保健婦雑誌 24巻8号 (1968年8月)

特集 これからの老人問題

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平均余命の延長

 去る7月12日,厚生省が発表した67年の簡易生命表によると,死亡の状態を最も簡約に示すところの出生時の平均余命,すなわち「平均寿命」は男子68.91年,女子74.15年で北欧3国やオランダについで,先進国のなかでも非常によい国の1つとなった。戦前水準とみられる1935〜36年の第6回完全生命表によると,出生時の平均余命は,男子約47年,女子約50年であった。終戦後間もない1947年の第8回完全生命表によると男子50年,女子約54年であって,戦後20年間に,これまで先進国で経験されなかったような大幅な平均寿命の延長をみたわけである。

 それは,戦後の日本において,死亡の改善がどんなに急遠でいちじるしいものであったかを物語っている。死亡の原因についてみれば,急性伝染病をはじめ細菌の感染による死亡が激減したことによっている。それは新しい化学薬剤が,公衆衛生運動によって,戦後の国民生活の悪条件を克服して,よく社会化したことによるところが大きくこの意味で,公衆衛生運動の勝利であるといってよい。

老人の精神衛生 新福 尚武
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 60歳以上の老人が全人口の約10パーセントをしめるようになった。日本全国だと約1000万,100万の都市だと約10万,60歳以上の老人がいることになる。この10パーセントのなかからは,他の90パーセントに比べて何倍もの率で精神病者が発生する。だから老人の精神病者数は,全体の10パーセントではきかず,20〜30パーセントになる。欧米の統計だと,精神病院に入院している老人の数は全体の20パーセントから30パーセント,あるいはそれ以上で,やがては50パーセントになるのでないかともいわれている。これが先進国の実情である。

 しかも,老人人口はどんどん増しているので,その増加率を上回る率で精神病者はどんどん増していくにちがいないのである。しかも,治りにくく,社会復帰の率はきわめて低い。だから,どんどん病院にたまってくるのである。

老人に多い疾病 小沢 利男
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はじめに

 "老人に多い疾病"というのが,筆者に与えられた課題である。逆説的ないい方かもしれないが,一般に老人には疾病が多いものである。特に近年における化学療法と公衆衛生思想の普及は,かつて若年層をおかしていた感染症の克服に大きな成果を収めたが,その結果として癌,動脈硬化,糖尿病,リウマチなどの慢性疾患や腫瘍が大きくクローズアップされるに至った。これらが中年以後,老年期に多いのはいうまでもない。また一方以前小児や若年層に多かった結核,肺炎,その他の感染症も次第に老年層へと移行してきているのである。

 加齢に伴って身体諸臓器の機能が衰退し,疾患に対する抵抗性が減弱し,精神的意欲や知能も次第に低下することは,一般に老化現象といわれるものである。老化は疾患ではない。それはひとつの生物学的現象である。老化の極限は老衰による死亡であるが,実際に老衰によって死亡することは稀である。多数の剖検にもとづく報告は,老年者といえども壮年者と同様の疾患が死因となっていることを示している。ただ老年者の剖検所見が若年者のそれと異なることが,いくつかあげられる。そのひとつは死因が単にひとつの疾患によるものではなく,いくつかの臓器の変化がそれぞれ関連をもって形成されていることが多い点である。たとえていえば脳卒中後の肺炎の如きである。この場合主要な死因はいうまでもなく脳の血管性傷害である。

北欧諸国の老人福祉 塚原 国雄
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まえがき

 老人ホームの視察のために,私は昨年の10月から11月にかけて,40日ほど,北欧とスイス・スペインなどを回ってきました。これら諸国の老人福祉について,少し述べてみます。

 北欧は,デンマーク・フィンランド・スウェーデン・ノールウェイの順に回ったのですが,これらの国は,気候・風土・風俗・社会事情が似ており,いずれも社会的連帯と自治を重んじ,社会福祉の発展と地方自治の確立に力を注いでいます。北欧は世界有数の長寿国で,65歳以上の高齢者は総人口の10パーセントを越えています(わが国は昭和41年に6.5パーセント)。また,産業経済の発展に伴って,青壮年は農村を去って都市に集中して核家族を形成し,さらに,個人主義が徹底していて,スウェーデンなどでは,高校生ともなれば親と別居し,大学生の約3分の1は結婚しているとのことでした。結婚した学生だけの住むアパートも見ましたが,相当立派なものでした。スイスは,子供の別居は北欧より遅く,結婚して初めて親から離れるのが普通とのことです。このような事情もあって,老齢世帯はますます増加し,老人問題は一層重要視されるようになったものと思います。

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はじめに

 昭和42年の老人人口(65歳以上)は,約667万人である。これが20年後には約1,300万人となり,総人口の11%に上ると推計されている。医学と生活の向上はさらに寿命をのばし,7月13目の新聞発表によると,男は68.91歳女は74.15歳とまた平均寿命がのびたことを報道している。このことは,私たちにとってよろこびなのか苦しみなのか,生きながらえて貧困と病苦,淋しさと孤独の老後であったら,寿命がのびたことがけして幸せとはいえない。寿命がのびて「生きていてよかった」といえるような老後,こういう老後の生活と医療の保障が完備されたとき,私たちは,ほんとうに寿命がのびたことをよろこびあえるといえるのではなかろうか。

