綜説
供給体制の再考を—急がれる保健所医師充足対策
中村 道男
1
1帝京大学医学部公衆衛生学教室
pp.661-663
発行日 1976年9月15日
Published Date 1976/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401205273
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はじめに
公衆衛生に従事する医師の不足が叫ばれるようになったのは昨日今日のことではない.これは,わが国が医制発布といった近代医療制度の基盤を築きあげたのち,徐徐に公衆衛生事業が体をなしつつあった頃からの,いわば持病のようなものだったのである.しかしそれはそれとして,当時は足りないながらも,消化器系伝染病や結核などの呼吸器系伝染病と闘ってきたのである.その間,血清療法や抗生物質などの開発が大きな影響を与えたにせよ,これら公衆衛生従事者の働きにより,感染症が激減し,疾病構造の大変化をみるに至ったことは,識者の言を待つまでもない.
ところが近年,それまで十分な数ではないながらも,公衆衛生の先端で走りまわっていた医師,特に保健所医師が急減してきたため,あわてた国や専門家が積極的にその対策にのり出してきた.つまり,その急減少の原因が,老齢医師がやめていくことよりも,若手医師の補充がほとんどきかないためであるといった,恐るべき事態になってきたからである.終戦後しばらくは戦争による医療機関の荒廃や,戦前からあった弱小規模の病院の統廃合などにより,働き場のない旧軍医や引揚医などの加勢もあって,保健所医師はある程度確保されていた.恵まれたところでは,現在のR型規模のところでさえ,所長のほかに予防課長を医師が行っていたところも少なくなかった.しかし,現在その充足率はなんと33.6%と,すでにとり返しのつかないような段階に落ち込んでいる.
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