- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
今日の農業協同組合(以下,農協)や生活協同組合(以下,生協)は大規模となり,地域から遠く離れつつある.しかし,元来,農協や生協の誕生は地域コミュニティーづくりと共にあった.現在の地域生協は高度経済成長期の都市化とともに各地で誕生したが,そこには,同年代の子育て期の住民が多く集まったことによる新興住宅団地の都市問題の発生が背景にあった.
例えば,現在の生協「ユーコープ」(神奈川,静岡,山梨の生協.http://www.ucoop.or.jp/)の源流の一つである湘南市民生協の出発も,団地自治会の消費対策事業によるものであった.1969年当時,ある生協役員が住む団地の夫の平均年齢は33歳で,入居1年目には団地全体で子どもが約800人生まれたという.保育所や学校がない,団地ができてもお店がない,こうした住民の不満から団地自治会が動いて青空市を開いた.牛乳の値上げ反対運動から団地牛乳が生まれ,その共同購入から生協が誕生した.
生協の共同購入は,食品添加物や農薬を減らした安全な食べ物を求める「産直」の導入や「コープ商品」の開発へと発展した.共同購入は班単位で行われており,かつては注文から仕分けまで班員の手作業であったので,新たな井戸端会議の場ともなった.班は買い物の場であると同時に,新興住宅団地におけるミニコミュニティーとしても機能したので,生協は新しい住民同士のコミュニティーづくりも担っていたのである.班は長らく生協の基礎組織であったが,生協の大型化と個別配達の増加とともに少なくなり,現在は,班に替わる基礎組織が模索されている.
農協も同様であり,第二次世界大戦後に生まれた農協の多くは「○○村農協」であった.小学校区と同じ範域の農協が多くみられた.農協は現在では合併によって大規模化し,また高齢化などによって形骸化しつつあるが,成立当時からその基盤は集落にあり,今も基礎組織は集落である.北欧は協同組合王国として有名であるが,北欧における農協の発生も新しい地域コミュニティー形成の一環であった1).
現在の農協は県域レベルへの拡大を目指している.すでに西日本のいくつかの農協は一県一農協となり,生協も多くが県域生協となっているが,首都圏では県域を越えた生協も現れている.地域の組合員から見ると,農協も生協も遠く離れた存在になりつつあるが,元来,協同組合の主人公は地域の組合員であり,地域と深く関わる協同組合らしい取り組みが現在でも行われている.農協の事業分野は,農産物の集荷販売・営農指導の他,生産・生活資材の購買,貯金貸し付けなどの金融,共済,医療・福祉などと幅広く,それぞれの分野で農協らしい地域密着型事業が模索されている.
本稿では,農協・生協による①産直活動から直売所への取り組みと,②福祉助け合いの取り組みを紹介する.いずれも食品衛生や農村医療福祉と関わっており,公衆衛生との接点の大きい分野と思われる.
Copyright © 2019, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.