臨床眼科 74巻6号 (2020年6月)

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要約 目的:眼科臨床において小数視力0.01未満の視力は,「指数弁」「手動弁」「光覚弁」「光覚なし」という非定量的評価に止まっている現状がある。今回筆者らは,定量化が困難な指数弁以下の視力をlogMAR値に換算可能とするBerkeley Rudimentary Vision Test(BRVT)を用いて,その定量化が可能な範囲を明らかにすることを目的とした。

対象と方法:国立障害者リハビリテーションセンター病院を受診した従来の視力検査で光覚のない眼を除く指数弁以下の低視力者63名87眼(指数弁21眼,手動弁56眼,光覚弁10眼)に対し,BRVTによる視力検査と,ゴールドマン視野計(GP)を用いて視野評価を実施した。

結果:87眼のうちBRVTで定量化が可能であったのは50眼で,定量可能であった50眼は,すべてGPⅤ/4 e視標による視野測定も可能であった。

結論:ランドルト環では測定できない低視力は,BRVTを使用することによってGPⅤ/4e視標が視認できる視機能まで定量的な評価が可能であった。

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要約 目的:可逆性白質脳症(PRES)は,高血圧や腎不全などが原因となり,後頭葉を中心に一過性の浮腫性変化をきたす疾患群である。一般に痙攣,視覚障害,頭痛などの症状を呈す。PRESの経過中に同名半盲をきたし,速やかに改善した1例を経験したので報告する。

症例:52歳,男性。頭痛,痙攣発作,意識障害を主訴に救急搬送された。頭部MRIで両側後頭葉にfluid-attenuated inversion recovery(FLAIR)像およびapparent diffusion coefficient(ADC)で高信号を認め,血管原性浮腫の存在が推定された。PRESの診断となり,脳神経内科で降圧療法などが行われ経過良好であったが,発症から1か月半ほどで急激な視野異常を訴え当科を受診した。両眼の視力は良好で,検眼鏡的な異常所見はなかったが,ゴールドマン視野検査にて左同名半盲を認めた。頭部MRIではFLAIR像およびADCで認めていた高信号は消退傾向であったが,arterial spin labeling(ASL)画像にて右後頭葉の血流増加を認めた。PRESの経過中に発症した視野障害と考え,内科的な治療を継続したところ,2日後より視野障害の訴えは改善し,3日後の視野検査では左同名半盲はほぼ正常化した。ASL画像での血流増加も消失した。以降,視野障害の再発なく経過している。

結論:一過性同名半盲の原因としてPRESが鑑別に挙がり,MRIにおける種々の画像検査が診断に有用である。

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要約 目的:岐阜大学医学部附属病院(当院)における眼トキソカラ症の報告。

対象と方法:過去20年間に当院眼科にて眼トキソカラ症と診断した10例10眼について診療録を基に後ろ向きに検討した。

結果:平均年齢は44.5歳,男性6例,女性4例で,すべて片眼性であった。発症から当院受診までの期間(中央値)は4か月で,初診時の矯正視力は,手動弁〜1.5であった。患者背景は7例で動物飼育歴,4例で生肉食嗜好歴があった。病型は後極部肉芽腫型3例,周辺部腫瘤型7例であった。初診時の病態は,網膜硝子体牽引(網膜剝離,裂孔含む)6例,硝子体混濁(出血含む)5例,黄斑前膜1例,黄斑部白色病巣1例および続発緑内障1例であった(重複あり)。経過中に白内障2例,続発緑内障1例,黄斑前膜1例の併発をみた(重複あり)。抗トキソカラ抗体は,血清では全例,眼内液では3例で陽性であった。治療の内訳は,内服は駆虫薬4例,ステロイド薬7例,手術は白内障手術1例,硝子体手術4例,緑内障手術2例であった(重複あり)。初診時と最終診察時の比較にて2段階以上の視力変化は,改善5例,悪化2例,不変3例であった。視力悪化症例の原因は,黄斑前膜と受診中断が1例ずつであった。

結論:眼トキソカラ症では,さまざまな病態を呈するために診断ならびに治療に苦慮することがある。また,視力予後は比較的良好であるが,併発病変に注意を要すると思われた。

