臨床泌尿器科 74巻10号 (2020年9月)

特集 令和最新版! 泌尿器がん薬物療法―手元に置きたい心強い一冊

企画にあたって 北村 寛
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 泌尿器科診療のなかで,悪性腫瘍に対する薬物療法の役割は年々大きくなっています.さらに新しい治療が次々に登場し,どのがん種においても治療は多様化してきています.

 日本の泌尿器科医は,外科的治療(手術)と内科的治療(薬物療法)を第一線で行ってきました.これはわれわれ泌尿器科医が自負してきたことで,素晴らしいことと思います.そして,これからも当分はこの状況が続くと思われます.しかし,外科医に負けない手術と内科医に負けない薬物療法の両方のスキルを維持していくことは,年々困難になりつつあります.また,これまではどちらかというと,外科的手技や術後管理を外科から学ぶことはあっても,がん薬物療法を内科から学ぶことは少なかったのではないでしょうか.実際には,薬物療法に関しても,そのエキスパートから学ぶべきことがたくさんあります.がん薬物療法の理論や各薬剤の作用機序の理解,エビデンスの正しい解釈と実臨床への適用,適切な有害事象マネジメントと最新支持療法の実践など,泌尿器科医は臨床腫瘍学の標準を一度は身につけておくべきであり,今回の特集を企画するに至りました.

〈総論〉

がん化学療法の理論 下方 智也
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▶ポイント

・がん化学療法の目的を明確にして,期待される効果と副作用のバランスを考慮したうえで治療戦略を立てる必要がある.

・殺細胞性抗がん薬を用いる際の理論的背景(術後補助療法,dose dense療法,併用療法)となる,がん細胞増殖モデルを理解することが重要である.

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▶ポイント

・泌尿器がんは発生臓器や発生母組織がさまざまであるため,それぞれに応じて使用される抗がん薬が異なってくる.

・泌尿器がん領域では,殺細胞性抗がん薬,免疫チェックポイント阻害薬,分子標的薬,内分泌療法薬のすべてが使用される.

・泌尿器がん領域では,分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法など最新の治療が開発,臨床応用されている.複雑な治療形態を理解し,副作用マネジメントを適切に行うためにも,各抗がん薬の作用機序の理解が必須である.

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▶ポイント

・化学療法関連の悪心・嘔吐(CINV)に対する制吐薬として,5-HT3RA,D2RA,NK1RAが有効であると考えられており,制吐薬のガイドラインはこれらの組み合わせが推奨されてきたが,昨今MARTAであるオランザピンの併用も提案されてきている.オランザピンは強力な制吐作用が期待されるが,高血糖,過鎮静,便秘,静座不能などの副作用管理も重要である.

・好中球減少状態で,発熱から5日未満の初期において問題となる微生物は,緑膿菌をはじめとしたグラム陰性桿菌であるため,発熱性好中球減少症(FN)の際の初期治療は必ず緑膿菌までカバーを広げた治療が重要である.

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▶ポイント

・VEGFR阻害薬(マルチキナーゼ阻害薬)の高頻度の副作用は高血圧,手足症候群,下痢であり,特徴的な副作用として可逆性後白質脳症症候群(RPLS)がある.

・mTOR阻害薬の高頻度の副作用は口腔粘膜炎(口内炎),下痢,倦怠感であり,特徴的な副作用として脂質代謝異常症,間質性肺炎・急性肺障害,B型肝炎ウイルス再活性化がある.

・副作用は適切な指標で重症度評価を行い,各種ガイドラインや診療の手引きを参照し,適切なタイミングで専門診療科と連携することが重要である.

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▶ポイント

・免疫チェックポイント阻害薬使用に際して,免疫関連有害事象(irAE)が発生しうる.

・対応の遅れが致命的となる事象もある.

・irAE対策の一環として,関連他科との有機的な連携を構築し,実践する.

・irAEに関する患者への十分な説明が重要である.

〈各論〉

腎癌の薬物療法 山中 太郎 , 三浦 裕司
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▶ポイント

・進行期/転移性腎癌患者では,リスク分類に応じて治療方法を検討する.

・免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬など,使用可能な薬剤が増えてきている.

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▶ポイント

・尿路上皮癌に対する殺細胞性抗がん剤のキードラッグはシスプラチンである.

・カルボプラチンは腎機能障害がある症例に対しても安全に使用できるが,その効果はシスプラチンに劣るため,安易に代替薬として使用することは避ける.

