八丈の島から
第13回 島の1/4の健康(その3)
膳亀 和子
1
,
古川 千寿子
1
,
上田 きよえ
1
,
川嶋 紀枝
1
,
小座間 浄
1
,
八代 悠紀子
1
1町立八丈病院
pp.62-63
発行日 1968年8月10日
Published Date 1968/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662204251
- 有料閲覧
- 文献概要
すべて2年目
ガタガタガタガタ,ギーコギーコと,はなはだにぎやかな鳴物いりで走る車(それでも自動車には違いない)を乗りまわしている身には,たまには歩くのもよいものである。青葉こしに梅雨晴れの空をあおいで,枝先に黒く熟した桑の実をみつけた。条件反射で唾液腺が活動を開始する。立ちどまり,必要もないのにこれまた反射的にあたりを見まわし手をのばして,枝をたぐりよせながら,ふと昨年のことを思い出して,思わず首をすくめた。昨年,この島へやってきて間もない頃,私たちはやっぱりこんなふうに道を歩いていて桑の実をみつけた。アスファルトの道端にありながらつやつやと美しい葉に枝もたわわになっている実の,甘い香りと,意外においしいのに大いに感じ入って,さかんに口へ放りこんだ。行き交う車で,島の人達は眺めて通って行ったらしいが,夢中になっている私たちには,そんなことは関係ない。ところが,うしろからやって来たおばあちゃんに,ついに声をかけられた。「道ばたのはきたないですじゃ。もう少し行くと水道があるんて,洗ってから食べやれえ」…しばらく行くとまた桑の木があった。そこでまたそろ口へ放りこんだら,今度はむこうから来たおばさんが「ここんとこに水道があるんて,洗ってから食べやれよう!」
1年たった今だから話そう…私たちが島へ来て最初の衛生教育は,したのではなくて,されたのであった…。
Copyright © 1968, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.