臨床外科 45巻5号 (1990年5月)

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 今日,腹部大動脈瘤の待期的手術はほぼ安全なものとなっており,直径4cm以上の腹部大動脈瘤は破裂の可能性があることから手術適応とされる.しかし,破裂性腹部大動脈瘤に対する手術は一般に死亡率30〜50%とされ不良であり,破裂に至る前の早期診断,早期手術が重要である.腹部大動脈瘤の診断は一般にエコー,CTなどで容易に行われる.手術方法は瘤切除+人工血管置換術である.特に破裂例では中枢側大動脈遮断経路が問題となり種々の工夫がなされる.また最近は,手術成績の向上に伴いpoor risk症例にも手術適応が拡大されつつあり,よりきめ細かな術前・術中・術後管理が必要である.

腸骨動脈瘤 矢野 孝
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 腸骨動脈領域に限局して発生する動脈瘤は孤立性腸骨動脈瘤と呼ばれるが,骨盤内の深部に位置するため見つかりにくく,急速に拡張して隣接臓器の圧迫の症状を表したり,あるいは破裂してから初めて診断がなされることも少なくない.破裂に至ってない総腸骨動脈瘤や外腸骨動脈瘤は手術手技に特別な問題はないが,内腸骨動脈瘤で大きいものは瘤が骨盤底に落ち込んで,末梢側の処理に難渋する.破裂の場合には緊急に手術を行うが,腹大動脈瘤破裂のときと同様,術前検査に時間を費しすぎて全身状態の悪化を招くことがないように注意する.

Leriche症候群 江里 健輔 , 秋本 文一
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 Leriche症候群は終末大動脈から両側腸骨動脈に至る慢性閉塞により,1)インポテンツ,2)間歇性跛行,3)下肢の疲労感といった症状を呈する疾患である.当初は,原因として血管壁の炎症性変化による大動脈閉塞が考えられていたが,現在では多くの症例が動脈硬化によるものとされている.本症は放置すると血栓閉塞が上行し,腹腔内臓器の虚血を来し致命的となることがあるため,診断が確定され次第,可及的早期に手術をすることが望ましい.血行再建は解剖学的経路に沿うものが好ましいが,全身状態不良例などでは非解剖学的経路で血行再建を行うこともある.また,血栓性閉塞が終末大動脈に限局する症例では稀であるがTEAも適応となる.本症に対する血行再建術の遠隔成績は極めて良好である.

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 進歩の著しい画像診断の頻用により腹部消化器領域の動脈瘤はこれまで考えられてきたほど稀ではないことが示されつつある.疾患パターン欧米化の表れとしての血管性病変の増加傾向に加えて,腹部血管撮影所見の詳細な検討により,消化管縫合不全などによる腹腔内膿瘍,重症膵炎,門脈圧亢進症などのかなりの例でも動脈瘤が発見される.医原性のものでは,動脈撮影の合併症による瘤のほかに,経皮経肝胆道造影法の合併症としての肝内肝動脈枝の瘤も稀ではない.最近のこうした傾向について,41症例47病変の自験例の供覧と分析結果を文献的考察に加味しながら,脾動脈瘤を中心に記述する.なお,瘤が超音波検査で血液乱流を伴う腫瘤像としてリアルタイムに観察できることもあり,新たな知見といえよう.

上腸間膜動脈閉塞症 三島 好雄
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 急性上腸間膜動脈閉塞症は今日でも診断の遅れからもっとも予後不良な急性腹症の一つとされている.不整脈や動脈硬化性病変を合併する高齢者で,身体所見より説明できないような激しい腹痛を訴える場合にはまず本症を疑うべきであり,経過によっては審査開腹の適応となる.開腹して腸管の生存性が疑われる場合には,一期的に腸切除を行うことなく血行再建のみを行ってsecond look operationとしてもよい.

 高齢者で食後に不定の上腹部痛を訴えるもののうち,臍上部に収縮期雑音を聴取する場合には慢性上腸間膜動脈閉塞症を疑って積極的に動脈造影を行い,適応があれば血行再建を行うべきである.

虚血性大腸炎 高橋 忠雄 , 山城 守也
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 虚血性大腸炎は,可逆性の虚血に基づく急性大腸炎と考えられている.しかしながら,この可逆性の虚血を病態生理学的に実証するのはかなりの困難を伴う.実験的に臨床例と酷似した所見を作り出すことはできるが,病因論的には多少隔たった感は否めない.結局,実験的・臨床的所見を総合して考察すると,虚血性大腸炎の成立には,必ずしも大血管の閉塞は必要条件ではなく,何らかの原因による腸管血流の低還流状態に加えて,腸管内圧上昇・壁伸展などの腸管側因子による壁内血流のautoregula-tionが失われた結果,大腸炎症状を表わすのかも知れない.臨床的に治療方針を示唆できるものであればclinical entityとして役立つものと考えられる.

