看護研究 49巻7号 (2016年12月)

特集 研究の意味─多領域との対話から

『看護研究』編集室
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 看護学のこれからの展望を考える上で,多領域から学び,ともに協働をめざそうとする学際性が,重要なテーマの1つになっています。もとより看護研究は,多領域の研究方法や知見に学びながら,独自に専門性を高め,進歩を遂げてきました。今後,看護学としての専門性をさらに確立し,看護“から”多領域に向けた研究成果の発信を充実させていくためにも,本号では,改めて領域の枠を超えて,「研究することの意味」を考えたいと思います。

 特集では,看護界も含めて各領域の第一線で活躍されている研究者の方々に寄稿いただき,ご自身の研究/取り組みの歩みとこれからの展望,そして看護学に対する視点などを通して,さまざまに,研究の意味を示していただいています。こうした多様な視角から,看護研究のあり方を見つめつつ,そして,「よりよいケア」をめざし,ともに触発し合い協働していくための契機が見いだせればと思っています。

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諸言

 今回「研究の意味」という遠大なテーマを頂いた。このテーマには3つの側面があると考えている。その研究が社会や時代の要請に応えること,その研究が学術コミュニティに貢献すること,そして,研究という営みが研究者個人に与えるもの。私は現在,iPS細胞研究に関連する複雑な法的・社会的・倫理的な研究課題に取り組む中で,社会的価値と学術的意義の不一致を感じることもある。最近は,研究を進めるにあたって,この手の不一致をある程度は抱えていられるようになった。おそらくは,研究の意味という概念の複雑度が変わってきたのだと思われる。残念ながら,それがどのような変化であったのかを明確に語る言葉を持ち合わせてはいない。私自身,研究を通して出会った先人たちや仲間に導かれるようにその道を歩んできたためだ。本稿では,これまでの自身の研究を振り返り,私なりの現時点での「研究の意味」について思うところを綴ってみることにする。

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グリーフケア研究所の研究教育

 筆者は現在,上智大学グリーフケア研究所,および同大学院実践宗教学研究科修士課程で教鞭をとっている。ケアの実践に携わっている人々,また,ケアの実践に関わりたいという志をもった人々のための教育や研究指導が主たる職務だ。大学院は2016年度に開設されたばかりなので,ここでは主に,グリーフケア研究所の人材養成講座について述べていこう。

 グリーフケア研究所は2009年4月に聖トマス大学に設置され,公開講座と人材養成講座を行なってきている。聖トマス大学が廃校されることになり,2010年からは上智大学大阪サテライトキャンパスに移管され,2013年には東京のオフィスが開設された。そして,2014年からは大阪とともに,新たに東京でも人材養成講座が行なわれている。現在は2年間のコースで,各学年,東京で約60人,大阪で約36人が受講している。受講生は平均年齢で40歳代の半ばぐらいで,看護師が30パーセント以上を占める。他に,ソーシャルワーカー,臨床心理士,産業カウンセラー,音楽療法士等のケア関係の職種の人,医師,教員,僧侶等の宗教者,葬祭業関係の人,主婦などさまざまである。

健康と医療の人類学 道信 良子
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人類学と医療

 人類学者は,人間について総合的に研究する。世界各地で,人類の歴史の中にみられるさまざまな民族や文化集団の暮らしを比較検討する。その目的は,人間文化の複雑で多様な側面を明らかにするとともに,人間文化に共通する普遍性を明らかにすることで,「人間とは何か」という問いに答えることである。人間とは何かを考える学問は,哲学や倫理学や生物学などほかにもたくさんあるが,人類学の特徴は,異なる時代や地域に暮らす人びとを研究することによって,自分の文化を他者の視点から振り返り,これまであたりまえと思っていた生き方を見つめなおす視点を得ることにある。

 医療人類学は人類学から生まれ,人類学の視点や方法を医学,医療,福祉の領域に応用した学問分野である(道信,2011)。誕生当初,医療人類学者は,世界のさまざまな地域に暮らす民族集団の病気や治療儀礼に関心を寄せ,民族固有の医療体系を,その民族の世界観,信仰,文化的価値体系や社会関係との結びつきの中で説明した(波平,1990;1997;1999)。その後,臨床に応用されて患者の病いや治療についての信念を明らかにする研究や,国際保健や公衆衛生の活動に応用されて,現地の人びとの健康や衛生や病気予防についての観念を明らかにする研究も行なわれた(Brown & Barrett, 2010;Hahn, 1990;Hahn & Inhorn, 2009;クラインマン/江口,五木田,上野訳,2002)。近年では,病気や障がいを抱えて暮らす人たちの福祉に結びつくような研究も盛んである。

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はじめに

 私が医療や看護などの社会制度に関心をもち,勉強するようになったのは,1996年の准看護婦(士)問題調査検討会による全国実態調査に関わるようになったのがきっかけだった。

