臨床外科 72巻9号 (2017年9月)

特集 知っておきたい 乳がん診療のエッセンス

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 わが国では乳がんの罹患率や死亡率が上昇し続けており,市中病院では乳がん患者はもとより,多くの乳がん検診を受け入れている現状があります.一方,乳腺専門医の数はいまだ限られており,一般外科医が乳腺疾患を担当することも珍しくありません.

 本特集では,診断から治療まで実践的な乳がん診療のエッセンスを網羅し,研修医から一般外科医,さらにはこれから乳腺専門医を目指す若手医師の診療の一助となることを目指します.

診断編

画像診断・腫瘍マーカー 久保田 一徳
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【ポイント】

◆デンスブレストではマンモグラフィで病変の検出感度が下がることがあり,注意が必要である.

◆各種ガイドラインを理解し,精査が必要・不要な病変の判別をしっかりできるようにしたい.

◆MRIでは背景乳腺の増強効果(BPE)がみられる.BPEを病変と読み過ぎないようにする.

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【ポイント】

◆生検において手技の習得は必要であるが,正確な診断には,第一に目的病変の画像診断を極めることが重要である.

◆病理診断に必要十分量の組織を得るためのデバイスの使い分けが重要である.

◆常に得られた病理診断の結果と画像所見が矛盾ないものか確認する.

治療編

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【ポイント】

◆乳がんの初期治療では,病期,サブタイプ,さらに病理学的因子などの臨床情報をもとに,根治を目指して局所療法に全身療法を加えた集学的治療が計画される.

◆術式においては,原発腫瘍の切除と腋窩リンパ節の取り扱いは別々に検討され,個々の局所の進展状況に応じた術式が選択される.

◆再発治療は,遠隔転移を伴わない局所・領域再発と遠隔転移の2つの観点から考える.外科的切除が考慮されるものか,全身薬物療法の適応か,個々の症例に応じて選択する.

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【ポイント】

◆乳がんの術後フォローアップとして外来診療が果たす役割はますます重要となっている.

◆術後フォローアップのポイントは,術後合併症があればその治療を行うこと,術後薬物療法を行う際は副作用のコントロールをして患者のQOLを保ちつつ治療を安全に行うこと,そして局所再発のスクリーニングである.

◆外来診療は主治医と患者が1対1で行うものではなく,コメディカルや他科の医師らと連携して包括的に進めていくことが重要であり,それが結果的に治療成績の向上や医師-患者間の信頼関係の構築,そして患者の満足につながることになる.

放射線療法 淡河 恵津世
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【ポイント】

◆早期乳がんは乳房部分切除術(乳房温存手術)後の放射線療法として,通常照射(50 Gy/25回)と短期照射(42.56 Gy/16回)があり,部分照射も検討されている.

◆進行乳がんは乳房切除術後に,胸壁への追加照射および領域リンパ節照射を組み合わせて行う.

◆放射線療法後の有害事象は,皮膚障害・肺障害・左側の場合の心臓への影響などがある.

治療編 外科的治療

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【ポイント】

◆整容性の保てない乳房温存術は控える.

◆乳房温存術において,病変部位別に整容性を保つ工夫をする.

◆乳房切除術でも広がりの評価は必要である.

◆乳房切除+再建では叶えられない,乳房温存術で得られる価値を理解する.

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【ポイント】

◆近年,皮膚温存乳房切除術と同時乳房再建術を受ける症例が急速に増加している.

◆乳がんに対するエキスパンダーによる同時再建術が2014年から保険適用となった.

◆本術式は,乳房温存術が適応とならなかった症例を救済し,強く変形した乳房を減らすことに役立つ.

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【ポイント】

◆リンパ節転移の状況は予後予測因子であり,薬物治療の効果予測因子ではない.

◆N0乳がんでは,センチネルリンパ節転移陰性のみならず,リンパ節転移が2個以下であれば術後の薬物治療と放射線治療によってリンパ節再発が予防されるので,腋窩リンパ節郭清は不要である.

◆N1以上の乳がんでは,腋窩リンパ節郭清が標準治療である.

治療編 内科的治療

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【ポイント】

◆術前後の化学療法の目的は,微小転移を制御することにより再発を減少させ,予後を改善することである.

