公衆衛生 40巻9号 (1976年9月)

特集 予防接種

予防接種の国際動向 金子 義徳
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 厚生省は,昭和51年5月11日までに予防接種の今後のあり方とワクチン禍の被害者に対する救済制度を盛りこんだ予防接種法の全面改正案と,法案の公布に伴う政令案の骨子をまとめた,と5月11日の新聞は報じている.内容的に重要だと思うのは次の3点である.すなわち,

 1)今後においては従来の伝染病の集団的まん延防止という考え方を一歩進めて,予防接種が極めて有効な予防手段であり,かつ,他に満足すべき予防方法がなく,いったん罹患した場合に致命率が高いか,重い後遺症を残すおそれがすくなくない疾病等,国民の健康の保持増進にとって予防接種が積極的な意義を有するものについても対象疾病として取り入れることとすべきである,という点である.具体的には破傷風,日本脳炎,風疹も対象になる点が重要な点である.しかし,このことは後でも述べるが,すでに諸外国ではふみ切っているところである.

日本のワクチン問題 福島 匡昭
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はじめに

 「疾病に対して免疫の効果を得させるため,疾病の予防に有効であることが確認されている免疫原を,人体に注射し,または接種することをいう」というのが,予防接種法の第2条での予防接種の定義である.ここでいう免疫原のことをワクチンというのが通常のいい方であり,本稿でもこれに限って述べる.

 なお,このように能動免疫を与えるもののほかに,受動免疫としての抗毒素・治療血清類をも含めてワクチン類と総称することも多く、また,病原微生物に由来する抗原によって,非特異的な免疫療法や脱感作などを目的とする予防・治療用医薬品もワクチンと称される場合がある.

新予防接種法 松村 明仁
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 予防接種法の一部を改正する法律は昭和51年第77回国会に提出され,5月21日可決成立し,6月19日に公布された.

 今回の法律改正においては,昭和23年に予防接種法が制定されて以来,久しく待ち望まれていた基本的な問題に関して,新しい考え方を盛り込んだ大きな改正となった.

流行予測 加藤 貞治
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はじめに

 伝染性疾患の流行が的確に予知され,その流行阻止になんらかの手段がうたれ,流行を未然に食い止める—これが伝染性疾患防遏の理想であることはいうまでもない.

 古来,各種の伝染性疾患の周期的流行が経験的に知られているが,この流行を科学的方法で予測し,その成績をワクチン接種計画に役立てる意図は,その成果がいまだ不完全なものであれ,流行予測事業として始められてから既に久しい.

予防接種事故と法的責任 高田 利広
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予防接種事故と予防接種過誤

 ―補償と賠償と刑罰―

 予防接種事故が起こると,実施者側について刑事責任(刑罰)とか,民事責任(損害賠償)とかいった法的責任が問題にされる.刑事責任は業務上過失致死傷罪(刑法211条)の問題であり,民事責任は不法行為(民法709条,国家賠償法1条)の問題である.

 ところで,現行法制は「過失なければ責任なし」という過失責任主義をとっているので,予防接種事故がすべて直接このような法的責任の対象となるものではない.偶発事故,不可抗力事故については法的責任は問題にされない.法的責任が負わされる予防接種事故は,予防接種過誤の場合である.すなわち,過失ある予防接種事故が起こったときに,過失を犯した予防接種実施者,たとえば医師とか保健婦とか看護婦,あるいは予防接種実施主体者,たとえば国とか市町村とか,これら加害者側について問題にされるのである.

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衛生状態の向上と新法の成立

 自動車事故による死亡者は,毎年1万名にものぼっている.いわゆる公害による被害も日々報道されている.科学の進歩につれてわれわれの生活が近代化されるにしたがい,われわれの生活はさらに多くの危険にさらされてくる.しかし,自動車の通行を禁ずることはできそうにもないし,いわゆる公害企業といえども,一面,社会に貢献していることは否定できない.そこで国は危険防止の対策をとりつつ,このような危険な行為の存在を許さざるをえなくなる.

