病院 78巻11号 (2019年11月)

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患者-病院関係は時代とともに変わってきた.

「お任せ」から「医療不信」を乗り越えて,同じ目標に向かい各自の役割を果たす「協働」へ.

医療現場へ冷静で成熟した提言のできる「賢い患者」とはどのような存在なのか.

今後のよりよい患者-病院関係を見据える.

特集 病院と患者の関係—informed consentを越えて

巻頭言 今村 英仁
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 今号は最初にぜひCOMLの山口氏との対談から読んでもらいたい.1990年,日本医師会がinformed consent(IC)を「説明と同意」と訳してその内容を紹介した同年に発足したCOMLは,日本のICの歴史と共に歩んできたと言っても過言ではない.1999年に立て続けに起きた医療事故報道をきっかけに広がった国民の医療不信,『医療崩壊—「立ち去り型サボタージュとは何か」』(小松秀樹著)に象徴される日本の医療現場の疲弊と閉塞感の顕在化など,この30年間で日本の医療現場は激変した.軌を一にして変わった日本のICのこれまでとこれからの課題を山口氏との対談で理解できる.

 特集では,厚生労働省勤務を経験し,公共政策を専門とする社会学者である広井氏に「成熟した人口減少社会における病院-患者関係」を執筆いただいた.このような時代には心理的サポートに加え社会的サポートが必要となりコミュニティの重要性が増すこと,その中心として福祉・医療関連施設に期待が寄せられていることが指摘されている.続いて,健康情報学が専門の中山氏に新しい医療コミュニケーションのあり方であるShared Decision Making(SDM)について,ICとの比較を交えて議論いただいた.「不確実性の高い医療現場では,SDMがなければEBMはエビデンスによる圧政に転ずる」との指摘にはハッとさせられる.現場での病院-患者関係の変化として,まず西澤氏には,佐久総合医療センターのPFM(Patient Flow Management)を紹介いただいた.ますます効率的に重症患者を数多く診察することが求められる急性期病院では,医療スタッフの負担が増す一方で,高齢化による併存症から複雑化する疾病状況,多様化する家庭状況のなかで,良好な病院-患者関係を構築するためにはPFMが不可欠になっている.また,医療安全を専門とする後氏には,大学病院での新人職員オリエンテーションから医療機能評価機構の取り組みまで,患者中心の医療を提供するための具体的な活動報告と私見を寄せていただいた.医療事故に遭遇した遺族の立場で,かつ,医療現場の医療対話推進者として,厚生労働省「上手な医療のかかり方推進委員会」の構成員として活動を続ける豊田氏には,当事者の目を通して病院-患者関係を論じてもらった.そして,家庭医の孫氏に,病院の視点より広い地域医療の視点で,これから必要な病院-患者関係について論じてもらった.医学モデルではなく生活モデルの視点が求められる時代には,患者を社会文化的な背景を持った「コンテクストの中の個人」と捉えなければならないこと,必要なことは「対話(ダイアログ)」であるとの指摘は,特に病院に籠りがちな医療スタッフには,耳が痛いが大事な指摘である.

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●成熟社会の医療において重要となる,患者に対する心理的・社会的サポートについて,二ーズと現状との間でギャップが見られる.

●疾病構造の変化の中で,これからの病院には「コミュニティの拠点」としての役割が求められる.

●望ましい病院-患者関係の実現という視点から,医療費の配分のあり方を見直していくことが求められる.

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●患者と医療者の対話型コミュニケーションとして,世界的にシェアード・ディシジョンメイキング(SDM)が注目されている.

●SDMは,困難な課題に患者と医療者が共に向き合うことを通して,意思決定と合意形成の両方が並行する.

●エビデンスに基づく医療(EBM)の要素として「患者の価値観」が含まれており,EBMの理解がSDMの理解につながる.

●インフォームドコンセントとSDMにはそれぞれの役割がある.

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●全国の急性期病院で平均在院日数が短縮する一方,少子高齢化の影響で生活支援を含めた入退院支援を必要とする患者が増加してきている.

●外来段階から入退院支援を行うPFM(Patient Flow Management)の考え方が注目されている.PFMは,効率化を進めながら,患者満足度が高い質の高い医療を提供できる上に,現場の医師・看護師の負担軽減が可能である.佐久医療センターでは,PFMの考え方を導入した入退院支援室を設置し,多大な効果を上げている.

●今後の急性期病院では,入院前から地域の他の医療機関や介護施設・行政などと連携しながら,多職種で入退院支援を行うPFMの導入が必要である.