・免疫チェックポイント阻害薬,FGFR阻害薬などの新規薬剤の開発が進んでおり,薬物治療は今後大きく変化する可能性がある.

前立腺癌の薬物療法 松原 伸晃
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▶ポイント

・ホルモン感受性,去勢抵抗性のいかんを問わず,全身化学療法投与のタイミングを逃さないことが重要である.つまり,前立腺癌治療の経過中どこかのタイミングで全身化学療法の投与が行われることが好ましいが,そのタイミングは患者ごとに異なる.

・ドセタキセル,カバジタキセルともに確立した効果予測因子は存在しないこと,忍容性を鑑みて,投与の可否やスケジュールを決定する.一般的には全身状態(PS)が保たれているうちに投与を検討することが好ましい.

・化学療法を好んで使用する医師も患者もいないのが現実であるが,その役割と利益に関して患者と早期からディスカッションすることが大切である.

進行期胚細胞腫瘍の薬物療法 河野 勤
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▶ポイント

・BEP療法のなかのブレオマイシンは3剤のなかでの役割は一番小さい一方,その位置づけは非常に重要である.

・BEP療法は3週サイクルで行うことがきわめて重要である.

・救援化学療法においては,プラチナ不応性(platinum-refractory)などの予後因子を考慮して,治療方針を選択する(標準量化学療法あるいは大量化学療法).

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▶ポイント

・後腹膜肉腫の治療は可能であれば外科的切除が第一選択だが,局所進行例や転移性の場合には化学療法が軸となる.

・後腹膜肉腫の薬物療法はほかの悪性軟部腫瘍に準じて行われ,一次治療はドキソルビシン単剤療法が基本である.

・後腹膜肉腫は組織型としてL-sarcomaと呼ばれる脂肪肉腫や平滑筋肉腫が多く,エリブリンやトラベクテジンといった薬剤の有効性が報告されている.

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▶ポイント

・泌尿器科領域の希少癌に対する現在の標準的な治療について理解し,現在進行中の臨床試験の動向をフォローする.

・がん遺伝子パネル検査から組織非依存性がん治療法につなげていくことは,治療の重要な選択肢の1つである.

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要旨

 1987年に開発されたBEP療法は現在も精巣腫瘍の標準的一次化学療法であり,これを凌ぐレジメンは開発されていない.一方で,精巣腫瘍の治療成績は予後不良群を中心に確実に改善した.その要因として,治療強度を維持したBEP療法と的確な手術療法の普及,高リスク群の中核施設での管理などが挙げられる.また,精巣腫瘍治療中の重篤な合併症に関する知見の集積とリスク評価の進歩も大きく寄与している.国際的な予後評価としてのIGCC分類は1997年に提唱され,その後の臨床研究の進展に大きく寄与した.一方で,治療成績の向上をふまえて近い将来,新しいIGCC分類が提唱される予定である.本稿では,これらの最近の動向について概説した.

連載 医薬系プレゼンテーションの技術―知れば,学べば,必ず上達!・第9回

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狭義のビジュアル

「私達の脳は他の何よりも“見る”ことに力を注いでいる」 byレオ・チャルパ医師

 人には情報をキャッチし吸収するために味覚,嗅覚,触覚,聴覚,視覚があることは以前にお話ししたと思う(本連載第5回).これらの中で情報吸収率が最も高いのが視覚(ビジュアル)だ.広義のビジュアルには背景,配置,色,文字,行間,書体,そして図や表,写真,動画,アニメーションなどが含まれるが,一般的に狭義のビジュアルとしては,図や表,チャート,写真,動画,アニメーションを想像するであろう.文章や数字をできるだけ図や表に置き換え,自分が伝えたい印象を,想像を引き立たせるような写真や動画で聞き手にイメージさせることは,聞き手の理解を助け,興味を沸かせ,そして記憶に留めさせる手段の1つである.そう,何よりわれわれ人間の脳はこの“見る”ことに自然の中で最も力を注いでいるのである.この“見る”力を借りて,あなたの伝えたいことをより聞き手にわかりやすく伝えるためにビジュアルスライドを工夫するのだ.ビジュアルには“見える”,“わかりやすい”,“(印象に)残る”がそろっていることが大切だ.ここでは,図や表,そしてチャートについてお話ししていく.

