公衆衛生 83巻4号 (2019年4月)

特集 企業経営と公衆衛生の接点

「公衆衛生」編集委員会
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 1989年に東西冷戦構造が崩壊し,その後,過度な新自由主義が台頭しました.現在,格差社会の是正が課題とされています.それに対するには,企業経営の動向について理解を深める必要があると考えます.

 生活の身の周りを見渡すと,衣食住に関わる消費財の供給だけでなく,健康・医療・介護,子育て支援に関わるサービスの多くを民間事業者が担っています.特に,コンビニエンスストアは社会的弱者にとって不可欠な生活資源となっています.また,快適な地域や都市空間の実現や健康づくりの3要素である「運動」「栄養」「休養」に関わるサービスの提供も企業が担うようになってきています.つまり,企業経営のありさまによって人々の健康が規定される状況になっています.だからこそ,企業経営者には,健康経営,CSR(企業の社会的責任),CSV(共有価値の創造),ESG(環境,社会,企業統治)などの理念や,企業を社会の公器と考えた経営が強く求められるようになっています.

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はじめに

 公衆衛生の目標とするものや理念自体は19世紀から大きな変化はない.しかし,公衆衛生と社会との関係は変化している.公衆衛生が対象とする健康問題が変化してきているからである.また,社会自体が変化してきているからでもある.公衆衛生は福祉,医療などの組織によって育まれ,20世紀に入って独立した組織と体制となった.しかし,公衆衛生の問題解決には多分野の力が必要となり,さまざまな領域の組織や人々の力を結集しないと解決が難しくなってきている.そのため,他領域との境界域があいまいになってきている.

 社会の組織を概念的に表1に示す.社会の組織は「官」と「民」,そして「公」と「民」の観点から分類できる.「官」と「民」の分け方は,政府(国)との関係性に基づいている.企業は,「民」の代表的な存在である.「民」の中には「企業」以外に「非営利法人」がある.「公」と「私」の分類は,私的利益追求の行動・活動や姿勢によるものである1).実際にはその中間領域の組織などが存在しており,現実の分類は単純ではない.

 公衆衛生は,「官」あるいは「公に属する民」の領域が担うものであり,企業はその対極にあるものとされている.しかし,社会の多くの機能や役割を企業が担うようになってきている2).公衆衛生領域も同様である(図1).この傾向が今後,一層進んでいくものと思われる.

 「官」と「民」,「公」と「私」の関係と組み合わせによって,公衆衛生は異なった性格のものとなる.この点については,明治期に衛生行政の確立を担当していた長与専齋は米国のコレラ対策を日本のものと比較し,「自由寛洪の国柄とて,もっぱら自治衛生の大義を主として,規則法文の厳正なるに似ず,手数の簡易にして事務の敏活に運ばるは実に感服に堪えたり」とつづり3),日米の公衆衛生体制の違いが柔軟性,専門性,現実への即応性に違いがあることを記している.日米の地方自治体,民間団体,企業などの発展状況の違いが公衆衛生の性格の相違をもたらしている.

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はじめに

 企業と社会をめぐる問題の領域では,最近では,CSR(corporate social responsibility:企業の社会的責任),ESG(environment, social and governance:環境,社会,ガバナンス),CSV(creating shared value:共有価値の創造),SDGs(sustainable development goals:持続可能な開発目標)のように3文字のアルファベットがあふれている.これは,企業と社会の関係が欧米主導のコンセプトでリードされていることの表れである.しかし,かつては公害問題や労働争議のように,日本語で問題が特定化されていた時代もあった.

 現在でも環境問題や人権問題あるいは格差拡大など,具体的な社会問題は,多く存在している.しかし,上記のアルファベットの略語で示される抽象的な世界で議論されていることとは問題の本質を異にする.本稿では,最近の50年ほどのタイムスパンで企業と社会をめぐる問題の歴史を振り返り,さらに将来を展望する.なお,「公衆衛生」誌の性質を考慮して,最近,注目されている健康経営の動向にも言及する.

