medicina 56巻11号 (2019年10月)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

鈴木 富雄
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 「3週間以上,38.3℃以上の発熱が数回あり,入院,または外来での3日以上の検査でも診断がつかない」というのが不明熱の定義である.その後,最後までずっと不明の場合もあるが,思わぬところから手掛かりが掴めて,解決する場合もある.その鍵はどこにあるのだろうか? 謎を解き明かす原理原則を語ることは大切なことではあるが,机上で原則を振り回していても問題は解決しない.臨床という不確実で先の見えにくい現場では,実践での経験値が大きくものをいう.混沌とした状況のなかで,原則をどのように用いるのかが重要なのだ.

特集の理解を深めるための27題

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不明熱診療では,その長い経過のなかで,患者や家族の不安や不信,コンサルテーションをしている専門各科との意見の相違など,時としてストレスフルな環境に置かれながらも,冷静に情報を拾い上げ,診断に結び付けていくことを要求されます.そのような環境下で何を考え,どのようなことに気を留めながら不明熱診療を行っているのか,不明熱関連の書籍を多く執筆されている國松先生にお話を伺いたいと思います.(鈴木)

総論

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Point

◎不明熱の定義は1961年にPertersdorfが定め,1991年にDruckにより改変されて4つに細かく分類されている.

◎不明熱へのアプローチは「13カ条の原則」に伴って進めるが,最も重要なのは病歴と身体所見である.

◎不明熱診療においては,ぶれてはならない大切な「3つの軸」があり,それを支えるのは「日常診療の中で培われた人と人との関係性」である.

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Point

◎不明熱における感染症の鑑別は,詳細な病歴聴取,網羅的な身体診察に始まる.

◎症状,身体所見,経過から,原因に結び付きそうな特徴を把握する.

◎基礎疾患,免疫抑制状態,曝露歴の有無を手掛かりに鑑別を絞る.

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Point

◎よくわからない発熱では,待てれば,抗菌薬を処方しない.抗菌薬が待てなければ,必ず事前に血液培養を採取する.

◎心内膜炎に胸痛なし.循環器内科以外を受診すると心得よ!

◎特に化膿性椎体炎,化膿性関節炎,膿瘍(腸腰筋,腎臓,肝臓,脳,肺)では原因が心内膜炎ではないかと疑う.

◎感染性心内膜炎は修正DUKE診断基準で診断するよう心掛ける.

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Point

◎画像検査の精度が高くアクセスのよい昨今,「不明熱」となる感染症は限られる.

◎肺外結核,特に粟粒結核は,発症早期に特徴的な所見が乏しく不明熱化しやすい.

◎肺外結核の診断では,病変から有用な検体を得て結核菌を同定することが重要である.

◎有用な検体を得てもなお結核菌検出の感度が低く,しばしば診断確定に難渋する.

◎不明熱かつ既往歴や曝露歴で結核を疑うなら,結核の診断を安易に否定してはならない.

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Point

◎発熱,下痢,皮膚症状,呼吸器症状のある患者では海外渡航歴を確認する.

◎輸入感染症が疑われたら,渡航地,潜伏期,曝露歴の3つが重要である.

◎輸入感染症では,まずはマラリアを除外することが重要である.

◎繰り返す発熱で感染症が疑われる場合には,マラリア,ブルセラ症,腸チフス,結核,回帰熱などが鑑別となる.

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Point

◎発熱+皮疹は,皮疹の性状を診て鑑別を進めよう.特に「点状出血/紫斑(petechial/purpuric)」「紅斑様(erythematous)」「紅斑丘疹型(maculopapular)」「水疱様(vesiculobullous)」の4つに分けて鑑別・考察を進める方法が推奨される.

◎「紅斑様」(erythematous)の皮疹を見た際は,toxic shock syndrome(TSS)が鑑別に挙がる.

◎TSSは診断基準を満たさない例も多く,ウイルス性疾患と誤診されやすい.TSSでは,水様便はほぼ必発であり,「発熱+紅班様の皮疹+水様便」でTSSを想起しよう!

