので,安易に行わず最後の治療手段として位置付ける.

◆血気胸は輸血をしないために,観察時間を長くとらずに手術療法を第一選択に考えておくことが重要である.

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【ポイント】

◆特発性食道破裂は,飲酒後の嘔吐が原因の食道壁全層にわたる損傷であり,速やかな病歴聴取とCT,X線,食道造影で診断をつけることが重要である.

◆発症から24時間以内の時間経過がきわめて重要で,治療方針や術後管理に直結する.

◆内視鏡治療,義歯,PTP製剤,結核などで食道穿孔が起こりうる.縦隔気腫の存在をCTなどで見逃さない.

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【ポイント】

◆発症後時間経過が長い,腹膜炎が上腹部に限局しない,腹水が大量である,胃内容物が大量にある場合は手術適応である.

◆年齢70歳以上である,重篤な併存疾患がある,血行動態が安定しない場合も手術を考慮する.

◆推奨される術式は,腹腔洗浄ドレナージ+穿孔部位閉鎖+大網被覆術である.

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【ポイント】

◆胃十二指腸出血は,患者の全身状態が不良といった厳しい状況下で,外科医が対応する必要に迫られうる疾患である.

◆胃十二指腸出血の原因疾患はさまざまであり,疾患に適した治療方法,手術術式を習得しておく必要がある.

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【ポイント】

◆時間との勝負になるため,速やかな診断と治療が必要である.

◆大腸穿孔に対する基本術式は,緊急での腸管切除・人工肛門造設である.

◆保存的治療を選択した場合にも,増悪があれば,手術への移行を躊躇しない.

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【ポイント】

◆消化管出血(小腸・大腸出血)は保存治療の進歩が著しく,手術は保存治療に抵抗性のある場合という位置づけにある.

◆出血源の同定が重要.解剖学的構造を理解したうえで治療法を選択する.

◆NOMI(非閉塞性腸間膜虚血症)には特徴的な背景があることが多い.特に循環器疾患や透析,脱水症例の急性腹症では,NOMIを念頭におき,疑うことが重要である.そのうえでの早期診断・治療が救命に繋がる.

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【ポイント】

◆TG18の診療フローチャートを理解する.

◆Lap-CのCVS作成時にはSS inner理論およびSafe stepsを順守する.

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【ポイント】

◆急性虫垂炎に対し全例に緊急手術が必要ではないが,それを行うのに躊躇すべきではない.

◆急性虫垂炎に対する保存的治療が確立されてきており,その適応を知っておことが重要である.

◆虫垂切除術は,アプローチ法によらず消化器外科医が普段より習熟しておくべき術式である.

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【ポイント】

◆潰瘍性大腸炎の重症あるいは劇症例では早期から内科医と連携をとり,手術適応を的確に判断する.

◆高齢潰瘍性大腸炎症例では緊急手術の適応は非高齢者より早期に判断する.

◆潰瘍性大腸炎緊急手術では基本的には結腸(亜)全摘,回腸人工肛門造設,S状結腸粘液瘻造設か,Hartmann手術を選択する.

◆クローン病では,緊急手術時も可及的に腸管を温存し,状態により吻合を行わず,人工肛門造設を選択する.

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【ポイント】

◆鼠径部ヘルニアにおける非還納性,嵌頓,絞扼性の違いを知り鑑別する.

◆徒手整復の手技は,膨隆全体を手で包み込み均一に圧力がかかるように愛護的に押していく.

◆各術式間に優劣はないため手慣れた術式を行うのがよいが,メッシュを使用するかしないかは術野の汚染程度から決定する.

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【ポイント】

◆腸閉塞を疑う場合,可能な限り緊急CTを行い,閉塞機転に関する鑑別を行う.

◆軽症例が多くいるなか,穿孔や腸管壊死を伴う重症例では短期間に致死的経過となりうるため経過観察は慎重に行う.

◆初療時には診断に至るまでのワークアウトと並行して脱水や電解質異常をまず補正し,必要があれば続いて経鼻胃管などで減圧する.

◆手術診断とともに必要十分な外科処置をその場でデザインするが,閉塞機転が不明な場合,血行不良腸管が大量にある場合などは困難となりうる.

病院めぐり

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 覚えている人はほとんどいないと思いますが,2003年,当院は中央廊下を熊が走って全国ニュースに出た伝説の病院です.と聞くと,一体どれほどの田舎かと思われるかもしれませんが,当院のある一関市は岩手県の最南端に位置し,東北新幹線も通る県の玄関口として賑わう町で,北に世界遺産「平泉」,市内には「厳美渓」「猊鼻渓」という美しい渓谷があり,風光明媚を売りとする観光地です.

