耳鼻咽喉科 50巻1号 (1978年1月発行)

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カラーグラフ　目でみる耳鼻咽喉科

頭頸部脈管系腫瘍の治療小池　吉郎 , 加藤　功 , 青柳　優 , 木村　洋 , 鈴木　八郎 50巻1号 , 1978年1月 , pp.4-5

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　いわゆる脈管系腫瘍晒"Vasoformative Tumor"は発生学的には大多数が頭頸部に発生するといわれ，WaltonおよびMcCarthy（1940）の統計では頭頸部に発生するものが56％と過半数を占め，その73％が出生時に，12％は出生後1年以内に発生する。分類は区々であるが，一般にリンパ管系由来が主体のリンパ管腫と，血管系由来が主体の血管腫に大別される。リンパ管腫は，①単純性リンパ管腫，②海綿状リンパ管腫，③嚢腫状リンパ管腫に分けられ，③は腫瘍の発育が急激であることから治療上もつとも問題となる。また，血管腫は臨床的には，①毛細管性血管腫，②海綿状血管腫に大別される。

　治療法：治療に先立ち動脈血管撮影が望ましい。これにより流入血管の有無およびその状態からリンパ管腫か血管腫の鑑別と治療方針決定上重要な情報となる。治療法としては外科摘出，血管結紮，電気凝固，凝固剤の局所注入，放射線療法，穿刺吸引などがある。リンパ管腫の治療の原則は外科的摘出が第一優先となる。腫瘍が残存した場合必ず再発するので第二次手術はできるだけ早期に行なう。血管腫の場合はcase by caseで昔からwait and watchの原則は崩れないが，もし腫瘍の増大が急激のときは外科療法の対象となる。多くは支配血管を確認し結紮後低体温麻酔下外科摘出がよい。また，海綿状血管腫は顔面の場合は電気凝固を，口腔内の場合は冷凍凝固を第一選択とする。なお，外科的摘出に際し腫瘍が耳下腺部に及ぶ場合には顔面神経を保存すべきことはもちろんである。

総説

扁桃の免疫学的位置づけ蔣　中山 50巻1号 , 1978年1月 , pp.9-18

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　Ⅰ．緒言

　扁桃（口蓋扁桃を主として以下略）問題を基礎と臨床に分けられるとすると，基礎学的に従来扁桃の機能が論議されて来たが，やつと扁桃は免疫臓器である^1）〜17）ということに落ちついたようである。しかし問題はこれで決着がついたのではなく，むしろ逆に免疫臓器と判明したが故に，では一体中枢性であるのか，それとも末梢性であるのかとの一層ややこしい論争が展開される。また臨床面でも，扁桃性病巣感染^{18）〜29）}を中心に扁摘の適応問題が再検討されるようになつたが，扁摘による脱落症状がないということだけで気儘に摘られた扁桃は，その免疫学的面から再評価され，慎重にあつかわれるようになつた。これはとりもなおさず扁桃の免疫学的位置づけがいまだ完全に解決されていないという基礎学的問題と直接関連して来るわけで，その証拠にもし扁桃がリンパ節と同じく完全に末梢性のものであれば，1,2個のリンパ節を摘出するのと同じく，扁摘はもつと気軽に行なわれるべきであり，むしろ扁桃の感染率からみて，そうした方が厄介な炎症性病巣を除く意味で推奨されるべきである。

　以上のいきさつから，この問題がどのように考えられているかを文献的に考察し，あわせて私見を述べてみたい。

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本誌発行50周年を祝す大藤　敏三 50巻1号 , 1978年1月 , pp.7

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　顧みると昭和3年（1928）に「耳鼻咽喉科」が発刊されて専門学会ならびに臨床医界に登場して本年（1978）で恰度50年になつた。

