臨床皮膚科 69巻9号 (2015年8月)

連載 Clinical Exercise・96

Q考えられる疾患は何か? 瀧田 祐子
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症例

患 者:18歳,男性,山口県在住

主 訴:左手掌の胡桃大不整形の淡褐色斑

家族歴・既往歴:特記すべきことなし.

現病歴:初診の約1年前,修学旅行で沖縄に滞在しており,その際転倒して土壌に手をついた記憶がある.その後,時期は不明だが,左手掌にかゆみを欠く胡桃大の淡褐色斑が出現し,次第に拡大したため近医を受診した.イミダゾール系抗真菌剤を処方され外用し,皮疹はほぼ消退したが,3年後に再発し,拡大したため受診した.

現 症:左手掌に胡桃大,境界明瞭な不整形の淡褐色斑を認め,色調には濃淡がみられた.その表面は平滑であり,表面をメスで擦過すると細かい鱗屑を採取することができた.周囲に炎症はなく,手掌は多汗気味で湿り気を伴っていた(図1).

マイオピニオン

地方勤務医師への配慮 高橋 英俊
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 昨年,一身上の都合により旭川医科大学を退職し,帯広市の皮膚科クリニックに院長として赴任して,かれこれ1年余りとなった.旭川には学生時代を含めて30年余りいたことになり,自分では第二の故郷と思っている.また,在任中は全国各地にお世話になった先生がいらっしゃり,この場をお借りして御礼申し上げます.

 旭川医科大学在任中,1年間道北の公立病院に1人固定で勤務していた.旭川医科大学在任中は,小生が不在でも同僚がカバーしてくれるため心置きなく学会,講習会に参加できた.しかし,固定として地方病院に在任していたときは,1人固定のため,医局からの手伝いがないときは学会などには出席できなかった.また,病院内の規定で年2回までしか学会などの出張費が支給されず,専門医取得のための講習会は交通費,宿泊費を含め自腹で参加していた.また,これは旭川医科大学に戻ったときでも同様であった.このような経験は,私だけに限ったことではなく,地方勤務,あるいはご開業なさっている先生方にも当てはまることではないだろうか(もちろん開業医の先生は経費で落とすことは可能であるが).幸いにして,現在勤務しているクリニックは私を含めて3人体制で診療しているため,学会には参加できるが,北海道の一地方都市と遠方のため終日学会場にいることはできない.したがって,途中参加し,中途退席となっている.しかし,学会,研究会は途中参加,退席できても,それが許されない会もある.例えば,専門医,指導医取得,更新のための講習会などが当てはまる.私は,3年前に美容皮膚科指導専門医を取得したが,その取得および更新に当たっては美容皮膚科学会主催の講習会に2回参加することが必須事項となっている.美容皮膚科学会主催の講習会は学会終了後の日曜日,午後3時から午後5時までが通例となっている.東京開催のときには何とか最終便に間に合うことができたが,東京以外での開催のときにはその日に帰ることができず,もう1泊して翌日帰り,午後から勤務に復帰した.現在は,月曜日の診療に穴をあけられないため,是が非でも戻らねばならず,羽田空港から千歳空港まで1時間30分,さらにJRで帯広まで2時間30分の長旅である.自宅の帯広に着くのは午後11時過ぎとなる.これは東京開催のときだけ可能なわけで,西日本地区など東京以外での開催時は講習会の参加は不可能である.したがって,どうしても出席したいときにはこの時期に合わせて夏季休暇をいただくほかない.これは,小生に限ったことではない.旭川から約250km離れた,稚内市に勤務の後輩が専門医講習会に参加した際,帰りの飛行機の関係で10分ほど早めに退席することを会場受付でお願いしたところ,体よく断られ,泣く泣く千歳空港経由,札幌宿泊,翌日に稚内に帰ったという話を本人から聞いたことがあった.幸いにも彼は,晴れて専門医を取得することができたが,地方から学会,研究会に出席することがいかに大変かを物語っていると言える.

