助産婦雑誌 55巻4号 (2001年4月)

特集 出産のヒューマニゼーション—ブラジルJICA家族計画母子保健プロジェクトの経験から

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はじめに

 1996年4月から2001年3月にかけて,ブラジル北東部セアラ州(州都フォルタレザ)で行なわれた国際協力事業団ブラジル家族計画母子保健プロジェクト,通称「光のプロジェクト」とは何だったのか。このプロジェクトは何を変えたのか。このプロジェクトから何を学ぶことができるのか。ブラジルの片隅で5年の歳月をかけた「お産のヒューマニゼーション」のプロジェクト。生きる力に満ちたブラジルの人々の,「非人間的なお産の文化」を「変革を通じてのヒューマニゼーションのプロセス」に変えようとする意思。国際協力,という名のもとで,日本のお産の現場にかかわる人たちとともに,“日本人”であるわたしたちにも突きつけられた,「人間的たること」の意味。21世紀にむけて,人の生まれることについて,プロジェクトが模索しつづけてきたことを,さらに,多くの方と分かち合いたい。

 このプロジェクトには,2つの特徴がある。ひとつは政府ベース,非政府ベースともに,日本がかかわった国際協力プロジェクトのなかで,初めて「出生と出産」,しかも「助産—Midwifery」を中心においたプロジェクトとなったこと。もうひとつは,いわゆる政府ベースの国際協力プロジェクトとして,高い評価を得たことである。ここではこれら2つの部分に分けて議論しようと思う。

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 筆者は「国際保健学」を専攻してきたことから,国際協力事業団(JICA)の提供する保健プログラムに協力させていただいてきた。そして5年前に活動の始まったブラジルの母子保健プロジェクト「出産のヒューマニゼーション」総括責任者としてかかわることとなった。

 筆者にとって「出産」との直接的なかかわりは初めての経験であるが,責任者として考えたことを今回まとめさせていただくことにした。

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 2000年11月2,3,4日の3日間,ブラジル・セアラ州のフォルタレザ市で「出産・出生のヒューマニゼーションに関する国際会議」が開催されました。世界25か国から約2000人が参加し,世界の人々とヒューマニゼーションの概念を分かち合うという大変意義深い会議となりました1,2)

 しかし考えてみれば,この国際会議は,国際協力事業団(JICA)の一プロジェクトが開催するには,余りにも大きなイベントでした。

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はじめに

 鮮烈な太陽,モワーっと暑い空気,フォルタレザは暑い熱帯の都市でした。日本からは遠い国での国際会議の開催でしたが,私にとって実り多いものとなりました。

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 私は滋賀県の一助産婦教員ですが,出産を産む人中心のものにしたいと,仲間と共に少しずつ改善に取り組んできました。毎年1回,滋賀県の助産婦は「琵琶湖発未来へ」というイベントを開催,全国に発信しています。

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変革のためのトレーニング

 「T. O. T. に行って帰ってきて,荷物を解いて洗濯して,アイロンかけたらまたT. O. T. だわね」とは,短期専門家として何度かプロジェクトに参加され,働いてくださった助産婦の藤原美幸さんの言葉です。

 「T. O. T.」とは,他でもない「トランスフォーメーション(変革)のためのトレーニング」のこと。パイロット地区で展開していたプロジェクトをセアラ州全土に広げるために,州内各地の医師・看護婦を集めて実施してきた合宿形式のトレーニングです。

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プロジェクトが機材に関して目指したもの

 当プロジェクトでは,機材調達はできる限り①ブラジルの実情に沿った,②安価で,③国内生産のもの,を目指した。

 国際協力プロジェクトを行なうと,現地側からむやみに高度で高価な機材の供与を要求されることがある。しかし,現実のニーズを見てみると必ずしも必要性が高いとはいえないケース,高価な「お医者さんのおもちゃ」になりかねないケースが多い。

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 三砂 JICA(国際協力事業団)のプロジェクト型技術協力では,日本から専門家を派遣すると同時に,現地からの研修生を受け入れることも重要な活動です。5年間の協力活動中は毎年研修生が来日し,助産院,産科医院などの施設で研修を受けています。そして今回は,1月から2か月間の予定で,ブラジルから日本に3名の研修生がいらっしゃいました。

 本日は,その研修中の皆様にお集まりいただき,ブラジル側からのプロジェクト活動の感想や日本の助産婦さんとの関わり等についてお聞かせいただきたいと思います。本題に入ります前に,簡単な自己紹介をお願いできますか。