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要約 目的:眼鏡を必要としない良好な裸眼視力が得られるように,片眼に遠方・近方重視の2焦点眼内レンズ(IOL),他眼に焦点深度拡張(EDoF)IOLを挿入するMixed EDoFという手法で白内障手術を行い,3焦点IOLと比較した。

対象と方法:対象は55〜76歳のMixed EDoF群10例20眼,FINE VISION(PhysIOL社)群10例20眼,PanOptix®(Alcon社)群5例10眼。Mixed EDoF群は片眼にはZMB00(AMO社),他眼にはZXR00 TECNIS Symfony®またはZXV(AMO社)を挿入し,両眼で遠方・中間・近方が見えるように調整した。乱視例には角膜輪部実質内切開もしくはトーリックIOLを使用した。術前および術後の視力と屈折を測定し,満足度を調査した。また,同時期に行った3焦点IOLと比較検討した。

結果:対象とした全例で遠見の裸眼での両眼開放視力はlogMAR 0以上となり,中間70cmでlogMAR 0.155以上,近見30cmはlogMAR 0.1以上となり,3焦点IOLと遜色のない結果となった。良好な近方視が得られるなど両眼に異なるIOLを挿入しても各々の良い特性が現れ,満足度は高かった。

結論:Mixed EDoFは両眼でほとんど眼鏡を必要としない見え方となり,満足度も高いため,多焦点IOLの選択の1つとして有用な方法と考えられる。

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要約 目的:HOYA社が新たに開発した眼内レンズ(IOL)であるエイエフ-1 iMics1(MP70)の囊内固定ならびに強膜内固定の術後早期成績について検討した。

対象と方法:囊内固定では,2.4mm強主径線角膜切開によりMP70を挿入した22眼と,XY1を挿入した22眼を対象とし,術後1か月における視力,屈折誤差について比較検討した。強膜内固定ではMP70を挿入した11眼と,NX-70を挿入した11眼を対象とし,術後1か月における屈折誤差,前房深度について比較検討した。

結果:囊内固定では,術後視力と術後屈折誤差の両群間に有意差がなかった。強膜内固定では,術後屈折誤差と術後前房深度については両群間に有意差はなかったが,MP70の術後屈折値が予測屈折値に対して軽度遠視にずれる傾向があり,術後前房深度がMP70ではNX-70と比較してやや深くなる傾向があった。

結論:MP70は囊内固定において有用なIOLであると考えられた。強膜内固定においては,軽度の術後屈折誤差が生じる傾向があり,術後前房深度による影響が考えられた。MP70を使用した強膜内固定は,術後前房深度が深くなることによる利点と特徴的な形状による利点を有しており,有用なIOLであると考えられるが,挿入するIOLの度数補正量についてさらなる検討が必要と考えられた。

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要約 目的:網膜と水晶体前囊の異常を示し,水晶体再建術により良好な視力を得たアルポート症候群の症例の報告。

症例:27歳男性。両眼の視力低下で当院紹介となった。既往歴にアルポート症候群で腎移植歴があった。

所見:矯正視力は右0.3,左0.5で,両眼に前部円錐水晶体があり,両眼黄斑耳側に白色斑の散在を認め,光干渉断層計では同部位の網膜内層菲薄化を認めた。黄斑微小視野計では同部位に感度低下を認めず,多局所網膜電図でも同部位に一致した振幅の減弱はなかった。当院にて両眼の水晶体再建術を施行した。採取した前囊は菲薄化し,亀裂を無数に認めた。水晶体上皮細胞の空胞化と細胞内小器官の減少が観察された。術後矯正視力は両眼とも1.0と改善した。

結語:網膜形態異常と前部円錐水晶体を伴うアルポート症候群を経験した。検査上,前部円錐水晶体による屈折異常を認めたが,網膜菲薄部位に一致する明らかな機能的異常は認めず,水晶体再建術により良好な視力を得られた。前部円錐水晶体は,水晶体囊の脆弱化による構造異常のためと考えられた。

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要約 目的:難治性眼サルコイドーシスに対しアダリムマブ(ADA)投与中に肺病変の悪化がみられ,パラドキシカルリアクションが考えられた1例を報告する。