◆補助化学療法は,原発巣の腫瘍径,リンパ節転移などによるclassicalな解剖学的リスク分類に加え,subtypeに基づいた薬物感受性を考慮して選択する.

◆患者の利益と薬剤による有害事象のバランスを考慮する必要があるが,補助化学療法では安易な抗癌剤の減量,中止は避けなければならない.

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【ポイント】

◆閉経前ホルモン受容体陽性乳がんの内分泌治療はタモキシフェンが中心である.転移再発後の内分泌治療法は選択肢が少ない.

◆閉経後ホルモン受容体陽性乳がんの内分泌療法は,術後補助療法としてはアロマターゼ阻害薬が中心となる.転移再発後の内分泌治療としては,アロマターゼ阻害薬のほかにselective estrogen receptor down regulator(SERD)やselective estrogen receptor modulator(SERM)などの選択肢がある.

◆治療選択肢が増えた現状では,転移再発乳がんの治療戦略においてHortobagyiのアルゴリズムにとらわれすぎないことが求められている.

再発後薬物療法 古川 孝広 , 向井 博文
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【ポイント】

◆転移・再発乳がんの治療目標は,高いQOLを目指しながら生存期間の延長を達成することである.

◆治療選択のためには,病勢進行のスピードと乳がんサブタイプを踏まえた検討が重要である.

最近の話題

新規薬物療法 松本 暁子 , 神野 浩光
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【ポイント】

◆HR陽性HER2陰性進行・再発乳がんにおいて,内分泌療法とCDK 4/6阻害薬併用の有効性が示されている.

◆HR陰性HER2陽性乳がんにおける補助療法として,ネラチニブの有効性が示されている.

◆アンブレラ試験やバスケット試験などの分子標的薬に対する新たな概念の臨床試験デザインが注目されている.

遺伝性乳がん 岩田 広治 , 吉村 章代
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【ポイント】

◆遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)は常染色体優性遺伝であり,乳がん,卵巣がんなどを発症するリスクが高い.

◆HBOCに対するスクリーニング(一次拾い上げ)の意義は大きく,二次詳細評価のうえ可能性が高いと判断した人々には遺伝カウンセリングを提案する.

◆本稿ではHBOC乳がんに対する治療と予防的介入の現況について解説する.

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はじめに

 胃癌はリンパ節転移を伴いやすく,予後不良である.本邦では徹底したリンパ節郭清による予後の向上を目指し,様々な試みが先達により行われてきた.しかし,臨床試験による検証により,必ずしもリンパ節郭清のさらなる拡大が予後の向上につながらないことも明らかになってきた.それは,癌の生物学的な悪性度のみならず,手術や術後合併症が生体に与える侵襲が影響していると考えられる.

 本稿では,本邦で独自に発展してきた胃癌の系統的なリンパ節郭清の変遷を海外の臨床試験と比較しながら考察する.特に最近,臨床試験で明らかとなったリンパ節郭清のための脾摘の是非,功罪に注目して述べる.

病院めぐり

市立甲府病院外科 巾 芳昭
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 甲府市は山梨県の中部に位置する人口約20万人の県庁所在地です.甲府という名称は,甲斐国の守護大名 武田信虎が甲斐国の府中(町)という意味から命名したことに始まるそうです.2019年には開府500年となります.戦国武将の武田信玄が有名ですが,最近ではB級ご当地グルメゴールドグランプリの,皆様の縁をとりもつ「鳥もつ」でも有名になりました.

 当院は甲府市の東部に位置し,1932年に普通病院として開院しました.1950年に市立甲府病院として一般病床50床で開業し,1999年に現在の増坪町に新設移転しました.現在,病床数は403床で全19科,常勤医師79名,研修医6名のスタッフが勤務しています.

