臨床泌尿器科 43巻5号 (1989年5月)

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はじめに

 1975年のKohlerとMilsteinの発表したモノクローナル抗体作製技術の開発は,これまでわからなかった数多くの新しい抗原の発見に貢献し,ここ十数年間に基礎医学領域はいうまでもなく,それが臨床領域におよび,臨床レベルでの診断あるいは治療という面に応用されるようになった。

 しかし同時に,まだまだ解決しなければならない問題点があることも事実である。本稿では主に泌尿器癌における診断,治療に関する基礎的,臨床的報告をもとに,その現状を紹介し,その問題点ならびに展望を述べる。すでに日常診療に応用されているモノクローナル抗体については省略した。

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 前立腺癌の広範性転移では,骨転移巣の疼痛のために患者は全身的消耗と多量の鎮痛剤の使用を余儀なくされることがしばしばである。このような症例に対して放射線の半身照射は,疼痛の寛解に速効があり,かつある期間持続する。

 速効の原因は,800radsの1回照射で,99.5%の癌細胞を死滅させることにある。しかし半身照射は,被照射骨の造血機能にも致命的障害を与えが,非照射部の骨機能がこれを代償する。障害された骨機能は4〜6週で回復するので,この時点で必要ならば残りの半身に照射することも可能である。

手術手技 外来小手術

陰嚢水腫根治術 工藤 潔
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 陰嚢水腫は睾丸固有鞘膜と睾丸白膜との間における過度な液の貯留状態であり,患者が身体的,精神的な苦痛を訴える時に治療が必要となる。しかし,たとえ無症状でも,睾丸や副睾丸の腫瘍あるいは炎症などの基礎疾患が存在することがあるので,場合によっては,陰嚢穿刺排液後(液の細胞診,細菌培養などに供す),十分触診し,時には超音波断層法による検索をすべきである。本症の保存的な治療法として,穿刺法,固定法(固定液注入)があり,ある程度の有効性が報告されているが,再発例には根治手術が適応となる。小児の陰嚢水腫は腹膜鞘状突起の閉鎖不全によるものであり,1歳以内に自然治癒することが多いので,少なくとも,同時期までは経過観察すべきであり,手術に際しても,成人の場合と異なり,鼠径部切開により,鞘状突起を結紮しなければならない。

 ここでは,著者の行っている,成人の陰嚢水腫根治術について述べる。なお,著者は本手術は入院手術として,一般に,腰椎麻酔で行っているが,サドルブロック,あるいは皮切部浸潤麻酔と精索伝達麻酔により,外来手術としても可能であろう。

講座 泌尿器手術に必要な局所解剖・11

骨盤神経叢 佐藤 達夫 , 佐藤 健次
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 前回は骨盤臓器の大半に血液を供給する内腸骨動脈について考えてみた。外科手術で血管の処理が最も大切なことはいうまでもないところである。しかし最近では,機能温存の観点から自律神経の局所解剖が次第に重要度を増して来ており,骨盤外科では,とくに排尿,性機能障害が大きな問題となっている。こうした現状をふまえ,今回は,骨盤内臓の大半の支配に与る骨盤神経叢について概観しておくことにしたい。

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 3例の浸潤性膀胱扁平上皮癌に対し,膀胱部分切除術を施行し,経過観察のため血清SCC抗原を測定した。3例とも局所再発や,治療に対応して,血清SCC抗原は増減した。血清SCC抗原は膀胱扁平上皮癌の病勢の推移を知るのに有用であった。 

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 48歳,女性。嚥下困難を主訴に本院内科で受診。血液検査で鉄欠乏性貧血を認め,食道造影では食道の膜状隆起(web)が確認された。Plummer-Vinson症候群の診断にて原因検索を始め,CTで左腎に内部不均一な腫瘤を認め,泌尿器科に紹介された。左腎腫瘍の診断にて左腎全摘出術を施行。術後貧血の改善,嚥下困難の軽快,食道の膜状隆起の消失を認め経過良好である。Plummer-Vinson症候群と腎癌との併存は,本邦文献上では自験例が第1例目である。