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持続可能な開発目標とパリ協定

 2015年9月,国際連合(国連)総会で「持続可能な開発のための2030アジェンダ」1)が採択された.「2030アジェンダ」とは,2030年に向けて国際社会の共通の課題や目標,行動すべき内容をまとめた戦略のことを意味する.この中に,17の目標からなる持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)がある.SDGsは,貧困・飢餓・健康・福祉・教育・ジェンダー・平等・差別といった社会課題,エネルギー・技術革新・働き方・経済成長といった経済課題,気候変動・森林や海洋の保全・生物多様性保全・資源循環といった環境課題の全てを対象としている.また,「誰一人取り残さない」をキーフレーズとして,開発途上国だけではなく,先進国内における格差などの課題も対象としている.これらは,公共政策の範疇で立ち向かうには困難な規模であるため,企業がビジネスを通じて課題解決に取り組むことと,民間資金を導入することが強く期待されている.

 SDGsが企業の行動に求めるのは,社会,環境,経済に関する課題解決に資するような製品やサービスを提供することである.同時に,課題を引き起こすような事業活動をやめることも必要不可欠である.SDGsの採択と前後して,企業は環境汚染や人権侵害などを引き起こさないように注意を払う一方で,SDGsに示された課題解決に貢献する事業をいかに行うかを考え,いかに経営資源を振り向けるかに変化し始めている.

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高齢者を支えるコンビニエンスストア

 現代,われわれの生活に不可欠になっているともいえるコンビニエンスストア(以下,コンビニ)は,高齢者にとっても身近な存在になっている.現在,日本全国に5万店舗以上のコンビニがあり,高齢者人口の38%がいずれかのコンビニから300m以内の距離に居住している1).特に都市部においてその割合は高まっており,例えば,東京23区においては高齢者の85%以上がコンビニから300m圏内に居住している.過去の調査から,多くの高齢者がコンビニを利用している実態が明らかになっており,例えば,65〜79歳の高齢者のうち男性で約半数,女性で約3割が週に1回以上コンビニを利用しているといった結果が示されている2)

 日本の高齢化の進行や世帯構成の変化の状況も踏まえて,コンビニ各社は高齢者を重要な顧客と捉えており,彼・彼女らをターゲットにしたサービスを展開している1).具体的には,高齢者向け食品の充実や宅配サービス,移動販売車,高齢者の居場所としてのイートインスペースの設置,介護に関する相談窓口を併設した「介護コンビニ」などであり,その内容は幅広い.

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フードバンクとは

 日本で,まだ十分に食べられるのに廃棄されている食品(食品ロス)は2015年は646万トンもあった.1人当たり1日,お茶わん約1杯分(約136g)の食べ物が捨てられていることになる.これは,国連世界食糧計画による世界全体の食料援助量320万トンの約2倍に匹敵する.「フードバンク」とは,そのようなもったいない食品を生活困窮世帯や福祉団体に無償で提供する活動である.

 日本の子どもの貧困率は13.9%で,実に7人に1人の子どもが貧困とされる.280万人あまりの子どもが貧困世帯で暮らしていることとなる.膨大な量の食品が捨てられている一方で,十分な食事をとることのできない子どもたちが潜在的にたくさん存在している現実がある.フードバンクは,このような食のアンバランスを是正することのできる活動である.しかし,現在のフードバンクを取り巻く環境は厳しく,全国各地のフードバンク団体は,行政との連携不足,ノウハウ不足,運営費の不足などの課題を抱えており,活動の推進が阻まれている.欧米は積極的に食品ロスの削減に取り組んでおり,貧困問題を解決するため,フードバンクへの公的支援策も行われている.日本にはフードバンクを推進するための法制度はいまだない.全国フードバンク推進協議会では「食品ロス削減推進法案」の可決を求めている.この法案の中にフードバンク活動への支援が初めて明記されることとなる.

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協同組合の出自と発達

 格差社会といえば,現代につながる協同組合運動が生まれた19世紀前半に産業革命期にあった英国は,まさに典型的な格差社会だったということができる.当時,産業都市の労働者と農村地帯の地主とでは平均寿命が3倍程度違った(労働者は17歳前後,地主は50歳前後)というから,そこには人間の命にさえ桁違いの格差があったのである1).当時の英国は,まさに相互に理解し得ない「二つの国民」から成り立つ国であった.

 協同組合運動は,上記のような英国社会において,「相互扶助」と「協同」によって新たな経済社会をつくろうとして始まった運動である.労働市場において労働力を売り,食品市場において命の糧を購入していた人々は,市場のメカニズムは富者に圧倒的に有利なものであり,自分たちは常に失業の恐怖にさらされ,悪徳商法の犠牲になっているとして,全く異なる経済システムの建設を夢見た.金銭的な利益を求めて商売するのではなく,生活と生業を防衛するために,庶民が自分たち自身の力で自分たち自身の事業を始めたのである.これが協同組合であって,普通の人々が共同で「出資」し,共同で「経営」し,共同で「利用」する,いわゆる「三位一体」の経済組織として,協同組合はやがて世界中に広まっていった.

