臨床外科 70巻2号 (2015年2月)

特集 肛門良性疾患を極める—目で見る 多彩な病態へのアプローチ法

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 肛門の良性疾患には多彩な病態が存在し,多彩な症状が認められる.疾患によっては治療法も単一ではなく,複数の治療法が行われている.また悪性疾患と異なり,治療成績が術後すぐに明らかになるのも肛門良性疾患の治療の特徴である.肛門良性疾患の診療では,多彩な病態に対しいかに効果的な治療を行うかが重要であると同時に,非常に難しい課題でもある.本号では,様々な病態が含まれる肛門・直腸に関連する良性疾患をまとめ,その診断および治療に関する特集を企画した.本特集が日常臨床に役立つことを期待している.

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【ポイント】

◆問診で肛門疾患,大腸疾患の症状を漏れなく尋ねることで疾患名を推測する.生活習慣,アレルギー歴なども聴取する.

◆診察は問診を踏まえ,肛門周囲の視診,肛門内の指診,肛門鏡診を行い,補助的に画像検査を行う.

◆各疾患の鑑別診断を,問診,指診,視診を行い,特定疾患を同定する.機能的疾患の発見と診断も大切である.

総論 検査法①

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【ポイント】

◆肛門内圧検査とdefecographyは骨盤底機能の評価の基本的な手段である.

◆肛門内圧は通常,対象者を左側臥位とし,安静時と肛門括約筋収縮時の圧を測定する.

◆defecographyは座位で安静時,肛門括約筋収縮時,排泄時の骨盤底の変化を見る.

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【ポイント】

◆3D vector manometryでは放射方向の内圧を同時に測定するため,括約筋の部分的損傷や機能障害を評価できる可能性がある.

◆肛門機能障害の評価に有用な検査の一つであるが,正常と異常を明確に区別するものではなく,排便機能障害との対比はオーバーラップするところが大きい.

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【ポイント】

◆炎症性腸疾患に合併する肛門病変の診療は一般の肛門疾患と異なっており,特有な診療アプローチ法の習得が必要である.

◆クローン病では肛門病変の病態を把握することが重要で,内科治療を基本として外科治療を併用する.

◆潰瘍性大腸炎では疾患活動性の把握が重要で,根治的な外科治療は寛解期に行う.ただし瘻孔・膿瘍には緊急対応が必要である.

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【ポイント】

◆直腸指診で直腸瘤を疑うことは容易であるが,無症状のものから種々の症状を伴うものまであり,その病態は単純ではない.

◆直腸性便秘(ODS)を伴う症例は治療の対象となる.

◆瘤の縫縮と挙筋縫縮による直腸腟中隔の補強が一般的な術式であるが,近年TVM,STARR,ventral rectopexyなども注目されている.

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【ポイント】

◆直腸腟瘻は,腟からガスや便が不随意に漏れ出るため,不快感と精神的苦痛を伴う女性特有の疾患である.

◆原因として,分娩外傷,感染,炎症性腸疾患,手術合併症などがある.

◆治療方法は,advancement flap, seton法,瘻管開放術,瘻管くり抜き術,人工肛門造設術などが行われる.これらは原因疾患,瘻孔の状態を考慮して選択するのが望ましい.

各論 痔核・痔瘻・裂肛の診断と治療①

痔核 小村 憲一 , 岩垂 純一
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【ポイント】

◆肛門診察に際しては患者心理を理解し,羞恥心や苦痛を与えず速やかな診察を心掛け,肛門病変にのみとらわれないようにする.

◆痔核の治療は保存療法が基本で,手術は2割程度である.保存療法で効果がなく,出血を繰り返す場合や,痔核の脱出により日常生活に支障をきたすような場合には手術を考慮する.

◆手術療法は,結紮切除,ALTA療法が中心に行われている.最近は両者を組み合わせた併用療法が行われており,術後出血が少なく,より形成的な手術が可能となってきている.

各論 痔核・痔瘻・裂肛の診断と治療②

痔瘻 松島 誠
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【ポイント】

◆肛門周囲膿瘍は,時間とともに拡大進展するので,保存的治療より準緊急的な外科的切開排膿を優先する.