症例:27歳,男性。両前眼部に炎症はなく,右眼底に広範囲におよぶ閉塞性血管炎を認め,全身検査および経気管支肺生検にてサルコイドーシスと組織学的に診断された。両眼底の無灌流領域に対し網膜光凝固術を施行したが,右眼に硝子体出血を生じ,プレドニゾロン(PSL)40mg/日の内服を開始した。その後,右眼網膜剝離を認めたため,硝子体手術および超音波水晶体乳化吸引術を施行した。術後2週間でADAを導入し,PSLを漸減,半年後に右眼内レンズ2次挿入術を施行した。PSL中止後,眼炎症の再燃はなかったが,呼吸器症状が出現した。胸部画像にて肺病変の悪化が認められ,ADAのパラドキシカルリアクションの可能性が考えられた。ADA継続のままPSL 25mg/日を開始したところ,肺病変は改善した。

結論:既存治療で効果不十分なサルコイドーシスに対しADAは新たな治療の選択肢であるが,パラドキシカルリアクションによるサルコイドーシス悪化がみられる可能性もあるため,全身状態にも注意し,その悪化時には適切な対処が必要である。

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要約 目的:前眼部光干渉断層計を使用し,同例の水晶体再建術直後,および術1年後の2時期で撮影後,それぞれの角膜形状と隅角底の位置を一致させて合成画像を作成し,両時期における眼内レンズ(IOL)の傾斜方向と程度を新しい方法で観察する。

対象と方法:1ピースIOL(SZ-1,NIDEK社)挿入例の1眼と,3ピースIOL(AN6K,KOWA社)挿入例の1眼を代表例とし,両例とも水晶体再建術直後および術1年後に撮影された画像を合成した。次に合成画像上の左右の隅角底を結ぶ直線①と,左右光学部のエッジ中央部を結ぶ直線を術直後,1年後で作成して各々直線②,③とし,直線①と直線②,③の成す角度から傾斜方向を決定した。術直後,1年後ともに光学部中心点を通る位置まで直線①を下方に平行移動させ,画像上の光学部右側エッジ中央部から平行移動した直線①までの垂線の長さを計測し傾斜程度とした。画像解析はadobe社製のphtoshop,illustrator,計測プラグインソフトBPT-Pro4を使用した。

結果:SZ-1挿入例で術直後が12時〜2時〜4時,1年後では9時〜12時〜2時,AN6K挿入例で術直後が12時〜2時〜4時,1年後では10時〜2時〜3時,ともに硝子体側へ傾斜していた。また傾斜程度は,SZ-1挿入例の術直後で2,3時,1年後で10時,AN6K挿入例の術直後で3時,1年後で2時の傾斜がともに大きかった。

結論:本手法は,挿入後の位置変化や傾斜が少ないIOLを開発する際に有用な情報を与えるものと考えた。

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要約 目的:弘前大学医学部附属病院眼科(当科)病棟で発生した流行性角結膜炎(EKC)の院内流行についての報告。

事例:2018年11月下旬に医師1名が,その30日後の12月中旬に看護師1名がEKCにそれぞれ罹患し2週間の就労制限となった。その10日後,12月下旬に病棟入院患者2名のEKC感染が判明し,翌日退院となった。この際,診察医より他の医師に事例報告および注意喚起がなされた。2019年1月上旬に新たに入院患者1名がEKCを発症し,同日退院となった。その翌日に病棟退院患者2名が外来受診し,EKCを発症していることが判明した。当院感染制御センターとの協議のもと,感染対策の徹底と1月最初の事例発生から2週間の入院制限が決定した。さらにその翌日に病棟入院患者1名が新たにEKCに罹患していることが判明し,入院制限が当初の予定からさらに4日間延長された。その後,当科視能訓練士1名の臨床的EKCの発症と,退院患者2名の紹介先の病院でのEKC発症が判明したが,病棟内の新規EKC罹患者は発生しなかった。1月に入って最初のEKC院内患者発生から18日後に病棟業務再開となった。

結論:医療従事者3名,入院患者8名,計11名の眼科病棟におけるEKC outbreakを経験した。院内感染発症の危険性に留意した日常診療上の予防措置の重要性を確認した。

