耳鼻咽喉科 45巻11号 (1973年11月発行)

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上咽頭線維腫志水　雄輔 , 藤谷　哲造 , 中川　巌 , 毛利　智次 , 志多　英佐 , 荻野　興蔵 , 服部　浩 , 浅井　良三 45巻11号 , 1973年11月 , pp.889-900

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　Ⅰ．緒言

　上咽頭に原発する良性腫瘍は比較的少なく，このうち組織学的には血管線維腫であるが，思春期の男性に多発する上咽頭線維腫は，その旺盛な拡張性発育と出血性さらには再発性により臨床的には悪性腫瘍である。

　Harma^1）によれば本腫瘍はすでにHippokratesによりhard nasal polypの名称にて紹介されており，16世紀，Paré^2），17世紀Hilden^3），18世紀Manné^4）およびPott^5）19世紀初期のBell^6）の記戴がある。1853年Nelaton^7），1873年Lenhartz^8）1888年Grφnbech^9）は頭蓋底線維性ポリープFibrous polyp of the skullなどの名称を与えている。Canuyt^10）は1890年Fibroidと命名し，1898年Naab^11）により既にLangenbeck^12），Billroth^13）により使用されていたNasopharyngeal fibromaの名称に賛同する意見が出されている。しかしドイツでは1922年Coenen^14）が命名したBasalfibroidを以後用いている。1940年Friedberg^15）によりangiofibromaと呼ばれて以来各国ではこの名前が使用されるに至つた。Martin^16）およびEhrlich^16）は本症が若年者に多いことからjuvenilenasopharyngeal angiofibromaと称しているが，Hubbard^17）は1958年成人にも本症が見られることから若年性という命名は，はぶくべきだとしている。

蝶形骨洞粘液嚢腫の2症例三谷　恭夫 , 川島　周平 , 宮崎　和彦 , 芝　侃司 , 小倉　義郎 , 高畠　稔 45巻11号 , 1973年11月 , pp.901-905

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　Ⅰ．緒言

　副鼻腔のmucoceleは前頭洞，篩骨洞に多く，蝶形骨洞には稀であるといわれる^1）。

　Nugent^2）は1969年までの文献を集計し90数例の報告があると述べた。わが国における報告例は10例たらずといわれている^3）。

頭蓋内に進展したGlomus Jugulare Tumorの1例河合　純一郎 , 鎌野　秀嗣 , 間中　信也 45巻11号 , 1973年11月 , pp.907-912

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　I．はじめに

　Guildは1941年に人の側頭骨の中に頸動脈毬と同様な組織を発見しGlomus jugularisと名付けた。そして1945年にRosenwasser^1）によりGlomusjugularisより発生した腫瘍，すなわちGlomus jugulare tumorがはじめて報告されて以来，1959年にはAlford^2）らが316例の本腫瘍について考察を発表，さらにSchermer^3）らは1966年にAlfordの発表以後に報告された85例についての考察を発表するなど，外国ではGlomus jugulare tumorは比較的しばしば報告されている。しかしわが国では1956年に切替，鳥山（寧）^4）により第1例が報告されたが，その後中村ら^5）による1例，再び切替ら^6）による1例と3例の詳細な発表を含め，その報告は現在なお12例に過ぎぬきわめて稀な疾患である。

　私たちも頭蓋内に進展し，不幸な転帰をとつた本腫瘍の1症例を経験し，剖検所見も得られたので報告する。

埋没耳（袋耳）形成手術の新しい試み川野　六郎 , 斎藤　博臣 45巻11号 , 1973年11月 , pp.913-917

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　I．はじめに

　袋耳・埋没耳（pocket ear・cryptotia）とは耳介上部の耳輪が側頭部の皮下に埋没して牽引すると容易に引き出せるが，はなすと元にもどつてしまう先天性耳介奇形である。