 当院は人口約12万人の一関市ほか,宮城県北地域の患者もカバーする地域中核病院で,2006年に,熊の出た旧病院から新病院に移転し,現在に至ります.病床数は315床,標榜科21科,現在の医師数は64人.地域がん診療拠点病院であり,救急でも地域の中心として,例年3000台弱の救急車を受け入れています.職員の頑張りのおかげで,DPC標準病院群の中での機能評価係数Ⅱは,7年連続全国10傑に入っており,全国1位が2度あります.2017年に質の高い病院として総務大臣表彰をいただきました.

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はじめに

 近年,子宮性不妊女性の妊娠出産のための選択肢として,「子宮移植」という新たな生殖補助医療技術が考えられるようになった.海外ではすでに臨床研究がなされ,2014年9月にはスウェーデンにおいて,世界で初めての生体間子宮移植後の出産が報告された1).この報告を機に,国際的に子宮移植が新たな医療技術として急速に展開されつつあり,わが国での実施も期待されている.本稿では,子宮移植の海外の状況に触れながら子宮移植の現況について概説する.

坂の上のラパ肝・胆・膵・7

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Point

◆すべての後区域Glisson分枝は尾状葉の腹側を横断して後区域に向かうため,Caudate lobe-first approachによって下大静脈(IVC)の腹側面を露出しながら尾状葉を縦方向に切開することで,すべての後区域Glisson分枝(後区域Glisson茎)の背側面を露出することができる.

◆後区域Glisson茎を離断した後も,Caudate lobe-first approachによってIVCの腹側面を右肝静脈(RHV)根部に向かって露出する.露出したIVC腹側面は切離面最背側のランドマークとなる.

◆Caudate lobe-first approachによってRHV根部もしくは根部近傍でRHVを露出し,切離面中央のランドマークとして,その背側面を連続して露出する.

◆肝実質離断は,露出したIVC腹側面とRHV本幹,肝表のdemarcation lineをランドマークとして,尾側から頭側に向かって本を開くようなイメージで進める.

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要旨

症例1:20歳,男性.腹痛を主訴に受診し,CT検査にて回腸腸間膜に長径14 cm大の一部軽度高吸収領域を伴う多房性囊胞性腫瘤を認めた.腹痛の原因は囊胞内出血と診断し,鎮痛薬を用いた保存治療を施行し,待機的に腹腔鏡下小腸切除術を施行した.症例2:69歳,女性.4年前に偶発的に発見された腫瘤の増大所見があり外科紹介となり,開腹下回盲部切除術を施行した.リンパ管腫は小児の頭頸部に好発する良性腫瘍であるが,腸間膜に発生するリンパ管腫は比較的稀な疾患である.これまで腸間膜リンパ管腫の治療や手術適応に関して一定の見解はない.治療の原則は手術であるが,特に有症状例では腸管切除をいとわず行うこと,無症状例に関しては個別化して対応すべきと考える.

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要旨

症例は83歳の女性,脳梗塞で入院中に中腹部痛が出現した.バイタルはプレショック状態で,Hb 7.1 g/dLと貧血を認めた.腹部造影CT検査で腹腔内にやや高吸収の腹水,右胃大網動脈に1.5×2.0 cm大と1.0×1.5 cm大の動脈瘤を認めた.右胃大網動脈瘤破裂と診断し緊急手術を施行した.大量の血性腹水と,右胃大網動脈に2か所の動脈瘤を認め,破裂部と拍動性出血を認めた.動脈瘤を含めた右胃大網動脈を結紮切除した.病理組織学的検査にて,動脈瘤壁は内弾性板の断裂と中膜平滑筋組織の融解・消失を認め,外膜の比較的保たれた分節性動脈中膜壊死(SAM)の所見を認めた.

ひとやすみ・191

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 専門医制度の普及に伴い,学会参加者が増加しつつある.学会では単に聞くだけではなく,積極的に質問するとより達成感が生じ,学会参加の意義が増す.

 一昔前の学会での質疑応答は,大学医局や医療施設間の真剣勝負であった.そして学会の大御所が発言すれば,それが全てであり,反論は許されない雰囲気があった.昨今の教授は紳士であり,若者の主張にも耳を傾け理解を示す.

1200字通信・145

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 2018年6月29日に働き方改革関連法(以下,同法)が参院本会議で成立しましたが,気になる医師への時間外労働上限規制の適用は2024年4月からになるとのことでした.