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要約 71歳,男性.原因不明の腎不全のため3年前から血液透析中であった.左手背,両下腿,足背に紫斑と皮膚潰瘍が生じた.その後,咳嗽が出現した.皮膚症状から血管炎を疑い生検した.皮膚病理組織所見は真皮乳頭層〜下層,脂肪隔壁の細静脈の壊死性血管炎と血栓性小静脈炎の所見であった.PR3-ANCAは245 EUと陽性であった.CTでは両肺野に多発する結節影と上顎洞に陰影を認めた.皮膚および呼吸器に病変があったため,限局型多発血管炎性肉芽腫症と診断した.プレドニゾロン30mg/日,シクロホスファミド50mg/日,ST合剤2錠/日を投与した.1週間後に皮膚症状は改善し,胸部CTで肺野の結節影が縮小,PR3-ANCAも低下した.皮膚症状で血管炎を疑った際には,早期の皮膚生検と,他臓器疾患の検索を並行して行うことが大切である.

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要約 65歳,女性.高尿酸血症に対して3か月前からアロプリノール(ザイロリック®)内服中.2014年1月初めより大腿部の紅斑,口内炎,微熱が出現した.3日後,下腿紫斑,発熱,腎機能低下が出現し,15日後,38℃発熱と全身性水疱が出現して当科へ転院した.体表面積70%以上に表皮剝離があり中毒性表皮壊死症と診断した.ステロイドパルス療法,血漿交換療法,大量免疫グロブリン静注療法で救命しえた.経過中,HHV-6の再活性化を伴った.薬剤添加リンパ球刺激試験では,アロプリノールの代謝産物であるオキシプリノールが陽性であった.オキシプリノールは半減期が長く,特に自験例のように腎障害がある場合は長時間体内に存在し,副作用を起こしやすい.また,自験例はアロプリノールによる重症薬疹と関連性のあるHLA-B5801が陽性であり重症薬疹を起こしやすい背景があったと考えられた.

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要約 37歳,男性.23歳時に尋常性乾癬と診断され,外用で治療していた.35歳時,日光皮膚炎をきっかけに紅皮症となり,当院を受診した.シクロスポリン内服により改善したが,本人が生物学的製剤を希望したためアダリムマブ(ADA)による治療を開始した.PASI 1〜2と奏効していたが,投与32回目頃から乾癬の皮疹が悪化しはじめ,手指関節・膝関節痛が出現した.ADAの二次無効と判断し,37回目投与よりADA 80mg/回投与へ増量したが,皮疹や関節症状は改善しなかった.ADA投与前陰性であった抗核抗体が1,280倍,抗dsDNA抗体が39IU/mlと上昇し,関節症状と併せ薬剤誘発性ループスと考え,ADAを中止した.関節痛により一時歩行困難であったが,ADA中止後より徐々に改善していった.治療はADA中止から10週後ウステキヌマブへ変更し,15か月後に関節症状は消失した.自験例の関節痛,抗核抗体などの上昇は,TNF阻害薬による薬剤誘発性ループスと考えた.

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要約 8歳,男児.難治性てんかんに対する臭化カリウム投与中に臭素疹を生じた症例を経験した.難治頻回部分発作重積型急性脳炎後に難治性てんかんを発症し,抗てんかん薬による治療に抵抗性であったため,臭化カリウム1,000mg内服を併用したところ,投与開始14か月目に,顔面の痤瘡様丘疹,膿疱と左下腿の多発性の紅色丘疹,結節を伴う融合性局面が生じた.皮疹出現時の血清Brイオン濃度は147.8mg/dlで中毒域であった.臭化カリウムの中止およびステロイド,免疫抑制剤(シクロスポリン)内服により皮膚症状は速やかに消退し,治療が有効であると思われた.

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要約 39歳,男性.尋常性乾癬の診断で24年間,クロベタゾールプロピオン酸エステル軟膏を全身に外用していた.乾癬性紅皮症となって当院を受診したとき,満月様顔貌と中心性肥満を認め,内分泌検査でも副腎機能低下を認めた.乾癬治目的の長期ステロイド外用による医原性Cushing症候群と診断した.インフリキシマブ導入後,皮疹の改善に伴いステロイド外用量が減ったため,ステロイド補充を開始し,ステロイド離脱症候群は生じていない.長期間strongestクラスのステロイド外用剤で加療されてきた症例に生物学的製剤を導入すると外用量は減量されるが,それに伴う副腎機能不全の懸念もある.こうした症例では,副腎機能の評価を正しく行いつつ,外用剤のランクダウンや減量を行い,必要に応じてステロイドを補充する必要があると考える.

