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はじめに
公衆衛生の目標とするものや理念自体は19世紀から大きな変化はない.しかし,公衆衛生と社会との関係は変化している.公衆衛生が対象とする健康問題が変化してきているからである.また,社会自体が変化してきているからでもある.公衆衛生は福祉,医療などの組織によって育まれ,20世紀に入って独立した組織と体制となった.しかし,公衆衛生の問題解決には多分野の力が必要となり,さまざまな領域の組織や人々の力を結集しないと解決が難しくなってきている.そのため,他領域との境界域があいまいになってきている.
社会の組織を概念的に表1に示す.社会の組織は「官」と「民」,そして「公」と「民」の観点から分類できる.「官」と「民」の分け方は,政府(国)との関係性に基づいている.企業は,「民」の代表的な存在である.「民」の中には「企業」以外に「非営利法人」がある.「公」と「私」の分類は,私的利益追求の行動・活動や姿勢によるものである1).実際にはその中間領域の組織などが存在しており,現実の分類は単純ではない.
公衆衛生は,「官」あるいは「公に属する民」の領域が担うものであり,企業はその対極にあるものとされている.しかし,社会の多くの機能や役割を企業が担うようになってきている2).公衆衛生領域も同様である(図1).この傾向が今後,一層進んでいくものと思われる.
「官」と「民」,「公」と「私」の関係と組み合わせによって,公衆衛生は異なった性格のものとなる.この点については,明治期に衛生行政の確立を担当していた長与専齋は米国のコレラ対策を日本のものと比較し,「自由寛洪の国柄とて,もっぱら自治衛生の大義を主として,規則法文の厳正なるに似ず,手数の簡易にして事務の敏活に運ばるは実に感服に堪えたり」とつづり3),日米の公衆衛生体制の違いが柔軟性,専門性,現実への即応性に違いがあることを記している.日米の地方自治体,民間団体,企業などの発展状況の違いが公衆衛生の性格の相違をもたらしている.
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