小児科診療 85巻12号 (2022年12月発行)

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特集　医療情報の利活用　現在と未来

I.医療情報の現状と問題　医療情報の利活用の現状と問題藤井　進 , 坂野　哲平 , 矢作　尚久 85巻12号 , 2022年12月 , pp.1501-1513

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▼わが国では医療情報の利活用を国策として推進しているが、必ずしもすすんでいる状況にない.▼すすまない理由の1つは狭義な医療情報を前提にした活用方法で臨床側の要求を満たしていない.▼広義の医療情報は電子カルテに限らず,診療において患者由来で発生するあらゆるデータである.▼有識者の中心が医療情報の専門家で,データ管理や精度の視点で規格化や標準化に注力してきた.▼今後は具体的な利活用を想定し,デジタル医療などを日常診療との共存も含め検討すべきである.▼それにはPHRがエッジとなり,国際標準で利便性のあるサービス機能を提供することが重要となる.▼また医療情報の利活用が新たなバイアスや医療過誤,社会課題とならないようにする必要がある.▼利活用の促進は従来診療の流れに囚われず,俯瞰的に全体解の最適化を導くことが重要である.

I.医療情報の現状と問題　医療データに関する倫理的･法的問題について吉澤　尚 , 鈴木　修平 85巻12号 , 2022年12月 , pp.1515-1521

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▼2022年4月1日に改正個人情報保護法が施行され,これに伴い,同日｢人を対象とする生命科学･医学系研究に関する倫理指針｣も改正されたことから,医療業界における影響を確認する.▼今回の改正によって精緻化された学術研究目的の例外について確認する.▼学術研究後のデータの利用に関する統制について検討する.

I.医療情報の現状と問題　オンライン医療の現状と今後の展望稲生　優海 , 豊田　剛一郎 85巻12号 , 2022年12月 , pp.1523-1528

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▼新型コロナウイルス感染症の流行に対する特例措置は,わが国のオンライン診療に大きな影響を及ぼした.▼令和4年度診療報酬改定により,特例措置下のオンライン診療･オンライン服薬指導の要件が,恒久化された.▼医療情報の標準化と共有は,わが国の医療において早急に解決が求められる課題の1つである.

II.医療情報の共有,利活用　NICUの遠隔診療支援システム岩永　甲午郎 85巻12号 , 2022年12月 , pp.1529-1536

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▼近年の医療界ではDX(デジタルトランスフォーメーション)や,ICT,AIなどイノベーションがすすんでいる.日本では少子高齢化を背景に,質の高い医療を効率的に提供できる体制を構築するために,｢地域医療構想｣を策定し中長期的視点で医療機関の機能分化と連携をすすめる方針となっている.▼周産期領域でも医療従事者の不足や地域偏在に加え,働き方改革の導入や新型コロナウイルス感染拡大が重なり,DXやICTによる業務変革が求められているが,これらの課題解決として遠隔コンサルテーション運用などが期待されている.▼本稿では厚生労働省における遠隔診療の枠組みと国内外での運用事例について紹介し,現状の課題や将来の展望について概説する.

II.医療情報の共有,利活用　予防接種福神　雄介 85巻12号 , 2022年12月 , pp.1537-1542

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▼乳幼児の予防接種記録は各地域自治体においてデータ保存されているものの,紙ベースの記録を手入力といったヒューマンエラーのリスクが高い方法が続いていて,デジタル化がほとんどすすんでいない.▼今般のコロナワクチン接種では接種記録の全国一律のデータ入力が実施され,デジタル化がすすんだ.▼この経験としくみを活かし,予防接種記録をはじめとする健康記録(PHR)のデジタル入力･保管と,臨床現場で手軽にデータ利用できるしくみと環境の構築がすすむことを期待する.

