生活ノートから
夏は去っても
松谷 みよ子
pp.66-67
発行日 1968年12月10日
Published Date 1968/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662204349
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宮島で聞いたこと
「この柵は,鹿よけの柵なのですよ,鹿が入ってこないように,門のところに,たててあるのです」
とTさんがいった。昔の名残りかと思ったら,戦争中は一時減りましたが,今はとてもふえて,うっかり柵をしないでおくと入りこみ庭の青いものをすっかり喰われてしまう。台所の野菜屑を入れたポリバケツを門の前に出しておくと,鹿が子連れ,孫連れでやってきて,よろこんで喰う,ワサビのような辛いものや,少しいたみかかったものは,長い舌でよりわけて,ちゃんと横へ出しておく,利口なものだということだった。可愛いいのは鹿の仔で,例の鹿の子まだらの姿でちょんちょんはねにはねながら,人なつっこくついてくる。家の中まで,はねながらついてくるという。仔鹿の姿が眼に浮ぶような話だった。
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