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要約 50歳台,女性.体幹と下肢の紅斑,関節痛,掌蹠の膿疱と落屑を主訴に受診し,関節症性乾癬と診断した.初診時の皮疹は軽度であったが,インフリキシマブ2回目投与後に膿疱を伴う紅斑が全身に出現した.逆説的反応と考え,インフリキシマブを中止し,シクロスポリンの内服に切り替えたところ,膿疱は速やかに消退した.TNF-α阻害薬により膿疱が汎発化した症例は,自験例を含め本邦で9例報告があり,すべて女性であった.ほとんどの症例でTNF-α阻害薬は中止され,治療はステロイド・ビタミンD3の外用やステロイド内服,他のTNF-α阻害薬へ変更,シクロスポリン内服だった.ステロイドを内服した症例には基礎疾患にCrohn病や関節リウマチが含まれていた.乾癬を基礎疾患とする2例がシクロスポリンを内服して改善していた.乾癬が基礎疾患の場合,難治で重症の逆説的反応にシクロスポリン内服は有効と考えられた.

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要約 57歳,女性.初診8年前より両下腿前面に紅斑が出現した.同時期より肘部,足背にも豌豆大までの紅斑,丘疹を自覚した.臨床像と病理組織学的所見から下腿の皮疹をリポイド類壊死症,肘部および足背の皮疹を汎発性環状肉芽腫と診断した.HbA1c高値を認め,糖尿病と診断された.糖尿病の治療および,トラニラストの内服とタクロリムス外用を開始し,6か月で両者の皮疹はともに軽快,略治した.リポイド類壊死症と環状肉芽腫はともに糖尿病に関連する肉芽腫性疾患として知られている.リポイド類壊死症と環状肉芽腫の合併例報告は本邦初であり,両者の関連につき考察した.

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要約 63歳,女性.10年前から,両側下垂足が生じ,徐々に増悪した.6年前からは,両側下肢の鈍痛や筋力低下が出現し,徐々に進行した.下垂足・下腿の鈍痛・筋力低下に対して,神経内科でCharcot-Marie-Tooth病として内服治療を受けたが改善しなかった.下肢に皮膚潰瘍を形成したため,当科を紹介され受診した.潰瘍部および筋の生検病理組織像でサルコイドーシスと判明した.下垂足・下腿の鈍痛・筋力低下も筋サルコイドーシスの症状である可能性が考えられた.ステロイド全身投与を行い,潰瘍は治癒し,疼痛も改善した.種々の症状は血管炎に起因している可能性が考えられた.下腿などの潰瘍の診断治療にあたっては,サルコイドーシスも念頭に置くことが必要であると考えた.

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要約 症例1:81歳,男性.左足背の4mm大の淡紅色丘疹.症例2:76歳,男性.右腋窩の8mm大の紅色結節.いずれも皮膚線維腫,軟性線維腫を疑い切除した.病理組織所見にて,真皮内に内腔側の腺上皮と基底膜側の筋上皮細胞との二相性が保たれた腺管の増殖を認め,内腔に乳頭状の増殖があることからpapillary tubular adenoma(PTA)と診断した.PTAはtubular apocrine adenoma(TAA)とpapillary eccrine adenomaを包括する疾患名として提唱されたため,両者を鑑別するにあたって,病理組織学的に特徴や免疫組織化学的所見に関し考察したところ,表皮との連続性や断頭分泌などアポクリン腺由来を示唆する特徴がTAAにはあり,GSDFP-15染色で断頭分泌像を呈するTAAのみが陽性となった.

