公衆衛生 40巻10号 (1976年10月)

特集 ライフサイクルと地域保健

地域保健とライフサイクル 山下 章
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はじめに

 第1次産業を主とした古い時代の生活においては,生まれてから死ぬまで,ひとつの地域に深いかかわりあいを持ち続けるのが通常であった.しかし,第2次産業・第3次産業を主体とする新しい生活のもとでは,産業の場と生活の場とが一致していないために,一生のあいだひとつの地域に定住する必然性はなく,ために複数の地域を転々としながら人生の過程を経てゆく者が少なくない.しかも,出生から死亡に至る段階によって地域との関連にはかなりの濃淡がある.このようなことをふまえながら,地域における保健活動が人びとのライフサイクルにどうからみあっているのか,いかなる作用をすべきなのか,などについていささか整理してみることにする.

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ライフサイクルと年齢

 ライフサイクルは生活周期あるいは生活循環とよばれる.生活周期という場合,個人としての出生から死亡までの間の周期と,家族という個人の集合体の発生から消滅までの周期の両者が考えられる.しかし,実際には,人間社会では個人は家族の中の一員としての生活をもっているため,家族の生活周期(life cycle of family)が問題とされることが多い.この点については,社会保障研究所の児童養育費研究グループ(主査・中鉢正美)が次のような定義を示している.「およそ個人の生涯生活は,その出生,養育,就業,結婚,育児,退職,死とのそれぞれの段階において,他の個人と不可避的な人格的関係をとり結び,その行動と意識の基本構造をつくりあげる.これを時間的に分解すれば,結局個々の人間に帰着するが,ある時点においてみれば相互の行動と情報の交換とによって分かちがたく結合された一定の集団として把握されるであろう」(中鉢正美編『家族周期と児童養育費』,1970年,至誠堂;同編『家族周期と家計構造—児童養育費調査報告書(2)—』,1971年,至誠堂,p. 11).個人は,出生から死亡に至って消滅するが,家族という一定の集団においては,通常その内部において次の世代が発生し,新しい周期が始まるから,サイクルとして理解しやすい.もっとも,個体においても人口集団としてみると,そこに再生産による周期をみとめることはできる.

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I.ラィフサイクルと生存

 ライフサイクルといえば,出生・発育・成長・成熟・老化・死亡という一連の経時的変化,またその過程での出産とそれに続く次代の発育・成長…という同様の経時的変化,そしてその繰り返しというパターンが考えられる.それは個体の生活に関する質的な表現であり,1つの典型である.

 現実には,すべての個体がそのようなライフサイクルを完うしているのではない.また,代をかさねてライフサイクルを引きつぎ繰り返している例がすべてではない.そこには生存の壁が存在しており,ライフサイクルはいつ,どのようにして中断の運命に遭うかも知れないのである.

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はじめに

 人は家族の中に生まれ,家族の中で育ち,成長すると結婚して自分自身の新しい家族をつくる.そして,この新しい家族の中に生まれた子供は,また親と同じサイクルをくり返す.これが人と家族との関わりの定型的なプロセスである.家族社会学では,人がその中で生まれ育つ家族のことを定位家族(family of orientation)といい,結婚して自分自身がつくる家族のことを生殖家族(family ofprocreation)という.したがって,人は一生涯のあいだに定位家族と生殖家族という2つの家族をもつことになる.

 これを個人のライフサイクルという視点からみると,個人は一生涯のあいだに定位家族期と生殖家族期の2つの時期を経験するといえる.もちろん,天涯の孤児や生涯の独身者のように,定位家族や生殖家族をもたない者があり,また親や配偶者との死別や離別のために,定位家族期や生殖家族期が中断される場合があることも事実である.しかし,こうした場合を一応捨象して人の家族過程を定型的にみると,われわれはそこに上記のような2つの時期を確認できるのである.筆者はこれから家族のライフサイクルを論ずるが,それはこうした意味での,定型としての周期的な家族過程であることを,予め断わっておきたい.