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 68歳,男性。発熱を主訴に近医受診し急性腎盂腎炎の診断で入院加療を受けるが軽快せず,精査加療を目的に当科受診。左側腹部に腫瘤を触知した。画像診断にて腎周囲膿瘍を疑ったが腎腫瘍を否定できず左腎摘除術を施行。病理組織学的に黄色肉芽腫性腎盂腎炎の診断であった。本症は3型に分類されており(膿腎症型,腎膿瘍型,腎周囲型),今回の症例は腎周囲型であった。腎周囲型の本症は稀で,本邦第4例目に相当すると思われる。

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 69歳,男性。腎細胞癌根治手術後17ヵ月目に脳転移を発見された。はじめに5-fluorou-racil(400 mg/日)を投与したが,転移巣は増大傾向を示した。そこで600 mg/日のmed-roxyprogesterone acetate(MPA)の経口投与を追加した。MPA投与4週間後に転移巣は縮小しはじめ,本療法開始2ヵ月後に完全寛解に達した。MPA大量投与による副作用は顔面紅潮と高血圧であった。本例は11ヵ月間完全寛解を維持し,健全である。

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 71歳,女性。腹部超音波検査,CTにて右副腎腫瘍と診断,摘出腫瘍は組織学的に副腎骨髄脂肪腫と診断した。本疾患は脂肪および骨髄組織よりなる内分泌非機能型の良性腫瘍であった。

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 48歳,女性。腹部腫瘤を主訴として来院した。腹部超音波とCTで高度の左水腎と左尿管の拡張を認めた。順行性および逆行性腎盂造影で左中部尿管に陰影欠損を認め,左尿管腫瘍の診断下に左腎尿管全摘除術,膀胱部分切除術を施行した。組織学的診断は腺癌であった。原発性尿管腺癌は極めて稀で,これまで14例が報告されているにすぎない。

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 74歳,女性。膀胱腫瘍を疑い,経尿道的膀胱腫瘍切除術を施行した。病理診断より膀胱平滑筋肉腫と診断した。膀胱全摘回腸導管造設術を施行し,その後補助化学療法を施行した。しかし,術後約10ヵ月で回盲部上行結腸に再発し,同部位の切除術を施行したにもかかわらず,術後3ヵ月で死亡した。平滑筋肉腫の進行とともに血清CA 19-9が増加した。

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 下着に血液が付着することを主訴とし,消失までに約5ヵ月を要した8歳男児の2例を経験した。2症例とも内視鏡にて尿道括約筋直前の尿道球部6時の部位に潰瘍を形成しており,同部より出血しているのを認めた。原因および治療法を明らかにすることは出来なかった。

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 48歳,男性。左陰嚢部痛および左鼠径部痛を主訴に当科受診。睾丸シンチグラムで,左睾丸の血流低下が示唆されたため,左睾丸捻転症を疑い,緊急手術を施行。睾丸捻転の所見はなく,左睾丸垂および副睾丸垂捻転症と判明し,垂をそれぞれ摘除後,睾丸固定術を施行した。術後8日目の睾丸シンチグラムでは,左睾丸の血流は対側と同程度まで回復していた。睾丸垂と副睾丸垂の同時同側捻転例の報告は,自験例が本邦第1例と思われる。

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 24歳,男性。主訴は左鼠径部腫脹と疼痛。1987年5月14日突然左鼠径部痛出現,翌日当科受診。触診にて左鼠径部に超鶏卵大の圧痛を伴う腫瘤を触知。超音波検査にて充実性の腫瘤を認めた。鼠径部停留睾丸腫瘍の捻転の疑いにて,5月25日手術を施行。睾丸固有鞘膜内に反時計回りに270度回転した睾丸腫瘍を認めた。組織型はセミノーマで,T1N0M0,stage Ⅰと診断した。停留睾丸捻転症の睾丸腫瘍合併例は本邦文献上6例目になる。

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 43歳,男性。右鼠径部腫瘤を主訴に来科した。腫瘍マーカーを含む入院時検査成績は正常であった。CTにて腫瘤は睾丸様の低濃度域として描出された。精管が剥離できなかったため,高位除睾術を行った。腫瘍は3×2×2cmで,病理組織学的には神経線維腫であった。ほかにはレクリングハウゼン病に見られる所見はなかった。本例は,本邦第1例目の精索神経線維腫と思われる。