　辿り着いた山の中腹から俯瞰する羊腸たる山路に思わず一時の回顧が許されるならば幸いである。と同時に前途幾山河の路の峻わしさにも思いを馳せるならば編集員一同の感慨も又一入なるものがあろう。すなわち専門臨床医学への過去50年の貢献度に対して編集員一同は己を空しくして沈思黙考し，来たるべき将来への展望を予想せねばならぬ年輪の節に到達したからでもある。

聴神経腫瘍の早期診断および治療に対する神経耳科的アプローチ—III．拡大中頭蓋窩経由法の変法について神崎　仁 , 塩原　隆造 , 河瀬　斌 , 佐野　公俊 , 戸谷　重雄 50巻1号 , 1978年1月 , pp.19-28

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　これまでの報告で聴平衡覚所見^8），内耳道後頭蓋窩造影法^9）を中心に聴神経腫瘍（以下ATと略す）の早期診断についてのべてきた。このようにして早期に診断された中等大以下の腫瘍に対しては，腫瘍が内耳道内に限局していれば中頭蓋窩経由法（以下MF法と略す）を，また後頭蓋窩に2.0cm程度進展している腫瘍に対しては経迷路法（以下TL法と略す）を行なつてきた。しかし，このような手術法に対しては神経耳科的立場からのみならず脳外科的立場からも批判，検討が加えられている^{2）11）13）15）}。内耳や内耳道疾患の外科的治療という意味で神経耳科的手術という名称を付すならば，このようなMF法やTL法の適応となつた例は最近7年間のAT 35例中40％である^8）（第5表）。二次的手術例を除くならば約30％にすぎない。技術の進歩により，HouseらのグループではTL法によりほとんどの腫瘍が摘除可能である^6）。しかしわれわれの少数の経験例からではあるが，後頭蓋窩に2.0cm以上進展している例ではTL法か後頭下法のいずれを選択するかの判断は症例にもよるが仲々困難であつた。そのため経迷路法で摘出できず，二次的に後頭下法を行なつた例も経験された。また中頭蓋窩経由法で摘出可能と思われた例で，実際には腫瘍が後頭蓋窩に進展していたため二次的に経迷路法が施行された例も報告されている^4）。しかし中頭蓋窩経由の適応例と誤診した例でも，一次的に中頭蓋窩より迷路を部分的に削開し，硬膜にも切開を加え摘出された報告もあり^4），われわれも同様の経験例をもつている。Bechenekらはこの方法を発展させ拡大中頭蓋窩法としATに対する手術的アプローチとして用いうることを報告した^7）。しかしわれわれはBochenekらの方法では，なお術野が狭いので，骨削開の範囲をさらに拡大し，終局的に，視野の点では後述するMorrisonら^12）の方法と同じくテント切開を加え，彼らとほぼ同様な術野を得るようにした^7）10）。

　この方法は後頭蓋窩に進展した中等大以上の腫瘍に対して，耳科医と脳外科医がチーム・ワークによつて行ない得る手術法と考えるので，ここにその経験を報告する。

細網肉腫の治療成績—とくにその治療方針について涌谷　忠雄 , 小林　仁和 , 清水　友収 , 宮国　泰明 50巻1号 , 1978年1月 , pp.29-33

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　I．はじめに

　本邦における悪性リンパ腫の代表格である細網肉腫に対する治療方針については，まだ西欧におけるホジキン氏病ほど一貫した方法がないため，わが教室における治療成績を検討し，より有効な治療法を確立するための新しい試みを行なつたので報告する。

副咽頭間隙に発生する腫瘍—症例報告および文献的考察宮原　裕 , 東家　倫夫 , 高村　善夫 , 前田　和雄 , 佐藤　武男 50巻1号 , 1978年1月 , pp.35-43

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　1．はじめに

　副咽頭間隙（parapharyngeal space）は局所解剖学的に複雑な場所であり，重要な血管，神経を含んでいる。しかし，臨床上は同部に病変の発症することは稀であり，しかも副咽頭間隙に発生する腫瘍は良性腫瘍がほとんどで，その頻度も低い。そのために耳鼻咽喉科医にとつて余り注目を集めない部位である。

