保健婦雑誌 44巻10号 (1988年10月)

特集 老人の在宅ケア(2)各職種の取り組み

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保健婦と看護婦の役割

 在宅看護に関して,講演を求められる際,在宅看護は看護婦と保健婦とどちらが適性を備えているかという質問を受けることが多い。ひらたくいえば,在宅看護は看護婦が行うのがよいか,保健婦が行うのがよいかという質問であろう。在宅看護の内容を,自宅にいる患者に自宅で個別の臨床看護ケアを提供する活動だと考えるならば,在宅看護は公衆衛生看護を担当する保健婦といわゆる臨床看護(病院内看護)を担当する看護婦の役割に関して,明確な区分をつけがたい状況にあると考えられる。これは,現在実行している職員に看護婦と保健婦の双方がおり,いずれも有能だからである。

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はじめに

 社会福祉士及び介護福祉士法(昭和62年法律30号)の制定以降,施行規則,養成施設指定規則,指定試験機関および指定登録機関に関する省令などの作業が大車輪で進められてきた。昭和64年なか頃には,最初の社会福祉士と介護福祉士が誕生する。

 筆者が福祉系の当大学に着任したのは,この法案通過1か月前のことである。他分野からのしかも遅ればせの新参者であるから,眼の前に提示されている情報の重要性にも,幾テンポか後に気づくといったことも少なくなかった。

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はじめに

 わが国は世界に例をみないスピードで人口の高齢化が進み,特に75歳以上の後期高齢者が増え,在宅ケアは必然的な増大の過程にある。厚生省は1987年6月に,国民医療総合対策本部から中間報告を出した。このなかで在宅ケアの充実,地域ケアのシステム化,長期入院の是正,老人にふさわしい施設ケアの確立(老人病院,老人保健施設,老人ホーム)などをあげている1)。これらは,従来の病院医療を中心とした体制から,在宅生活を基盤としながら多様なケアの場を用意していく方針である。人口や疾病構造の変化と行政政策の転換などの経緯を念頭に置きながら,わが国の在宅ケアの現状と将来の課題と展望について,外国との対比も加えながら述べてみたい。

〈理学療法士の立場から〉

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はじめに

 私は理学療法士として滋賀県の湖東方面に位置する近江温泉病院に6年3か月勤務し,その間,4年あまり保健婦と共に老人保健法に基づく訪問指導と機能訓練事業(リハビリ教室)に携ってきた。地域に出て学ぶことは多くあった。同じ職場の臨床経験2年目になる理学療法士が地域に出はじめてから,目が覚めたと病院での業務にもはりきりだしたことがある。それは病院で行っている理学療法がそのまま役に立ったからではなく,逆に全く違った視点と発想の必要性を迫られ意欲が出てきたのである。

 障害者老人にとって病院や施設内での自立と家庭内で自立するということにはかなりの隔りがある。具体的には,病院内では身のまわりのこと,トイレ・食事・更衣動作そして院内の移動(車椅子・歩行器使用を含む)が,ひとりで可能ならば基本的には自立した患者になる。患者同士や職員とのコミュニケーションが少なくとも,その人は無口な人または抑うつ傾向のある患者として扱われ,入院生活自体に破綻を来たすことにはならない。病院では人間性や社会性がメイン・テーマになることは少なく,疾病や身体障害という器質的,機能的な問題が取り上げられる。在宅障害者ではどうであろうか。家庭では家族との人間関係や家庭内での役割の有無そして家族の介助の負担などが大きな問題となる。病院でのそれとは相反する観がある。

〈作業療法士の立場から〉

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はじめに

 昭和59年5月,石川県は老人保健法に基づく機能訓練事業の充実を第一の目的に,作業療法士を採用した。医療を終了した障害者や老人がいかに家庭生活や社会生活に適応していくのか,身体面・精神面・社会面からアプローチできる職種であるというのが採用理由であった。

 さて採用された作業療法士はと言えば,「保健所?赤ちゃんの健診をして,のら犬を捕獲する所」「公衆衛生?伝染病を予防すること」とたいへん乏しい知識を持って勤務をはじめた。ただ,病院勤務中,再発作ではなく身体機能の低下による再入院患者とも接してきたので,家庭生活の重要性,地域でのフォローの大切さは十分に感じていた。

〈言語療法士の立場から〉

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ライブ講演!?