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要約 目的:メトトレキサート(MTX)による中枢神経障害が原因で視覚障害を生じた症例の報告。

症例:45歳,男性。2か月前から視力と中心フリッカ値が低下し,ゴールドマン動的視野検査では中心暗点とマリオット盲点の拡大があった。検眼鏡上は異常なく,MRIでT2WI/STIR/FLAIR像で両側視神経から視交叉,さらには視索,外側膝状体にかけて高信号を認め,脳梁の著明な腫大とともに大脳半球白質に左右対称性に広範囲に同シーケンスで高信号を認めた。血液検査,髄液検査,遺伝子検査などで原因は特定できなかった。関節リウマチの既往があり,MTX 8mg/週内服していたことから薬剤性による可能性も考え休薬したところ,自覚検査,画像所見ともに徐々に改善した。

結論:さまざまな薬剤が中枢神経障害を引き起こすとされており,薬剤歴の聴取は重要であると考えられる。

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要約 目的:びまん性に進展する脂腺癌により眼瞼癒着をきたし開眼不能になった1例の報告。

症例:78歳,男性。左上眼瞼に凹凸不整な腫瘤が出現し,瞼裂が癒着し開眼不能の状態となり,精査加療目的で近医から紹介され受診した。

所見:生検による組織診で脂腺癌が疑われ,画像診断で眼球まで腫瘍が浸潤している可能性が大きく,リンパ節転移や多臓器転移を認めなかったことから,眼瞼と眼球を切除し腫瘍の完全切除を目指す方針となり,全身麻酔下で左眼窩内容除去と分層植皮による再建を形成外科と合同で行った。術後11か月目の陽電子放出断層撮影で左頸部リンパ節転移を認め,当院耳鼻科で左頸部郭清手術施行し,現在経過観察をしている。

結論:難治性の慢性結膜炎を呈する場合,点眼による偽類天疱瘡だけでなく,びまん性に病変が進展する脂腺癌も鑑別として考え,診療する必要がある。

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要約 目的:和歌山県立医科大学附属病院(当院)におけるテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合カプセル剤(TS-1®)内服後の涙道閉塞,狭窄に対する涙道内視鏡下涙管チューブ挿入術の術後成績についての検討を行った。

対象と方法:2013年1月〜2018年12月に,当院にて涙道閉塞に対し涙道内視鏡下涙管シリコーンチューブ挿入術を施行したTS-1®内服歴のある10例18側(男性10例,女性0例)を対象とした。チューブ抜去はTS-1®内服終了例は手術2か月後,TS-1®内服中では内服終了2か月後で行った。

結果:閉塞部位は涙小管狭窄6側,涙小管閉塞5側,涙点閉鎖+涙小管閉塞4側,総涙小管閉塞1側,鼻涙管閉塞1側,総涙小管閉塞+鼻涙管閉塞1側であった。留置完了率は挿入不可が18側中4側あり,涙小管閉塞例では矢部・鈴木分類Grade 3群の留置率が有意に低かった。TS-1®内服開始から手術までの期間と留置不成功率は正の相関があり,内服開始から手術施行までの期間が長いほど不成功率が高くなった。チューブ抜去6か月後での流涙改善率は,上下涙点とも留置できた例では9側中8側で流涙が改善した。すべての症例で再閉塞はなかった。

結論:涙小管閉塞部位の長い症例,およびTS-1®内服開始から手術までの期間が長い症例で留置完了率が不良であると考えられる。

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要約 目的:眼瞼下垂手術後の患者満足度について,後ろ向きに調査した。

対象と方法:2016年5月〜2018年6月の期間に,炭酸ガスレーザーによる皮膚切除を伴ったミュラー筋タッキング手術を行った。術前,術後(1〜3か月)に質問票も用いて開瞼不良,狭い視野,頭痛,肩こり,眠気,改善度,手術の満足度,外見の満足度を調べ,術前後の変化を評価した。さらに,満足度の低い症例については,その要因を調査した。