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Point

◎発熱期間が短く古典的不明熱の定義を満たさない場合でも,不明熱と同様に発熱以外の症状・所見を手掛かりに診断を進める.

◎咽頭痛≫咳,鼻汁・鼻閉の場合は,「かぜ」としてひとくくりにせず,咽頭炎型疾患,killer sore throat疾患に注意を払う.

◎急性経過で全身状態が悪くなっている場合,鑑別診断の中心となるのは,重症細菌感染症である.

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Point

◎膠原病・リウマチ性疾患の診断には,感染症や悪性腫瘍などについての慎重な除外診断が必要である.

◎膠原病の診断は非特異的な症状から「疑い」,特異的な所見で「絞り込む」ことが重要である.

◎膠原病における不明熱を考える場合,年齢層(高齢者・若年〜中年)ごとに原因となりやすい疾患を抗核抗体関連膠原病・血管炎症候群・その他の膠原病に分けて考えてアプローチすると考えやすい.

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Point

◎結節性多発動脈炎は,多彩な症状をとり得るうえに血清学的な特異的所見に欠けるため,診断は容易ではない.診断困難な不明熱症例では,一度は考慮すべき疾患である.

◎診断までに時間を要することが多いだけに,経過が複雑になりがちである.情報を整理して分析していく必要がある.

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Point

◎両側性難聴をみたら血管炎,薬剤性などの全身疾患を考える.

◎一般に多発血管炎性肉芽腫症では頭頸部→肺→腎の順に症状が出現する.もし,この順でなければ慎重に鑑別を行う.

◎ANCAが陽性であっても血管炎とは限らない.感染性心内膜炎,結核,悪性腫瘍もありうるため,十分な鑑別を行う.

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Point

◎発熱以外の主訴にも注目し,発熱源を考える.

◎画像検査陰性での不明熱の原因として,膠原病・血管炎や感染性心内膜炎,骨髄炎,血液疾患を想起する.

◎高齢者の身体所見で肩関節,股関節の評価を忘れない.

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Point

◎感冒症状を伴う持続する発熱で,肝障害や皮疹を認めた場合は成人Still病を鑑別に挙げる.

◎成人Still病はあくまで除外診断であり,鑑別疾患を除外する必要がある.

◎致死的なStill病の病態としては,血球貪食症候群,心筋炎,劇症肝炎がある.

◎成人Still病には非典型的な皮疹もあり,多形滲出性紅斑様の皮疹を認めることがある.

◎セレスタミン®にはステロイドが含まれており,不十分な投与は疾患の活動性を部分的に抑制しうる.

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Point

◎腫瘍熱の診断には感染症やアレルギーの否定が必要である.

◎感染症の否定は,感染症に対する諸検査の結果や抗菌薬加療の結果を確認しなければならない.

◎発熱初診時から腫瘍熱と判断することは困難な場合が多い.

◎ナプロキサンテストやプロカルシトニンが腫瘍熱診断の一助になる可能性がある.

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Point

◎血管内リンパ腫はリンパ節腫大や腫瘤形成を伴わない不明熱病態をきたしうる.

◎血球減少・LDH上昇・呼吸器症状・神経症状・皮疹に着目する.

◎骨髄検査・ランダム皮膚生検が有用であり,1回目の検査が陰性でも再検を考慮する.

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Point

◎骨髄異形成症候群(MDS)や白血病が見つかったからといって,それが不明熱の熱源とは限らない.

◎MDSの4つの顔を知っておく.〜無効造血,白血病化,自己免疫性疾患の合併,「かたまり」になれる〜

◎trisomy8陽性MDSは,腸管Behçet様の多発潰瘍を合併し,穿孔する症例がある.

◎MDSや白血病は塊を形成し,潰瘍化することがある.

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Point

◎原発不明がんでは各科との連携力が試される.

◎原発探しにこだわりすぎない.

◎予後良好サブセットを見逃さない.

◎症状の緩和や心理社会的サポートを早めに行う.

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Point

◎高齢者の発熱では,誤嚥性肺炎と安易に判断してしまうことがあり,注意が必要である.