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●「生活モデル」を中心とするこれからの時代において,医療者に求められるコンピテンシーとして「対話(dialogue)」が重要となる.

●医療者が患者と「対話」を行うための専門的な能力として,「患者中心の医療の方法」と「家族志向性ケア」が挙げられる.いずれも,患者のナラティヴとコンテクストを捉えながら,協同的に意思決定していくモデルである.

●地域に出て行く医療者が行えるもう一つの対話の形として「健康生成論的アプローチ」がある.地域の人々の強みや資源に注目し,ウェルビーイングを強化する実践である.

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●医療安全における患者遺族の参画による効果(良い影響)について,その有用性は広がりを見せている.

●医療事故に遭遇した患者・家族と医療者双方が参画する医療安全への取り組みは,相互理解に向けてともに考えることができ,患者・医療者間の信頼関係の再構築や,より良い対話推進を目指す上で有用である.

●医師の働き方改革から始まった患者の「上手な医療のかかり方」の推進は,国民の命を守り,医療を守ることを主眼としており,医療安全に欠かせない視点も取り入れられている.

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●日常の医療の中で病院-患者関係を良好に保つことを重視しており,新入職員の教育の項目にも盛り込んでいる.

●インシデント事例の中には,病院-患者関係の在り方を考える上で参考になる事例がある.事例に関して議論した内容を会議で職員に説明している.

●患者・家族の不満に対応する際には,やり取りの内容を想定してあらかじめ準備した上で,傾聴と合理的な思考による説明が有用である.

●病院機能評価や関連する事業では病院-患者関係の評価や調査を行っており,活用することで良い学習の機会となることが期待できる.

●海外においても,人を中心とした医療や患者中心の医療の実現のために,概念の提案や医療費の支払いの仕組みとの連動など取り組みが行われている.

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■はじめに

 本稿は,患者に由来する個人情報を,従来の治療を評価したり,新たな治療法を研究開発したりする目的で用いる際の患者の拒否機会の確保,いわゆる「オプトアウト」をテーマとしている.国の倫理指針では「研究対象者等に通知又は公開し,研究が実施又は継続されることについて,研究対象者等が拒否できる機会を保障する方法」注1と表現されるが,後述するようにこの手続きをめぐって最近いくつかの議論が起きていることが,本稿執筆のきっかけである.

 2017年に改正個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律)が施行され,病歴を含む,医療に関する個人情報は広く「要配慮個人情報」に指定され,他の個人情報に比べて厳格な管理の下に置かれることになった.一方,患者に由来する情報は今日,改めて研究開発の重要なリソースとして注目されており,国主導でその利活用を進めるさまざまな政策が検討されている.法改正を受けた議論の際,管理と利活用とのバランスに苦慮した結果,学術機関を中心とした研究活動については,要配慮個人情報の入手や利用に際しての事前の同意取得を義務付けない方針が確認された1).その後,利活用の範囲を民間等の研究開発にも広げる形で,病院の医療情報を医療機関の外に持ち出すことを許容する次世代医療基盤法注2が施行された.これらの利活用の要として位置づけられている手続きの一つが,「オプトアウト」の機会の確保である.

 今後,各医療機関では,こうした患者情報の「運用」についての判断を迫られる機会が増えることが予想され,またその中で「オプトアウト」の検討をする機会も多くなるだろう.この機会に改めてこの「オプトアウト」の手続きを振り返ってみたい.以下,本稿は次の三つの構成で進める.最初に,医療情報のオプトアウトについて,従来の研究開発の文脈で用いられてきた議論を簡潔に振り返る.次に,オプトアウトがどのように機能しているか,一般市民や医療者向けの調査結果を紹介しつつ,オプトアウトが実態と乖離して運用している可能性を指摘する.最後に,オプトアウト自体の倫理問題に触れつつ,現在の課題と今後の展望を共有したい.

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■大量離職の危機を乗り越えて

 医療法人社団元気会横浜病院は,1981年に開設し,横浜市郊外で高齢者の医療・介護に取り組んできた.