 1990年代半ばは,「キュアからケアへ」と謳われていた時代だった。インフォームド・コンセントという言葉が輸入され,慢性疾患を抱えて生きる患者へのサポートやターミナル・ケアが重要だといわれ,「生活の質Quality of Life」や「患者中心の医療」といった言葉がよく用いられた。医療提供者についても,医師が支配的になっている現状ではなく,看護職を含め多職種が患者を中心としたチームを組んでいくことが重要だといわれた。看護職は,医師の行なう「キュア」に対して,自分たちが担うのは「ケア」であるとし,専門職化を進めていた。

 それから約20年が経った。振り返ってみると,インフォームド・コンセントはあたりまえになり,緩和ケア病棟は増え,看護大学は急増し,看護系学会も増えた。だが,当時想定されていなかったことも起きているように思う。ここでは,この20年の変化が何だったのかを振り返るとともに,今後の看護職が直面するだろう課題について考えたい。

 なお,私は上記調査をきっかけに看護や医療に関する社会学研究に関わるようになり,1998年から三つの病院での看護職を中心としたインタビュー調査を重ね,同時に1997年から阪神・淡路大震災のボランティアへの継続的インタビュー調査に参加し,これらをもとに博士論文を執筆した(三井,2004)。その後,もう少し生活に近いところでのケア・支援活動に関わりたいと模索し,偶然に多摩市にある任意団体「たこの木クラブ」と出会い,2007年4月から継続的に通うようになった。

 たこの木クラブは,現在は主に知的障害・発達障害の人たちの地域生活を支援する団体であり,親元を離れて支援つきの一人暮らし(一般に「自立生活」と呼ばれる。グループホームなど共同での暮らし方もある)の支援も担っている。障害名から入るのではなく,その人と向き合うことを重視する団体で,本人の自己実現・自己決定の支援をめざしている(詳しくは,寺本,岡部,末永,岩橋,2008;2015;三井,2011)。疾患名や障害名を重視せず,その人の暮らしの中身を大切にするという意味では,後述する医学モデルからは程遠く,生活モデルの極をいくようなところがある。以降で私が地域でのケアや支援に関して述べることは,こうした現場での経験に基づいている。

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研究者としての現在

 私は2009年4月から2013年3月までの4年間,東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程看護職生涯発達学分野に在籍し,看護学の博士号を取得しました。

 博士学位論文のタイトルは,「看護師の実存から探る臨床看護の本質と,それを職業として生きる意味」です。

哲学の意味と看護 河野 哲也
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現象学のめざすもの

 私の専門は哲学である。哲学は一見すると,抽象的で実社会に役に立たない学問の代表格と考えられてきたし,現在でもそう思われていることが多いが,それは違うと思われる。私は,博士課程では現象学者のモーリス・メルロ=ポンティの現象学的身体論を研究していた。

 現象学とは,世界が主体にとってどのように意味づけられながら経験されるか,その主体当人の視点に立って明らかにしようとする哲学的方法論である。

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はじめに

 看護研究に医師が日常的に接するという場面は,これまであまりなかったのではないかと思います。看護研究は看護の研究であって,医師の仕事や役割は看護とは違うところにあると考えられていたこともその原因のひとつでしょう。看護師と医師はそれぞれ独自のプロフェッショナルアイデンティティがあるということは,以前に比べて,より明確に医師の間では意識されてきていると思います。むろん一部の古い世代では,看護は医師の補助・介助の仕事であるというふうな言説は残っていて,看護師が行なう看護研究の具体的イメージがまったくもてていない現状も,まだあると思います。さらに,医師の卒前医学教育では,専門職連携教育(Inter Professional Education;IPE)が徐々にひろがりつつあって,看護師の職能を理解する機会は増えてきています。例えば,保助看法における看護師による「療養上の世話」に対する認識は医師の間でもかなり改善されてきたといえるでしょう。しかし,看護学あるいは看護研究とは何かといった内容のカリキュラムが医学部で行なわれているという話は,あまりきかない現状が課題として残ります。

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研究者に求められる「研究対象者の立場に立った倫理的判断」を培うために必要な教育プログラムとは何か?

 本稿の第2回(49巻5号)において,研究対象者に対する研究倫理に関して,研究ガイドライン「6つの倫理原則」から検討した結果からは,「研究倫理」と「倫理的配慮」がつながっていないことがみえてきた(河原,西村,久保,2016)。また,現行の看護教育において,研究倫理に関する教育は,おそらく,看護研究にかかわる講義の中で教授されていることが多いと考えられるが,その内容と教授時間には,相違があるのが現状だろう註1。そして,残念ながら,筆者らが,これまで述べてきた「研究対象者の立場に立った研究倫理」という観点での教育が行なわれているとは言い難いと思われる。