 かくて刑法の領域においては,かかる危険な行為により被害が発生した場合にも,その違法性を問うことなく,またたとえ被害の発生が予見せられていても,その責任を問わないことがある.そうしなければ,これらの行為を行う者は,つねに絶対的な責任を負うことになりかねないからである.これら危険な行為を刑法学においては,「許された危険」ということがある.

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反応と副反応

 予防接種に伴ういろいろの問題の中で,とくに,接種に起因した副反応が世の注目をあびている.その中には,必ずしも正確な意味での副反応とは考えられないような症状をも含めて,問題視されている場合もある.副反応とは,ワクチンそのものの中に存在する何らかの物質によっておこされた反応や,接種をうける個体側の心身の条件などによっておこった特異の反応であるといわれている.

 元来,予防接種では,身体に固有に存在しなかった物質が,身体内に,しかも接種という異常な経路で侵入するものであり,それに対して身体が,何らかの程度の拒否反応を呈するであろうことは,むしろ当然であるといえる.このような反応は,予防接種に伴った,生理的ともいえる反応であって,一過性の局所の発赤,硬結,腫脹をはじめとして,全身的な発熱,倦怠感などとともに,大なり小なり疼痛を伴うものであろう.しかし,これらの反応の程度にしても,ワクチンそのものの性状や個体により,あるいは,個体の接種時の状況によって変化するものであり,実際には,副反応といえる状態と連続的な状態を現わすこともありうる.したがって,接種によってみられた個体の状態が,接種に伴っておこった単なる反応であるのか,ワクチンや個体の条件による副反応なのかの区別は,しばしばきわめてむつかしい場合があるといえる.

予防接種雑考 金子 順一
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Jennerまで

 人類が予防接種なるしろものを発見,あるいは発明したのはそんなに遠い過去のことではあるまい.中世紀に,しばしば種々の伝染病の洗礼を受けた欧州において,一度罹患した人が次に再び同じ疫病にかからないか,あるいはかかり難いことが経験された頃,何とかして軽く疫病にかけてやって,あとで同じ疾病にかかることを防ぐことはできまいかと考えた賢人がいたとしても,不思議ではないと想像される.

 もちろん,伝染病の正体が皆目不明の時代のことであるから,死者あるいは患者の着衣をきせてやって,衣服に残る瘴気の幾分かを健康者に移すことができまいかという願望があったとしても,これを全く無知蒙昧として笑い去るわけにもいくまい.

発言あり

社会防衛 , , , ,
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「公権力防衛」から「民主防衛」へ

 現行保健所法が昭和23年に施行され,「地方における公衆衛生の向上及び増進」を目ざして業務を開始したのであるが,その第一の任務は終戦後の混迷期に流行していた各種急性伝染病防除で,これらに対して,既存の伝染病予防法(明30,法36),新制の食品衛生法(昭22,法233),予防接種法(昭23,法68)により,強力な行政力の推進という方式で防遏活動が展開された.

 また,慢性伝染病である結核・性病に対しても結核予防法(昭26,法96),性病予防法(昭23,法167)により,さらに精神障害者等に対しては精神衛生法(昭25,法123)の施行により,いずれも保健所がその業務担当行政機関(地方自治法,昭22,法67)として今日に至っている.

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はじめに

 学童における医学上の予防対策は,近年,結核の急激な減少により,従来比較的稀と考えられてきた疾患,例えば腎疾患等に向けられろようになり,このために学校検尿(尿蛋白検査)が制度化されるまでになった.そこで,この検尿の際にわずがな労力と経費を負担することにより尿糖検査を行えば,小児糖尿病の早期発見が可能であるということで,現状では各地で実施されているようである.学校検尿が広く行われるようになってから,学童にも尿糖陽性者が存在することが明らかになった.しかし,尿糖陽性者が糖尿病者であることは比較的少なく,この両者の区別をはっきりと認識しておく必要が出てきている.このために,尿糖陽性者の病態や小児糖尿病への移行等についての検討が,今後の大きな課題となっている.