◆痔瘻手術の際は原発口と原発巣の処理が最も重要であるので,解剖を熟知したうえで画像診断なども駆使して瘻管の走行を確実に把握する.

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【ポイント】

◆急性期の治療は,便通を整え肛門衛生に留意した保存的な生活療法と,外用薬(痔疾軟膏薬,坐薬)を主体とした薬物療法を行う.

◆慢性化し疼痛が強度なもの,再発を繰り返し器質的な肛門狭窄をきたし排便障害がみられるものには手術的治療が必要となるが,手術は姑息的なものであり,合併症として便失禁を生じる危険性もある.

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【ポイント】

◆直腸脱の診断は愁訴,診察所見,怒責診で診断されるが,排便造影も術前評価に有用な検査である.

◆5 cm以上の脱出で全身麻酔が可能な症例では,年齢にかかわらず腹腔鏡下直腸固定術を行う.

◆5 cm以下の脱出では,Delorme法またはGant—三輪—Thiesch法を,ハイリスク症例ではThiesch法を行う.

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【ポイント】

◆手技のポイントは以下の3点である.

◆助手に直腸を展開させ,岬角より切開し,腹膜を多く切除しない.肛門挙筋までしっかり剝離する.

◆下腹神経前筋膜と直腸固有筋膜との間の疎性結合織を切離し,下腹神経,骨盤内臓神経,骨盤神経叢を温存する.

◆直腸を牽引した状態でメッシュを腸管へ固定する.さらに腹膜を修復し,ダグラス窩の挙上再建をする.

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はじめに

 今回の改訂では,基本的に第3版の形式と内容を踏襲しつつ,新しいエビデンスに基づいて記載が更新された.前版出版以降,「速報」として学会サイトで提示された治療法も,本文中に記載された.また新たに,「臨床研究としての治療法の解説」に替えて,実臨床に即したクリニカル・クエスチョンを設定し,現時点における回答と解説が加えられた.第4版の序文に7項目の改定点が列挙されている.それに基づき,主たる改訂のポイントを解説する.

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■■はじめに

 手縫いによるBillrothⅠ法(以下,B-Ⅰ)は,幽門側胃切除後の再建方法として,本邦では従来標準的な手技であり,普遍的に行われていた1).近年,腹腔鏡下手術の普及に拍車がかかり,さらなる低侵襲性を目指す流れのなかで,B-Ⅰを完全体腔内で行うためのさまざまな吻合法が開発されてきた2〜5).それらはすべて自動縫合器を駆使したものであり,背景には腹腔鏡下手縫いの煩雑さを回避し,簡便化を図る目的があった.このトレンドに対し筆者らは,開腹手術で支持されていた手縫い吻合の長所(単純さ,柔軟さなど)に着目し,腹腔鏡下にもこれを実践している.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・33

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素朴な疑問

 胃外科や食道外科では多くの先人が再建法の開発や工夫を重ねてきた.幽門側胃切除後の再建には残胃を十二指腸に吻合するBillrothⅠ法と空腸に吻合するBillrothⅡ法があり,輸入脚症候群を回避するのにBraun吻合やRoux-en-Y法が考案された.胃切除後の再建はBillrothⅠ法とBillrothⅡ法のどちらがよいだろうか.Roux-en-Y法がベストだろうか.

病院めぐり

新別府病院外科 菊池 暢之
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 温泉地は全国各地にありますが,高台から見える無数の白い湯けむりと温泉特有の香りこそが,別府を物語っているのではないでしょうか.最近では「おんせん県大分」で話題にもなり,ここ別府市は人口12万人で,別府温泉を訪れ宿泊する人は年間400万人を超えるそうです.

 当院は別府市の鉄輪温泉の近くに位置し,国家公務員共済組合法に基づき,組合員の福祉施設(結核対策病院:200床)として,昭和30年12月3日に開設されました.その後,昭和55年には一般病床に変更し,今では21診療科で病床数269床の急性期病院で,虎の門病院など全国に34病院ある,連合会病院の一つとして運営されています.病棟の第1期新築工事も終わり,平成26年8月には新病棟へ一部が移動しました.平成27年9月には新たな外科病棟も竣工の予定です.