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はじめに

 今日の農業協同組合(以下,農協)や生活協同組合(以下,生協)は大規模となり,地域から遠く離れつつある.しかし,元来,農協や生協の誕生は地域コミュニティーづくりと共にあった.現在の地域生協は高度経済成長期の都市化とともに各地で誕生したが,そこには,同年代の子育て期の住民が多く集まったことによる新興住宅団地の都市問題の発生が背景にあった.

 例えば,現在の生協「ユーコープ」(神奈川,静岡,山梨の生協.http://www.ucoop.or.jp/)の源流の一つである湘南市民生協の出発も,団地自治会の消費対策事業によるものであった.1969年当時,ある生協役員が住む団地の夫の平均年齢は33歳で,入居1年目には団地全体で子どもが約800人生まれたという.保育所や学校がない,団地ができてもお店がない,こうした住民の不満から団地自治会が動いて青空市を開いた.牛乳の値上げ反対運動から団地牛乳が生まれ,その共同購入から生協が誕生した.

 生協の共同購入は,食品添加物や農薬を減らした安全な食べ物を求める「産直」の導入や「コープ商品」の開発へと発展した.共同購入は班単位で行われており,かつては注文から仕分けまで班員の手作業であったので,新たな井戸端会議の場ともなった.班は買い物の場であると同時に,新興住宅団地におけるミニコミュニティーとしても機能したので,生協は新しい住民同士のコミュニティーづくりも担っていたのである.班は長らく生協の基礎組織であったが,生協の大型化と個別配達の増加とともに少なくなり,現在は,班に替わる基礎組織が模索されている.

 農協も同様であり,第二次世界大戦後に生まれた農協の多くは「○○村農協」であった.小学校区と同じ範域の農協が多くみられた.農協は現在では合併によって大規模化し,また高齢化などによって形骸化しつつあるが,成立当時からその基盤は集落にあり,今も基礎組織は集落である.北欧は協同組合王国として有名であるが,北欧における農協の発生も新しい地域コミュニティー形成の一環であった1)

 現在の農協は県域レベルへの拡大を目指している.すでに西日本のいくつかの農協は一県一農協となり,生協も多くが県域生協となっているが,首都圏では県域を越えた生協も現れている.地域の組合員から見ると,農協も生協も遠く離れた存在になりつつあるが,元来,協同組合の主人公は地域の組合員であり,地域と深く関わる協同組合らしい取り組みが現在でも行われている.農協の事業分野は,農産物の集荷販売・営農指導の他,生産・生活資材の購買,貯金貸し付けなどの金融,共済,医療・福祉などと幅広く,それぞれの分野で農協らしい地域密着型事業が模索されている.

 本稿では,農協・生協による①産直活動から直売所への取り組みと,②福祉助け合いの取り組みを紹介する.いずれも食品衛生や農村医療福祉と関わっており,公衆衛生との接点の大きい分野と思われる.

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はじめに—公民協働ガバナンスとは

 ガバナンス(governance)とはガバメント(government)に対する用語である.政府だけではなく,NPO(non-profit organization)や企業などの多様な主体が協力し合いながら公共問題を解決していく協治の形態を指している.

 ガバナンスについては1990年代から多くの議論がなされており,大きくは「政府中心モデル」1)と「ネットワーク型モデル」2)に分けることができる.後者は政府の空洞化の議論に端を発しており,水平的ガバナンスを志向する.英国においては,超国家組織としてのEU(European Union)が出現したのに対して,自国内では分権化が進む中で中央政府が空洞化したという見方がある.それ以外の国においても,政府の財政的な問題,専門性の欠如,住民ニーズへの的確な対応において,実質的な空洞化が起きているという問題意識から議論がなされてきた.

 ガバナンスモデルについては,水平的な関係性が強調される協働型(collaborative-G.)では,ネットワークモデルに近い形態が想定できる.ただし,その場合,誰がガバナンスのガバニングを担うのかといったメタガバナンスの議論が発生する3)

 協働が水平的なネットワークモデルを志向していても,最終的なステアリング(かじ取り)は,民主的に選ばれた中央・地方の政府が中心とならざるを得ないということになる.ただし,それは,政府が一方的に上意下達の関係で他のセクターに指示・命令するということではない.それであれば,わざわざガバナンスという概念を持ち出す必要はなく,旧来のガバメントモデルと変わらないことになる.

