鏡下耳語
旅とスケッチ
藤田 穣
1
1長崎市立市民病院耳鼻咽喉科
pp.944-945
発行日 1973年11月20日
Published Date 1973/11/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492207996
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絵を描くことを楽しみにするようになつてから10年近くになる。恩師後藤敏郎先生は,病院勤務時代,日曜日に画材を担いで絵を描きに行くのが楽しみだつたと話しておられたが,私には今でも頭に残つている。外科のS教授が手術の前後によく机の上の一輪差しを名刺の裏などにスケッチしておられたのを見て,非常に印象的,教訓的に感じた。どんな仕事においても,集中力が大切だと思つている。また不断の努力によつて,集中力はついていくものであろう。この意味で絵を描くこと,特にスケッチは精神集中と観察の程よいトレーニングになると思う。一輪差しの花に寄せる優さしい愛が,手術につながつていく,手術という真剣な場にあってそれが優しさに満ちた雰囲気につつまれるとき,それは四次元の世界ではなかろうか。
少しずつでも続けていると,嬉しいもので始めた頃に較べると,だいぶ上手になつたと自画自讃できるようになつた。展覧会に出品して,知人に「良い趣味を持つてよろしいですね」とお世辞を頂戴することがある。しかし,それ程楽しんでおれないのが実状であつて,思い通り描けず,イライラしたりすることが多い。絵を描いて楽しむには,小さいスケッチブック,それもPostcardとしても使える1号程度のものが良い。短時間でそれほど構図のことも考えないで,結構絵になり,想い出になる。上手,下手なくスケッチを楽しむことができる。カバンや車の中にしのばせておいて,気に入つた景色,美しい花,美人を見かけては,思いつくままに,感じたままにスケッチするのである。
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