臨床眼科 70巻2号 (2016年2月)

特集 緑内障治療の副作用・合併症対策総ざらい

点眼薬 井上 賢治
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はじめに

 緑内障治療では視野障害の進行を抑制するために眼圧を下降させる。点眼薬治療が効果と副作用の観点から第一選択である。緑内障点眼薬には現在8系統の点眼薬と,それらを組み合わせた配合点眼薬がある(図1,表1)。眼圧下降効果と副作用出現には個人差があり,多剤併用でも副作用が全く出現しない症例もあり,副作用の評価は難しい。

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はじめに

 トラベクロトミーは,合併症も少なく安全な手術として広く行われてきたが,術後眼圧がhighteens1)であり,進行した緑内障症例には行いにくい手術であった。しかし,sinusotomy2)やdeep screlectomyを併用することにより3)術後眼圧をさらに低くすることができるようになり,初期の緑内障症例ばかりではなく,比較的進行した症例にも手術適応が広がってきた。このようにトラベクロトミーは,初期の緑内障症例においても合併症もほとんどなく眼圧を下げることができる術式であり,これをマスターすれば緑内障手術適応が大きく広がることになり,緑内障手術を志す術者は必ず習得すべき手術である。

 一方,トラベクレクトミーは,マイトマイシンCを併用することにより従来のトラベクレクトミーより術後の眼圧コントロールも良好となったが4),それによる重篤な併発症4,5)が大きな問題となり躊躇されるようになった。トラベクレクトミーの術後合併症のためにトラベクロトミーはその安全性から再度見直されるようになった。

 トラベクロトミーは術後の合併症は少ないが,手術手技においてやや難しいところがある。これをマスターしなければ正確な手術を行うことが難しくなり,ひいては手術による合併症をさらに引き起こすことになる。この手術手技の合併症は,Schlemm管の発見,プローブの挿入と回転時に最も起こりやすい。そこで特にこの点において手術中の合併症を避けるための手技を中心に解説する。トラベクロトミーの術後合併症はほとんどない。しかし,この手術特有の合併症があり,その管理には注意を要する。本稿では,血液逆流,術後高眼圧,Descemet膜剝離への対応について概説する。

濾過手術 大鳥 安正
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はじめに

 濾過手術の代表である線維柱帯切除術(以下,トラベクレクトミー)は1961年にSugarが半層強膜弁下に瘻孔を作製する術式を報告したことに始まる。その当時,房水はSchlemm管や血管に吸収されて眼圧が下降すると考えられていた。1968年にCairnsによってトラベクレクトミーの奏効機序は結膜下に房水が濾過されていることが報告され,その後1983年ChenによるマイトマイシンCの併用,1984年Heuerによる5-フルオロウラシルの併用によって濾過機能が持続するようになった。その後もトラベクレクトミーは多数の改良を経て緑内障手術のゴールドスタンダードとなった1)

 血管新生緑内障や正常眼圧緑内障を除いた日本人でのマイトマイシンCを併用したトラベクレクトミーでは,眼圧が5〜15mmHgになるのは,1年後で78%,5年後で50%であり,偽水晶体眼,術前高眼圧,3回以上の濾過手術既往は術後成績が悪く,術後のneedlingや白内障手術も術後成績に影響すると報告されている2)。術後早期合併症には,脈絡膜剝離,浅前房,前房出血があり,術後1か月以降の合併症には,低眼圧黄斑症,濾過胞感染がある。術前の状態,術後早期および晩期に起こる合併症にいかに対処するかがトラベクレクトミーの術後成績に影響する。本稿では,トラベクレクトミーでの合併症とその対策について解説する。

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はじめに

 Ex-PRESS®(アルコン社)は一定の内腔により房水流量が予測可能であり,線維柱帯切除術と同等の眼圧下降効果が得られること,また虹彩切除を必要としないため合併症のリスク軽減や前房開放時間の短縮ができることなどの臨床上のメリットがあると報告されている。しかし,わが国で導入されてからまだ時間が短く,合併症に関する報告が少ないため,理想的な臨床効果を得るにはトラブルシューティングについても事前に十分に理解しておくことが必要である。