 本稿では,日本と同様に厳しい財政条件下における公民協働がみられる英国の事例を参照しながら,地域づくりにおける公民協働ガバナンスについて述べる.

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公共を担う中間組織

政府に代わる準公共財供給主体として

 「中間組織」は,個人と国家をつなぐ役割を持った組織であると定義されている.例えば,労働組合,農協や漁協,生活協同組合,NPO(non-profit organization)法人,私立大学,スポーツ協会,宗教団体などが中間組織・団体に含まれる.このうち,近年,特に個人と国家をつなぐ役割が注目されてきたのはNPOである.特定非営利活動促進法(通称,NPO法)1)が1998年に施行されて20年以上が経過した.内閣府によると,2018年10月末現在,51,697団体の認証NPO法人が活動している2).これは全国のコンビニエンスストアに迫る数であり,また,依然として増加傾向にある.

 なぜ,NPO法人は増加し続けるのであろうか.それは,NPO法が施行されて20年以上がたった今でもなお,NPO法人の社会的役割に対する人々の期待が増大し続けているからに他ならない.NPO法人を含むNPOの社会的役割とはいったい何であろうか.まずは,これまでの20年を振り返ってみる.

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はじめに—公衆衛生医師としての足跡

 私は,病院勤務を経て,地元である島根県の公衆衛生医師となりました.入職後は保健所や県庁において医療政策中心の経歴を積んできたのですが,2017年度から保健所の健康増進課長として勤務することになりました.健康増進課の業務は初めてで,部下を持つことや県西部での勤務,単身赴任もそうでしたので,異動当初はかなり戸惑いもありました.

 そんな中堅期に差し掛かった公衆衛生医師として,「これからの公衆衛生」の役割として特に重要と感じている事項について述べます.

連載 リレー連載・列島ランナー・121

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はじめに

 大阪府泉佐野保健所(以下,保健所)は大阪府の一番南に位置し,泉佐野市,泉南市,阪南市,熊取町,田尻町,岬町の3市・3町を管轄しています.管轄する人口は2017(平成29)年10月1日の時点で283,597人で,高齢化率が27.1%と,大阪府の26.2%と比べて高い状況です.管内に関西国際空港や複数の海水浴場を有する大阪府内で唯一の保健所です.

連載 睡眠と健康を考える・6

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はじめに

 1976年にスタンフォード大学のグループが睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)を最初に報告した.SASは,以降の疫学研究の蓄積によってcommon diseaseであることが明らかになってきた1).睡眠中の呼吸異常は睡眠呼吸障害(sleep disordered breathing:SDB)と呼ばれる.SDBは心血管障害や認知機能低下に至る疾患である.SDBは,職域では従業員の健康問題や職場でのミス,交通事故と関連することが明らかになってきた.SDBのスクリーニングと診断・治療を適切に行わなければ,企業は民法の使用者責任を問われる可能性もある.企業がSDB対策を行うことは,発展的に健康経営を推進できる可能性がある.

 本稿では,職域でのSDB対策と健康経営のための方針を提案する.

連載 ヘルスコミュニケーションと健康な社会づくりを考える Dr.エビーナの激レア欧州体験より・8

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 前回までは,2017年のスコットランド旅行中に私の母が大腿骨を骨折し,エディンバラ王立病院に入院した時の生活の様子や,人工股関節全置換術後に肺血栓塞栓症を発症したため,英国のガイドラインや保健省の勧告に基づく担当医の指示に従い,退院してから3週間近くフライトを控え,エディンバラのホテルで療養生活を送ることになった経緯をリポートしてきました.

 今回は,介護していた私がダウンした話です.「患者家族」としてだけでなく,実は「患者」経験もしてしまいました.講演で「介護者が倒れてはダメですよ」などと言っておりましたのに,お恥ずかしい限りです….