 このたび,全国13万の民生委員が一斉に「居宅ねたきり老人」の実態調査にとりくんだねらいも,社会からおき忘れられて,本人はもちろん,家族も物心両面において,はかり知れない苦痛と負担をになっている人びとへの福祉対策をたてる資料ともしたいという念願からである。

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はじめに

 経済成長に伴う生活水準の向上,予防医学の進歩とあいまって平均寿命の延長,さらに近代的住宅に核家族化傾向が増加しつつある大都市では,いかにも先進国なみの生活が予想されるが,その反面,社会保障制度はまだまだ不十分な点が多い。たとえば,健康で長生きしても働く場所がない社会保障もない,生活費さえ子供に頼れないとの老人の声をよく聞く。このような現代社会で年々増えつつある定年後の人々が,どのような生活を送っているかは保健婦として常に関心を持っているところで,今回その生活実態調査を試みたのである。

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 "これからの老人問題"を考える場合,まず現在の老人の実態を知ることは,最も大切なことだろうと思います。この意味において藤村マサエさんと笠井キクヱさんによる老人に関する生活実態調査は,貴重なものであります。しかし,その実態に対する評価は大変むずかしいことであろうと思います。なぜなら,同じ資料でも,解釈の仕方によっては,かなり異った"これからの老人問題"の考え方が出てきそうだからです。

 たとえば,藤村さんと笠井さんによる調査の結論は,1つの解釈でありますし,1つの考え方でありましょう。2人の方が,その職業的見地から分析された評価は「日本の社会保障は不備である。」しかし,わずかな予算でも老人のニードに応じた使い方をすべきだ。たとえば,老人ホームに入りたがらない民情にそって,その増設をはかるより,ホームケアーの拡充や老人会の育成などに重点を置いた方がよい。

グラフ

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 これからの老人問題を考える上で,老人問題の社会化は,切実な課題。そこで老人ホームの先達である北欧諸国のホームを最近まわられた東京農大教授で,現在富国生命老人ホーム建設委員であられる塚原国雄先生のスライドからご紹介しよう。なお詳しくは本文22頁の塚原先生の論文を参照されたい。

保健婦さんへ 期待と提言

仕事を生きがいに 須川 豊
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 近頃はますます忙しい世の中になったのか,時間が足りなくて,身体がいくつも欲しいと思う時がしばしばである。民主々義は,お金と時間がかかるので,これもいたしかたないと思う。ただ関心をもっている仕事にタッチできないのが残念である。保健婦事業もその一つである。

 全国の保健婦さん達は近頃どうしておられるのだろうか。以前いろいろと話し合っていた頃と同じように悩んでおられるのだろうか。神奈川県にきて20ヵ月以上経た今日,こちらの保健婦さん達と落ちついて話し合う機会がないのはどうしたわけだろうか。どうも全般的な管理業務に時間がとられすぎているように思う。

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はじめに

 老人人口の増加と成人病といわれる慢性病の増加に伴い,最近ますます老人患者が多くなりつつある。しかし我国では一般病院の病床数の不足,また老人に対する社会の人々の関心が低いなどで,満足な看護,治療を受けられない老人は多い。長期間の療養生活を送らなければならない者に対しては,家庭での看護が重要となる。しかしながら現状では,老人の家庭看護の指導書などはほとんどなく,おのおのの患者や家族にとって指標となるものも少ない。そのため保健婦による適切な保健指導が必要となってくる。

 このような背景から公衆衛生看護を専攻した私達は老人の家庭看護上の諸問題を研究課題にとりあげた。

特別寄稿

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背景の浮きぼり

 乳児死亡率は永らく全国1,2,位,無医地区が147もある。生活保護率は高く,出かせぎは多く,出かせぎによる現金収入200億円,そのうち60億円は失業保険金である。このような地域の特性を背景に保健所保健婦の町村派遺事業が展開されつつある。

連載 身近かな栄養学・1【新連載】

栄養とは何か 小池 五郎
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本講座は,とかくじっさいの食生活とは遊離しがちのこれまでの「栄養学」の壁を破って,できる限り現実に根を下ろした,「新しい栄養学」として始められました。食生活に関して身近かにかかえておられる問題,悩みなどお寄せいただければ幸いです

スポット

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 ヘルマン・ブールという男がいた。この男については一度書きたいと思っていたのでとりあげる。

メディカル・ハイライト

ぎっくり腰 御巫 清允
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 ぎっくり腰というのは,腰痛症のなかで特に急性のものを指しているようであって,ドイツ語のHexensch—ussと一致した病名であると解釈されている。その原因はHexenschussが魔の矢で射られたことを示しているのと同様全く不明のことが多いが,いずれにしても,どうかした拍子に突如腰が痛くなって腰がぬけたようになり,動けなくなってしまうことを示していることが多い。