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要約 72歳,男性.初診2009年6月.初診2か月前より右鼠径部腫脹を自覚,CTで右鼠径と内腸骨リンパ節腫脹があった.生検でMerkel細胞癌を疑われ当科を紹介され受診した.臀部腫瘤とPET-CTで肺門集積,多発リンパ節腫大を認め,腫瘤切除とCAV療法を施行し転移巣は縮小した.その後,鼠径リンパ節郭清術と放射線化学療法を施行した.転移巣の新生はなく2012年11月までCAV療法を繰り返した.2013年1月に右大腿に結節が出現し生検で皮膚転移と判明した.3月よりCE療法と放射線療法を開始し転移巣は消失したが,足関節部に結節が新生し追加照射した.5月のPET-CTで腎門部と右大腿に転移巣新生があり,放射線療法を併用し転移巣は消失した.8月のCTで右外腸骨リンパ節,右腰臀部に転移巣新生があり,IP療法と放射線療法を開始したところ転移巣はすべて消失した.IP療法7クール施行し現在まで転移巣の新生はない.進行期Merkel細胞癌に対する治療は小細胞肺癌の治療に準じているが,症例の集積とともに進行期Merkel細胞癌の治療ガイドラインの確立が望まれる.

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要約 72歳,男性.2011年6月下旬頃より発熱,腹部不快感,尿濃染が出現した.当院消化器内科で中部胆管癌(StageⅣa)による閉塞性黄疸と診断された.内視鏡的逆行性胆管膵管造影にて精査後,胆管ステント留置されたが,その後,胆管・胆囊炎を併発し,内視鏡的経鼻胆道ドレナージや経皮経管胆囊ドレナージ(percutaneous transhepatic gallbladder drainage:PTGBD)で減黄処置を複数回,6か月以上にわたって施行された.ドレナージチューブ抜去後,創部が閉鎖せず同部に掻痒感および疼痛を伴う皮疹が残存したために当科を紹介,受診した.病理組織像では腺腔形成を呈する異型細胞の増殖がみられ,胆管癌の皮膚転移と診断した.PTGBDをはじめとする胆道ドレナージを悪性腫瘍に施行した際には,医原性の悪性腫瘍皮膚転移の可能性を念頭に置く必要があると考えられた.

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要約 77歳,男性.20歳台の頃より左腰背部の膨隆を自覚していた.触診上は手拳大の弾性軟な皮下腫瘤を触知し,脂肪腫が疑われたが,姿勢や腹圧により変化を認めた.エコーにて後腹膜に連続する脂肪成分がみられ,MRIで後腹膜脂肪の脱出を確認し,左上腰ヘルニアと診断した.腹斜筋群と背側筋群を縫合閉鎖し,大腿筋膜を移植して補強した.術後合併症なく,第7病日に退院した.以後,再発を認めていない.腰ヘルニアは稀な疾患であり,単純縫合閉鎖の他に,人工材料を用いた修復方法が報告されている.自験例では自家大腿筋膜を用いた補強で良好な結果を得ることができ,治療の選択肢の1つとして有用であると考えた.

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要約 白血球除去療法(leukocytapheresis:LCAP)は,患者の血液から,炎症に起因する活性化した白血球を除去する治療法である.現在,潰瘍性大腸炎と関節リウマチにのみ保険が適応されている.われわれは上記,それぞれの疾患に合併した,壊疽性膿皮症(pyoderma gangrenosum:PG)の2例を経験した.ステロイド全身投与にLCAPを併用することで,原疾患だけでなくPGにも効果を認め,ステロイドの早期減量が可能となった.今回の2例の経験から,同療法はPGの,急性期の炎症抑制だけでなく,PGにより形成された潰瘍の上皮化促進に対しても効果の高いことが推察された.LCAPはステロイド抵抗性のPGに有用な治療法であり,積極的に行う価値があると考える.

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要約 酒皶様皮膚炎に対する欧米での治療の第一選択はメトロニダゾールゲル外用であるが,本邦では,製剤がないため使用できない.そこで,嫌気性菌感染症に処方可能になった,メトロニダゾール経口剤を酒皶様皮膚炎患者16例に使用して,その臨床的有用性を検討した.患者背景では中年女性が多く,洗顔を一生懸命行い,その結果皮膚がカサカサしたり,赤くなったりしたために皮膚科を受診し,近医でステロイドを外用開始されている例が多かった.方法としてはメトロニダゾールを主剤として1日500mg内服した.皮疹の重症度は3週おきに開始時を含め計3回,7段階(0;なし〜6;重症)で評価した.初診評価時に4.4±1.2であった重症度スコアは2回目評価時には3.0±1.9と有意に改善した.3回目評価時にも同様に1.75±1.3と改善した.以上より,メトロニダゾール内服療法は本邦での酒皶様皮膚炎に対する治療選択肢になりうると考えた.