 本稿ではEx-PRESS®併用濾過手術の合併症について,その対策や問題点について概説する。

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はじめに

 2012年4月からわが国でもバルベルト(Baerveldt®)緑内障インプラントが保険診療で使えるようになった。トラベクレクトミーと異なる手技,眼圧下降機序,術後管理などに戸惑うことが多かったものの,欧米との積極的な情報交換,術者間の情報共有が急速に進んだ。その結果,従来の線維柱帯切除術で眼圧を制御できなかった高眼圧の症例の治療材料として期待以上の効果を得ることができるようになった。バルベルト緑内障インプラントだけでなくアーメド(AhmedTM)緑内障バルブも認可を受けて,チューブシャント手術は今や難治性の緑内障患者の治療に確固とした地位を占めるようになってきた。

 術後早期の好成績に喜んでいるうちに,徐々にチューブシャント手術特有の合併症が出現して,術者や患者を悩ませる事態となっている。チューブ手術特有の合併症とその対策について述べたい。

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はじめに

 現在,わが国で保険診療が可能なロングチューブ型の緑内障手術用医療材料(glaucoma drainage device:GDD)として,バルベルト(Bearveldt®)緑内障インプラント(以下,バルベルト)(AMO Japan社,2011年8月31日認可),アーメド(AhmedTM)緑内障バルブ(以下,アーメド)(JFCセールスプラン社,2014年3月28日認可)の2種類がある(図1)。前房あるいは硝子体切除術と併用して毛様体扁平部に挿入したチューブを通して,眼球赤道部に移植したプレートに房水を誘導し,プレート周囲の組織に房水を吸収させることで眼圧下降が図られる。角膜輪部近傍の結膜瘢痕のためにトラベクレクトミーの効果が期待できない,あるいはトラベクレクトミーが不成功に終わった種々の緑内障にも効果が期待できる。

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 症例は16歳,男児。幼少時より両眼の視力が不良であったが,原因不明といわれていた。先日,弟が当科にて先天網膜分離症と診断されたため,精査目的に当科を受診した。

 初診時視力は右0.1(0.3),左0.1(0.3),眼圧は右16mmHg,左15mmHg。両眼黄斑部に車軸状の類囊胞様変化がみられ,光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)では黄斑部に広範な網膜分離が認められた。周辺部網膜に網膜分離所見はなかった。網膜電図では律動様小波の減弱と,陰性b波が観察された。以上の検査所見から先天網膜分離症と診断した。

連載 今月の話題

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 統計学はより正確に物事を理解し,より適切な介入を行うための学問である。その基本理念を理解することは,数学が苦手な人でも,決して難しいことではない。統計学の本質を理解すれば,研究や臨床だけではなく,日常生活にも多くの発見があり,人生を豊かにしうる。本稿ではその入り口を紹介する。

連載 熱血討論!緑内障道場—診断・治療の一手ご指南・第1回【新連載】

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今月の症例

【患者】31歳,女性

【主訴】精査希望

【現病歴】他県眼科で緑内障と診断され,緑内障治療点眼薬を使い始めた。転居に伴い緑内障の治療継続を希望し近医眼科を受診したところ,先天性の乳頭低形成と診断された。医師によって言うことが違うので,精査目的で当科を受診された。

連載 蛍光眼底造影クリニカルカンファレンス・第2回

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疾患の概要

 網膜静脈分枝閉塞症(branch retinal vein occlusion:BRVO)は網膜動静脈交叉部での動脈による静脈圧排によって乱流が生じ,血栓が生じることで網膜静脈の分枝が閉塞すると考えられている。高血圧,動脈硬化などの生活習慣病患者に多くみられる1)