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まえがき

 "われわれは,反社会的でしかも気違いじみた人たちから大衆を保護しようとして,刑務所や精神病院を維持,確保するため,現在,巨額の費用を支出している.われわれはなぜ,このような役に立たない,また危険な動物を生かしつづけなければならないのか? 世界の国々のほとんどで,劣等な人種,すなわち狂人や犯罪者が増えないように,それぞれの政府が精力的に努力している.しかし,将来,人口問題,食糧問題,さらにはエネルギー問題などが深刻になった時でも,なおこのような努力が必要なのだろうか?

 理想的な解決策は,危険であるとか,あるいは役に立たないと判明した場合,このような人間をいっさい根絶やしにしてしまうことではないのか.哲学思想や感情移入は,この問題には一顧すら与える価値はないであろう".

地域差による保健と福祉

1.ニュータウン 金田 治也
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 我が国でいう「ニュータウン」は,住宅難の早急な解消をめざした大規模住宅団地としてはじめられたが,既に20年の歴史をもとうとしている.建設当初は,生活施設の不十分な町として悪名が高かったが,今日では近代都市,高級住宅地というイメージさえ持たれている.また,「若い夫婦と子どもの町」にも老人が増加してきた.以下,ニュータウン居住者にみられるライフサイクルの変化と,今後の保健福祉問題について考えてみたい.

 ここで紹介するニュータウンは,大阪府下の香里(日木最初の二ユータウンとして,昭和30年日木住宅公団が建設をはじめ,昭和32年に入居開始,昭和36年にほぼ完成,目標人口3万,現在2.6万),千里(大規模ニュータウンとしては日本最初のもの,昭和37年に入居開始,昭和45年に建設完了,目標人口15万,現在13万),泉北(昭和42年に入居開始,昭和51年建設完了予定,目標人口20万,現在11万)の3つのニュータウンである(以1下,香里,千里,泉北と略称する)。

2.老人問題の立場から 柳澤 利喜雅
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I.はじめに

 1.問題をへき地老人問題に限局した理由

 我が国の地域差による保健・福祉問題には重要な課題がたくさんあるが,その中で,なぜへき地老人問題に限局したかは,この問題には深い根本的問題が伏在しているからである.老人問題は全人類の問題であって,したがって,もしもこの問題が解決できたならば(決して完全には解決できないが),人類最大の課題の一つは解決できるのである.

 2.我が国の老人化社会の特徴

 西欧諸国の老齢化は日本よりも現在高度であるが,それは我が国よりはるかに長期の経過をとって実現してきた.各種社会施設もそれに従って整備されていたが,我が国ではそのような準備がなく,突如として老齢化社会が出現し来たったのである.老齢化社会の出現は小産小死型への人口転換によったものであり,その点では,欧米先進諸国と我が国が歩みつつある状態は全く同一の軌道にある.だが,両者の大きな差は,そのテンポの違いである.

発言あり

高福祉・高負担 , , , ,
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社会保障システムの体系化を

 予算編成にあたって「本年度を福祉元年とする」と政府が声明を出して以来,まだ3年しかたっていないというのに,今年度予算では,社会保障関係の伸び率は33%にとどまり,ほとんど物価・人件費増などで食われてしまいそうである.また,三木首相は,今春闘前に「政府は,手品師でないから,節度ある賃上げと高福祉・高負担」を訴え,国民の同調を求めたのであった.

 わが国の福祉施策要求は,成長経済優先に対する反動として,その成長のひずみを穴うめする形で進められてきたといえる.西欧ですでに1930年代に,一般大衆の生活向上を目標として,その成長の必要条件として失業対策が施された態度とは根本的に異なっている.

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はじめに

 いままで心身障害児に関する事例研究は少なくないが,ある地域の同一年出生児を集団として設定し,その集団に存在ないし発生する全事例を"前向き"に追跡する,いわゆるコーホルト研究はほとんどなされていないといってよいであろう.一般に,心身障害の発生時期,その程度,経過過程はきわめて多様であるので,そのひとつひとつに対応できるようなヘルスケアを準備するためには,ぜひとも継続的な調査・観察が必要と考えられる.筆者らは第Ⅰ報で得られた情報の倹討をかねて,前報で把握された障害児全数についで訪問面接調査を試みたのである.