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欧文目次

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 RAG(recombination activating gene) endonucleaseによりB細胞免疫グロブリン重鎖,軽鎖の順で遺伝子再構成が起こり,未熟B細胞のB cell receptor(BCR)であるIgMが生じることで抗体産生反応が進む.未熟B細胞でもRAGは軽鎖を再び別のものに置換して遺伝子再構成を起こし,新たなBCRの組み合わせを生み出す.この現象をreceptor editingと呼び,BCRの多様性を作り出している.これまでの報告ではマウスの主要な初期B細胞分化の場所は骨髄とされていたが,本研究において小腸粘膜固有層においても遺伝子再構成,receptor editingが関連したB細胞初期分化が起こっていることが確認された.小腸粘膜固有層のB細胞においてRagとTdT(terminal deoxynucleotidyl transferase)が発現しており,遺伝子再構成が生じていることが示された.成熟したマウスの腸管粘膜固有層において重鎖の遺伝子再構成が起こるpro B細胞,軽鎖の遺伝子再構成が進むpre B細胞が骨髄と同様の割合で存在していることが確認された.また骨髄と粘膜固有層のB細胞がほぼ同様の重鎖を持っている一方,軽鎖は異なるレパートリーを有しており,粘膜固有層における特異的なreceptor editingの存在が示唆された.さらに無菌マウスに細菌叢を生着させたところ,粘膜固有層と骨髄でのpro B細胞の割合,粘膜固有層でのBCR軽鎖Igλ/Igκの比率が増加した.以上の結果から,粘膜固有層におけるB細胞分化の存在と,常在細菌叢が免疫グロブリンのレパートリーを制御している可能性が示唆された.これらはB細胞を介した免疫反応において,骨髄のみならず腸管が重要な働きをしており,腸管常在細菌が影響を与えていることを示唆する重要な発見である.

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 “数式を使わないで直観的に学ぶ”『今日から使える医療統計学ビデオ講座』で,精力的にわかりやすい情報を発信されてきた新谷歩教授の医療統計への慧眼と熱き思いが,単行本として結実し上梓された.基礎および臨床医学研究大国である米国で生物統計学者として20年の豊富なキャリアを重ねてきた著者が,医療統計の重要なテーマに関する極意を例題/具体例を活用し読み物形式で伝授してくれる.これまで医療統計の本に構えてしまった読者でも,数時間もあれば楽しく講義を受けている感覚で一気に読めるだろう.

 本書を読み進めていくと,2003年から2年間ヴァンダービルト大学大学院の臨床研究科学マスターコースで新谷教授から医療統計の講義・演習を受けた際の衝撃が鮮烈に蘇ってきた.グラフィックやイメージを多用し実例を基に医療統計の概念や前提条件を教えてくれる講義は,医療統計学に対する見方が一変,目から鱗が落ちる連続で,楽しみながら医療統計に関する知識・スキルを習得することができた.新谷教授は,研究者としてはもちろん教育者としても一流で,そのユニークな統計教授法には定評があり,ヴァンダービルト大学でベストティーチングアワードを受賞している.