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要旨

症例は62歳,男性.主訴は肛門痛であった.生検にてPagetoid spreadを伴う肛門管癌と診断し,腹会陰式直腸切断術,後大腿皮弁形成術を行った.術後8日目にCT検査にて機械性腸閉塞と診断し,緊急手術を行った.初回手術時に縫合閉鎖した腹膜の間隙に小腸が嵌り込み,内ヘルニアとなっていた.広範囲皮膚切除後の欠損部に充塡された皮弁の生着のため,骨盤死腔内はドレーンにより陰圧で管理されていたために小腸が嵌り込んだと考えられた.広範な切除部位を皮弁で充塡し骨盤死腔を陰圧管理する際には,内ヘルニアが生じる可能性を考慮することが重要である.

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要旨

症例は77歳,男性.下部直腸癌にて腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術を施行した.術後会陰部創感染を認めたが改善し,退院した.術後7か月ごろから会陰部膨隆による疼痛を認めるようになり,腹部CTにて会陰部皮下に小腸が脱出しており,続発性会陰ヘルニアと診断した.術後10か月に手術を施行した.腹腔鏡下に修復を試みるが,脱出腸管が囊内で強固に癒着している部分を認め,操作困難であったため,会陰アプローチに切り替えメッシュによる修復とした.術後漿液腫を認めたがドレナージにて改善し,退院した.術後6か月再発を認めていない.続発性会陰ヘルニアは稀な病態であるが,腹腔鏡下手術による癒着の少なさが増加の原因となっている可能性がある.小腸間膜過長症例では会陰操作に注意し,腹膜修復を考慮すべきである.

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要旨

症例は59歳,女性.主訴は左血性乳頭分泌.超音波検査(US)で左DCE領域に乳管拡張と管内充実性エコーを認め,同部からの穿刺吸引細胞診で乳管癌と診断した.造影MRIでは左乳頭下からD領域にかけて区域性濃染域を認め,USの評価より広範囲であった.この病変の広がりを,腹臥位撮影のMRIの位置情報を基に手術体位に反映させることは困難と判断し,仰臥位撮影の造影CTを追加した.このCTをボリュームデータとしてReal-time Virtual Sonography(RVS)で切除範囲を設定し,乳房部分切除を行った.病変は標本のほぼ中央で切除されており,RVSによる術前マーキングが有用であった.

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【はじめに】

 Seprafilm®を腹腔鏡手術に用いる手技についてはいくつかの報告がなされている1,2).その多くは小切開や12 mm portからの挿入であり,何らかの特殊な器具を用いた報告が多い.

 われわれは以前より,特殊な器具を用いずに種々の工夫により5 mm portから直接挿入する方法を報告してきた3,4).以前はSeprafilm®のC/Sプロシージャパックの1枚を6分割する方法を報告したが,今回新しい分割法を考案したので紹介したい.

ひとやすみ・121

名刺交換 中川 国利
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 名刺には名前を始めとして,肩書き,住所,電話やファクス番号,メールアドレス,さらには所属組織のシンボルマークや標語などが記載されている.また似顔絵や趣味なども記載し,個性を強調した名刺もある.外科医として勤務していた時代,MRさんや患者さんから名刺をいただくことはあっても,自分から名刺を差し出す習慣はなかった.ただ副院長として赤十字本社などを訪問する際にのみ必要で,任命時に200枚の名刺を生まれて初めて支給された.しかし6年間の任期中に名刺交換した機会は少なく,使い切ることなく多くが残った.

 血液センターに所長として異動し,名刺を500枚支給された.着任挨拶として,赤十字関係者を始め,県市町村,企業,学校など,献血に協力してくれる諸団体を訪ねた.また献血運動を推進するため,今までは参加したこともない同窓会や祭りなどにも積極的に顔を出した.そのたびに名刺を交換し,支給されたすべての名刺を3か月間で渡し終えた.そこで急遽800枚の名刺を追加発注した.