II.医療情報の共有,利活用　乳幼児健診情報の電子化と利活用中野　孝介 , 伊藤　友弥 85巻12号 , 2022年12月 , pp.1543-1548

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▼個人に紐づいた健康情報(personal health record)の活用が謳われて久しい.▼成人の特定検診などのデータ活用が広く知られているところだが,PHRは成人のみがもつものではない.▼小児科領域では,乳幼児健診,予防接種,学校健診などの場面で様々なPHRが作成されているが,その電子化,PHRとしての個人による活用などは行われていない.▼本稿では,愛知県大府市をフィールドとして行われた乳幼児健診の電子化実証を紹介し,その際に浮かび上がった課題について解説をする.

II.医療情報の共有,利活用　救急医療における医療情報の課題と解決策園生　智弘 85巻12号 , 2022年12月 , pp.1549-1554

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▼医療にかかわる情報はそれぞれの機関内では電子化されているが連携されておらず,医療の効率化を阻害している.▼災害や救急医療では,医療にかかわる個人情報保護の必要性と個人情報の共有メリットのバランスを取ることが必要である.▼重症患者をカバーする救急隊と病院の情報連携プラットフォーム,さらに問診と医療相談のプラットフォームの適切な構築は医療情報の連携を促進し,医療の質を向上させる.

II.医療情報の共有,利活用　災害時和田　雅樹 85巻12号 , 2022年12月 , pp.1555-1560

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▼災害時対応の原則はCSCATTTを確立することであり,被災･医療情報の的確な管理が重要である.▼院内での医療情報の収集･発信は,災害対策マニュアル等に則って被害報告書の提出によって行う.▼院外との情報交換は院内災害対策本部を通じて行うのを原則とするが,緊急時の情報管理手段として,EMIS,PEACE,専門領域や地域のネットワークなども有用である.▼患者情報は厳密に保護されなければならないが,災害時は個人の生命･健康保護の観点から,災害対策基本法によって,情報の共有･提供に関して平時とは異なった対応も認められている.

II.医療情報の共有,利活用　面会kioskシステムによるNICUでの面会者(保護者)情報の取得と活用川本　豊 85巻12号 , 2022年12月 , pp.1561-1567

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▼面会kioskシステムは面会者のタッチスクリーン操作により以下の情報を記録する.(1)面会者,面会の開始･終了日時,(2)面会者家族の感染症状についての質問結果(3)面会者が面会中に児に行った行動(4)面会者が感じた児の元気良さと安心度(5)看護,治療,医師説明に対する面会者の満足度と面会システムの評価▼面会データは患者ごとにスタッフ間でリアルタイムに共有可能でFCCに有益である.▼面会データはデータベースとして医療･サービス向上,臨床研究に利用可能である.

III.医療データベース　新生児臨床研究ネットワーク(NRNJ)について中西　秀彦 85巻12号 , 2022年12月 , pp.1569-1576

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▼新生児臨床研究ネットワーク(NRNJ)は,1)共通データベースの構築とベンチマーキング,2)新生児医療の質向上,3)臨床医学研究の推進を目的に,2004年に設立された.▼NRNJには,出生体重1,500g以下の新生児の周産期因子およびアウトカムに関する症例別診療記録が登録されている.▼国内における新生児医療の質向上のみならず,NRNJからの英文報告,国際間比較により日本のすぐれた新生児医療が世界へ発信され,また若手育成にも役立っている.▼NRNJの活動を通じて,世界へ発信できる人材の育成が重要である.

III.医療データベース　DPC情報を利用した疾患分析の現状と課題荒木　俊介 , 冨岡　慎一 85巻12号 , 2022年12月 , pp.1577-1582

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▼DPC(診療群分類包括評価)は,診断病名と手術･処置との組み合わせの分類により1日あたりの包括診療部分の医療費が決められるわが国独自のシステムである.▼DPCのデータは臨床現場のリアルワールドデータとして研究にも活用でき,希少疾患でも大規模なデータを入手し,解析することが可能となる.▼一方で,臨床データが限られ,長期のアウトカムの評価ができない弱点もある.▼データアクセスへのハードルも高く,研究デザインの構築には臨床疫学や医療情報学の専門家との連携が鍵となる.