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 消化管出血における消化管血管形成異常の臨床的意義および管理上の問題点につき,教室で経験した2症例の分析に,若干の文献的考察を加えて検討した.消化管内視鏡検査,血管造影検査,ラジオアイソトープ検査,消化管造影検査の普及,発達により,それまで原因不明とされてきた消化管出血症例のなかに,消化管血管形成異常が多く含まれていることが明らかとなった.しかしながら,いずれの検査でも診断できない場合,または致死的な大量消化管出血や患者の状態が悪い場合は,積極的に手術に踏みきり,術中内視鏡検査を中心とした診断手技を併せて行うことにより全例において正確な診断が可能であると考える.消化管血管形成異常の診断が得られれば,好発部位,合併疾患および多発性の可能性を念頭に置いて術式を検討しなければならない.

腎動脈狭窄 松本 昭彦
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 腎血管性高血圧症は腎の阻血によって起こることがGoldblattによって実験的に証明されたが,その後の研究で高血圧発症のメカニズムとしてレニン・アンジオテンシン系によるものであることが解明された.

 腎の阻血を起こす原因としては,線維筋性肥厚や動脈硬化による腎動脈狭窄,腎動脈瘤などが主なものである.わが国では線維筋性肥厚が最も多いが,動脈硬化も次第に増加する傾向にある.治療は外科手術が主になるが,バイパス術や血栓内膜摘除術が行われる.90%前後の降圧効果が認められる.最近,PTRAが行われるようになって来たが,その適応は慎重に決定されるべきである.診断は腎動脈造影と血漿レニン活性値を中心にして総合的に決められる.

カラーグラフ Practice of Endoscopy

胃・十二指腸内視鏡シリーズ・Ⅱ

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 超音波内視鏡(以下EUS:Endoscopic Ultrasono-graphy)は,従来の内視鏡では困難であった胃粘膜下病変の描出が可能なため,非上皮性腫瘍の診断にはきわめて有用な検査法である.EUSで通常胃壁は5層に描出され,第1,2層は粘膜層,第3層は粘膜下層,第4層は固有筋層,第5層は漿膜下および漿膜層に相当する.教室では1987年1月より胃悪性リンパ腫10例,胃粘膜下腫瘍46例,胃壁外性圧迫15例に対しEUSを施行した.

イラストレイテッドセミナー 一般外科手術手技のポイント

Lesson21 脾臓摘出術 小越 章平
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 脾臓のまわりの腹膜付着の状態を知っていることは,脾臓摘出術に不可欠である。それを理解するためには,脾臓ならびに周辺臓器の発生を知っておくと,その関係がわかりやすい。

心の行脚・8

学問の楽しみ 井口 潔
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 学問とは応用を目的とするものなのか?純粋に真理探求のためのものなのか?こんな問題を真面目に考えたことがあった.大学を出た頃のことである.終戦の年の卒業なので,日本全体焼野原で何から手をつけ,どう生きたらよいかわからないとき,何と呑気なことを考えたものかと思うが,昔の理想主義的教育の影響のせいだったかも知れない.その頃,東大医学部に血清学講座があり,緒方富雄先生が教授をしておられた.「医学と生物学」という研究速報誌を主宰して,学生でも投稿できるということであったので,何となく勝手に親近感をもち,この学問論について先生のお考えを一つお聞かせ願いたいと,上京の機会に先生のお部屋を訪れたことがあった.先生は変な若者が来たものと訝しく思われたことであろうが,そのご返事がどんなものであったのか,肝腎のところは今は全く覚えていない.

 その頃,額田晋という先生の臨床薬理学の著書があった.肩書に医学博士・理学博士とあるのをみて,医者で理博は素晴らしいものだナと憧憬のような思いがした.物象の本質を探るのが理学である.応用のための学問はレベルが低いのではないか,こんな他愛もないことを考えた時期があった.こんなことがあとで私を理学部に行かせた.そして理学部では「エントロピーの法則」に妙に魅せられた.これは今,「人間の科学」の追究で私の大きな興味になっているが,ここでは触れない.

一般外科医のための形成外科手技・17

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はじめに

 四肢は人間にとって大切な,起立歩行と手の機能を持ち,日常生活を営むうえで不可欠である.そのため作業やスポーツなどにより外傷をうけやすく,外科医が初期治療を行う機会が多い.Quality of lifeが求められる現在においては,これらの機能障害を残さないようなプライマリーケアが求められる.これを専門に扱うのは形成外科,整形外科,手の外科であるが,一般外科医が必要とするプライマリーケアについて軟部組織の初期治療を中心に述べる.