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「助産の心」を伝えたい

 「プロジェクト」がスタートして半年が経過した頃に届いた!枚のファックスが,わたしと「プロジェクト」との,その後の5年近くに及ぶかかわりのきっかけでした。当時,そして現在もわたしは現場ではなく,助産婦にかかわる周縁の仕事をしています。そういうわたしにJICAプロジェクトからファックスが届いたのは,メンバーに知人がいたことや,以前やはりわたしに,JICAの同様のプロジェクトの経験があったからでした。

 ところで,プロジェクト技術協力では,日本から専門家を派遣すると同時に,現地の協力相手(カウンターパート)が日本で研修を行なうことも大きな活動の柱です。届いたファックスには,そのカウンターパートの日本での研修場所はどこがいいかアドバイスが欲しい,とありました。

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 日本のJICAブラジル家族計画母子保健プロジェクトが活動してきたフォルタレザは,赤道直下南緯3度,ブラジル北東部に位置し,日本からは飛行機で30時間かかる。

 私は1998年に短期専門家として2回,1999年から長期専門家として2年間,このプロジェクトに関わった。ブラジル・フォルタレザで2年間も暮らすことになるとは,私の人生の中では考えもしないことだった。ましてや助産という仕事で,異国の方と感動的な共有ができるとは,夢にも思わないことだった。

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情熱の国からの贈り物

 筆者の勤務する大学がWHOプライマリーヘルスケア看護/助産開発協力センターであることや,卒業生が助産専門家として派遣されている縁で,私は1996年からJICAブラジル母子保健プロジェクトとの関わりを持った。

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はじめに

 子どもに障害があるとわかった親が,子どもの障害を受け止め,わが子とともに生きていこうという気持ちになるまでには,ある程度の年月を要する。母親が子どもを受容していく過程に関する研究では,障害があると診断された後に起こる母親の感情反応を分析した研究1,2)や,母親の心理的変容過程の段階を示した研究1)などがある。全ての母親が同じプロセスをたどり,受容の段階に達するのではない。また,日常の育児の中で様々な問題に直面し,児を受容することに困難が生じることもある。

 母親が,子どもに障害があることを受容できず,その人らしく生きていくことが妨げられているとすれば,そこに何らかの支援が必要になってくる。現在,母親に対して看護職の専門的な援助の必要性が指摘されてはいるが,具体的な援助内容が明らかにされているとは言えない。母親を支援していくためには,まず,私たちは母親の受容過程を知ることが必要である。

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 JICA(国際協力事業団)は世界の発展途上国で各種の支援活動を行なっていますが,ブラジル北東部のほぼ赤道直下のセアラ州で展開してきた「ブラジルJICA家族計画母子保健プロジェクト(通称・光のプロジェクト)」の活動は掛け値なしに賞賛に値するものでしょう。詳細は本文の特集に譲りますが,助産婦のいない国に助産の概念を導入,「助産の心」を互いに伝えあい,分かちあうことで,変革が起こりました。変革はブラジルの産科関係者にも日本の関係者にも起きました。

 プロジェクトの活動は3月で終了しますが,このたび総仕上げにプロジェクトの活動の本拠地セアラ州で指導的立場にあるシルビオさん,アンジェラさん,イネイダさんが研修のために来日しました。2か月の予定ですが,現在,助産院をはじめとして日本のクオリティの高い周産期関係施設で,厳しく楽しい研修を修めているところです。

連載 助産婦のための疫学入門・14

質問票を作る 三砂 ちづる
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アンケート

 質問票とは,よく言われる「アンケート用紙」のことです。“アンケート”は,横文字で,英語かなと思えるのですが,英語ではありません。英語はquestionnaireで,アンケートはフランス語(enquête)だそうです。

 被験者とよりよい出会いをするために,心をこめて,丁寧に作りたい質問票です。よくねられた質問票をつくることで,データ収集の第一歩はクリアーすることができます。いいかげんな質問票を作って調査をはじめると,必要なデータが取れません。そのまま分析し始めると,分析の途中で,質問票に時間をかけなかったことを悔やむことになります。そうなると,「時,すでに遅し」で,どうにもなりません。自分のかけた時間も,面談に費やしてもらった回答者の時間も,無駄にしてしまうことになります。

連載 新生児医療最新トピックス・4

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21世紀に持ち越された未熟児医療の問題;脳室周囲白質軟化症(Periventricular leukomalacia:PVL)

