特集 研究の意味─多領域との対話から
健康と医療の人類学
道信 良子
1
1札幌医科大学医療人育成センター教養教育研究部門
pp.552-556
発行日 2016年12月15日
Published Date 2016/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681201315
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人類学と医療
人類学者は,人間について総合的に研究する。世界各地で,人類の歴史の中にみられるさまざまな民族や文化集団の暮らしを比較検討する。その目的は,人間文化の複雑で多様な側面を明らかにするとともに,人間文化に共通する普遍性を明らかにすることで,「人間とは何か」という問いに答えることである。人間とは何かを考える学問は,哲学や倫理学や生物学などほかにもたくさんあるが,人類学の特徴は,異なる時代や地域に暮らす人びとを研究することによって,自分の文化を他者の視点から振り返り,これまであたりまえと思っていた生き方を見つめなおす視点を得ることにある。
医療人類学は人類学から生まれ,人類学の視点や方法を医学,医療,福祉の領域に応用した学問分野である(道信,2011)。誕生当初,医療人類学者は,世界のさまざまな地域に暮らす民族集団の病気や治療儀礼に関心を寄せ,民族固有の医療体系を,その民族の世界観,信仰,文化的価値体系や社会関係との結びつきの中で説明した(波平,1990;1997;1999)。その後,臨床に応用されて患者の病いや治療についての信念を明らかにする研究や,国際保健や公衆衛生の活動に応用されて,現地の人びとの健康や衛生や病気予防についての観念を明らかにする研究も行なわれた(Brown & Barrett, 2010;Hahn, 1990;Hahn & Inhorn, 2009;クラインマン/江口,五木田,上野訳,2002)。近年では,病気や障がいを抱えて暮らす人たちの福祉に結びつくような研究も盛んである。
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