 学校保健の現実の問題としては,学校検尿によって発見された尿糖陽性者(軽度の糖代謝異常者を含めて)をいかに取り扱い管理したらよいか,ということがある.また,成人の糖代謝異常の経験・研究から得られた知識をそのまま学童に応用してよいものかどうか,という疑問も残る.いまだに一定の取り扱い基準のない現状では,個々の対象者に対して常に慎重な態度でのぞむことが必要であり,これらの経験を積み重ねることによって,正しい管理方式が得られることが期待されるのである.

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はじめに

 心身障害児(以下障害児という)については,医学・福祉・行政の側からのアプローチがなされ,数多くの調査が行われ,それに基づく対策が加えられてきた.障害児の対象にはその事態の把握を欠かすことができないが,とりわけ,障害の生まれる要因を含めた実態の把握には,疫学的方法が必要となる.すなわち,母集団を明確に設定することによって,障害児の発生状況や実態がより的確に把握できるとともに,他集団との比較が可能になる.この疫学的方法による障害児の把握に際しての問題は,障害発生のメカニズムの多様性に加え,障害発生時期と障害の把握時期に隔りがあることである.いうまでもなく,発生要因を含めた障害児の実態把握には,疫学的調査方法のなかでもプロスペクティブ・スタディが優れている.神奈川県衛生部母子健康調査会はこの方法による調査を行い,その結果が公表されつつある.しかし,この種の調査の実施は,きわめて大がかりなものになり,多くの困難を伴うものである.

 筆者らは,保健所における乳児・幼児健康診査(以下乳幼児健診という)を中心として,主に保健福祉行政の上から,日常的に記録されている既存の資料を利用して,地域における障害児の実態把握を試み,行政上の把握状況を調べ,資料の疫学的評価を行った.

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はじめに

 わが国における死因の約半数は脳卒中および心臓病などの循環器疾患によって占められており,高齢者になるほどこの傾向は強い.これらの疾患の最も重要な病因が高血圧であることは周知の事実であり,その早期発見と継続的な治療,管理の重要性は疑う余地もない.

 血圧値の判定もWHOや日循協によって統一された基準が用いられており,高血圧と脳または心合併症との関係も大まかにはとらえられているが,実際にはどの程度の血圧からこれが脳卒中または心臓病の誘因になりうるのか,明確な結論はえられていない.収縮期血圧と拡張期血圧のいずれの影響が強いのか,境界域高血圧は脳または心臓に影讐はないのかなどの疑問もでてくる.

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はじめに

 公衆衛生に従事する医師の不足が叫ばれるようになったのは昨日今日のことではない.これは,わが国が医制発布といった近代医療制度の基盤を築きあげたのち,徐徐に公衆衛生事業が体をなしつつあった頃からの,いわば持病のようなものだったのである.しかしそれはそれとして,当時は足りないながらも,消化器系伝染病や結核などの呼吸器系伝染病と闘ってきたのである.その間,血清療法や抗生物質などの開発が大きな影響を与えたにせよ,これら公衆衛生従事者の働きにより,感染症が激減し,疾病構造の大変化をみるに至ったことは,識者の言を待つまでもない.

 ところが近年,それまで十分な数ではないながらも,公衆衛生の先端で走りまわっていた医師,特に保健所医師が急減してきたため,あわてた国や専門家が積極的にその対策にのり出してきた.つまり,その急減少の原因が,老齢医師がやめていくことよりも,若手医師の補充がほとんどきかないためであるといった,恐るべき事態になってきたからである.終戦後しばらくは戦争による医療機関の荒廃や,戦前からあった弱小規模の病院の統廃合などにより,働き場のない旧軍医や引揚医などの加勢もあって,保健所医師はある程度確保されていた.恵まれたところでは,現在のR型規模のところでさえ,所長のほかに予防課長を医師が行っていたところも少なくなかった.しかし,現在その充足率はなんと33.6%と,すでにとり返しのつかないような段階に落ち込んでいる.