 失語症の人たちは,同病者とめぐりあうとき,実に生き生きとしたコミュニケーションができる。そしてそれを通じて,生活のエネルギーを回復することができる。

 このことを示すために,私はいま各地で「ライブ講演」というものを行っている。これは,講演の会場に失語症などの患者さんに出かけてきていただいて,そのグループワークの過程を聴衆とともに実体験するものである。これまですでに,北は北海道江別市から南は九州宮崎市まで,約20個所で開催して,多くの方がたとめぐりあうことができた。

<ソーシャルワーカーの立場から>

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はじめに

 武蔵野市福祉公社が,全国に先駆けて有償在宅サービスを開始して,満7年になる。制度についての詳しい話は,いくつかの本が刊行されついるので,必要な方は参照してほしい。ここでは,公社のサービスが,実費を負担してもらう型でトータルケア体系からなっていること,家事・介護サービスを担う協力員とは,主婦を中心とする市民グループから構成されることなどを,知っておいていただければ,事足りると思われる。

 公社のソーシャルワーカーのことについては,少々説明しておきたい。利用者は月額1万円を払うことによって,ソーシャルワーカーと看護婦の定期訪問(月1回以上)を受けることができる。これに緊急時対応と訪問リハビリテーション訓練(月2回まで)を加えて,基本サービスということになる。この基本サービスを利用することが,他のサービスを受けるうえでの必要条件である。つまり,家事援助や食事サービスを受けようと思えば,基本サービス料金を払わなければならない。ここに,武蔵野市福祉公社のサービスの特徴の1つがある。老人のトータルな生活援助を前提としているのである。

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日清・日露の2つの戦争を経て日本でも産業資本の確立をみる.大正時代には産業資本の発達に伴う各種の社会問題が公然化した.また市民層の成長(都市勤労者・自由業者・知識人など)は民主主義的運動をもたらした.大正デモクラシーである.この時期を象徴する出来事として『医療の社会化』を取り上げよう

フォト

生きる 田邊 順一
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 田村正光さん(七十三歳)はこの春、特別養護老人ホームをとび出し再び独りぐらしを始めた。右半身が麻痺しその歩きは遅いが、雨が降ろうが雪が降ろうが毎日を外で過ごす。

 五年前脳卒中で倒れ、以後五年の間にリハビリ病院、養護老人ホーム、特別養護老人ホームを転々とする。最後に移された八王子市のホームでは、入所者のほとんがベッド上の生活だった。田村さんはショックだった。

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 シルバーサービスといってもいろいろあるが,当社はそのなかでも訪問看護やホームヘルプサービスといった,いわゆる在宅介護サービスを提供している純民間の会社である。入社当初,りっぱな門構えの家へサービスを"売り"に行ったとき,ソーシャルワーカーとして違和感と疑問を感じ,思わず門の前に立ち止まったのを覚えている。その後,何人もの老人や家族に出会うなかで,どんなに大きな庭のある家でも,高価な家具に囲まれていても,一歩在宅介護という場に踏み入れば,医療や福祉サービスを十分に活用しきれず,孤軍奮闘している点はみな同じなのだと痛感するようになった。そんななかで「家族の力」を専門家が正しく判断し,それをサポートする形で当社のサービスの他,保健婦さんやPTなど地域のなかのさまざまな専門家達が同じ目標をもってかかわれたとき,大きなパワーで老人や家族を支えることができた。

 民間企業でサービスを提供することの特徴の1つに,明確な契約関係がある。利用者側が自由意志に基づき,サービスを買おうとする。売り手側であるこちらは,専門的な視点に立ち,当社でできる範囲のより効果的な援助内容を提示する。そして双方の合意のもとに金銭を媒介として,内容を契約し,実施する。そこでは,援助をする者とされる者といった(ある種の)上下関係は通用せず,私達1人1人が,料金に見合うだけの援助ができているかどうかを,常に問われることになる。

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 高齢化社会の到来と共に,老人問題に関する山のような書類が目を引く。この「老人おつきあい百科」はなかでも日々老人とのつきあいに戸惑い苦慮し"くたびれシンドローム!"に陥っている人達に是非すすめたい"活性剤"のような本である。

 私は現在,「在宅者訪問看護事業」を担当しているが,老人をとりまく現実はなかなか厳しく,複雑多様な問題の多さと解決の困難性,お世話の難しさを実感させられることが多い。長い人生を生きてきたその重みに学ぶべきことも多いが,かかわりの過程で,こちらがかなりエネルギーを消耗したり,悩んだり,力量のなさを痛感することも度々であり,具体的で核心に迫った手引き書はないものか捜していた時,出合ったこの一冊。

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 看護は医療の一翼を担う重要な専門職業です。我々医療職は個人,家族,地域を含む人類全体の健康を維持・増進する任務を帯びています。我々の義務はケアの質を向上することであり,ケアの優秀さを勝ち取るために絶えず努力することです。

連載 老人のメディカルチェック・9

泌尿器科疾患 岡本 重禮 , 藤本 恭士
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 老人に多い泌尿器疾患として,主に,①尿路感染症,②腫瘍,③神経因性膀胱,④性機能障害について述べることにする。