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要旨

症例は85歳,女性.主訴は食欲不振と体重減少および便潜血陽性であった.2013年7月に消化管精査目的で内視鏡検査を施行し,上行結腸癌を認めた.手術目的で当科へ紹介となったが,その際の腹部CTで左後腹膜の腫瘍を認めた.同腫瘍は造影CTで内部不均一に造影され,周囲から数本の血管の流入を認めた.同年9月上旬に上行結腸癌および左後腹膜腫瘍に対し,腹腔鏡補助下に右半結腸切除および左後腹膜腫瘍摘出術を施行した.病理診断にて後腹膜腫瘍はCastleman病(hyaline vascular type)と診断された.Castleman病は稀なリンパ増殖性疾患で,後腹膜に発生するのはさらに稀である.右側結腸と左後腹膜の病変に対し,腹腔鏡補助下の手術で同時に切除することができた.

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要旨

症例は65歳,男性.心窩部痛の精査のため上部消化管内視鏡検査を施行したところ,門歯列より38 cmに浅い陥凹を伴う不整な隆起性病変を認め,生検では扁平上皮癌であった.食道癌の診断にて右開胸開腹下部食道切除術を施行した.切除標本の病理組織学的検索では,口側の隆起病変に類基底細胞癌および肛門側の潰瘍病変に腺扁平上皮癌を認めた.また,この二つの病変に移行像はなく,高分化型扁平上皮癌を介して相接してみられ,衝突癌様の像を示していた.食道悪性腫瘍のうち,類基底細胞癌および腺扁平上皮癌はともに稀な組織型であるが,今回われわれは,両組織型が併存したきわめて稀な食道癌の1例を経験したので報告する.

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要旨

症例は60歳,女性.2012年,胃体下部前壁に20 mm大の胃粘膜下腫瘍を指摘され,以降経過観察していた.2015年,腫瘍は30 mm大に増大し超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)を施行した.細胞診では異型の乏しい小型・立方状の細胞が豊富な血管を介在し増生しており,免疫染色ではc-kit陰性,chromogranin A陰性,α-SMA陽性を呈し,胃glomus腫瘍が疑われた.腹腔鏡下胃部分切除術を施行し,病理組織所見より胃glomus腫瘍と診断した.glomus腫瘍は四肢末端の皮下や爪下に好発する腫瘍であり,胃原発のglomus腫瘍は稀である.胃glomus腫瘍に関して若干の文献的考察を加えて報告する.

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要旨

【症例1】患者は82歳,女性.開腹歴なし.下腹部痛,嘔吐を主訴に来院した.身体所見,腹部超音波検査・単純X線で異常なく,便秘症と診断され帰宅した.同日夜,症状改善せず再度救急受診し,CTで腹水貯留,骨盤内小腸間膜の捻転像,周囲脂肪織濃度上昇を認め,絞扼性イレウスと診断され緊急手術となった.【症例2】患者は66歳,女性.既往歴なし.腹痛を主訴に近医を受診し,CTで腹水貯留,虫垂壁肥厚,closed loopを認め,絞扼性イレウスの疑いで当院に救急搬送され,緊急手術となった.両症例とも開腹歴を有さず,虫垂の癒着による絞扼性イレウスという術後診断であった.文献的考察を加え報告する.

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要旨

症例は59歳,女性.上腹部痛を主訴に緊急入院し,血液検査で肝機能障害と膵酵素の上昇を認めた.DIC-CT,MRCP検査で総胆管下端の拡張および膵・胆管合流異常を認めた.保存的治療で膵酵素は正常化したが,肝機能障害が遷延したため,膵・胆管合流異常の診断で胆囊切除,肝外胆管切除,肝管空腸吻合術を行った.しかし,術後12日目に再度腹痛をきたし,肝機能は正常であったが膵酵素の上昇を認めた.十二指腸内視鏡検査で主乳頭が粘膜下腫瘍様に膨隆していた.choledochoceleと診断し,内視鏡的乳頭切開術を行い,膵炎は軽快した.その後,胆管炎や膵炎の再発を認めていない.