 急性期では,網膜神経線維層にみられる網膜表層出血など特徴的な所見がみられ診断は比較的容易であるが,出血が吸収された状態で初めて受診した場合には,診断を確定するためにフルオレセイン蛍光眼底造影検査(fluorescein angiography:FA)が非常に重要である。静脈閉塞が持続すると閉塞静脈の白線化,閉塞部位と非閉塞部位を結ぶ側副血行路の発達,毛細血管拡張や毛細血管瘤,無灌流領域(nonperfusion area:NPA)の形成などの変化が生じる。FAでは上記の血管変化を明瞭に捉えることができる。

連載 目指せ!眼の形成外科エキスパート・第18回

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はじめに

 顔つきは人によってそれぞれ異なるが,ある程度は,良い人か悪い人かは顔つきでわかるものである。腫瘍も同様で,これはこの疾患,これは良性,これは悪性と,ある程度は判別可能である。本稿では,腫瘍の「顔つき」からわかること,特に腫瘍の色から推測した臨床的診断について述べていくこととする。

 腫瘍の色は,「黒」「黄色」「赤」に大別される。以下,各色から連想される腫瘍とその概略を述べていくこととする。

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緒言

 原田病にみられる眼症状と眼外症状の発症原因は,メラノサイトに対する自己免疫によって生じると考えられている1)。原田病に特徴的な全身所見は白髪,脱毛,睫毛の白変,皮膚の脱色素斑,感音性難聴である1)。今回筆者らは,眼科所見では原田病の確定診断に至らず,前部ぶどう膜炎後に睫毛白変,脱毛,皮膚の脱色素斑を認めた症例を経験したので報告する。

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 網膜剝離の治療に対しては本邦でもいくつかの成書が既に発刊されているが,この度,網膜剝離治療について新しい本が上梓された。『網膜剝離と極小切開硝子体手術』というタイトルのごとく,硝子体手術による治療法についての最新の方法が解説されている。

 本の構成は非常にユニークであり,総説,ケーススタディ,診断,硝子体手術,合併症に対する治療と予防について,順に書かれている。まず,総説は非常に内容のある質の高いもので,網膜剝離の診断と治療,さらには手術後の形態および機能についてERG,OCT,AOカメラによる評価を行っている。また,網膜剝離に伴う炎症,細胞死などを各種サイトカインなどによる評価とともに,わかりやすく解説している。したがって,この総説を読むことで,いかに裂孔原性網膜剝離の病態が奥深く,興味深い疾患であるかがわかる。

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 2014年6月,「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律(医療介護総合確保法)」が成立し,より効率的で質の高い医療提供体制を目指した地域医療を再構築し,地域包括ケアシステムとの連携を深めるための方針が定められた。

 改革が急がれる背景には,日本が縮減社会に入ってきていることがある。これから毎年,日本から小さな県一個分の人口が消滅していく。その一方で,高齢化率は30%を超えようとしており,団塊の世代が75歳以上となる2025年には,国民の3人に1人が65歳以上,5人に1人が75歳以上となる。疾患を有する高齢者が増加することになり,医療と介護の需要が急速に増大する見通しとなっている。

海外留学不安とFUN・第2回

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 2012年5月からアメリカのケンタッキー大学眼科に博士研究員(ポストドクター)として留学しています。留学先の教室は,日本の学会でも何度も口演されているJayakrishna Ambati教授が主宰しておられる研究室です。研究テーマは加齢黄斑変性で,マウスなどでの動物実験と培養細胞を使った実験を主に行っています。記事を書いている時点でポストドクターが11名,総勢25名で日々研究しています。

 Ambati研究室は日本人留学生と縁が深く,教室が小さかった頃から日本から眼科臨床医が研究留学されてきました。そのため研究室の卒業生が多く,情報を集めやすい教室の1つだと思います。私がいた名古屋では,名古屋大学の兼子先生と名古屋市立大学の野崎先生,平野先生がAmbati研究室に留学しておられたので,事前にお話を聞かせていただくことができました。

