理学療法と作業療法 22巻11号 (1988年11月)

特集 脳卒中

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 Ⅰ.はじめに

 脳卒中はその中核症状たる運動障害,失語,失認,失行,痴呆,視聴覚・知覚障害のほかに,随伴症状とも言うべき多彩な障害を呈することが多い.すなわち高頻度にみられる排尿,排便障害や褥創,肩手症候群,視床痛,自律神経障害,精神・心理的障害に加えて,性機能,呼吸機能,味覚障害なども検討されるべき問題である.

 中にはこれら随伴症状のために中核症状のリハが進められない症例もあり,これらに対する細心の注意と対処方法を心得ておくことは非常に重要である.すべてについてふれる余裕は無いが,特にわれわれの教室である程度の検討を行い,データを有する課題について述べる.

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 Ⅰ.初めに

 脳卒中に伴う痴呆症状は脳血管性痴呆(cerebrovascular dementia)の型をとることが多い1,2).脳血管性痴呆は脳血管障害による脳の器質的病変から起こる症状の一つであり,脳卒中患者ではリハビリテーション上の重大な阻害要因となっている3,4)

 脳卒中においては,初発年齢の高齢化,救命率の向上,発作後の平均余命の延長などにより脳血管性痴呆を随伴した患者が増加している.脳卒中の理学療法を実施する際,脳血管性痴呆の存在が身体機能の障害以上に大きな問題となり,失語・失行・失認などの高次脳機能障害とともにその病態の理解と適切な対策が必要とされることが少なくない.

 本稿では,脳血管障害に関連して生ずる脳血管性痴呆のとらえかたとその対応について文献的に概説し,脳血管性痴呆を伴った患者(痴呆患者)の運動や動作の問題点を行動障害という観察からとらえた場合に,理学療法が果たすことのできる役割について私見を加え述べてみたい.

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 Ⅰ.はじめに

 人間は生命維持のために肺を介して外界から酸素を取り入れ,炭酸ガスを体外へと排出して諸活動を営んでいる.したがって,呼吸機能が低下すると,それに伴って運動機能も低下する.それが四肢筋,呼吸筋の萎縮,心循環系の適応能力の低下を助長する悪循環に陥る.また,逆に脳卒中患者などで片麻痺を呈するとそれに伴う上肢,下肢の運動機能の低下はもちろんのこと,呼吸に関係した神経,筋の障害により呼吸機能も影響を受けることとなる.それに加え環境や加齢に伴って身体諸臓器の機能にも変化が出現する.特に肺は気道により外界に直接開口している臓器であるため,喫煙や大気汚染など外界からの侵襲を容易に受ける.また高齢になればなるほど肺の予備力が低下し,感染に対する免疫力の減退などで他疾患に罹病する危険性も高くなる1)

 これまで,脳卒中患者の運動機能との関連で,運動耐久性については黒木2),間島3)らがトレッドミルを使用した歩行能力について報告している.また,脳卒中患者の肺機能,胸郭,横隔膜などについても井口4),尾田5)がX線透視,呼吸機能検査について報告している.しかしながら,脳卒中患者を対象として,系統的に呼吸機能を調査し検討を加えた論文は少ない.

 そこで,今回われわれは,最初にⅡで脳卒中患者の肺機能の実際について,肺機能検査結果を中心に述べる.次にⅢでX線透視,筋電図を使用した横隔膜運動について呼吸への影響を検討(Ⅲ)してみる.最後にⅣで分時換気量,酸素摂取量,仕事量(以下,METSと略.)などよりみた運動耐久性について述べてみたい.

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 Ⅰ.初めに

 「失語症患者への接しかた」「コミュニケーションの取りかた」などは,かなり以前から取り上げられ,論じられてきているテーマである.そして,“こうすれば良いはず”という「一般論」は,ほぼ書き尽くされていると言ってよい.

 それらはどちらかと言うと患者の家族向けに書かれたものがほとんどであり,まず失語症をよく理解する必要があることが強調されている.また,失語症患者に接するうえでの心構えや望ましい態度,さらに具体的にどのようにして意志の疎通を図るかという実践論が述べられている.その点においては,すでに本誌に綿森1)や遠藤2),それに筆者ら3)が具体的に書いているので参照していただきたい.成書では遠藤4)や竹内ら5)の解説が要領良くまとめてあるので,興味のある方には一読をお勧めする.

 さて,それはそれとして,これらはやはりどれも「一般論」であるだけに理学療法や作業療法の臨床の現場でどれほど,具体的に利用できるかというと心細いように思える.