結果:症例数は95例180眼,男女比32:63,年齢は25〜88歳(平均:67.9±10.8歳)であった。質問事項の術前後の変化は,「開瞼不良がある」が51%から14%に,「視野が狭い」が41%から6%に,「頭痛」が31%から11%に,「肩こり」が70%から44%に,「眠気」が72%から52%に改善した。改善度については,89%で症状が改善したと回答した。手術後の満足度は89%と高く,外見に対する満足度も84%が「良い」と回答した。改善度,手術の満足度,外見について,「やや不満」と答えたのは8例14眼であり,年齢46〜76歳(平均58.6歳),男女比3:5であった。外見の変化が予想より少ない,左右差,ドライアイ,突っ張る感じがあるが不満の原因であった。

結論:術後満足度は高いものの,年齢と性別にかかわらず,術後の期待度を確認し,外見も考慮し,術前に十分に説明することが必要と考えられた。

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 白内障手術併用眼内ドレーンであるiStent®は,2016年に国内承認されて以降,低侵襲緑内障手術(MIGS)の1つとしてわが国でも広く普及している。国内ではiStent®の2本挿入は認められていないが,実際は2本挿入のほうが1本挿入よりも眼圧下降効果が優れていると報告されている。そこで,2本挿入を前提とした第2世代のiStent®(iStent inject®)が登場しており,2019年10月についに国内承認を得た。今回は,まもなく国内でも使用可能となるiStent inject®について解説したい。

連載 Clinical Challenge・3

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症例

患者:45歳,男性

主訴:左眼の視力障害

既往歴:特記すべきものなし

経過:突然発症した左眼の視力障害の症例。眼痛はなかった。初診時所見は,視力は右1.2(矯正不能),左手動弁(矯正不能)。眼圧は両眼ともに12mmHgであった。左眼に相対的瞳孔求心路障害(relative afferent pupillary defect:RAPD)を認めた。前眼部および中間透光体には,両眼とも特記すべき所見はなかった。左眼底にも特記すべき所見はなかった(図1)。乳頭の発赤や腫脹,光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)所見においても乳頭周囲網膜神経線維層の肥厚は認めなかった。副鼻腔炎など,視神経に影響を及ぼしうる所見もなかった。

 中心フリッカ値は,右は42Hzで正常,左は10〜15Hzであった。視野は,右は正常,左視野は一部に残存するものの大幅な視野欠損がみられた(図2)。頭部および眼窩部のMRIを施行したが,眼窩部に病変と関連すると思われる異常所見はなかった。レーベル遺伝性視神経症の遺伝子検査は陰性であった。血清抗アクアポリン4抗体検査も陰性であった。

 原因不明の視神経障害と考え,患者と相談のうえでステロイドパルス療法を行った。治療3日目から視力が改善し,3週間目には左視力が(0.8)に改善し,視野障害も明らかに改善した。左視神経はやや蒼白色調になったが,中心フリッカ値も20Hzに改善した。

 その後,定期的に経過を観察していたが,発症から半年後に再び左眼の視力障害を訴えた。そのときの視力は,右1.2(矯正不能),左手動弁(矯正不能)であった。前回と同じようにステロイドパルス療法を行ったが,視力の改善は得られなかった。以後,半年に1回程度の経過観察を続けてきた。視力は右1.2(矯正不能),左手動弁(矯正不能)のままであったが,視神経の色調は次第に蒼白化してきた。6年間は変化がなかったが,その頃から左網膜静脈の拡張蛇行がみられるようになった(図3)。自覚症状には変化がなかったが,さらに3か月後,左乳頭に軽度の出血が出現した(図4)。

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患者:63歳,男性

既往歴:なし

現病歴:2012年にベーチェット病によるぶどう膜炎を発症した。コルヒチン内服およびステロイド薬の局所投与にて治療されていたが,1〜2か月ごとに眼炎症発作を再燃するようになり,2015年にコントロール不良のため淀川キリスト教病院眼科を紹介され受診した。

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要約 目的:急性網膜壊死は,ヘルペスウイルスにより生じる感染性ぶどう膜炎であり,経過中に後部硝子体剝離が発生し,壊死網膜に裂孔が形成され,裂孔原性網膜剝離に至ることが多い。通常,網膜剝離は疾患の急性期に生じることが多いが,発病後,長期間を経て生じた報告は比較的少ない。今回筆者らは,急性網膜壊死の発症から15年経過した後に裂孔原性網膜剝離を生じて手術を施行した1例を経験したので報告する。