 諸外国に目を向けると,Doctor of Nursing Practice(DNP)においては,倫理教育カリキュラムの枠組みは,生命倫理(Traditional Biomedical Ethics)のみでなく,研究倫理(Research Ethics),経営倫理(Business Ethics)および法的倫理(Legal Influence on Professional Ethics)として整理されている(Peirce & Smith, 2008)。倫理に関する〈知識〉の幅や内容は多岐にわたり,学士課程において修得すべきレベル,修士課程において修得すべきレベル,博士課程において修得すべきレベルというものもあるだろうが,わが国においても,研究倫理も含めた倫理教育の体系化が必須と考える。

特別記事 【看護理工学は創造する─エコーを用いた最新の研究成果】

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 私は東京大学医学部健康科学・看護学科を卒業後,同大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程を2年間休学し,東京大学医学部附属病院の老年病科・消化器内科・感染症内科で看護師として勤務した。その後大学院に復学し,博士課程を今年の3月に修了した。現在は金沢大学新学術創成研究機構に所属し,日本学術振興会特別研究員(PD)として研究に従事している。今回,まだ研究者としての経験が浅いにもかかわらず執筆依頼を頂いたことに恐縮しているが,これまでの研究を振り返るよいチャンスと捉え,研究を進めていく中で感じてきたことをつづりたい。

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 私は今春,東京大学医学部健康総合科学科を卒業し,現在は東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程にて,看護学と生物学,工学の融合分野である看護理工学の研究手法を学んでいる。私の看護学分野における初めての研究である学部の卒業研究では,末梢の静脈へのカテーテル留置に伴う合併症発生の予防をめざし,超音波画像を用いた,より正確なアセスメントを可能とする「末梢静脈留置カテーテル刺入部位選択支援のための仮想超音波プローブシステム」のコンセプトの考案,開発,看護師を対象とした評価実験を行なった。この卒業研究や看護学の実習を通じて,療養生活において医療が患者に我慢をさせてしまっている現状を知り,現在は「我慢させない療養生活」の実現をめざした研究を行なっている。

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 今回紹介させていただいた一人は,老年看護学を専攻した博士課程修了生で現在日本学術振興会特別研究員(PD),もう一人は学部の卒業論文で平成27年度東京大学総長賞を受賞し,現在修士課程に在学する院生である。「看護とものづくり」における二人の研究報告を読み,私自身,彼らの看護研究に取り組む共通した姿勢を見いだし,率直に驚いている。ポスドクと修士課程の学生とは研究遂行度のレベルは異なるものの,とりたてて教えたわけでもないのに,看護研究への一貫した思想,つまり,常に患者の視線で思考するという看護の本質を見極めているからである。修士・博士課程の5年にわたり,指導教員として院生に関わる責任の重さに改めて襟を正し,いまは看護研究とは何かと真摯に自問自答している。そこで,私自身がどのように彼らの研究を支援してきたのか,改めて大学院生への関わり方を起草してみたい。

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目的:在宅介護による家族介護者の生活への影響を簡便に評価するための測定尺度(介護生活影響尺度)を開発し,心理測定法的特性を検証する。

対象:要介護高齢者の家族介護者1020名から得た無記名自記式質問紙調査票回答のうち,主介護者の性別に欠損のない980名(女性757・男性223)。

方法:家族介護者に対する質的研究および既存の介護の否定・肯定評価に関する尺度を参考に,8項目4件法の項目候補を作成した。回答分布の確認後,確認的因子分析・信頼性・多母集団分析を行なった。

結果:介護による生活への「ネガティブな影響」および「ポジティブな影響」の2高次因子の下に,それぞれ2つの一次因子「社会機能障害」「自己犠牲」および「ポジティブ心理」「自己・家族成長」を擁する因子構造を得た。また,多母集団分析により男女間での因子構造の等価性を確認した。α信頼性係数による信頼性の検討では,各下位尺度および高次因子に対応する尺度ともに,概ね良好な内的整合性が認められた。認知的介護評価尺度・対処方略尺度の関連性の検討により,4下位尺度の収束的妥当性および弁別的妥当性が認められた。さらに,「社会機能障害」は「自己犠牲」の,「ポジティブ心理」は「自己・家族成長」の前駆状態であることも明らかになった。

結論:介護生活影響尺度は,家族介護者の介護による生活への影響を簡便に把握する,心理測定法的特性に優れたツールであり,今後現場での活用が期待される。

連載 英語論文を書くということ・8【最終回】

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 いままで,英語が第二言語である看護研究者が英語で論文を書くときに必要なことを,系統的に書いてきました。書くこと,出版すること,さらに学識者間での批評をする際のアプローチまで話しましたので,大体私の言いたかったことは前回までで言い尽くしました。最終回の今回は,もっと散文的に,英語で論文を書くことの意義を日本の看護,いや,日米の看護事情と看護研究という点から,私の考えもまじえて少しお話してみたいと思います。話題はあちこちに飛ぶと思いますが,ご了承ください。

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欧文目次

INFORMATION

今月の本

看護研究 第49巻 総目次

基本情報

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看護研究
49巻7号 (2016年12月)
電子版ISSN:1882-1405 印刷版ISSN:0022-8370 医学書院

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