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要約 目的:低髄液圧症候群に伴う慢性硬膜下血腫に視神経乳頭浮腫が生じた症例の報告。

症例:30歳の女性が羞明と変視症で受診した。2か月前に慢性硬膜下血腫と視神経乳頭浮腫として診断されていた。

所見:矯正視力は左右眼とも1.0で,顕著な視神経乳頭浮腫が両眼にあった。中心フリッカ値が低下し,盲点の拡大があった。MRIで慢性硬膜下血腫があり,低髄液圧症候群の可能性が指摘された。眼症状以外に起立性頭痛があった。保存的な治療で,2か月後に硬膜下血腫と視神経乳頭浮腫は消失し,自覚症状も改善した。

結論:若年者での視神経乳頭浮腫では,慢性硬膜下血腫が原因となり,低髄液圧症候群が関与している可能性がある。

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要約 目的:帯状角膜変性に対する全層角膜移植後に,角膜移植片機能不全と緑内障が生じ,再度の全層角膜移植とバルベルト®緑内障インプラント挿入を同時に行った症例の報告。

症例:73歳の女性が右眼視力低下で受診した。2年前に右眼の網膜剝離で手術を受け,3回のシリコーンオイル挿入と眼内レンズ縫着を受けていた。

所見と経過:右眼には帯状角膜変性があり,矯正視力は0.01であった。8か月後に右眼に全層角膜移植を行い,視力は0.2に向上した。2年後に眼圧が35mmHgに上昇し,角膜内皮細胞数が減少して角膜移植片機能不全になり,視力は手動弁に低下した。再度の全層角膜移植と後房型のバルベルト®緑内障インプラント挿入を同時に行った。12か月後に移植角膜片は透明で,眼圧は10mmHg以下で,視力は0.15に維持されていた。

結論:全層角膜移植後に生じた角膜移植片機能不全と緑内障に,再度の全層角膜移植とバルベルト®緑内障インプラント挿入が奏効した。

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欧文目次

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 医学用語には,dia(ダイア)ではじまる単語がかなりあります。臨床の現場でよく使われるのがdiagnosis「診断」,そして病名ではdiabetesが代表でしょうか。

 このどちらもギリシャ系の名詞です。ギリシャ語のdiaは前置詞として使われることが多く,英語に直すとthrough「通って,徹底して」という感じになります。

べらどんな 本の寿命
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 人と同じように,本にも寿命がある。

 仕事の関係でこれを具体的に感じたのは,明治時代の眼科の教科書を教室の先輩からいただいたときであった。

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あとがき 坂本 泰二
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 今年は暖冬と予想されていましたが,その予想以上に温かい師走を迎えております。昨年は,日比谷公園の凍った噴水を見ながら歩いた覚えがありますから,よほど寒かったのでしょう。それが嘘のような冬の陽気です。

 さて,今月の特集は「緑内障治療の副作用・合併症対策総ざらい」です。私が大学を卒業した1980年代は,緑内障の治療法は限られており,その効果も限定的でした。そして,私自身が緑内障という学問を理解してなかったせいか,その後のさまざまな治療法の出現を予想できませんでした。私が間違っていたことは,現在さまざまな薬や手術法が出現していることからも明らかです。今や緑内障は眼科学の花形ともいえる領域になっています。一般に,治療というのは,生体に不自然な状況を強いるわけですから,当然意図せざる影響,つまり副作用が出てきます。短期的な治療では顕在化しない副作用でも,長期治療が必要な緑内障においては深刻な影響を及ぼすこともあります。ですから,緑内障治療においては,副作用を知ることがことのほか重要なのです。特に新しいチューブシャント手術は,短期的な管理を大幅に改善しましたが,長期的な成績や副作用は十分にはわかっていません。本号では,その点について,斯界のエキスパートにより詳しく解説されているので,理解の一助になるでしょう。

基本情報

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臨床眼科
70巻2号 (2016年2月)
電子版ISSN:1882-1308 印刷版ISSN:0370-5579 医学書院

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