隨筆
幸福な種族
石垣 純二
pp.37-40
発行日 1953年5月10日
Published Date 1953/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200513
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深夜のまどい
私はこの間,南のある県の保健婦さんたちの会に行きました.一夕,保健婦事業を語り明かそうというので,四五人の保健婦さんと宿の一室で火鉢をかこみました.ところが,飛脚のようなこのごろの生活の疲れが,鉛のように体に澱んでいるものですかち,不覚にも,うとうとしてしまいました.ふと目を覚ましてみると,まだ役女たちはチョウチョウナンナンと語つています.時計をみると午前3時をすぎています.このとき私は沁々と保健姉さんたちを羨しく思いました.その座の人々の大半が,孤独で暮していて,個人生活では寂寥を極めているのに,仕事の話を深夜の3時まで楽しく語り合うとは,実にうれしい人たちであると思いました.もつとも中には熱烈な恋愛をやつていて,公私とも情熱的である方が混つていたかも知れませんから,こんな独断的なことばを吐いて,吊し上げられるかもしれません,が私にはそう思えたのでした。ともあれ保健婦族には,こうした幸福な種族が多いということは,私が帰京したら,一人の厚生省の課長から,「あの県の女性諸君は仕事きちがいが多いよ」と言われたことでもわかるでしよう,国民の健康や幸福のために,まつたく心強いことです.岡山の知事に行かれた三木先生が,口癖のように,「話をしに行つて一ばん手応えのあるのが保健婦」と言い言いされたことを,ゆくりなくも回想したことでした.
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