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 近年悪性腫瘍に対する免疫療法についての研究が盛んに進められるなか,この論文では悪性黒色腫に生じた患者特異的なミスセンス変異による癌特異的新生抗原を探し出し,これを樹状細胞と反応させ患者に投与するという究極のオーダーメイド療法を提唱している.まず特定のHLA抗原を持つ悪性黒色腫Stage 3,抗CTLA4抗体治療後の3名の患者の癌組織を取り出して,全エクソーム解析によりその患者の癌細胞特異的に生じた,アミノ酸変異を伴う突然変異250〜500種を網羅的に同定した.続いて同定した変異蛋白から,T細胞免疫の抗原になりうるペプチドをコンピューター解析で割り出し,50〜100種に絞りこんだ.さらに実際に悪性黒色腫で発現していてHLA抗原に結合できるペプチド配列を選択し,そのペプチド抗原と患者の末梢血単核球から得た成熟樹状細胞を反応させ,これをワクチンとして患者に投与した.患者は治療後特に自己免疫性疾患を含む有害事象なく経過している.ワクチン免疫前と免疫後の患者の末梢血単核球細胞とCD8陽性T細胞をin vitroで反応させることで,特定したペプチド抗原は,ワクチン免疫前から免疫が成立しているものと見かけ上免疫が成立していないものがあるが,いずれもワクチン免疫後には大きくその反応が増強したことを確認した.次に複数のペプチド抗原の発現ベクターを悪性黒色腫細胞株に遺伝子導入し,その細胞に特異的T細胞が反応するかどうかを追跡し,候補9つのうち7つのペプチド抗原がHLA抗原と結合して抗原提示され免疫反応が成立することを確認した.また,誘導された免疫反応により悪性黒色腫がin vitroの培養実験で死滅すること,特定されたペプチド抗原が実際に悪性黒色腫においてHLA抗原と結合し抗原提示されていること,さらにペプチド抗原に対する特異的T細胞レセプターをすべて網羅的にクローニングし,ワクチン免疫後には患者体内で特異的T細胞の出現率,種類ともに増えたことを確認した.本研究ではワクチン免疫後に癌特異的T細胞の多様性が増すことを確認したが,これはつまり体内には潜在的に癌特異的変異ペプチド抗原に対する特異的T細胞が多様に存在しうることを意味しており,今後これら特異的T細胞を活性化させる免疫療法が悪性黒色腫の治療に大きく貢献する可能性を示している.

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 交通事故大国というイメージが強い米国でも,実際には年間の交通事故死者数よりも医療事故死者数のほうが多いだろうと言われている.今から8年ほど前のNew England Journal of MedicineにHillary ClintonとBarack Obamaが連名で,医療における患者の安全性に関して異例の寄稿をしたほどである.

 日本における医療過誤死者数ははっきりとは示されていないが,医事関係訴訟は年間700〜800件はあるという.患者ないしその家族の権利意識の高まりの影響が大きいが,マスコミの医療事故報道や弁護士側の動きも無視できない.

次号予告

あとがき 石河 晃
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 カルテが電子化され,近年めっきり字を書くことが減りました.もともとワープロ文書は場所を取らずに保存・検索が可能で,便利に使っていましたが,電子カルテになってから特に,漢字を書こうとしてもすぐ出てこないことが増えたような気がします.辞書代わりにスマホに入力して調べることもあります.某先輩皮膚科医が皮膚科新人教育の際に次の問題を出し,その解答を見れば各人の将来がおよそ予測できる,と言っていたことばが耳の奥でこだましています.「みなさん,風邪のことを『かんぼう』と言いますが,正確に漢字で書いてみて下さい.」

 一方,若手医師達の成書離れが近年気になっています.皮膚科の教本は世界的な名著がいくつかあり,皮膚病理の記載をよく読むことはカンファレンス準備として必須事項でしたが,成書にあたる医師が少なくなっています.電子カルテのせいで所見や病名などの専門用語が日本語記載となり,英文表記になじみがないため,読み進むのに時間がかかることが一因のようです.多くの人は成書の代わりにネット検索です.ネット検索は必要な事項を必要な分だけ引っぱることが可能です.学生実習のプレゼンテーションなどを見ていると,ネットを利用し,視覚に訴える上手なプレゼンをする学生が増えたと感じます.キーワード検索してダウンロードした文章や画像をコピーペーストすることで,頭を使わずに一見とても立派なレポートが出来上がってしまいます.ある日,レポートが課された学生が,私のところへワープロ打ちされたA4版6頁にわたる「完璧な」レポートを提出してきました.しかし,レポートを手にとって何が書いてあるか質問すると,何一つ具体的に答えられなかったのです.私は普段からレポートは手書きすることを要求しています.漢字を忘れないためにも重要なことだと思います.ちなみに「かんぼう」は「感冒」です.

基本情報

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臨床皮膚科
69巻9号 (2015年8月)
電子版ISSN:1882-1324 印刷版ISSN:0021-4973 医学書院

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