症例:27歳,男性。12歳時に左眼に急性網膜壊死を発症し,他院にて抗ヘルペス薬とステロイドによる治療にて治癒した。その後再発はなく,転居に伴い2014年から大阪医科大学附属病院眼科(当科)にて経過観察中であった。初診時,矯正視力は右1.5,左0.6であり,左眼は白内障を併発していた。2017年11月,朝からの左眼視野欠損を主訴に当科を受診した。黄斑部から下方にかけて2象限に及ぶ裂孔原性網膜剝離を認めた。入院のうえ,左眼の超音波水晶体乳化吸引術+経毛様体扁平部硝子体切除術+シリコーンオイル注入を施行した。術後,シリコーンオイル下に網膜は復位し,初回手術から4か月後にシリコーンオイル抜去+眼内レンズ2次挿入術を施行した。

結論:急性網膜壊死では,急性期に内科的治療が奏効して治癒したとしても,長期間を経て網膜剝離を生じることがあり注意が必要である。急性期を過ぎても継続的な経過観察が必要であると考えられた。

臨床ノート

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緒言

 結膜囊胞は外来診療でしばしば遭遇する疾患であるが,小型で症状のないものは経過観察,症状があり治療を希望する場合は外科的治療が選択される。最も単純な治療は囊胞穿刺であるが,再発の確率が高いことが欠点として挙げられる。囊胞の全摘出は,再発のない治療として理想的であるが,結膜を切開して囊胞を摘出する際に,手術操作により脆弱な囊胞壁が破れ,摘出に失敗する場合や,囊胞が周囲組織と癒着し,その剝離の際に囊胞が破れ,囊胞の全体像が不明となり,囊胞壁が残存してしまう場合などがある。今回,粘弾性物質(ヒーロンV®)を囊胞に注入することで,容易に結膜囊胞の完全摘出を行うことができた8例を経験した。本方法は,結膜囊胞の根治的治療法の1つの選択肢になりうるものと考える。

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 ニホンザルの感覚網膜を割断して走査電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)でみたもので,感覚網膜に特徴的な層構造がよくわかる。本図は,左側が硝子体側,右側が脈絡膜側であるが,左側から右側に向かって,内網状層の一部,内顆粒層,外網状層,外顆粒層,外境界膜,杆体・錐体層の一部,が区別できる〔なお,本稿の写真は「眼の神秘SEMアトラス」(筆者の自費出版)からの転載である〕。

 SEMの最大の特徴は,焦点深度が深く立体的な画像が得られることで,感覚網膜の割断面をSEMでみると,各層相互の3次元的位置関係がよくわかる。SEMは透過電子顕微鏡に比べると観察範囲が広いこと,光学顕微鏡に比べると分解能が高く,微細構造レベルの観察ができること,などの利点がある。SEMの観察対象としては,従来は細胞・組織の自由表面に限られていたが,試料作製を工夫することで細胞・組織の内部構造を観察することもできる。本図は樹脂凍結割断法を応用して,ニホンザルの感覚網膜割断面をSEMでみたものである。今回の写真撮影に使用した検査機器はフィールドエミッションSEM,日立HFS-2(分解能は3nm)で,写真倍率は1,600倍である。

海外留学 不安とFUN・第53回

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アメリカで最も幸せな都市

 2018年7月から,アメリカのバージニア州シャーロッツビルにある,バージニア大学(University of Virginia:UVA)の眼科学研究室に留学しています。

 シャーロッツビルは,バージニア大学を中心として発展している人口約4万5千人の小さな街で,都市の便利さと小さな街の温かい雰囲気を兼ね備えています。アメリカ経済研究局が近年「アメリカで最も幸せな都市」に挙げるほど,とても住みやすい街だと感じます。小さな街ながら,アメリカ大統領のうち,第3代のトーマス・ジェファーソンと第5代のジェームズ・モンローを輩出した街でもあります。街の南東の丘上には,“モンティチェロ”と名付けられたトーマス・ジェファーソンの邸宅があり,バージニア大学とともにユネスコの世界遺産に登録されています。