 医学的にこれをみると,3つにわけることができよう。まず第1がいわゆる椎間板ヘルニアの急性発症で,第2は胸腰椎圧迫骨折の急性発症,第3はいわゆる腰椎捻挫である。これらにつき逐一解説を試みよう。

生きている法律

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保健婦さんの就労条件の問題

—労基法と地方公務員法および各種条例・規則—

 すでに前号によって,保健婦さんの雇用主体が,市町村などの地方自治体か,また市町村立の学校の保健室か,民間部門の企業の保健室かにより,労働組合というか,職員組合結成に始まり,団体交渉,ストライキ権行使において,いわゆる公務員か,一般労働者かという違いにより憲法28条の具体化に違いを生み出しているということを説明してきた。

生活ノートから

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習わないものだけが弾ける曲

 このあいだ,作曲家の和田則彦さんとNHKのロビイでお茶を飲んでいるうちに,面白い話をきいた。「猫ふんじゃった」という曲がある。猫ふんじゃった,猫ふんじゃった,とくり返しくり返し,つづいていくユーモラスな歌詞で,私なども,いったい何時おぼえたものやら,いつのまにかしっているという曲である。

「あの猫ふんじゃった,という曲は,ピアノを習っていない子が上手にひく曲なんですよ。習っていたらひけないんです」

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すべて2年目

 ガタガタガタガタ,ギーコギーコと,はなはだにぎやかな鳴物いりで走る車(それでも自動車には違いない)を乗りまわしている身には,たまには歩くのもよいものである。青葉こしに梅雨晴れの空をあおいで,枝先に黒く熟した桑の実をみつけた。条件反射で唾液腺が活動を開始する。立ちどまり,必要もないのにこれまた反射的にあたりを見まわし手をのばして,枝をたぐりよせながら,ふと昨年のことを思い出して,思わず首をすくめた。昨年,この島へやってきて間もない頃,私たちはやっぱりこんなふうに道を歩いていて桑の実をみつけた。アスファルトの道端にありながらつやつやと美しい葉に枝もたわわになっている実の,甘い香りと,意外においしいのに大いに感じ入って,さかんに口へ放りこんだ。行き交う車で,島の人達は眺めて通って行ったらしいが,夢中になっている私たちには,そんなことは関係ない。ところが,うしろからやって来たおばあちゃんに,ついに声をかけられた。「道ばたのはきたないですじゃ。もう少し行くと水道があるんて,洗ってから食べやれえ」…しばらく行くとまた桑の木があった。そこでまたそろ口へ放りこんだら,今度はむこうから来たおばさんが「ここんとこに水道があるんて,洗ってから食べやれよう!」

 1年たった今だから話そう…私たちが島へ来て最初の衛生教育は,したのではなくて,されたのであった…。

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 この本は,戦後の新制保健所の発足以来,国立病院,市役所,保健所,厚生省,公衆衛生院等々の職場を通して,一貫して地域の公衆衛生活動に,実践,行政,研究,教育などさまざまな立場から取り組んでこられた著者が,今日歴史的な転換期にある日本の地域保健活動の前進のために,過去20年余の考え方を集大成された貴重な成果である。

 本書の内容は,Ⅰ序説,Ⅱ各国における地域保健活動の発展過程とその現状,Ⅲ日本における地域保健活動の発展,Ⅳ日本における地域保健活動の現状とその評価,Ⅴ地域保健活動の問題点と対策の諸段階,Ⅵ地域保健活動を前進させるために,という構成からもうかがわれるように,イギリス,アメリカ,ソ連など他国との比較において,また戦前の日本との対比において,今日の,そして今後の地域保健活動のあり方を浮びあがらせるという手法がとられており,このように歴史,社会的条件との関連で,保健や医療の問題をとらえていこうというところに,本書の大きな特徴があるといえる。

実態をさぐる

社会保障制度のしくみ(4)
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国保の適用状況

 国保の保険者の数は,市町村合併などにともなって年毎に減少している。昭和37年度には全国で保険者の数は3,618であったものが昭和40年度には3,541となり,41年度にはさらに減少して3,495となっている。もちろんこの中には特別国保もふくまれているが,この分はあまり減っていない。すなわち昭和37年度161が40年に156,41年も同様156施設である。このことからも,市町村国保の減少傾向がいちじるしいことがわかる。

 しかし,保険加入世帯主数は逐次増加し,それとは逆に被保険者数そのものは減少している。昭和37年に4,578万人であったものが昭和40年4,324万人,41年4,288万人と,およそ300万人が減少した。これから判かることはいうまでもなく,老人,母子などの小人数世帯が増えているためである。

さけたい職場での公私混同 K生
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 私はある保健所の保健婦です。

 同じ保健所の先輩のことで,最近気になることがあり筆をとりました。

基本情報

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保健婦雑誌
24巻8号 (1968年8月)
電子版ISSN:2185-4041 印刷版ISSN:0047-1844 医学書院

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