臨床泌尿器科 74巻9号 (2020年8月)

特集 泌尿器腫瘍の機能温存手術―知っておくべき適応と限界

企画にあたって 近藤 幸尋
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 癌をはじめとした悪性腫瘍の外科療法は,時代とともに大きく変化をしています.小職が学生だった頃の外科の講義では,胃の早期癌であっても胃全摘術が基本であることを教わり,「小さな癌でも大きな手術を」が悪性疾患の手術の基本であると教えられていました.その後,内視鏡手術や腹腔鏡手術の進歩により低侵襲手術が良性疾患で広まり,その技術を悪性疾患でも応用し治療成績の非劣性を確認したうえで,適応が広がっています.

 こういった低侵襲手術の目的は,手術創を小さくするということのみに留まらず,手術を行う臓器の機能温存にも広がっています.腎癌における手術の変遷が最もわかりやすいかと思います.以前は,腎門部をきちっと露出するようなChevron切開を用いて手術を行うことが多かったわけですが,これは今では腫瘍塞栓を伴う手術で利用されています.確かに腫瘍塞栓を伴った症例では大きく展開することが重要ですが,過去においては「親指大の腫瘍でもこのような手術は必要なのか?」と疑問を持ちつつ,せっせと大きく切っていたわけです.1990年代に入り腹腔鏡が用いられ始め,大きな手術創と別れを告げることとなりました.その後,腎機能温存を目的とした部分切除が小径腎癌に用いられていましたが,技術の進歩やロボット支援手術を用いることで,現在では比較的困難な腎門部腫瘍やT1b症例に関しても行うことがあるようです.

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▶ポイント

・両側副腎腫瘍,片側副腎のみを有する患者に発生した副腎腫瘍,あるいは家族性副腎腫瘍などに対しては,可能な限り副腎部分切除術を行うことが望まれる.

・アルドステロン産生腺腫の副腎部分切除の適応決定には,超選択的副腎静脈サンプリング(ssAVS)による副腎区域別のアルドステロン産生能の評価が必要不可欠である.

・アルドステロン産生腺腫と副腎偶発腫の病理学的鑑別診断には,アルドステロン合成酵素(CYP11B2)に対する免疫組織化学染色が有用である.

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▶ポイント

・ロボット支援腎部分切除術(RAPN)における根治性の指標の1つは断端陰性である.

・断端陰性を達成するには,腫瘍の辺縁を意識した腫瘍の切除,良好な視野での切除,適切な症例選択が重要である.

・RAPNにおける機能温存の指標は腎機能温存である.

・腎機能温存に関わる因子として,腎動脈クランプ方法,切除方法,腫瘍底部再建方法が考えられる.

・適切な症例選択,適切なアプローチ方法,適切な切除方法を症例ごとに臨機応変に対応していくことが重要である.

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▶ポイント

・局所療法は小径腎腫瘍のなかで,年齢や合併症などのため積極的手術適応とならない症例に対して施行可能であるが,明確な適応基準はまだ存在しない.

・これまでの報告では患者背景に差があり,局所療法は局所再発率,全生存率において腎部分切除術に劣るが,癌特異的生存率は同等である.

・いまだ局所療法と標準的治療法である腎部分切除術との治療成績を直接比較した大規模試験は存在せず,明確なエビデンスは存在しない.

〈尿路〉

尿管部分切除術 濵﨑 務 , 近藤 幸尋
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▶ポイント

・尿管癌に対する尿管部分切除術(SU)の適応拡大に向けて,将来的な展望を示した.

・ランダム化比較試験ができないためエビデンスレベルは低いが,適応として,①切除可能な尿管癌,②術後単回膀胱内注入療法,③cT2〜4の中部尿管癌に対するリンパ節郭清,④pT2〜4/pN+/PSM+の症例に対する術後化学療法を提唱する.

・以上の結果を後ろ向きに腎尿管全摘除術(RNU)と比較することで,SUを選択すべき症例の適応が明らかになる可能性がある.

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▶ポイント

・筋層浸潤性膀胱癌(MIBC)に対するロボット支援手術は,手術時間は長くなる傾向にあるものの,出血量は少なく安全に施行可能な術式といえる.

・ロボットアームの力が強いことから,剝離面を間違えると容易に腫瘍に切り込むことがあり,注意が必要である.

・手術の進行や不適切な剝離などを,遠慮なく指摘できるようなチームづくりが必要である.

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▶ポイント

・筋層浸潤性膀胱癌(MIBC)に対する膀胱温存療法(BPT)は,膀胱全摘除に対立する治療概念ではない.臓器温存で根治可能な症例を適切に選択し,根治的治療を提供することが肝要である.

・腫瘍細胞播種のリスクから膀胱部分切除を即時治療として行うべきでなく,集学的治療の一環として行うべきである.