 筆者は,この稿をまとめるに当たって,「一般論」を再び論じることは避けたいと考えた.そして,まず自分の担当している比較的重症な失語症患者の理学療法の訓練を虚心坦懐に見学させてもらうことからスタートした.理学療法士はどうやって失語症の患者とコミュニケートしているのか,訓練の現場から問題点の発見をし,整理をしてみようという訳である.今回は,その結果の一部を紹介しつつ,言語療法士の目(あるいはセンス)で感じたこと,考えたことを中心になるべく具体的に書いてみたい.(なお,今回ここで述べるのは,あくまでも当院の理学療法の訓練の一部を観察した結果であること,それに作業療法の訓練をみていないので,作業療法の訓練場面にはまた違った問題点があるかも知れないが,それにはふれていないこと,以上の二点をお断わりしておきたい.)

とびら

歴史から学ぶこと 古川 宏
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 われわれは歴史から学ぶことが数多くある.「歴史は繰り返す.」という如く,時代は違っても同じような事象は歴史の中に見つけ出すことができる.司馬遼太郎の小説にみるように戦国時代や幕末・明治時代の動乱期は小説の題材になりやすく,人々の姿は生き生きと描かれている.しかし,重要なのはその次の世代がいかに創設者の業を継いで組織的に安定させ,ゆるぎないものにするかにかかっている.徳川秀忠と家光が重要なのである.

 リハビリテーションの世界を考えたとき,リハビリテーション関係者がすべて「日本のリハビリテーションの確立」の目標の下に協力して仕事を行い,そのうえ,経済高度成長期という「良き時代」から,経済不況,医療費の高騰,社会構造の変化に基づき医療全体が目まぐるしく変わる時代に入ってきた.この時代にしっかり今後の方向づけをすることはその時代に生きた世代の役割であろう.

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 Ⅰ.初めに

 作業を遂行するために必要な技能は運動技能だけではない.生物心理社会的存在としての人間が作業を遂行するためには,作業の難易度にもよるが,人間のもつあらゆる能力が要求される.したがって作業の学習には,運動学習に加えて知覚学習,認知学習,言語学習,高次の学習(問題解決学習,推理など),社会的学習などが関与する.

 本稿では,初めにいくつかのキーワードを定義し,その定義に従って,リハビリテーションにおける作業療法の立場から,「作業と学習」について議論を進める.

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 Ⅰ.初めに

 普段“老人”と言うとき,「年をとった人」「年寄り」といった漠然とした意味あいで使われていることが多い.「老年」といった場合もほぼ同じような意味あいをもっているようであるが「老年期」といった場合にみられるように“年をとって環境への適応能力が衰え,知能の低下などの変化が起こる時期”といったニュアンスが強い.老人とか老年といったときに何らかの仕事に就いて社会の一翼を担うといったイメージはそれ程強くないことも確かである.確かに政治家や経営者の人の中には,とても“老人”とは思えないような人も少なくない.また70歳を越えても若い人に負けない営業成績を挙げているタクシー運転手もいる.

 “老人”に比較的近いことばとして,「高齢者」とか「高年齢者」といったもの,さらに「中高年」といったものもある.

 いずれのことばであっても,特に“年をとる”という意味から考えると皆それなりに納得ができそうである.誰でも確実に毎年1歳ずつ“年をとる”わけであるが,よく言われるように年をとることによって起こるさまざまな変化は個人差が大きく,暦年齢によって一概に区分することはかなり困難である.

 そうは言っても,多くの人々が概ね変化をし始める年齢を析出し,いちおうの目安にしている.例えば厚生行政においては,65歳以上を対象として施設福祉などの施策が講じられていることが多い.また,労働行政では,55歳以上を「高年齢者」,45歳以上を「中高年齢者」と規定している(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律).

 特に「職業」を考える場合,45歳以上あるいは55歳以上を考えるほうが,より現実的であるように思われる.このことは例えば,有効求人倍率において全年齢の平均求人倍率を下回るのは「45~49歳層」であることや,失業率において同様に全年齢の平均を上回るのが「55~59歳層」であることなどからみてもいちおう意味がありそうである.

 ここでは,45歳以上から64歳ぐらいを主な対象として,いちおうの目安にしておきたい.

プラクティカル・メモ

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 1.初めに

 脳卒中片麻痺の患者において,骨盤のリトラクションに問題を有する者は,非常に多い.それに対し理学療法士は操作して対応するが,体重があり,かつ筋収縮の弱い患者の場合その操作は,理学療法士にとって,かなりの力が必要である.そこで,今回は,骨盤の操作に対し,より効果的で,より楽に操作できるよう,従来の歩行補助バンドを改良したので,報告する.

クリニカル・ヒント

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 作業療法の臨床場面で,「訓練にのらない」,「やる気が無い」と言われる患者を私たちはしばしば担当します.私たちが治療上扱いにくく苦手と感じるのは,このような治療にのりにくい(課題への取り組みが悪い)患者だと思います.当院は脳血管障害による片麻痺患者が大多数を占め,課題への取り組みが悪い患者も数多く体験します.このような患者(例えば,指示された範囲しか課題を行わない,指示されたことが継続できない,など)に対し,形のうえで治療が継続されていても,私達は心の内で治療を放棄してしまうことが有りがちではないでしょうか?(もちろん,それまでに治療上の葛藤はあると思います.)ここでは脳血管障害による片麻痺患者で課題への取り組みが悪い患者について,その原因,麻痺側からみた違い,接しかたについて述べます.