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 労働省の作業環境測定士国家試験(法令では環測法)は,いよいよ本年7月に第1回目が施行されることになった.

 従来,労働省関係の国家試験としては,衛生管理者試験が労働基準局を中心に実施されているのみであったが,一昨年からは,国試の最高峰といわれる労働安全衛生コンサルタント試験があり,このたびの環測士の試験は公害管理士試験と並んでより程度が高く,これが作業場内を主体に従事する資格者選別の試験としてデビューしたことになる.

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 昭和51年7月29,30日の2日間,上記研究会が虻田郡倶知安町文化福祉センターで開催された.対象地区は空知・石狩・後志管内を含み,保健所管内としては,滝川・砂川・深川・芦別・当別・江別・美唄・岩見沢・夕張・由仁・余市・岩内・倶知安および小樽・札幌の15所が含まれる広域の大会である.

 このうち,小樽市は政令市,札幌市は特別指定市で7保健所がある.

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 沖縄県が日本復帰をして満3年以上が経過した.復帰に際して特に問題のある事項については,沖縄の復帰に伴う特別措置法により,特別な措置がなされたが,その1つに医療関係のものがある.その主なものには,医介輔・歯科介輔の診療行為についての医師法・菌科医師法の特例,診療所の病床数についての医療法の特例等がある.その他琉球政府当時の関係立法によって与えられた医師,歯科医師,助産婦,保健婦,看護婦,衛生検査技師,エックス線技師等の免許についても特別措置がなされている.

 まず医介輔および歯科介輔については沖縄における医師が非常に少ないということで,1955年立法第74号おびよ第75号の医師法,歯科医師法の附則に基づき,医業の一般禁止事項を解除して「介輔および歯科介輔規則」(1958年規則第108号)により業務上制限付の医業従事を許可したものである.昭和44年12月末では米軍布令による許可数が医介輔126,歯科介輔35で,そのうち奄美群島の日本復帰後同群島へ帰ったもの30おびよ2,転廃業41および14で,結局,当時現に業務に従事していたものは55および18となっていた.

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 鶏糞を有価物とみるか否かで,対照的な処理をした内陸部農村の2養鶏場の話題を紹介します.N農場は86ヘクタールの広大な土地に24万羽もの鶏を飼育,採卵し,雛鳥も含めると平均50万羽の大きな養鶏場です.ここは,ウインドレス方式の密閉された鶏舎内の2階に飼育されている鶏の糞を,下の土壌の床に5年以上も放置して堆積させ,発生する虫で嫌気性に土壌化させる方法をとっています.

 ところが最初に建てられた古い鶏舎6棟は道路より低いため,地下水の湧出で,乾燥するはずの鶏糞が養鶏開始以来4年目の今日,堆積した糞の下の方でヘドロ化し,扉を押し破ってあふれ出しました.あわてた会社側は,自分の敷地内ならよいだろうと土壌還元を考えて3号舎の膨大な量の鶏糞を搬出しましたが,梅雨期にブルトーザーで押し出したためヘドロが流出し,ぬかって覆土することもできない状態となったのです.また鶏糞の悪臭と汚水のほかにも,羽毛の飛散,死鶏の処理が住民の苦情となり,問題化しました.

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 昭和51年6月22,23日,札幌医大教授・立野誠吾氏の会長のもと,アカシヤの花薫る札幌市厚生年金会館にて表記の学会が開催された.

 往年の盛会ほどではないが,場所と季節がよい故か,多数の参加者を得て順調に行われたことは大変喜ばしい.

基本情報

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公衆衛生
40巻9号 (1976年9月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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