 元々は,過労死などの事件が繰り返され社会問題化したのが発端のようですが,この法律の施行で,果たして医師の過労死が予防できるのでしょうか.詳細は他の報道に譲るとして,研修医や特殊な状況下での医師たちは結構長い時間外労働が認められているようでもあり,時には制度化によって,これまで以上の時間外労働が正当化されることになってしまう可能性もあり,一体何を基準にしているのか判りにくいものになっているようです.

昨日の患者

亡き妻を懐かしむ 中川 国利
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 長きにわたり苦楽を共にした奥さんを病で亡くし,外来を受診する度に奥さんに対する思いを語った患者さんを紹介する.

 Hさんは70歳代後半で,病院の近くに住んでいることもあり,何かにつけては外科外来を受診する馴染みの患者さんであった.奥さんが食欲不振を主訴に来院し,精査の結果は膵臓癌であった.しかも既に肝臓に転移しており,一時的には軽快したが,発症から半年後に亡くなった.Hさんは甲斐甲斐しく世話を行い,「Hさんのような男性なら,結婚してもいいな」と,看護師さんからの評価がすこぶる高かった.

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 院内で抄読会を行っている消化器外科医なら,Michitaka Hondaの名前を一度は目にしたことがあるだろう.ステージⅠ胃癌の腹腔鏡手術と開腹手術のアウトカムを観察研究で比較し『Annals of Surgery』に掲載された有名なLOC-1 studyをはじめ,数々の一流誌に質の高い臨床研究を報告している気鋭の消化器外科医である.今回,「『…先生,手術は成功ですか?』こんな質問にどう答えますか!?」という帯の文句に思わずひかれて,本書を手にとった.外科医がこれまで何となく曖昧にしてきた「手術のアウトカム」をどう評価すべきかを論じた,本多通孝先生渾身の著作である.

 数ページも繰らないうちに,私は読むのを止めた.本書は前作,『外科系医師のための手術に役立つ臨床研究』(医学書院,2017)の続編になるが,前作を読まずして本書を読み始めることがすごくもったいなく感じたからである.世上,臨床研究について書かれた本や医学統計の入門書は多いが,前作では外科医がとっつきやすいClinical Questionを例に挙げ,それを洗練されたResearch Questionに変え,臨床研究の定石であるPECOを組み立てながら研究のデザインを磨き上げていく過程がわかりやすく述べられている.ありがちな探索的研究の著者曰く“ダサい”抄録が,仮説検証型研究のポイントを絞った科学論文にみるみる変貌していく過程は圧巻である.ただしPECOのうちP,E,Cは何とか設計できても,いつも行き詰まってしまうのがO,すなわちアウトカムであり,それをどうやって測定するのかが本書のテーマである.アウトカムは患者目線に立たなければ意味がないが,主観的要素が大きいため,それをデータ化するのは実は大変難しい.良い尺度が見つからなければ自分で作らなければならない.こうしたアウトカムそのものを深めていく作業は,実は手術を受ける患者さんの生の声を形にする,外科医としての本質的な研究となる.本書を読み終えると,それが著者の一貫したメッセージとして伝わってくる.

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目次

原稿募集 「臨床外科」交見室

バックナンバーのご案内

次号予告

あとがき 瀬戸 泰之
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 今月号は「緊急手術」をテーマとしている.筆者は外科医になってすでに35年が経っているが,若いころの「緊急手術」のことが忘れられない.今では,おそらく考えられないことであると思うが,卒後7,8年目のころの外勤先(バイト)で,10歳くらいの男の子のアッペを自分一人で腰椎麻酔をかけ,看護師さんを前立ちにして外科医一人で行ったことがある.幸い,術後経過は良好であったが,その時の緊張感は「半端」なかった.また,当直先のバイト病院で,夜間急性膵炎の緊急手術(洗浄ドレナージ)を行った時には,先輩に電話をして何度も指示を仰いだことも忘れられない.「定時手術」と異なり,予習も事前準備もほとんどない状況で,自ら診断し,自ら行わなくてはならない.流石に,現在,外科医が一人で手術を行う場面は少なくなっていると思うが,外科医を志した以上は,「その時」を覚悟しなくてはならない.本誌は「その時」のためにある.取り上げられている緊急疾患は,すべて日常で経験するものばかりであり,ぜひ一読しておいてほしい.そして,いざという時に思い出してもらい,短い時間で読み直し手術に臨んでもらえるような「座右の書」になれば,望外の喜びである.

基本情報

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臨床外科
75巻7号 (2020年7月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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