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■はじめに
本稿は,患者に由来する個人情報を,従来の治療を評価したり,新たな治療法を研究開発したりする目的で用いる際の患者の拒否機会の確保,いわゆる「オプトアウト」をテーマとしている.国の倫理指針では「研究対象者等に通知又は公開し,研究が実施又は継続されることについて,研究対象者等が拒否できる機会を保障する方法」注1と表現されるが,後述するようにこの手続きをめぐって最近いくつかの議論が起きていることが,本稿執筆のきっかけである.
2017年に改正個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律)が施行され,病歴を含む,医療に関する個人情報は広く「要配慮個人情報」に指定され,他の個人情報に比べて厳格な管理の下に置かれることになった.一方,患者に由来する情報は今日,改めて研究開発の重要なリソースとして注目されており,国主導でその利活用を進めるさまざまな政策が検討されている.法改正を受けた議論の際,管理と利活用とのバランスに苦慮した結果,学術機関を中心とした研究活動については,要配慮個人情報の入手や利用に際しての事前の同意取得を義務付けない方針が確認された1).その後,利活用の範囲を民間等の研究開発にも広げる形で,病院の医療情報を医療機関の外に持ち出すことを許容する次世代医療基盤法注2が施行された.これらの利活用の要として位置づけられている手続きの一つが,「オプトアウト」の機会の確保である.
今後,各医療機関では,こうした患者情報の「運用」についての判断を迫られる機会が増えることが予想され,またその中で「オプトアウト」の検討をする機会も多くなるだろう.この機会に改めてこの「オプトアウト」の手続きを振り返ってみたい.以下,本稿は次の三つの構成で進める.最初に,医療情報のオプトアウトについて,従来の研究開発の文脈で用いられてきた議論を簡潔に振り返る.次に,オプトアウトがどのように機能しているか,一般市民や医療者向けの調査結果を紹介しつつ,オプトアウトが実態と乖離して運用している可能性を指摘する.最後に,オプトアウト自体の倫理問題に触れつつ,現在の課題と今後の展望を共有したい.
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