◎発熱患者に心雑音を聴取した場合には,心エコーを確認する.

◎心房粘液腫は,発熱や炎症反応上昇などをきたして不明熱の原因となることがある.

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Point

◎慢性活動性EBウイルス感染(CAEBV)はNK/T細胞リンパ増殖性疾患との関連が知られている.

◎本症例のCAEBVに伴う発熱は,非常に特異な周期的発熱(Pel Ebstein熱)を呈した.

◎周期的発熱であるか否かは,患者から詳細な発熱記録をとることが鍵になる.

自己炎症性疾患

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Point

◎「第4の不明熱」のカテゴリーとして自己炎症性疾患がある,と記述されたことは大きい.

◎自己炎症性疾患の個々の疾患にはそれぞれに特徴があり,そのどれもが不明熱になりやすい(=特徴がない)というわけではない.

◎家族性地中海熱の臨床診断においては,慢性活動性EBウイルス感染症を鑑別対象として考慮する.

◎自己炎症性疾患か迷うのならば,自己炎症性疾患ではない疾患を考えたほうがよい.

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Point

◎周期性発熱の随伴症状が腹膜炎に伴う腹痛のみの家族性地中海熱もある.

◎周期性や随伴症状の把握と除外診断が重要である.診断に自信がもてなければ自己炎症性疾患を扱う総合病院に紹介する.

◎家族性地中海熱の場合コルヒチンに反応が良好であれば,遺伝子検査は必須ではない.

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Point

◎PFAPA症候群は乳幼児期に好発するが,成人発症することもある.

◎発症から数年以内にほとんどが自然寛解する予後良好な疾患であることを念頭に,治療手段を検討する.

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Point

◎家族性地中海熱におけるコルヒチンの反応性の判断は,即断してはならず時間をかけ工夫して繰り返し検討するべきである.

◎家族性地中海熱の病状を表現するのに「活動性」という語を使うことはない.家族性地中海熱自体が凶暴で猛威を振るうというイメージはない.

◎家族性地中海熱の治療がうまくいかないときは,原病が治療抵抗性であるとすぐ考えるよりは,コルヒチンの使い方の工夫不足や全く別の病態の発現など,家族性地中海熱以外のことを想定すべきである.

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Point

◎見逃されやすい不明熱の原因として,HIV感染症,薬剤性発熱,ACTH単独欠損症,心因性発熱,Münchausen症候群などがある.

◎医療は進歩したが,「原因不明の不明熱」の割合はむしろ増加している.

◎「原因不明の不明熱」の予後は比較的良好である.

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Point

◎特にストレス下においては,ステロイドホルモンの欠乏により低血圧(ショックバイタル)になることがある.

◎発熱時に血圧低下がみられた場合,敗血症のみならず副腎不全も鑑別に挙げる.

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Point

◎発熱+CRP陰性のときも,5段階の思考ロジックを駆使して診断に迫ろう!

◎常に病歴が診断の直接的なヒントとなる.必要であれば社会歴にも深く迫ろう!

◎発熱と高体温は,厳密に言うと機序が異なり,心因性発熱は「発熱」である.

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Point

◎一般的な検査で原因の見つからない不明熱では,無汗症の可能性がないか検討する.

◎温熱環境下での症状増悪や,熱中症,コリン性じんま疹などの症状は特徴的であり,クローズな問診により疑いを強める.

◎二次性無汗症,特に薬剤性無汗症について十分検討する.

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Point

◎若年者の不明熱は高齢者の不明熱とスペクトラムが異なる.

◎消化器症状に乏しく不明熱となるCrohn病がある.

◎現代の不明熱診療では,チームワークとコミュニケーションの能力が問われる.

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Point

◎薬剤過敏性障害(DIHS/DRESS)の臨床的な特徴(薬剤曝露から発症までの時間,症状の特徴)を押さえる.

◎薬剤以外でも同様の経過をたどる病態が存在する.

◎誘因が判明した場合は再発予防のための指導を忘れないこと.