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はじめに

 近年,環境問題はますます複雑性を加え,環境保健の重要性が大いに認識されるに至った.ところで,環境中の有害物質の人体に及ぼす影響は,特有な病像を示すに至るまでに亜急性ないし慢性の経過をとり,その成因についても,有害物質の摂取量はもとより,個人差が介在してすこぶる複雑な関係にある.

 環境保健(environmental health)とは,その終極の目的が,環境破綻の広範な防止のみならず,最適の環境条件の開発を意味し,人間の健康と厚生に積極的に寄与することにあろう.すでにWHOが水銀,カドミウム,鉛などの有害物質のレベルと健康障害との関係を明らかにする保健判定基準(criteria)の策定に着手してきたが1),OECD環境委員会の化学品セクターグループによる有機塩素系殺虫剤,水銀,PCBなどの勧告をみても,いま環境保健に特別の関心が向けられていることは容易に看取できる.

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□はじめに□

 私が1969年に地域精神衛生を主題にアメリカ各地を訪れた時,いたるところで聞かれたことは「日本ではアル中はどうか」ということであった.当時アメリカではアル中は500〜600万人といわれていた.これは日本でも大変なことになるぞ,という印象を受けて帰国したが,帰来資料を整理しているうちに,ケンタッキーの田舎の精神衛生センターでいただいた小冊子"Youth and the Alcoholic Patient"を読んだ時,電撃的なショックを受けたことを覚えている.

 それには,アルコール中毒者は病気の犠牲者であり,精神的にいかに苦しんでいるか,父親がいかにぐうたらでも子供は父親に対する誇り,愛情と尊敬を失ってはならないこと,アル中は一生治らないが,飲酒をやめることは可能であること,等々が書かれていた.

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寝たきり3主徴の成因

 寝たきり3主徴とは,寝たきり状態,ボケ,失禁を伴う重積症候群で,老人が疾患その他の原因で比較的長期間臥床したことによって発症する.

 図が示すように,寝たきり3主徴(3主徴と略)は,疾患によって発症するものよりも医療,福祉的ケアの内容,家族および老人自身に起因するものが多く,原因疾患とは全く無関係に発症することが多い.3主徴発症後の医療的,福祉的ケアを図の右手に示した.

日本列島

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 沖縄県環境保健部の主催する第25回保健婦研究発表会が,9月11日午前10時から那覇市で開催された.これは県立の7保健所職員である保健婦約180人(うち53市町村に駐在するもの123人)と,学校保健婦等が日ごろの業務中で研究したことや気付いたことなどを発表し合い,自らの資質向上を図っていこうというもので,約20人が参加した.

 午前中は「結核患者未検診者の現状」(那覇保健所),「結核管理の状況」(コザ保健所),「長期排菌,服薬,入院拒否患者経過」(名護保健所)等,保健所の医療業務の主な対象である結核患者に一元的に在宅管理,指導をしている立場から発表が行われた.要点を記すと,邦覇保健所管内では結核患者のうち長期未受検者(診療を受けないもの)は全患者の11.2パーセントに相当する150人いるが,未受検の主な理由は医療不信,本人の無自覚など,となっている.名護保健所の発表は,昭和44年に発見された患者が入院指示を拒否し,服薬も拒否し続けている.その間,担当保健婦が4代かわっているが,医師,宗教関係者,患者の友人,その他の者であらゆる手をつくして医療のルートに乗せようと努力したが拒否し,8年目になっている.このようなケースに対する刻処策はないだろうか,というものである.午後は乳児,家族計画,精神障害者,母子保健管理,成人病などについての研究発表があった.

基本情報

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公衆衛生
40巻10号 (1976年10月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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