 北島明佳氏が28歳の若さで理事長に就任した2006年は,医療崩壊の危機感が広がり,医療構造改革に伴い介護療養病床廃止が決まった年である.このままでは病院が立ち行かないと考えた北島氏は「病院の全職種が同じ方向を向いて皆でやれることはないか」と考え,2008年4月,環境整備活動5S(整理,整頓,清掃,清潔,躾)に着手した.しかし,これに反発した職員が大量離職し,病院は存続の危機に直面することになった.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・59

社会医療法人母恋 天使病院 石橋 達勇
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■はじめに:天使病院の特徴

 札幌市東区に位置する天使病院は,1911(明治44)年に聖母会の7人のシスターにより内科診療を開始し1),今年で108年を迎える由緒ある医療施設である(図1).経営主体は,日鋼記念病院(室蘭市)など複数の医療福祉施設を運営している社会医療法人母恋である.同法人は,2003年から事業継承・経営統合により天使病院の運営を行うこととなり,2007年の名称変更の後,救急医療,へき地医療や周産期医療など,特に地域で必要な医療の提供を担うことにより社会医療法人化が認められたという経緯がある1)

 さて,この天使病院において特に重視している医療機能は,周産期医療や小児科医療である.歴史的な経緯に加えて,2001年に地域周産期母子医療センターの認定を受けていることからも,それが分かる.ただし,西村光弘院長が自負しているように,「生まれてから老いるまで切れ目のない医療を提供」1)していることも同病院の特徴として挙げられ,そのため内科/外科系診療科も非常に充実している.ちなみに,平均在院日数は11.7日,手術室5室による年間手術実施件数は1,702件である(いずれも2018年度実績).つまり,周産期や小児期など人生の一時期だけではなく,地域で生活する人々と継続的な関わりを持つ意欲を持って医療に取り組んでいると言え,この姿勢が以下に述べる院内の部門構成からも読み取れる.

連載 事例から探る地域医療再生のカギ・30【最終回】

連載を終えるにあたって 伊関 友伸
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■5年間30回の連載を振り返る

 2015年1月号から始まった連載「事例から探る地域医療再生のカギ」も,今回をもって一区切りつけることとした.5年間,隔月で30回の論文を掲載してきたが,最終回は本連載を振り返り,地域医療再生に何が必要なのかについて総括をしたい.

 表1は,前回までに取り上げたテーマ一覧である.前後編のテーマを含めて25のタイトルでケース紹介を行った.25のケースのうち15ケースは筆者が何らかの形で再生に関わっている.

連載 事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・18

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 兵庫県神戸市北区は,六甲山地の北側にあり,神戸市中心部のベッドタウンとして発展してきた.人口は神戸市行政区の中でも2番目に多いが,面積は約240km2と大阪市全域を超える地域であり,山林が多く,人口密度は市内行政区でも最も低い.神戸市北区のうち北側の北神地区は,神戸市中心部に比べて,病院の医療機能の分化が進んでいる.

 六心会恒生病院は,その北神地区の北部,神戸電鉄三田線の道場南口駅前に立地し,3つの高速道路をつなぐ神戸ジャンクションにも近く,脳神経外科の治療を強みにしつつ,救急輪番制に参加し,地域医療を支えている.この地域においても高齢化が進展しており,限られた医療・福祉資源を活用しながら人口減少社会においても地域を支える必要がある.そこで,本稿では地域を支える医療・介護サービスを提供する急性期病院の姿を紹介したい.

連載 「働き方改革」時代の労務管理・18

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■チーム医療と秩序維持

 「チーム医療」という言葉が浸透して久しいが,医療の高度化・複雑化に伴い,医療現場では,複数の専門医療技術者が,互いに連携・補完し合いながら,患者の状況に的確に対応した医療を提供している.

 他方で,人の生命・身体を相手にする医療現場は,日夜,搬送されてくる重篤な傷病者や,容態が急変した患者への即応が求められる上,身体への侵襲行為を伴う医行為の性質上,一つの判断ミスや過誤は重篤な結果を招きかねないなど,精神的にも肉体的にも極めて緊張度が高い職場である.

連載 多文化社会NIPPONの医療・26

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 2018年6月,内閣官房の「訪日外国人に対する適切な医療等の確保に関するワーキンググループ」がまとめた「訪日外国人に対する適切な医療等の確保に向けた総合対策(案)」を受け,2019年度の関連予算は前年の1.4億円から10倍以上の17億円の規模になった.誘致を進めている観光客,労働力として日本に来る人たちが安心して医療を受けるためには,医療機関が安心して外国人受診者を受け入れられるようにする必要があるためだ.各事業の公募が2019年8月末から始まった(表1).この17億円で今後の外国人受診者受け入れ体制はどう変わっていくだろうか.

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次号予告

基本情報

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病院
78巻11号 (2019年11月)
電子版ISSN:1882-1383 印刷版ISSN:0385-2377 医学書院

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