　欧米においてはぎわめて稀な奇形であるが，わが国では1930年久保がTaschenohrと命名して以来，比較的多くみられる。

　この治療法には非観血的療法と観血的療法とがあり，ことに後者には久保^1），荻野^2），福田^3）らによつて数多くのすぐれた方法が考案されて，広く用いられている。しかしこれらの方法は埋没耳を引き出し，再発をおこさないことを最重点と考えている。耳介形成の評価は外形もさることながら，顔の正面からみた耳介の聳立度ならびに耳輪上行部のきれいな立ち上がりが，患者にとつて整容的に重要と思われる。

　著者らは従来の方法では，耳輪上行部の前面にflapの縫合部が少しでもおよぶことから，これをさけるために一工夫を案出し目的をはたしたので，ここに報告し諸家のご批判をあおぎたい。

内耳異常興奮によるめまい症例—診断と手術治療の経過江上　徹也 , 石井　哲夫 , 鈴木　淳一 45巻11号 , 1973年11月 , pp.919-924

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　I．はじめに

　内耳に病巣をもつめまい症例は，内耳を摘出することによつて完全に治療することが可能である。重症のメニエール病にたいする最終的手段として，その有用性が知られているのは周知の通りであるが，メニエール病以外にも内耳性めまい症例は数多く，それらのうち，頑固な症例は内耳の全破壊ないしは，部分的破壊の適応とされる^1）。内耳病巣の確実な診断は意外にむずかしいが，積極的な内耳破壊を行なうためには正確な診断が絶対に必要で，本症例はその一つの例として報告した。

　本症例は回転性めまい発作を繰返す同側混合性難聴症例である。頭位眼振の観察などから末梢迷路性であることを推測し，さらに鼓室内キシロカイン注入^2）3）によつてめまい発作の消失がえられたことから迷路に病巣のあることを確認したうえで内耳部分破壊を行なつた。この結果めまい発作は完全に消失，治癒したが，手術時採取した耳石器の微細構造に病理学的所見がみとめられ，この症例のめまいの発現についての病態生理的なうらづけをえられたと考える。以下，手術に至るまでの症状の経過と診断根拠，術後経過などについて報告し，病理学的所見については別に詳細を報じたい。

Histiocytosis Xの耳鼻咽喉科所見—2例報告と本邦文献の統計的観察山田　恭右 , 浜口　健 , 古屋　英彦 , 青木　望 , 早川　恵子 , 宮沢　正純 45巻11号 , 1973年11月 , pp.925-941

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　I．はじめに

　耳鼻咽喉科領域のHistiocytosis Xは，非常にまれな疾患で，教科書にもHistiocytosis Xの項はまつたくないのが大方で，散見される本邦の報告でも，依然，Hand-Schüller-Christian病（以下H. S. C. と略す），Letterer-Siwe病（以下L. S. とす），または骨好酸球肉芽腫（以下E. G. とす）と報告されているものが多い。Histiocytosis X，特に前二者は，小児に発症する全身性疾患であるために小児科を訪れることが多い。しかし，豊富な耳鼻咽喉科所見をもつことが多く，耳鼻科医としては念頭に置いておかないと誤診をしたり，治療法を誤つたり，あたら貴重な症例を看過してしまう。

　Histiocytosis Xは，Eosinophilic granuloma，Hand-Schüller-Christian病およびLetterer-Siwe病の三者を一括した病理学的名称で，これは三者の病理組織像が非常に類似し，病理像から三者を鑑別することが不可能なことが多いところから，1953年Lichtenstein^7）が，Histiocytosis Xと命名したことに始まる。しかし，定型的症例では，臨床的に三者ははつきり異なつた病態を示す。したがつて，Lichtenstein^7）は，E. G. をchronic Histiocytosis X，H. S. C. をchronic disseminated Histiocytosis X，そしてL. S. をacute disseminatedHistiocytosis Xと細別している。また，Oberman^5）は，HistiocytosisをⅠ，Ⅱ，Ⅲ群に分けて臨床的考察を行なつている。

両側耳小骨奇形を伴つたTreacher Collins症候群の1例馬場　廣太郎 , 新美　成二 , 設楽　哲也 45巻11号 , 1973年11月 , pp.947-952