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要旨

われわれは左乳癌術後に左唾液腺転移をきたした1例を経験したので報告する.症例は66歳,女性.左乳癌で乳房切除+腋窩郭清(Bt+Ax)が施行され,術後5年間レトロゾールが投与された.術後6年目に左胸骨部の局所再発,多発骨転移が疑われたが,左唾液腺部の腫脹と,PETでFDGの軽度の集積も認められた.ベバシズマブ+パクリタキセル療法が4コース投与され,治療効果CRが得られた.術後8年目に左唾液腺部の腫脹と疼痛のみが再度出現し,PETで腫脹部にFDGの集積増加が認められた.穿刺吸引細胞診で乳癌癌細胞に酷似した異型細胞が認められ,乳癌の唾液腺転移が疑われた.再度ベバシズマブ+パクリタキセル療法を4コース投与し,放射線局所照射を40Gy併施したところ,治療効果CRが得られた.その後現在まで再発兆候なく健在である.

ひとやすみ・154

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 血液センターは医療機関からの要請に応じ,いついかなる時にも血液を供給することを責務としている.私が勤める血液センターでは午前と午後の定期便のほかに,通常走行による臨時便,さらに生死にかかわる緊急要請にはサイレンを鳴らしての緊急搬送を行っている.しかしながら近年,血液供給量がほぼ一定にもかかわらず,臨時便や緊急便が増加しつつある.

 定期外搬送が増えた理由としては,経費削減のため院内在庫を少なくしたりゼロにしたりして,必要時に随時発注するようになったことが挙げられる.また緊急搬送の判断は医療を担う医師や検査技師が下すが,担当者により緊急度の判断が異なる.そのため病院によって定期便と臨時便の比率が大きく異なる.さらに緊急搬送の発注時間は終業時に近い午後4時前後が圧倒的に多く,担当者の都合で発注されている可能性もうかがわれる.

1200字通信・108

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 労働安全衛生法の一部改正により,平成27年12月1日よりストレスチェックの実施が義務化されました.医療機関でもこの義務が課せられることから,当院でも産業医が担当して実施されました.

 産業医については,皆さんご存知のことと思いますので省略しますが,当院では職員数が300名を超しており,医局の先生のなかから産業医をお願いすることになっています.以前は私が担当していましたが,院長になってからは管理職ということで,当院の産業医はできなくなりました.お陰で,当院のストレスチェックの業務は免れたのですが,以前から担当していた企業の産業医は続けており,この会社のストレスチェックを行わなければならず,私にとってのストレスではありました.

昨日の患者

日々の生活を愛おしむ 中川 国利
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 生来健康であった人が突然癌に罹患し,しかも術後に再発した場合,奈落の底に落とされる.過酷な宿命に耐え,常に前向きに生きた患者さんを紹介する.

 Hさんは30代前半の乳癌患者であった.キャリアウーマンとして日々の仕事に邁進するとともに,週末には山に登ることを趣味としていた.右乳房のしこりを主訴に来院し,精査の結果は乳癌であった.突然の癌告知に驚愕しながらも,手術,そして癌化学療法を受けた.そして肺や骨に転移をきたしながらも,病室で語ったHさんの前向きな言葉が思い出される.

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バックナンバーのご案内

あとがき 田邉 稔
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 以前,前任地で医局長をしていたときの話でした.毎年人事異動の季節が来ると悩みの種となっていたのは,“乳腺外科医を赴任させて欲しい”という関連病院からの強い要請でありました.50以上の関連病院をかかえるなかで,到底そのような声に応えるほど多くの乳腺外科医がいるはずもなく,「何とか現場対応で……」とお願いする日々でありました.わが国では乳癌の罹患率および死亡率が上昇し続けており,市中病院では乳癌はもとより多くの乳腺疾患の診療を受け入れている現状があります.一方,乳腺専門医の数はいまだ限られており,一般・消化器外科医が乳腺疾患を担当することも珍しくありません.若い頃,大学で研修を積んでいたときは消化管や肝胆膵グループであった昔の同僚が,いつのまにか乳腺専門医資格を持っていて,乳癌診療について講釈を述べている……などということが実際に起こっているわけです.

 本特集では,診断から治療まで実践的な乳癌診療のエッセンスを網羅し,この分野のエキスパートにご執筆いただきました.画像診断や手技の解説では図や写真を多用し,乳腺疾患を専門としない一般臨床医にもわかりやすい内容になっております.研修医から一般外科医,さらにはこれから乳腺専門医を目指す若手医師の診療の一助となることを願っております.

基本情報

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臨床外科
72巻9号 (2017年9月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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