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 泌尿器科は,新生児から高齢者まで全ての年齢層を対象としており,扱う領域は,悪性疾患,尿路性器感染症,腎機能障害,腎移植,下部尿路機能障害,内分泌疾患,性機能障害,小児・女性泌尿器など,多岐にわたります.教育病院,市中病院,民間病院,クリニック,それぞれの施設やそれぞれの地域において特徴的な医療を行っており,泌尿器科疾患の全範囲に常に触れているわけではありませんので,全ての最新知見に精通している泌尿器科医は決して多くないと思います.一方,診療ガイドラインの改訂や取扱い規約の改訂は,以前よりも間隔が短くなっており,各自の守備範囲としている領域においても,全ての改訂内容をフォローできている専門医は決して多くはないことと思います.インターネットが身近に利用できる環境が整い,検索すれば最新情報を入手することは可能ですが,あまりなじみのない領域ではキーワードすら思いつくことができず,自分の知識をアップデートするのはなかなか容易ではないのが現実ではないでしょうか.

 本書では泌尿器科診療の全ての領域にわたって,最新情報として押さえておくべきポイントについて,それぞれの専門家がコンパクトにまとめて記載しています.セッションの冒頭で,以前の常識(平成の常識)と現在の常識(令和の常識)がコラムとしてピックアップされています.これまでの常識について,「確かにそうであった」とうなずきながら読むことで,読者はここで安心することができます.そして,これまでの診断や治療の変遷を踏まえて読み進めることで,新しい常識を吸収しやすくなっているのが,本書の特色だと思います.診療ガイドラインや取扱い規約が改訂されて多数出版されていますが,本書では現在の常識として改訂ポイントをピックアップして記載しているので,最新の知見と改訂ポイントを一読で確認することが可能です.本邦の各種診療ガイドラインにおいて,EAUやNCCNガイドラインのような小まめなアップデートは,現実的には困難です.そのような現状ですが,次の診療ガイドラインが出版される前に,WHO分類のアップデートに伴う知見や海外のエビデンスを基にした知見など,すでに日常診療として実践されていることが多々あります.また,新規治療薬の国内承認が相次ぎ,用法追加承認もしばしば行われています.診療ガイドラインでは追いついていない治療方法についても,本書では新しい常識として取り上げられており,up to dateの診療を患者に提供する際の根拠として利用することが可能です.

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目次

バックナンバーのご案内

次号予告

編集後記 小島 祥敬
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 コロナ禍は一向に収まりそうもありません.今日テレビを見ていたら,“新型コロナウイルス「世界初」の再感染”との報道がありました.香港在住の患者が2回コロナに感染し,感染した1回目と2回目のウイルスの株が異なるとのことです.コロナウイルスは変異株を増やしながら凄まじい勢いで世界中で猛威を振るってきましたが,ウイルスの立場からすれば,生き残るための環境に適応する手段なのかもしれません.そういえば,私たちが日常診療で治療する腎癌や膀胱癌や前立腺癌も,遺伝子変異によって薬物治療に抵抗し続けます.

 小学生の夏休みに毎年「ひとり一研究」という宿題を課せられました.理科の実験や観察を自宅で行ってまとめるという宿題です.私は「あげはの観察」を行うことにしました.アゲハチョウにはさまざまな種類がいますが,いわゆるアゲハ(ナミアゲハ)は,みかんや柚などの柑橘類の葉に卵を産み,幼虫はその葉を食べて成長していきます.一方,キアゲハの幼虫はパセリやニンジンの葉を食します.クロアゲハの幼虫はアゲハと同様に柑橘類の葉を食しますが,アオスジアゲハの幼虫はクスノキ科植物を食草とします(ちなみに,アオスジアゲハの羽は鮮やかなパステルカラーに透き通り,飛ぶ姿は優雅で美しく私がもっとも好きなアゲハです).同じアゲハにもかかわらず,種類によって幼虫の食草が異なるのは非常に興味深いことです.そこで小学生のとき,パセリを食するキアゲハの幼虫に,飼育箱の中で柑橘類の葉のみを食べさせ観察することにしました.結果は40年以上も前のことで定かではありませんが,確かやせ細りはしたものの,キアゲハの幼虫も柑橘類の葉を食し,成虫になったと記憶しています.大げさな言い方ですが,おそらく進化の過程でアゲハから遺伝子変異して生まれたキアゲハも,遥か遠い過去の記憶を蘇らせ,瞬時に環境に適応したのだと思います.

基本情報

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臨床泌尿器科
74巻10号 (2020年9月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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