　われわれは最近，副咽頭間隙に発生した良性腫瘍を手術的に摘出したのを機会に，経験例をもとに本邦報告例を集計し，その病態，病理組織，手術法の選択などについて考察を試みた。

舌小帯短縮症例（親子例）村島　二郎 , 前田　剛而 50巻1号 , 1978年1月 , pp.45-46

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　先天性舌小帯短縮症はさほど稀有な疾患ではないが，母親とその子供ら（3児すべて♀）に家系的に認めた子症例を経験したので報告する。

聴器悪性腫瘍—当科における10年間の症例について原田　勇彦 , 平出　文久 , 野村　恭也 50巻1号 , 1978年1月 , pp.47-58

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　I．はじめに

　聴器に発生する悪性腫瘍はきわめてまれであり，とくに中耳の悪性腫瘍症例は腫瘍発生部位の解剖学的な特殊性および早期発見が遅れ治療が困難な点より予後が悪いことで知られている。最近10年間に私どもは17例の聴器悪性腫瘍を経験した。ここに症例の一部をとりあげ，国内外の諸文献と比較しつつ症例の統計的観察を行ない，いくつかの観点につき知見を得たので報告する。

多発性耳下腺唾石症綾仁　信夫 , 島野　圭司 , 中山　堯之 , 楠本　健夫 , 山下　敏夫 50巻1号 , 1978年1月 , pp.59-62

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　I．緒言

　唾石は顎下腺に発生することがもつとも多く，耳下腺および舌下腺の唾石は少なく，従来の統計によつても全唾石症例中10％以内にとどまることが知られている。

　今回，われわれは耳下腺唾石症例中でも非常に稀な散在性多発性耳下腺唾石症を経験したので報告する。

眼球突出を主訴とした術後性前頭篩骨部位嚢腫の3症例小泉　智 , 上條　明 , 山本　香列 , 平林　源 , 谷内山　仁 50巻1号 , 1978年1月 , pp.71-76

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　1．はじめに

　術後性頬部嚢腫または術後性副鼻腔嚢腫は耳鼻咽喉科領域において，割合多く遭遇する疾患であるが，眼球突出，複視，眼球偏位などの眼症状を伴うものは稀である。特に眼球突出を呈する症例では初診時，眼科医を受診することが多く，本疾患の診断を得るまでかなりの時間を要することもしばしぼ経験される。症状が発現したら，でぎるだけ早く正確な診断と適切な治療が必要である。われわれは最近，このような眼症状を呈した術後性前頭・篩骨部位嚢腫の3症例を経験したので報告し，ご批判を仰ぐ次第である。

座談会

明日の耳鼻科を考える二木　隆 , 小川　浩司 , 宮田　英雄 , 草刈　潤 , 長谷川　誠 , 小田　恂 50巻1号 , 1978年1月 , pp.77-87

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　小田（司会）本日はおいそがしいなかをお集まりいただきましてありがとうございました。

　編集部からの要望は，「耳鼻咽喉科ならびに耳鼻咽喉科医の将来」について，放談的にやつてほしいということです。

鏡下咡語

「耳喉」1巻発行当時の想い出など仁木　堯 50巻1号 , 1978年1月 , pp.64-65

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　49巻の「耳喉」5号に本誌も来年は50巻になるが，創刊当時の記録が少なく細かいことがわからないとの記事がある。この5月，日耳鼻学会出席のため福岡市に行つた際九大にたちより，耳鼻科教室の同門会誌（四三会誌）の昭和2年号および3年号を調べたが創刊に関する記事を発見できなかつた。この雑誌の表扉の上部に久保猪之吉1928年創刊と印刷されているのは，その前身「月刊雑誌耳鼻咽喉科」（以後，「前期耳喉」と書く）が当時の九大耳鼻科教授久保猪之吉先生（以後，先生と記す）の個人雑誌として生れたことの名残りである。「前期耳喉」は主幹久保猪之吉，編輯兼発行者立木豊，発行所福岡市大名町105番（これは先生の私邸である）と印刷されている。その投稿規定に臨床的報告を歓迎，特に専門科と一般医学との交渉問題を熱望すると謳つてある。そして内容概目は論議，史料，講義，綜説，学会，抄録，紹介，漫録，通信，雑報，人事，附録，質疑にわたつている。発刊のことばのなかで先生は"日本には専門の純月刊雑誌が1つもないから，業績発表の月刊雑誌を新たに専門界に提供したいというのが発刊を思い立つた理由の一つである"と述べている。