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 慢性関節リウマチ(RA)患者のROM訓練は,機能の維持・改善のために基本的で重要なものであるが,適切に実施するのは非常に難しい.RA手を扱うときには最低上肢の全関節・筋を考慮しなければならないが,それらすべてを網羅する能力は無いので,手のROM訓練に限局して,留意点をいくつか述べさせていただく.

プログレス

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 本協会は1966年(昭和41年)7月に設立され23年を迎える.設立時,110人の会員は現在5942名(1988年7月)を有する.これまでの有資格者の累計は7035名(1987年)に上ほるが,会員の組織率は80%以上を維持しつつ活動を続けている.

 会員の平均年齢は32.8歳であり,30歳以下が会員構成の55%を占める若い集団である.男女比は男性が4131名(70%),女性が1811名(30%)であり,全体としては男性が非常に多いが,24歳以下ではむしろ男女比は逆転し女性が多くなっている.

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 最初に,先生の現在のお仕事についてお教えください.

 現在私はバンコック市にあるMahidol大学医学部Siriraj病院理学療法士養制校の準教授を勤めております.

 そこで講義をし,臨床指導も行います.実技指導の主任であり,理事でもあります.

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 国連が定めた1981年の「国連障害年(IYDP)」の成果として,1982年の国連総会では<障害者に関する世界行動計画>が決議され,障害者問題解決に向けて国際的行動の継続が図られた(総会決議37/52,1982年12月3日).さらに決議37/53として,同行動計画を実施するために1983年~1992年を<国連・障害者の10年(UN Dicade of Disabled Persons)>と宣言したのである.そして,その中間点である1987年(昭和62年)を中間年とした.

 中間年とする最大のねらいは,<世界行動計画>の実施状況を評価して,10年の後半期に計画のいっそうの履行を促進することにあった.

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 Ⅰ.初めに

 英国の理学療法士協会誌であるPhysiotherapyの総論文数は83編と多いが,実験論文が少なく総説論文が多いのは従来と同じである.分野は多岐にわたっており,項目別に整理してみると,物理療法に関するものがかなり多く14編,運動療法11編,補装具9編,褥瘡4編,小児6編,老人3編,教育6編,卒後教育9編,コミュニケーション3編,管理・経営6編,用具の考案5編,その他9編である.そのうち,超音波療法,補装具,褥瘡,卒後教育,コミュニケーションについては特集が組まれている.なお,文中の〔 〕内は論文の号数とページ数を示す.

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 Ⅰ.はじめに

 Korsakoff症候群は,記銘力障害,見当識障害,作話,逆向性健忘を主徴とし,日常生活が著しく障害される.著者らの知る限りでは,Korsakoff症候群を対象とした作業療法の報告は無い.今回,無酸素性脳症の急性期を過ぎた後に,重篤なKorsakoff症状を残した1症例に,比較的よく保たれている日常習慣(手続記憶)1)を手がかりにして,日常生活の適応を高める目的で積極的に作業療法を行った.そして,半年間の治療の後に,家庭復帰可能の状態にまで改善させることができたので,その経過について報告する.

FORUM フォーラム ふぉーらむ

前略,退院しました! 浅田 和之
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 先日,急性肝炎(A型)により,生まれて初めての入院生活を約1か月間経験しました.そのときの感想を述べてみたいと思います.

 まず第一に,話をする際の口調や態度の影響力は大きいということです.入院中,私は主治医からの検査結果や症状の変化の説明を受けるたびに一喜一憂していたものでしたが,時々,やや流暢さに欠けたり,口ごもったり,普段と少し感じが変わっていたりすると,後でそのことばかりにやたらと関心が集中し,勝手に心配してみたり気にかけたりしていました.

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文献抄録

編集後記 奈良 勲
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 この編集後記を書いている今,ソウルオリンピックは終盤に入っている.話題になった,ジョンソンとルイスの対決は,驚くべき世界記録で金メダルを手にした前者の勝であった.しかし,彼が筋肉増強剤を使用していたとのことで,メダルの剥奪と2年間の出場停止という判定が下された.薬物使用の禁止を守らなかったことは,問題があるにせよ,もしその使用によって,あれほどの記録が出せたとしたら,これは注目に値する事実と言える.薬物を病人の機能を高めるのに用いることはできても,人間の限界を拡大するのに用いていけないのは,アマチュアスポーツ精神に反するからか.科学を駆使したスポーツ用具の改良によって更新された記録はいくらでもあるが,科学的成果による薬物使用は,単に副作用を案じてのことか.

基本情報

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理学療法と作業療法
22巻11号 (1988年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0386-9849 医学書院

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