連載 生活の場から看護を考える・20

着る—着せる(1) 工藤 禎子
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 生活行為のなかでは,食事と排泄に比べて生命に及ぼす影響が小さいと考えられがちなのが,"着る—着せる"であるが,"着る—着せる"が心身の活動を規定することも決して少なくない。今回からはこの問題を考えていきたい。

連載 島根県の重点地区活動―地域がどよめき,芽吹く・25

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はじめに

 生活様式の多様化,疾病構造の変化そして高齢化社会への突入を背景に,健康の考え方も「無病息災から一病息災」が強調され,公衆衛生活動のありかたも論議の的となっている。

 私達,島根県の保健婦は重点地区活動の推進のもとで,活動の基本的な視点を明確にしていくことを大切にしたさまざまな努力を行うなかで,本来の公衆衛生活動のありかたを求めてきた。保健婦が第一線の公衆衛生チームの一員として,「何を展望し,何を大切にして,何から具体的に取り組むのか」を考え,住民と行政と関係諸機関が一体となった総合保健活動の大切さを学び確認してきた。

研究・報告

保健婦の継続教育 平山 朝子
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はじめに

 保健婦は,わが国の対人保健サービスの重要な担い手として位置づけられてきた。過去においては,たとえば,結核という感染症から人びとを守るという国民的課題についても,次世代を担う子どもの健康と生命を守る課題についても大きな役割を果してきた。そして今日では,老人保健活動や高齢者の健康問題解決に大きな期待が寄せられている。この期待に対し,どのような役割が果せるかは,これからの保健婦の社会的評価を決めるものである。

 ところが現状をみると,保健婦活動とその周辺には多くの混乱がある。とくに近年は,老人保健法施行によって,保健事業が多彩に行われ,仕事が急速に複雑化してきている。加えて,老人保健法の施行は,保健婦の構成に大きな変化をもたらし,著しく若年層の比重を増大させている。図1は,保健婦の年齢構成を示したものである。これは,全国平均の姿であり,地域的にみると,さらに著しい所もある。

特別記事

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1.まず感じたこと

 去る3月「高齢化社会をよくする女性の会・代表樋口恵子」企画のヨーロッパの老人福祉セミナーツアー(スウェーデン・西ドイツ・イギリス)に参加した(今回はスウェーデンを紹介する)。

 本文に入る前にスウェーデンの地理的条件についてふれておこう。スウェーデンの国土はスカンジナビヤ半島の東半分を占め,1,400キロと細長く延びている。面積は449,964平方キロと日本よりやや広く,英国の約2倍である。北緯が56゜から70゜に位置(北海道は42゜〜46゜)しているところから,北部は15,000人あまりの原住民がトナカイの放牧をしているのみで,840万人の人口中,85%はストックホルム周辺から南に住んでいる。

活動の中から

M君が山に登った 吉田 幸永
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「重症心臓障害児,M君とともに」は,本誌〈活動の中から〉に掲載された。あれから10年いろいろなことがあったが,M君は小学校4年生になった。そして,今年はじめて2泊3日の合宿学習に参加し,水泳,登山の全行程をやりとげた。

 合宿前には参加することだけを願い,水泳や登山は断念ときめこんでいただけに喜びはひとしお,実にうれしい。

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在宅痴呆性老人看護100例の実践記録に学ぼう!

 昭和100年(2025年)のわが国の痴呆性老人は現在の3.4倍,すなわち約40年間で222万人に増加し,そのうち80歳以上が占める割合は68.3%と,痴呆老人の高齢化現象に一層拍車がかかることを先頃,日本大学人口研究所は予告していた。この予告は,裏を返せば,痴呆性老人を抱える家族の一層の増加と,介護負担の高さを関係者に警告している。

 痴呆への対処技術はまだ未確立で,痴呆は悪化の途をたどるばかりで,援助効果が期待できないということから,地域で働く看護職が,痴呆老人への援助をこれ以上放置することは,介護家族を追いつめ,痴呆老人を抱える家庭を崩壊させ,深刻な社会問題への引き金になることは明らかである。痴呆老人への看護援助をためらいいま一つ,踏みだせないでいる看護職の皆さんに本書を読まれることを是非おすすめしたい。

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春夏秋冬をくりかえし

 看護学校に入学してから10年。10回もの春夏秋冬を過ごしてきた。

 春。私はこの季節が一番好きである。心が浮き浮きし,家庭訪問の足どりも軽く,田んぼや畑で出会うおばあちゃん,おじいちゃん,お母さん,お父さん達へ自然にやさしい微笑みがこぼれ,何でもないのに,ああ保健婦になって良かったなあと単純に思ってしまう。春の日差しのなかで伸びている猫へも積極的にスキンシップをはかりつつ訪問先へ向かう。

基本情報

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保健婦雑誌
44巻10号 (1988年10月)
電子版ISSN:2185-4041 印刷版ISSN:0047-1844 医学書院

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