特集 これからの老人問題
老人に多い疾病
小沢 利男
1
1東京大学老年病学教室
pp.17-21
発行日 1968年8月10日
Published Date 1968/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662204239
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
"老人に多い疾病"というのが,筆者に与えられた課題である。逆説的ないい方かもしれないが,一般に老人には疾病が多いものである。特に近年における化学療法と公衆衛生思想の普及は,かつて若年層をおかしていた感染症の克服に大きな成果を収めたが,その結果として癌,動脈硬化,糖尿病,リウマチなどの慢性疾患や腫瘍が大きくクローズアップされるに至った。これらが中年以後,老年期に多いのはいうまでもない。また一方以前小児や若年層に多かった結核,肺炎,その他の感染症も次第に老年層へと移行してきているのである。
加齢に伴って身体諸臓器の機能が衰退し,疾患に対する抵抗性が減弱し,精神的意欲や知能も次第に低下することは,一般に老化現象といわれるものである。老化は疾患ではない。それはひとつの生物学的現象である。老化の極限は老衰による死亡であるが,実際に老衰によって死亡することは稀である。多数の剖検にもとづく報告は,老年者といえども壮年者と同様の疾患が死因となっていることを示している。ただ老年者の剖検所見が若年者のそれと異なることが,いくつかあげられる。そのひとつは死因が単にひとつの疾患によるものではなく,いくつかの臓器の変化がそれぞれ関連をもって形成されていることが多い点である。たとえていえば脳卒中後の肺炎の如きである。この場合主要な死因はいうまでもなく脳の血管性傷害である。
Copyright © 1968, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.