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 昨今の眼底画像診断の主流といえば,非侵襲的かつ短時間で行うことのできるOCTもしくはOCTアンギオグラフィであろう。その分臨床の場で,蛍光眼底造影検査が行われる頻度が減ってきているのは間違いない。しかしながら,たとえ短所があろうとも,蛍光眼底造影検査で得られる情報量は多く,動的な血液循環や血液網膜関門の破綻の有無などは,造影剤を用いないと把握できない。すなわち蛍光眼底造影は,少なくとも今の時点ではまだ,他で補完することのできない必須の眼科検査なのである。

 本書を読むと,そのような蛍光眼底造影検査の意義がありありと伝わってくる。本書は,『臨床眼科』誌で2016年から約2年間にわたって連載されていた「蛍光眼底造影クリニカルカンファレンス」を土台に,OCTアンギオグラフィなどの最新の情報を加えて出版されたもので,総論と25の眼底疾患を詳述した各論から成っている。

図説 医学の歴史 泉 孝英
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 650点を超す図版を収載した656ページに及ぶ大冊である。「膨大な原典資料の解読による画期的な医学史」との表紙帯が付けられている。私からみれば,わが国の明治の近代医学の導入(1868年)以来,150年の年月を経て,わが国の人々が手に入れることができた「医学の歴史」教科書の決定版である。医師・歯科医師・薬剤師・看護師・放射線技師・検査技師などの医療関係者だけでなく,一般の方々にも広く読んでいただきたい。豊富な図版は,専門知識の有無を問わず本書を読める内容としている。

 教科書としてお読みいただく以上,「飛ばし読みは禁」である。まずは,573ページの「あとがき」からお読みいただきたい。坂井建雄先生の解剖学者・医史学者としての歩みの中から,本書誕生の歴史をたどることができる。坂井先生のこれまでの多数の学会発表,論文,書籍などから,幅広く資料収集に努めていられることは推察していたが,「ここまで!」との絶句が,本書を拝見しての私の第一印象である。

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目次

欧文目次

第38回眼科写真展 作品募集

学会・研究会 ご案内

希望掲載欄

アンケート用紙

次号予告

あとがき 鈴木 康之
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 新型コロナウイルスで世の中は一変してしまいました。多くの方々が感染し,また亡くなっています。町の店はほとんどが閉まり,観光地が閉鎖され,近所の公園ですら駐車場が閉鎖されています。保育園から大学院までたくさんの学校がお休みになり,われわれもZoomとTeamsの使い方は覚えたものの,とても状況に十分に対応しているとは言い難い状況です。もちろん病院には次々と感染された患者さんがやってきます。

 そして,われわれ眼科医にとって何よりも衝撃的であったのは,第124回日本眼科学会総会がWeb開催になってしまったことです。本来,多くの研究者,眼科医が集まり熱いdiscussionが繰り広げられたであろう総会がWeb開催になってしまったことは残念でなりません。ところが一方で学会長の後藤先生をはじめ関係者の大いなる努力の賜物と思いますが,Web開催となった日本眼科学会総会の内容が想像以上にと言っては失礼ですが,大変充実したものになっていることに驚きを隠せないのも事実です。特別講演,招待講演,評議員指名講演をはじめとしてシンポジウム,教育セミナー,サブスペシャリティーサンデーなどの非常に鮮明なスライドを自分の時間が空いているに自由に拝見でき,さらに音声付きの講演を実際に会場にいるがごとく拝聴できるというのは感動すら覚える体験でした。通常なら1つしか選べない同時進行の講演も自分の時間が許す限り見ることができるというのは本当に有難いことです。もちろん,実際に研究者が一堂に会して情報交換するということに大変な意義があることに異論はないものの,今回の非常事態をきっかけとして学会運営にも大きな変化があるのではないかということを予想させる出来事でした。秋の日本臨床眼科学会がどのように開催されるかはまだ流動的ですが,関係者皆さんのご努力で,きっとよりupgradeされた学会になるのではないかと期待させてくれる今回の日眼Web開催だったと思います。これからもみんなで力を合わせ,前を向いて進んでいきましょう。

基本情報

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臨床眼科
74巻6号 (2020年6月)
電子版ISSN:1882-1308 印刷版ISSN:0370-5579 医学書院

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