連載 見て,読んで,実践! 神経ビジュアル診察・18

失調の診方—上肢の小脳失調 難波 雄亮
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 小脳系がダメージを受けた時にどのような症状が起きるのでしょうか? 一般的には,四肢や体幹の運動失調・眼振・構音障害・筋緊張の低下が起こります.失調症状は小脳の障害だけではなく,末梢神経障害・脊髄・大脳・前庭などが損傷しても起こります.本稿では小脳の障害で来しうる「上肢の失調」を取り上げていきます.さあ一緒に勉強しましょう!

連載 母性内科の「め」 妊婦・授乳婦さんのケアと薬の使い方・15

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症例

 36歳のIさんは,2週間前に待望の第一子を出産しました.産後は腰や股関節,下腹部の痛みにより体を思うように動かせず,痛み止めを1日3回内服していました.退院後も痛みが続いていたため,赤ちゃんのお世話以外の時間はほとんど寝て過ごしていました.3日前の夜,左ふくらはぎの痛みに気づきました.痛みはどんどん強くなり,痛み止めを飲んでも治まらず,昨夜は自力でトイレに行くこともできませんでした.今朝,左足も腫れてきたため,実母とともに救急外来を受診することにしました.

Iさん:「足が痛くて動けなかったんです」

連載 物忘れ外来から学ぶ現場のコツ 認知症患者の診かた・17

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ポイント

認知症では適切な生活習慣の維持が大切です.患者さんが無理をせず楽しくできることを,介護者に負担(精神的にも)をかけすぎないよう指導します.

連載 目でみるトレーニング

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 私が京大皮膚科に入局を決めたのは,当時主任教授であった宮地良樹先生の影響が大きい.というより,宮地先生と面談をして「京大で働こう」と思った.宮地先生の皮膚科学と皮膚科診療に対する圧倒的な情熱に感動し,京都から松本に帰る特急電車で悩むことなく決断した.宮地先生はとにかく話がお上手.日本全国をまわり,どんなテーマでも一流の講演をされる.併せて,本屋には「宮地良樹先生コーナー」ができるほど沢山の教科書を編集されている.ここまでたくさんの本を出されるには,もちろん理由があるはず.

 「先生,どうやってこんなに教科書をつくっているんですか?」

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 腎臓病診療には血尿,蛋白尿,腎機能の低下といった臨床所見,その原因となる疾患の臨床検査,さらに腎生検で得られた腎組織を免疫組織化学,光学顕微鏡,電子顕微鏡で探索することによって病因診断がなされ,それらは有機的に関連した複雑な診断体系となっています.

 その中でも病理診断は重要な位置を占めており,腎組織のスナップショットから病態,さらにその時間的・空間的な経過を説明できるようになるにはかなりの時間と訓練が必要と思います.本書の序文でも述べられていますが,腎病理診断は人工知能(artificial intelligence:AI)に完全に置き換わってしまうでしょうか? 腎臓病にはまだ確立していない疾患概念があり,臨床症状,検査所見,病理所見から新しい疾患概念を提出することは,まさしくクリエイティブな仕事であり,AIには不可能と思います.また腎疾患の経過を腎生検組織から読み取って,患者さんの病態の「物語」を構築し,それを患者さんの心にわかりやすく響かせることもAIには不可能です.さらに腎疾患診療における答えのない臨床的ジレンマに対峙した時,問題解決能力を発揮して患者さんを導いていくこともAIには困難と思います.つまり腎臓病診療には「人間的な仕事」が多く残されています.

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 知らなければならないけれども,「知らなければならないこと自体を知らない」(だから,知ろうとする行動自体が起こらずに,いつまでたっても知らないまま)ということがある.

 適切なtermさえわかれば自由に検索ができて,さまざまな情報を獲得可能な現在ではあるけれども,検索されない情報は触れることができない.

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 「どうしてすぐに連絡しないんだ!」

 「どうしてこんなことで連絡してくるんだ!」

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medicina
56巻11号 (2019年10月)
電子版ISSN:1882-1189 印刷版ISSN:0025-7699 医学書院

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