・膀胱部分切除は4者併用BPTにおいて,浸潤癌再発リスクの低減に寄与する.

〈前立腺・生殖器〉

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▶ポイント

・神経温存術式は,anatomical(解剖学的に正しい剝離を行うこと),athermal(電気凝固を最小限にすること),traction-free(牽引による神経損傷を避けること)を心がける必要がある.

・神経温存は機能温存の重要な因子ではあるが,過度な神経温存は断端陽性を引き起こす可能性もあり,術前のMRI画像,Gleason score,PSAなどを総合的に評価し,症例に応じて十分に検討する必要がある.

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▶ポイント

・高密度焦点式超音波療法(HIFU)は,前立腺内部の標的を選択的に治療可能であり,フォーカルセラピーに最も多く使用されているモダリティの1つである.

・HIFUでは,前立腺体積が50cc以上の腹側領域に標的が存在する症例や,標的の直腸側に横径10mm以上の前立腺結石が存在する症例では,治療困難なことがある.

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▶ポイント

・限局性前立腺癌に対する治療法は,密封小線源療法を含め多岐にわたる.各治療法の癌制御率のみならず,術後のQOLについても十分に考慮する必要がある.

・密封小線源療法の下部尿路症状(LUTS)は,頻尿や尿意切迫感といった蓄尿症状が主体であり,尿失禁のみで前立腺全摘除術と比較をすることは賢明ではない.

・性機能温存に関するQOLを考慮する際は,射精障害,オルガズム障害の存在を再認識する必要があり,勃起障害のみでは不十分である.

陰茎部分切断術 沼尾 昇
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▶ポイント

・陰茎癌の局所治療はまず陰茎温存治療を考慮する.

・陰茎温存治療,陰茎部分切断術では切除断端の迅速診断を行い,陰性を確認する.

・陰茎癌の手術では陰茎再建も検討する必要があり,形成外科との連携が望ましい.

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▶ポイント

・後腹膜リンパ節郭清(RPLND)は,精巣腫瘍の診療において重要な役割を担っている.

・後腹膜リンパ節転移を有する精巣腫瘍の治療は化学療法が基本で,化学療法後に腫瘍マーカーが正常化し腫瘍が残存した場合には,RPLNDで残存腫瘍を摘除する.

・RPLNDでは,射精に関与する神経をできる限り温存する.

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▶ポイント

・超音波診断の普及で,より小さな精巣腫瘍が発見されるようになった.

・良性腫瘍と考えられる場合には,精巣機能温存のために精巣腫瘍核出術が行われる.

・迅速病理診断で悪性所見を認めた場合には,高位精巣摘除術へ術式を変更する.

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 49歳女性.CTで右腎内部に隔壁を有する囊胞性腫瘤を認めた.腹腔鏡下右腎摘除術を施行し,病理結果はmixed epithelial and stromal tumor of the kidney(MESTK)の診断であった.術後経過は良好で,現在30か月が経過したが再発・転移は認めていない.

連載 医薬系プレゼンテーションの技術―知れば,学べば,必ず上達!・第8回

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書体

◯書体は見た目で印象を左右する

 さて,今回は「書体」について少しお話ししてみよう.書体にはそれぞれ独自の個性がある.プレゼンテーションで最も大切にされるのが“視認性”だ.「どの書体が最も聞き手にとって視認性が高く,視覚に飛び込みやすいか」に関してはいまだに激しい議論があり,決定的な研究結果は出ていないようだが,私が愛用している『slide:ology』1)に次のような面白い話がある.作者にとってスライドは広告看板に似ているという考えのもと,たまたま泊まった高層ビルの28階から見える40枚ほどの看板を見たところ,唯一読み取れたのは「サンセリフ書体」で書かれた看板だけだったようだ.だから,おそらく視認性が高いのは「サンセリフ書体」なのかもしれない.もちろん私もすべての個性を知っているわけではないが,よく使う書体の特徴と聞き手が受け取るその印象について,ここから説明していきたい.

 ちなみに1回のプレゼンテーションで使う書体は1個または2個までにしよう.なぜなら,たくさんの書体が1つの物語にあると,視認性が異なり,聞き手の受け取る印象が変わってしまうからだ.1つは見出し,もう1つは本文に使うのがよいだろう.

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 本書を手にして,まずはその厚さに軽く驚いた.実践ガイドということでポケットにも入るサイズを勝手に想像していたが,252ページのしっかりとした装丁である.もっとも本書がこれだけのボリュームになった経緯には心当たりがある.先日「次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス 第2版」が発出されたが,その分量は初版(2017年)の5ページから105ページへと一気に膨れ上がった.とりもなおさず,遺伝子パネル検査の償還や,検査システム・実施医療機関の質の担保,データセンターへの情報集積など,他国およびこれまでのわが国の医療システムでは経験しなかった体制整備が数年の間に急速かつ包括的に進んだことの反映だろう.本書の編者,執筆者の顔ぶれを見れば,上記や日本病理学会などのガイダンス作成に中心的に関与された第一線の医師・研究者,おそらくは相当にタフであったであろう検査システムの申請作業に尽力された診断薬・検査企業の面々である.がんゲノム医療,遺伝子パネル検査を取り巻く諸事情を解説するには最適のチームである.