雑誌編集者としての久保猪之吉先生田中　助一 50巻1号 , 1978年1月 , pp.65-67

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　久保猪之吉先生が月刊雑誌「耳鼻咽喉科」を創刊せられたのは，昭和3年1月1日であつた。九大耳鼻咽喉科学教室の「四三会誌」第21号（昭和7年5月発行）に寄せられた奥様の「校正の間に」という文によると，これは前年5月に開催せられた教室開講満20周年記念事業の1つであつたようである。

　先生は文学や歴史や自然科学に深く広い趣味を持つておられたので，「耳鼻咽喉科」の編集には実に細かな行き届いた配慮がしてあり，内容は論説・瑣談・史料・講義・綜説・学会・通信・抄録・紹介・漫録・雑報・人事等きわめて多彩である。

久保猪之吉先生と二本松少年隊大藤　敏三 50巻1号 , 1978年1月 , pp.67-69

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　東京在住のためもあつて春秋2回には必ず夫婦揃つて先生の墓地に行くことが，昭和14年以来習慣となつた。先生は私にとつて恩師であるからである。色々の理由で私が耳鼻咽喉科を選び出して先生の教室に入局して以来，先生が，昭和14年11月12日に東京麻布で病没されるまで大切な恩師として学術方面で仕えたつもりであつた。人間の寿命としては65歳は現在では洵に短命であつた。がしかしその仕事の容量は恵まれた時代でもあつたにせよ膨大なものでその業績は文字に組まれて一先ず後世に遺されたし戦後絶版になつてしまつたが，当時独乙で出版されていた9冊もののDENKER-KAHLER全書には到る所にIno．Kuboの文献で表示されてその生涯の足跡を遺した。

　それにつけても先生の学問への愛着と執念とが死床に横たわつてもなお延々と続いていたことに対して文句なしに頭が下る思いである。一瞬一刻の空費を避けて専門医学への精進を棄てられず，その上にその余暇を人事往来と文学の趣味に費やしたのでこれは生活の基準のようなものであつたが短歌の傾斜は僅かに浅香社時代（落合直文），明星（与謝野鉄幹・晶子），雷会，心の花（佐々木信綱）などに遺作が遺されていつたが短歌発展の歴史には貴重な評価をのこしていつた。

50巻に際しての想い出と世界一の男の顔西端　驥一 50巻1号 , 1978年1月 , pp.69

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　本誌が本年は50巻になるという。50巻というと50年という事であろう。周知の如く本誌は久保猪之吉先生の創刊になるもので大藤さんがその編集を受けつがれたのは当然である。私はどういう風の吹き廻しか協力させられた。白岩博士が私の編集後記が大いに受けたと褒めて下さつたが一体編集者が投稿論文を批判する権利があるのであろうか，と考えてみた。よく判らないがたとえば1例報告が投稿される。1例報告といえども何か読者を益するものがなくてはなるまい。ところが箸にも棒にもかからないものがある。それかといつて無下に返却する訳にいかない。それで勢い批判せざるを得なくなつたという事ではあるまいか。

　編集に苦しんだのは終戦直後の21巻，22巻であつたろう。第一紙のよいのがなかつたしそれよりも投稿論文がなかつた事である。それで仕方がないから私と大藤さんとで何か書いて穴埋めをしたように記憶している。

基本情報

耳鼻咽喉科
50巻1号
(1978年1月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：0386-9679 医学書院

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