III.医療データベース　小児医療における情報収集システムの整備加藤　省吾 , 矢作　尚久 85巻12号 , 2022年12月 , pp.1583-1587

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▼医薬品の安全対策において,副作用を評価できる電子診療録からのデータベースは重要である.▼治験やマーケット規模の難しさなどのため,小児用として承認されている医薬品は少ない.▼成育医療研究センターでは,使用実態や副作用を評価するため｢小児医療情報収集システム｣の整備をすすめている.問診システムからの問診情報,電子カルテシステムからの検査,病名,処方,注射情報を収集している.▼汎用的な情報流通基盤をベースに,日常臨床を通じた情報収集,および臨床研究の実施が低コスト･低リスクで可能となる.▼当該分野およびデータ･分析手法を熟知した人材育成が急務である.

III.医療データベース　薬剤臨床研究中村　秀文 85巻12号 , 2022年12月 , pp.1589-1593

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▼薬剤の有効性を評価する介入試験の実施の際には,対象とする疾患の自然歴情報が必須である.▼自然歴情報には,有効性等のバイオマーカーの経時的変化の情報が格納されている必要がある.▼医師の有効性評価は,特定の症状･検査値ではなく,複数の指標の時間的変化で行われている.▼AIを活用すれば,有効性評価指標は症状･検査値等の関数として示すことができるようになろう.▼既存のレジストリには,医薬品評価に必要な情報が不足しているものが多い.▼医療情報の構造化されたデータベース化がすすめば,薬剤臨床研究の質も飛躍的に向上する.

IV.診療支援システム　診療支援システムの全体構想森川　和彦 , 矢作　尚久 85巻12号 , 2022年12月 , pp.1595-1603

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▼医療,特に小児医療は,子どもの成長発達から個々の特異的疾患に至る全人的医療を求められ高度な診療技術とともに患者･家族に寄り添った生活の支援や指導を要する.▼診療支援の理想は,個人の状態に応じて患者が最適な｢タイミング｣で医療サービスとマッチングされ,個人に手を差し伸べ生活をアシストすることである.▼診療支援の実現には,日常診療を支援するアプリケーション等技術の一般化と個人の健康･医療･生活等の情報を統合･再構成し,患者個人の意思に基づく流通制御･利活用環境の整備が必須である.▼情報流通基盤は医療のあり方を再定義し,医療現場の支援のみならず,臨床研究や医薬品･医療機器の開発から物流,さらには社会保障制度をも変革させ,効果･効率的な社会を創造する.

IV.診療支援システム　診療支援システムの実際の運用(小児科) 森田　英明 , 矢作　尚久 85巻12号 , 2022年12月 , pp.1605-1612

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▼診療支援システムは,患者が受診を検討する過程から診療に至るまでのフローと,医師の意思決定プロセスを詳細に分析し開発された.▼診療支援システムは,診療におけるリスクの低減,効率化,医療マーケティング,臨床研究推進,医療連携強化に有用である.▼診療支援システムの導入により医師に生まれる時間的,心理的余裕は,より質の高い医療の提供につながる可能性がある.

IV.診療支援システム　診療支援システムの実際の運用(新生児) 三輪　雅之 85巻12号 , 2022年12月 , pp.1613-1617

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▼新生児医療現場では個人の負担増加が大きく,診療業務を効率化し,診療そのものを支援するシステムの構築が必要であった.しかし実臨床に即した診療支援システムは存在していなかった.▼近年,臨床医の診療方針プロセスを解析し,症状や重症度だけでなく,状態変化を捉える診療支援システムが構築され,症状の微細な新生児の診療支援そのものが可能となった.▼このシステムは単純な診療支援だけでなく,遠隔地診療支援,医療教育による医療水準の向上,診療の効率化などにもつながり,ひいては患者個人にとって,状況と特性に応じた適切でよりよい医療を受けられる環境を形成していくことが予想される.

基本情報

小児科診療
85巻12号
(2022年12月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：0386-9806 診断と治療社

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