 あらためて内容を拝見すると,予想に違わず体制整備から遺伝子パネル検査の結果解釈に必要な解析学的および臨床的な情報,一般の臨床検査ではなじみが薄いゲノム科学の用語解説,実地で運用中,さらには今後登場する検査システムの紹介と網羅されている.カラフルな図や表も多く,検査レポートの雛形もそのまま掲載されておりわかりやすい.各ページの注釈欄や,ところどころに挿入されるノートも親切である.がんゲノム医療中核拠点病院などでゲノム診療に携わっている方にとって,これだけの情報を手軽に参照できるメリットは大きいだろう.

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 泌尿器科は,新生児から高齢者まで全ての年齢層を対象としており,扱う領域は,悪性疾患,尿路性器感染症,腎機能障害,腎移植,下部尿路機能障害,内分泌疾患,性機能障害,小児・女性泌尿器など,多岐にわたります.教育病院,市中病院,民間病院,クリニック,それぞれの施設やそれぞれの地域において特徴的な医療を行っており,泌尿器科疾患の全範囲に常に触れているわけではありませんので,全ての最新知見に精通している泌尿器科医は決して多くないと思います.一方,診療ガイドラインの改訂や取扱い規約の改訂は,以前よりも間隔が短くなっており,各自の守備範囲としている領域においても,全ての改訂内容をフォローできている専門医は決して多くはないことと思います.インターネットが身近に利用できる環境が整い,検索すれば最新情報を入手することは可能ですが,あまりなじみのない領域ではキーワードすら思いつくことができず,自分の知識をアップデートするのはなかなか容易ではないのが現実ではないでしょうか.

 本書では泌尿器科診療の全ての領域にわたって,最新情報として押さえておくべきポイントについて,それぞれの専門家がコンパクトにまとめて記載しています.セッションの冒頭で,以前の常識(平成の常識)と現在の常識(令和の常識)がコラムとしてピックアップされています.これまでの常識について,「確かにそうであった」とうなずきながら読むことで,読者はここで安心することができます.そして,これまでの診断や治療の変遷を踏まえて読み進めることで,新しい常識を吸収しやすくなっているのが,本書の特色だと思います.診療ガイドラインや取扱い規約が改訂されて多数出版されていますが,本書では現在の常識として改訂ポイントをピックアップして記載しているので,最新の知見と改訂ポイントを一読で確認することが可能です.本邦の各種診療ガイドラインにおいて,EAUやNCCNガイドラインのような小まめなアップデートは,現実的には困難です.そのような現状ですが,次の診療ガイドラインが出版される前に,WHO分類のアップデートに伴う知見や海外のエビデンスを基にした知見など,すでに日常診療として実践されていることが多々あります.また,新規治療薬の国内承認が相次ぎ,用法追加承認もしばしば行われています.診療ガイドラインでは追いついていない治療方法についても,本書では新しい常識として取り上げられており,up to dateの診療を患者に提供する際の根拠として利用することが可能です.

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目次

バックナンバーのご案内

次号予告

編集後記 近藤 幸尋
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 このたびの新型コロナウイルス禍における勤務体制は,小職の生活をがらりと変えてしまいました.会議などもリモートで行うことで,行き帰りの時間が節約でき,その後の会合もなくなりました.しかし,こんな生活は家では少し評判が悪いです.と言いますのも,コロナ以前のウィークデイは週に2日くらいしか家で夕食を食べなかったのですが,4〜5月は1週間以上家での夕食が続いたからです.これは結婚以来,海外留学を除いては初めてのことであり,確かに毎日毎日晩ご飯を用意することは大変なようです.

 そんな折に,自宅に小職が住む文京区から大きな封筒が届きました.アベノマスクもつい先日届いたばかりでしたので,コロナ関連のものかと思って開けてみると,中から立派な冊子が出てきました.そこには,「セカンドステージ・サポート・ナビ〜生きがい探しガイドブック〜」と書いてありました.「なな,何とこれは」と思い中を開いてみると,『この冊子は,これまで様々な経験を重ねて人生を築き,新たなる「セカンドステージ」へ歩み出そうとしている50代以上の方に向けたものです』と,記されていました.確かに小職の高校の同級生も退職時期を迎えている人たちが多数おります.

基本情報

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臨床泌尿器科
74巻9号 (2020年8月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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