特集 企業経営と公衆衛生の接点
格差社会における協同組合の新たな役割と課題
杉本 貴志
1,2
1関西大学商学部
2関西大学なにわ大阪研究センター
pp.279-283
発行日 2019年4月15日
Published Date 2019/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401209118
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協同組合の出自と発達
格差社会といえば,現代につながる協同組合運動が生まれた19世紀前半に産業革命期にあった英国は,まさに典型的な格差社会だったということができる.当時,産業都市の労働者と農村地帯の地主とでは平均寿命が3倍程度違った(労働者は17歳前後,地主は50歳前後)というから,そこには人間の命にさえ桁違いの格差があったのである1).当時の英国は,まさに相互に理解し得ない「二つの国民」から成り立つ国であった.
協同組合運動は,上記のような英国社会において,「相互扶助」と「協同」によって新たな経済社会をつくろうとして始まった運動である.労働市場において労働力を売り,食品市場において命の糧を購入していた人々は,市場のメカニズムは富者に圧倒的に有利なものであり,自分たちは常に失業の恐怖にさらされ,悪徳商法の犠牲になっているとして,全く異なる経済システムの建設を夢見た.金銭的な利益を求めて商売するのではなく,生活と生業を防衛するために,庶民が自分たち自身の力で自分たち自身の事業を始めたのである.これが協同組合であって,普通の人々が共同で「出資」し,共同で「経営」し,共同で「利用」する,いわゆる「三位一体」の経済組織として,協同組合はやがて世界中に広まっていった.
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