胆道手術の要点—血管処理からみた術式の展開・12

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はじめに

 乳頭部癌は膵癌,胆管癌にくらべ比較的予後の良いことが期待されるが,十二指腸潰瘍形成例,膵被膜浸潤例などでは必ずしも良好な成績は得られていない.しかし,主病巣が小範囲なだけに,膵癌同様の拡大膵頭十二指腸切除術を行えば根治率をさらに向上し得る可能性がある.一方,非露出腫瘤型とくに胆管側に病変をもつ例や乳頭型では,リンパ節転移の確率は低く縮小手術が妥当である.現在のところ,術前にこれら病変の拡がり,腫瘍の性質を確実にとらえることはできず,外科医の考えに基づいて拡大あるいは縮小手術が選択されている.ここでは乳頭腫瘍切除術1),全胃温存膵頭十二指腸切除術2〜5),膵頭十二指腸切除術の際の中等度拡張例に対する膵腸吻合法について述べる.

胆道手術の要点—血管処理からみた術式の展開・13

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はじめに

 胆嚢癌が無症状のうちに偶然発見されるか,または黄疸・発熱などの症状が発現して発見されるかによって,とるべき術式あるいは予後は大いに異なる.40歳を越える女性の胆石保有者はhigh riskグループであり,胆嚢摘出に際しては直後に粘膜面をよく観察することが肝要である1).超音波装置の発達普及によりpolypoid lesionの発見される頻度が増し,また膵管胆道合流異常の診断率も高まっている今日,胆嚢癌のhigh riskグループには予防的胆摘術が推奨されている.胆嚢癌に伴う臨床症状が出現してからの手術は極めて予後が悪く,したがってその根治的手術術式については多くの議論がある2〜5)

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緒言

 腹部大動脈瘤手術後の腸管虚血を引き起こさぬため,下腸間膜動脈(IMA)・内腸骨動脈(IIA)の温存・再建の必要性が論じられてきたが,その判断基準は未だ確立されていない.われわれは新しい術中モニタリング手段として経肛門的直腸内ドップラー法を開発し臨床応用を重ねてきた.

 今回は本法の所見を根拠としてIMA・両側IIAの3枝すべてを結紮し経過を観察しえた腹部大動脈瘤症例につき検討した.

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はじめに

 骨・軟骨化生を伴う乳癌は極めて稀で,その組織発生については上皮細胞あるいは間質細胞との関連が示唆されているが,未だ不明な点が多い,今回,われわれは術前に葉状嚢胞肉腫を疑い手術を行ったところ,骨・軟骨化生を伴う乳癌と判明した一症例を経験したので報告する.

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はじめに

 腹腔動脈瘤は稀な疾患であり,内臓動脈瘤の約4%を占めるにすぎない1),一般に無症状で経過することが多いが,破裂による死亡率は80%と高い.外科治療の最初の成功例は,欧米では1958年Shumackerら2)が,本邦では1969年山田ら3)が報告している.今回,われわれは心窩部痛,下血を主訴とする63歳男性の腹腔動脈瘤を経験し,瘤切除,血行再建術を施行したので報告する.

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はじめに

 胃重複症は消化管重複症のうちでも稀な疾患であると言われ,本邦報告例は1934年石井の報告以来50数例の報告をみている.今回,われわれは成人女性の胃重複症例を経験したので報告する.

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はじめに

 急性気腫性胆嚢炎(以下本症)は比較的稀な疾患であるが,腹部X線単純写真の特徴的な所見からその診断が可能になる.今回,胃切除後に発症した本症の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

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はじめに

 肝移植は,欧米においてはいまや肝不全に対する治療として確立されつつあるが,わが国では約20年前に2例が試みられたのみでその後臨床例は経験されていない.しかし,国内においても肝移植を希望する患者は年々増加しており,われわれの施設では,肝移植を強く希望する末期肝不全患者に対し,数年前より海外の施設への紹介を行ってきた.

 1988年8月現在,肝移植を希望し当施設を訪れた患者は計22例であり,実際に肝移植を受けた症例は7例である.内訳はアメリカにおいて2例,オーストラリアにおいて5例であり,現在6例が生存中である.また現在待機中の患者が8例おり,3例はすでに海外においてドナーの出現を待っている.肝移植を希望しながら死亡した症例は8例である(図1).

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はじめに

 腹膜偽粘液腫(Pseudomyxoma peritonei,以下本症と略す)は比較的稀な疾患である.本症の予後は悪く5年生存率40%1)といわれている.最近,術前に診断し得た卵巣癌原発腹膜偽粘液腫に対して,手術とともに術後粘液溶解療法ならびに補助化学療法を施行し奏効した症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

基本情報

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臨床外科
45巻5号 (1990年5月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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