連載 Coda de Musica 心に響く音楽療法 Ancora・3【最終回】

公衆衛生と音楽 三道 ひかり
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ジョン・レノンと音楽

 日本国内の緩和ケア病棟で音楽療法士として勤務していた際,1970年代の音楽にこそ意味があると言う患者さんと出会った.「フォークソングしか興味ないかな.特に1970年の曲.反戦の時代で,音楽にとても強いメッセージがあって好きだったなぁ」と言いながら,ジョン・レノンの曲をリクエストした.音楽によって平和を歌っていた時代.音楽によって社会を動かそうとしたジョン・レノン.1970年代は,音楽が人の心を大きく動かした時代.音楽が伝えるメッセージは人も社会も変えていた.音楽には,単なる娯楽にとどまることなく,大きな力を持ち,私たちの生活や人生を変えてきた歴史がある.

 本連載の最終回は,音楽療法の枠から少し離れて,音楽そのものが私たちの健康や社会にどう生かされているか,世界の事例や研究例を紹介する.そして,これからの医療・保健の世界における音楽の在り方について考える.

予防と臨床のはざまで

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 2018年10月26・27日に,台湾・台中市で第6回国際ヘルスリテラシー学会が開催されました.過去にも複数回参加したことがあるAsian Health Literacy Association(http://www.ahla-asia.org)主催のアジア中心の国際学会ですが,アジアだけでなく欧州やオーストラリアからもヘルスリテラシー研究のキーパーソンが参加しているのが特徴です.欧州では,EU内で国ごとのヘルスリテラシーの比較調査(HLS-EU)が行われていますが,この学会は,そのアジア版(HLS-Asia)の調査を推進するプラットフォームにもなっています.

 今回は学会のメインプログラムではなく,前日の10月25日に行われたプレカンファレンスワークショップに参加しました.三つ行われたプレカンファレンスワークショップのうちの一つである「Getting Health Literacy into Health Policy」(ヘルスリテラシーを健康政策に取り入れる)が目当てでした.ファシリテーターはなんと,ヘルスリテラシーの定義を行ったDon Nutbeam氏(オーストラリア),HLS-EU調査の中心人物であるKristine Sorensen氏(オランダ),IUHPE(ヘルスプロモーション・健康教育国際連合)でヘルスリテラシーのポジションペーパー(声明文)の作成に関わったDiane Levin-Zamir氏(イスラエル)の3名.学会の開催概要で見て「夢の共演!」と思い,この一日を目指して台中市に向かいました.台中市は,台北と比べるとややのどかな印象です.新幹線で台北から1時間,台中駅には卓球の愛ちゃんのポスターがあふれていました(笑).

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 主人公である教師が,教室で生徒に答案を返している場面から映画は始まります.謹厳実直を絵に描いたような教師で,一人一人に辛口のコメントをしながら答案用紙を返していきます.教師の名前はフランソワ・フーコー.高名な作家を父に持ち,パリの名門高校に勤務するベテランの国語教師である様子がテンポよく描かれていきます.妹も芸術家として成功しており,知的で優雅な家族の中で独身生活を送っています.

 父親の出版記念会で,父の友人に名門高校の教師であると紹介され,パリ市内と郊外との教育格差の問題が話題になります.フランソワは,郊外の学校は新人教師が配属されていて生徒を把握できていない,また,市内の高校のベテラン教師を郊外の学校に派遣して新人教師を支援することが問題解決に役立つだろうとコメントします.そばでその会話を聞いていた美しい女性が,それについてゆっくり話す機会をいただきたいと名刺を渡します.女性は国民教育省で教育格差の問題に取り組んでいる専門家でした.

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目次

書評

次号予告

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 1990年ごろから何度か,訪英をする機会がありました.その間,企業経営の手法の導入が図られるなど,英国の健康医療分野は激変の時代でした.「市場原理」や,それを修正した「第三の道」また「ビッグソサエティ(big society)」の政策がとられてきましたが,一方で,全ての人々の健康を公平,平等に保障するという目標は必死になって堅持しようとしています.英国が欧州連合から脱退する動き,いわゆるブレグジット(Brexit)はNHS(National Health Service)の維持問題と深く結びついているといわれています.

 本特集で取り上げたCSR,CSV,ESGなどの企業経営思想は海外から入ってきたものとされていますが,歴史をたどっていくと,国内で400年前から育まれてきたものといえます.近江商人の経営哲学の「三方よし」がその一例です.三方よしとは,売り手と買い手が満足するのは当然のことで,社会に貢献できてこそよい商売であると考えた商取引のことです.まさに今日のCSRの経営理念そのものではないでしょうか.

基本情報

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公衆衛生
83巻4号 (2019年4月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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