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　Ⅰ．緒言

　先天性上顎骨および下顎骨の発育不全については，Treacher Collins症候群，Berry症候群，Fanceschetti症候群，Mandibulofacial Dysostosis第1鰓弓症候群，第1，第2鰓弓症候群などの命名があり，それぞれに多少のnuanccの違いがあるようである。今回，私どもは両側耳小骨奇形を伴つたTreacher Collins症候群と思われる1症例を経験し，両側手術による聴力改善に成功したので，その概要を，発生に関する文献的考察を加えて，ここに報告した。

鏡下耳語

旅とスケッチ藤田　穣 45巻11号 , 1973年11月 , pp.944-945

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　絵を描くことを楽しみにするようになつてから10年近くになる。恩師後藤敏郎先生は，病院勤務時代，日曜日に画材を担いで絵を描きに行くのが楽しみだつたと話しておられたが，私には今でも頭に残つている。外科のS教授が手術の前後によく机の上の一輪差しを名刺の裏などにスケッチしておられたのを見て，非常に印象的，教訓的に感じた。どんな仕事においても，集中力が大切だと思つている。また不断の努力によつて，集中力はついていくものであろう。この意味で絵を描くこと，特にスケッチは精神集中と観察の程よいトレーニングになると思う。一輪差しの花に寄せる優さしい愛が，手術につながつていく，手術という真剣な場にあってそれが優しさに満ちた雰囲気につつまれるとき，それは四次元の世界ではなかろうか。

　少しずつでも続けていると，嬉しいもので始めた頃に較べると，だいぶ上手になつたと自画自讃できるようになつた。展覧会に出品して，知人に「良い趣味を持つてよろしいですね」とお世辞を頂戴することがある。しかし，それ程楽しんでおれないのが実状であつて，思い通り描けず，イライラしたりすることが多い。絵を描いて楽しむには，小さいスケッチブック，それもPostcardとしても使える1号程度のものが良い。短時間でそれほど構図のことも考えないで，結構絵になり，想い出になる。上手，下手なくスケッチを楽しむことができる。カバンや車の中にしのばせておいて，気に入つた景色，美しい花，美人を見かけては，思いつくままに，感じたままにスケッチするのである。

発言

扁桃皺（Plica tonsillaris）の提唱—Plica supratonsillarisは正しくない—第1報仁木　堯 45巻11号 , 1973年11月 , pp.953-956

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　I．はじめに

　口蓋扁桃（以下，扁桃と略記する）の摘出術を行ないその標本を見ると，扁桃の前上部に庇状の物がある。また扁摘に際し扁桃鉗子で扁桃を挾みこれをnach oralwärtsに軽く牽引したときもこの庇状物（ヒダ）（皺）をみとめうる。しかるにRauber-Kopsch^8）にもCorning^9）にもこの物の名称は挙げられていない。この庇状の皺を扁桃皺（Plica tonsillaris）と名づけようと提案すること，およびそれに関する2,3の解説を加えることが本論文の目的である。

　Plica tonsillarisと命名するのであつて，Plicasupratonsillarisでないことにご注目を乞う。Plicasupratonsillarisという用語が正しくないことと，その理由をも説明する。

薬剤

頭頸部悪性腫瘍に対する溶連菌制癌剤OK-432（PC-B-45）の臨床使用経験関谷　忠雄 , 大塚　基 , 宮川　公文 , 維田　宗夫 , 渡部　照和 45巻11号 , 1973年11月 , pp.957-967

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　I．はじめに

　悪性腫瘍に対する治療法としては従来手術と放射線照射が行なわれ，近時各種の抗腫瘍製剤の応用も盛んとなつてきたが，抗腫瘍製剤の治療効果は未だ満足すべき段階には達していず開発途上にある。私どもは岡本ら^1）の創製になる溶連菌制癌剤PC-B-45の凍結乾燥製剤であるOK-432^2）を中外製薬株式会社より提供されたので，昭和44年3月より各種の頭頸部悪性腫瘍患者に投与し，その臨床使用成績を検討してきた。昭和47年4月末現在で一応投与を終了した症例は40例に達したのでその使用成績を取りまとめて報告する。

基本情報

耳鼻咽喉科
45巻11号
(1973年11月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：0386-9679 医学書院

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