 1.なぜPVLが重要になってきたか

 PVL(脳室周囲白質軟化症)はすでに1960年当初から未熟児に見られる病理学的所見として知られていたが,20世紀末になって,一度低下した脳性麻痺(以下,CP)の発生頻度が増加した最も大きな原因であることが知られるようになった。すなわち1970年代まで,新生児医療の進歩に伴って低下してきたCP発生頻度が,NICUが普及するのと時を同じくして再び増加したのである1)(図1)。その増加は,低出生体重児,特に極低出生体重児が治療の対象となってきた時期と一致しており,さらに増加したCPの大半がPVLによるものであることが明らかにされてきた。もちろんNICUの普及は,今まで救命できなかった未熟児を救い,これまで死亡していた児を救命して世に送り出すという,未熟児医療全体としては,多大な功績をしていることを忘れてはいけない2)。しかし,その一方で,われわれが救命のために良かれと行なっている高頻度人工換気や人工サーファクタントなどの新しい治療の中に,PVLの発生頻度を高めているものがあるかも知れないという謙虚な反省も,当然なされなければならない。

 PVLの発生頻度に関しては,超音波による診断とMRIやCTによる診断で多少の差があり,33週未満のNICU入院例においては,その発生頻度は超音波では約5%,MRI/CTでは8〜9%となっている。すなわちPVLの約1/3はMRIやCTによって,初めて診断がなされている3)。また,PVLの発生頻度は,より未熟な児よりも27〜28週の児に高く,超出生体重児よりも1,000〜1,250gのグループに多い4)。その理由としては,PVLがある発育の段階でより発症しやすい時期がある可能性や,27〜28週という成育限界より少し週数が進んだグループにおいては,より積極的な救命の努力をするために,もっと未熟なグループとは違った出生前後の管理体制がとられていることなどが考えられるが,未だその理由は不明である。

連載 いのちの響き・27

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 初めてきよ美さんに会ったのは,きよ美さんが夢巡君を出産する前日のことだった。

 ショートカットがよく似合う20歳のあなたは,彼と介護の人に付き添われて下落合の病院に向かった。

連載 とらうべ

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 あるベテランのテレビプロデューサーと話をしていた時のこと。その方の新人時代に話が及んでこんなエピソードが飛び出した。「私はテレビ局に入るまで,ニュースがこんなに作られてできているなんて全然知らなかったから,最初は本当に驚きました」。

 私たちはこの時,メディア・リテラシーをテーマに話し合っていた。メディア・リテラシーとは,メディアの性質を理解した上で情報を批評する能力を育成し,またメディアを使って表現しメディア社会と積極的に関わっていく力のことだ。

連載 判例にみるジェンダー・4

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ストーカー犯罪

 ストーカー(stalker)の語源は「忍び寄ること,浸透すること」であるが,犯罪精神医学的には対象に執拗につきまとい,対象あるいはその周辺の者に攻撃行動を仕掛けるなどして身体的・精神的損傷を与える行為と定義している。身勝手な思い込みによるつきまとい行為から取り返しのつかない事件が多発しており,社会的問題となっている。「ストーキング被害者の会」の平成11年3月の調査によると,加害者は知人(52%)が最も多く,次いで元夫および元恋人(30%),その他(15%),相手不明(3%)であった。被害の期間は10年以上(14%),5〜10年未満(20%),1〜5年未満(56%),1年未満(10%)と報告している。

 わが国では,従来から「男女の仲のこと」として,格別に取り締まる法がなかったが,平成12年5月24日,つきまといなどを犯罪として禁止する「ストーカー行為等の規制等に関する法」が施行された。

連載 英国助産婦学生日記・4

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 私が専攻しているダイレクトエントリーのディプロマコース以外にも,この大学で助産師資格を取るためのコースが2つある。ダイレクトエントリーの「学士号(オナーズ)」コース,看護師資格を持った人対象の「短縮コース」である。

連載 りれー随筆・198

素人園芸日記 冨吉 由香里
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 私事ではありますが,昨年結婚しました。新婚生活に胸をふくらませ引っ越ししてみたら,新居のベランダが殺風景なので,野菜の苗を育てることにしました。

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子宮がんと子宮摘出

 タレントの向井亜紀さんが,子宮がんのため,子宮を摘出したことを,会見を通して明らかにした。待望の妊娠に伴うがん発見であり,妊娠継続を強く望んでいた向井ざんは,出産を断念しなければならなかったときの心情,生まれてこなかった子どもへの思い,夫の支え,婦人科検診を(はずかしさのために)受けてこなかったことへの悔い,今でも子どもをもつこと諦めていないこと,など,切実な気持ちを語り,女性たちに検診の大切さを訴えた。

基本情報

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助産婦雑誌
55巻4号 (2001年4月)
電子版ISSN:2188-6180 印刷版ISSN:0047-1836 医学書院

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