1200字通信・75

メンター(Mentor) 板野 聡
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 昨年の9月,第1回岡山大学外科同窓会に出席してきました.この会は,これまでの「医局」という壁を取り払い,「外科」という大きな枠組みで,若い外科医を育てていこうという熱意から生まれたものですが,時宜を得た素晴らしい決断だと喜んでいます.

 その特別講演のなかで,メンター(Mentor)という言葉が紹介されたのですが,興味が湧いて,早速調べてみることにしました.

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 初版以来十数年,待ちに待った「第2版」である.本書はとにかく,読んでいて,見ていて,「とても」楽しい.また疾患満載でとてもハンディである.しっかり見てもよいし,さっと見てもよいのが,本書の素晴らしいところである.

 本書の最大の特徴は,やはり画像が素晴らしい点である.初版もそうだったが,今回は拡大内視鏡,NBI,小腸内視鏡などが加わって,さらに充実した.私たちが以前から知っていた疾患が,拡大,NBIで見ると,「ああこんなふうに見えるのだ」というふうに,まるで新しい疾患を見たかのような錯覚に陥る.食道のクローン病などがよい例である.実は先日,食道の変な粘膜欠損の患者が来院したのであるが,本書を見て「これだ」と思って,内視鏡をしたら,まさしく食道クローン病であった.

昨日の患者

最期に食べたい物 中川 国利
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 人生の最期に,「食べたい物は」と問われたら,何を所望するであろうか.中国には真冬に筍を望んだ母親のために,孝行息子が捜し求める故事がある.現代では季節を問わず,また世界中の食べ物を容易に手に入れることができるが,やはりおふくろの味やふるさとの特産物が好まれる.

 Gさんは70歳代半ばの胃癌患者で,3年ほど前に胃を切除した.しかしながら癌性腹膜炎となり,激痛や腸閉塞をきたして再入院した.イレウスチューブ留置や減圧の胃瘻造設を拒否し,尊厳死を望んだ.そこでモルヒネを持続注入し,最少量の補液を行った.

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あとがき 渡邉 聡明
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 最近,“肛門”が注目されています.というのは,従来直腸癌の手術で,視野の確保が難しかった肛門管周辺(あるいは骨盤深部)を経肛門的に腹腔鏡手術のデバイスを用いてアプローチしようとする,いわゆるTAMIS(trans anal microsurgery)と称される術式が注目されているのです.海外の学会に行くと,腹腔鏡手術で使う単孔式用のポートなどを経肛門的に用いて直腸癌に対して腹腔鏡手術が行われています.先日見たビデオでは,経肛門的に脾彎曲部の授動を行っていました.脾彎曲部の授動までしなくとも,TAMISによる直腸切除術(TME)や,ロボット手術による経肛門的アプローチも報告されています.内視鏡手術の利点である拡大視効果を十分に生かした肛門管付近の新たなアプローチが期待されているのです.

 一方,今回は,肛門の良性疾患に対するアプローチについて特集を組みました.どの領域の疾患でも同様と思いますが,悪性疾患と比べて良性疾患に対する治療では術後の機能,整容性などを含めた総合的な治療成績がより強く求められます.特に肛門の良性疾患では排便により症状が出る可能性があるため,いかに症状を取り除き,術後のQOLを向上させるかが重要なポイントとなります.一見,同じように見える病変でも,基礎疾患,全身状態,病変の場所,年齢などにより治療法が微妙に異なってくる場合もあります.また一回の治療でうまくいかない場合には,再発を繰り返しQOLを損なう場合もあります.いかにQOLを確保して良い治療を行うかが重要となります.肛門疾患は日常診療で遭遇する機会があるものの,病態が多彩なため,微妙に異なる病変それぞれに対してベストな治療を行うのは必ずしも容易ではありません.そのためにはかなりの経験が必要となります.そういった意味で,今回は極めて経験豊富なスペシャリストの先生方に各疾患について解説していただきました.この分野の専門の先生方が豊富な経験の上に確立された治療手技を習得していただければと思い,特集を企画いたしました.是非とも,スペシャリストの技を“盗んで”いただければと思います.

基本情報

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臨床外科
70巻2号 (2015年2月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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