Urological Letter・556

見えない尿管開口部と瘻孔の診断
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 我々泌尿器科医はしばしば,尿路と関連するいろいろな臓器に開いている孔の存在あるいはその欠如の確認のために,呼び出されることがある。それらの孔は外傷によることもあり,医原性のこともあり,またいろいろな種類の瘻孔のこともある。

 ある時には尿管口をみつけて尿管カテーテルを挿入するために呼ばれることもある。これは泌尿器科的処置としてのこともあるが,他の外科的手術に必要なためのこともある。最も多いのは大腸癌の下部切断の際と婦人科の大手術の際の補助としてである。

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 患者 4歳,男子。

 主訴 左上腹部腫瘤。

 既往歴 特記すべきことなし。

 現病歴 1986年5月頃より左陰嚢内容の腫脹に気づくも放置。その後発熱が続くため某医受診。8月26日左睾丸腫瘍の診断にて高位除睾術施行。組織は胎児性癌(embryonal carcinoma)であった。1987年1月22日アルファフェトプロテイン(AFP)1478 ng/dlと上昇。左上腹部に4〜5cmの腫瘤も触知するため,後腹膜リンパ節転移の疑いにて2月25日当科入院。

 検査所見 AFP 7243 ng/mlと高値を認める以外,血液,生化学的検査で異常はみられなかった。

教室だより

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 日本大学は1889(明治22)年10月4日に設立され,今年創立100年にあたる。医学部の歴史は1925(大正14)年4月に日本大学専門部医学科として創設,神田駿河台において開校され,1942(昭和17)年4月医学部に昇格した。一方泌尿器科は1948年皮膚科と講座を分離したが,当時の教授は故永田正夫先生で,1973年1月より岸本孝先生が教授に就任された。1974年4月に岡田清己先生が助教授に着任,同年8月に故山本忠治郎先生が教授に昇進された。1978年10月滝本至得先生が助教授に,1986年11月に岡田清己先生が教授に昇進され現在に至っている。

 全医局員は39名で,出張は駿河台病院を除いて11病院に14名を派遣している。海外派遣は現在西独のリューベック大学に1名であるが,今年さらに増員予定である。多忙極まりない教室の1週間は,まず月曜日午前8時30分からの教授回診より始まる。手術日は手術室のスケジュール上,月・水曜日であるが,火・木・金曜日にも手術の予定が組まれる。

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 広島大学医学部は1946(昭和21)年3月に開校した広島県立医学専門学校を母体とし,その後県立医科大学をへて1956年に国立大学移管を完了,現在に至っている。泌尿器科学教室は開校まもない1948年,柳原英名誉教授により開講せられた皮膚泌尿器科学教室をその前身としており,1957年には加藤篤二名誉教授に受け継がれ,1964年皮膚科と泌尿器科の分離,新設後,1967年からは仁平寛巳名誉教授が主宰され,1986年4月には第74回日本泌尿器科学会総会会長として広島市において総会が開催された。1987年には碓井亜教授が第4代教授に就任し,開講以来42年の歴史と伝統を有する教室である。

 教室の研究は腫瘍研究,感染症,内分泌の各グループを主に活発な活動を行っている。

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 42巻12号の小川秋実先生司会の座談会に関連して,精巣固定術後の牽引について私共のやり方をご紹介いたします。

 精巣血管を後腹膜上方まで十分に剥離した結果,精巣が陰嚢底部よりさらに下方に位置するのであれば牽引は不要ですが,やっと底部に到達する程度のものはいわゆる会陰部牽引を行います。精巣を通常どおり肉様膜内のポケットに収納し皮膚も閉じた後,あらかじめ精巣にかけておいた絹糸を対側の会陰部(肛門の近く)の皮膚にかけて引っぱります。この方法では精巣のさらなる下降はせいぜい1〜2cmしか期待できませんが,何しろ安全ですし,術後はすぐに動くことができます。牽引期間は3日間で十分です。

基本情報

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臨床泌尿器科
43巻5号 (1989年5月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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